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医療企業分析アカデミー

第24講 粗利率とは何か?――「売上が伸びている会社」と「高い価値を売っている会社」の違い

JMEI 医療企業分析アカデミー 第24講 「売上が伸びている会社」と「高い価値を売っている会社」の違い

第23講では、自己資本比率と有利子負債について学びました。企業に借金があるからといって、悪い会社とは限りません。重要なのは、いくら借りているのか、何のために借りたのか、どれくらい現金を持っているのか、本業からどれくらいキャッシュを生み出せるのか、そして、借金を返しながら将来への投資を続けられるのかということでした。企業分析では、一つの数字だけを見て判断しません。今回も同じです。今回は、もう一度「利益」に戻ります。ただし、営業利益でも純利益でもありません。今回見るのは、売上総利益です。一般には、粗利益あるいは粗利とも呼ばれます。そして売上高に対する粗利益の割合が、売上総利益率、いわゆる粗利率です。

例えば、2つの医療企業があるとします。A社は売上高1,000億円、売上原価300億円。B社は売上高1,000億円、売上原価700億円。売上高はまったく同じです。しかし、製品を販売した後に残る金額は大きく違います。A社では700億円、B社では300億円です。同じ1,000億円を売っているのに、なぜこれほど違うのでしょうか。製品の価格、製造コスト、特許、ブランド、技術力、製品構成、消耗品、競争環境。さまざまな理由があります。粗利率を見ることで、「その会社の製品そのものに、どれくらい経済的な強さがあるのか」を考える手掛かりが得られます。第24講では、売上原価とは何か、売上総利益とは何か、粗利率をどう計算するのか、営業利益率とは何が違うのか、なぜ粗利率が高い医療企業があるのか、粗利率の上昇・低下から何が分かるのか、そして「たくさん売る会社」と「高い価値を売る会社」は何が違うのかを、医療企業の製品力を財務数字から読む方法として学んでいきます。

売上原価と売上総利益

例えば2つの企業があります。Aメディカルは売上高5,000億円、Bメディカルは売上高3,000億円。売上規模だけならA社の方が大きい会社です。しかし、大きい会社=儲かる会社とは限りません。商品を販売するためには、原材料、製造、仕入れなどに費用がかかります。売上からこうした売上原価を差し引いて初めて、製品やサービスを販売することでどれくらい利益が残ったのかが見えてきます。

売上原価とは、簡単にいえば、販売した商品や製品などに直接対応する原価です。医療機器メーカーなら、材料、部品、製造費用などが関係します。製薬会社なら、原材料、製造工程、包装、製品製造に関連する費用などが含まれます。実際にどこまで売上原価として計上されるかは、企業や会計方針によって異なります。初心者の段階では、「売ったものそのものを作ったり仕入れたりするのに必要だった費用」というイメージで理解しましょう。

売上高から売上原価を引いたものが、売上総利益です。計算式は、売上総利益=売上高-売上原価です。例えば、売上高1,000億円、売上原価400億円なら、売上総利益は600億円です。売上総利益は、粗利益、粗利と呼ばれることもあります。したがって、売上総利益、粗利益、粗利という言葉が出てきても、初心者の段階ではほぼ同じものを指していると理解して大きな問題はありません。企業の決算資料では、売上総利益という表現がよく使われます。

売上高に対して、どれくらい売上総利益が残ったかを見るのが、売上総利益率です。一般に、粗利率とも呼びます。計算式は、売上総利益÷売上高×100です。先ほどの会社なら、売上高1,000億円、売上総利益600億円なので、600÷1,000×100=60%です。粗利率は60%です。粗利率60%を簡単に考えると、100円売ったとき、売上原価を差し引いた後に60円残るというイメージです。この60円から、営業人員の費用、本社費用、研究開発費、広告費、その他の販売管理費などが差し引かれます。最終的に営業利益が残ります。

粗利率と営業利益率は違う

ここは非常に重要です。粗利率と営業利益率は同じではありません。例えば、売上高1,000億円、売上原価400億円、売上総利益600億円、販売管理費450億円、営業利益150億円とします。すると、粗利率は600÷1,000=60%、営業利益率は150÷1,000=15%です。粗利率は60%、営業利益率は15%。大きく違います。この考え方は企業分析で非常に重要です。売上から売上原価を引いて売上総利益、そこから販売管理費などを引いて営業利益となります。つまり営業利益率が低い会社でも、粗利率が低いのか、粗利率は高いが研究開発費などを大量に使っているのかによって意味が違います。

営業利益率は同じでも中身が違う例を見てみましょう。Aメディカルは、売上高1,000億円、粗利率70%、販売管理費等600億円、営業利益100億円、営業利益率10%。Bメディカルは、売上高1,000億円、粗利率30%、販売管理費等200億円、営業利益100億円、営業利益率10%。両社とも営業利益率10%です。しかし構造はまったく違います。A社は製品から大きな粗利益を生み出していますが、研究開発や販売活動などに大きく投資しています。B社は粗利率そのものが低い一方、販売管理費なども小さい。営業利益率だけでは、この違いは分かりません。

なぜ医薬品の粗利率が高くなることがあるのか

医薬品、とくに新薬では、製品そのものを製造する費用と、販売価格との間に大きな差がある場合があります。なぜでしょうか。医薬品の価値は、原材料の量だけで決まるわけではないからです。長年の研究、臨床試験、特許、有効性、安全性、治療価値。こうしたものが製品価値を作ります。つまり薬は、「材料を売っている」というより、「研究開発によって生まれた医療価値を提供している」と考えることができます。

ここに注意が必要です。新薬の製造原価だけを見ると粗利率が高い、だから簡単に儲かる、とは限りません。製薬会社は、売上総利益から、次の新薬候補への研究開発費を大量に支出する場合があります。第14講で学んだ研究開発費とつながります。そのため、粗利率が高い、営業利益率も必ず高いとは限りません。例えばAファーマが、粗利率80%、営業利益率15%だったとします。なぜ65ポイントも差があるのでしょうか。研究開発費、営業費用、管理費などが大きい可能性があります。そこで、高い粗利から研究開発、パイプライン、新薬という循環ができているかを確認します。

医療機器でも同様です。例えば、独自技術を持つ高付加価値デバイスと、価格競争の激しい汎用品では、粗利率が大きく違う場合があります。高い技術力、特許、医師からの支持、ブランド、使いやすさなどが価格競争力につながれば、高い粗利率を維持できる可能性があります。例えばAメディカルが、特殊な手術用デバイスを100万円で販売するとします。製造等に直接対応する原価が30万円。単純化すると粗利は70万円、粗利率は70%です。この高い粗利を支えているものが、独自技術、臨床価値、特許、医師の信頼などであれば、企業の競争優位性につながる可能性があります。

一方、多くの企業が同じような製品を作れる、機能差が小さい、顧客が簡単に他社へ切り替えられるとなると、価格競争が起きやすくなります。販売価格が下がれば、粗利率も低下する可能性があります。つまり粗利率は、製品の差別化を見るヒントにもなります。同じ医療機器会社でも違いがあります。A社の主力製品は独自心血管デバイスで粗利率68%。B社の主力製品は汎用医療消耗品で粗利率28%。粗利率だけならA社が高い。しかし、A社は研究開発費が非常に大きい、B社は大量生産・大量販売で安定収益という可能性があります。したがって、粗利率だけで会社の優劣を決めることはできません。重要なのは、なぜその粗利率なのかです。企業Aの粗利率が70%、企業Bは40%だとして、数字だけを比較するのではなく、A社がなぜ70%なのかを考えます。特許、ブランド、独自技術、高い医療価値、消耗品モデル、あるいは一時的な高価格。理由によって持続可能性が違います。

粗利率の推移と、上がる理由・下がる理由

単年の粗利率だけではなく、数年間を見ます。例えば、2022年62%、2023年64%、2024年66%、2025年68%、2026年70%と上昇しています。何が起きているのでしょうか。高利益率製品の売上増加、価格改定、製造効率改善、原材料価格低下などが考えられます。

粗利率が上がる理由の一つは、高付加価値製品が伸びることです。Aメディカルには、旧製品の粗利率30%、新製品の粗利率70%があるとします。新製品の売上比率が20%から50%へ増えたらどうでしょうか。会社全体の粗利率も上昇する可能性があります。このような、何がどれだけ売れているかの組み合わせを、製品ミックスと呼ぶことがあります。企業は一つの商品だけを売っているとは限りません。高利益率製品、低利益率製品、国内製品、海外製品、消耗品、機器本体。さまざまです。どの製品の売上構成比が高いかによって、会社全体の利益率が変わります。これが製品ミックスの考え方です。

売上は同じでも粗利が増える例を見てみましょう。Aメディカルの売上高は、前年1,000億円、今年1,000億円で変わりません。しかし、前年は高粗利製品300億円・低粗利製品700億円だったのが、今年は高粗利製品600億円・低粗利製品400億円となりました。売上高は横ばいです。しかし高粗利製品が増えたため、売上総利益や営業利益が増える可能性があります。つまり、売上横ばい=会社が成長していないとは限りません。企業分析では、売上の量だけでなく、売上の質を見る必要があります。例えば、売上1,000億円増えたがその多くが低粗利製品だった場合と、売上500億円増えたがその多くが高粗利の成長製品だった場合では、利益への影響が違います。売上成長率だけでは見えない部分です。

粗利率が上がる理由の二つ目は、値上げです。販売価格を上げることでも、原価が変わらなければ粗利率が上がる可能性があります。例えば、販売価格100円、原価60円で粗利40円、粗利率40%だった製品を、販売価格110円へ値上げし原価60円のままなら、粗利50円、粗利率は約45.5%となります。競争が激しい市場では、価格を上げると顧客が他社へ移る可能性があります。それでも値上げできる企業には、強いブランド、独自技術、高い医療価値、高いスイッチングコストなどがある可能性があります。これを、価格決定力という観点で見ることができます。ただし医療では、公的医療保険、薬価、償還価格、診療報酬、各国制度などの影響を受けます。企業が自由に「来年から20%値上げします」と決められない市場もあります。したがって医療企業の粗利率を見るときには、価格制度も理解する必要があります。

粗利率が上がる理由の三つ目は、製造コスト低下です。販売価格が同じでも、製造コストが下がれば粗利率は上がります。例えば、販売価格100万円、製造原価50万円だった製品が、製造自動化によって原価40万円になったとすると、粗利は50万円から60万円、粗利率は50%から60%へ改善します。医療機器や医薬品では、大量生産、自動化、歩留まり改善、製造技術、サプライチェーン改善などによって原価を下げられる場合があります。同じ製品を競合より安く作れるなら、高い利益率を維持する、価格を下げてシェアを取る、研究開発へ再投資するといった選択肢が生まれます。

反対に粗利率が下がる理由もあります。一つは原材料高です。例えば、販売価格100円、原価40円だった製品の原価が原材料高によって55円になり、販売価格を上げられなければ、粗利は60円から45円へ、粗利率も60%から45%へ低下します。つまり粗利率を見ると、コスト上昇を販売価格へ転嫁できているかも考えることができます。二つ目は価格競争です。競合企業が類似製品を発売し、価格競争が激化、自社も値下げすれば粗利率が低下する可能性があります。特に、特許切れ、ジェネリック、バイオシミラー、新規参入などは価格・粗利に大きな影響を与えることがあります。第16講のパテントクリフとも関係します。大型薬の独占性が高い間は高い粗利率を維持できる場合がありますが、競合品が登場し、価格や市場シェアへ圧力がかかると、売上減少だけでなく利益率低下につながることがあります。パテントクリフを見るときには、売上額だけでなく、利益構造の変化にも注目します。

三つ目は製品ミックス悪化です。企業全体の売上は伸びているのに粗利率は低下しているとします。なぜでしょうか。低粗利率製品の売上が大きく伸びた可能性があります。例えば、高粗利製品+5%、低粗利製品+50%なら、売上全体は伸びても粗利率は下がる場合があります。増収なのに粗利率低下という例を見てみましょう。Bメディカルは、前年売上1,000億円・粗利率60%・売上総利益600億円だったのが、今年は売上1,300億円・粗利率50%・売上総利益650億円になりました。売上は30%増、売上総利益も600億円から650億円へ増加。しかし粗利率は60%から50%へ低下しています。つまり、売上は大きく増えたが、その売上の利益率は以前より低いということです。すぐに悪いと判断はしません。新市場へ参入するため戦略的に低価格販売し、将来の消耗品収益につなげるという可能性もあります。重要なのは、粗利率低下が一時的なのか、構造的なのかです。

医療機器の「本体+消耗品」モデル

医療企業では非常に面白いビジネスモデルがあります。例えば、検査装置本体を販売し、その後、専用試薬、専用カートリッジ、消耗品を継続販売するモデルです。本体の利益率はそれほど高くなくても、消耗品の粗利率が高い場合があります。例えば、装置本体の粗利率20%、消耗品の粗利率70%とします。装置本体を多くの病院へ導入し、設置台数が増え、消耗品が毎年売れれば、高粗利の継続収益が増えるという構造です。この場合、本体だけの粗利率を見て、「利益率の低い会社」と判断すると本質を見誤ります。

医療機器分析では、インストールベースという考え方があります。簡単にいえば、すでに医療現場へ設置されている機器の台数です。装置が1万台設置され、1台につき毎年100万円の専用消耗品が必要なら、将来の継続売上につながります。設置台数が増えるほど、高粗利の消耗品売上が積み上がる可能性があります。

装置メーカーの本当の強さを見てみましょう。架空のJMEI Diagnosticsでは、装置売上500億円・装置粗利率25%、試薬・消耗品売上500億円・消耗品粗利率70%で、全社売上1,000億円です。一見すると、装置500億円、消耗品500億円で売上額は同じです。しかし粗利益を単純計算すると、装置は500×25%=125億円、消耗品は500×70%=350億円。利益への貢献度は大きく違います。売上構成では装置50%・消耗品50%ですが、粗利益では装置125億円・消耗品350億円で合計475億円。つまり粗利益の約74%を消耗品が生み出しています。企業を見るときには、何が売上を作っているかだけでなく、何が利益を作っているかを見ることが重要です。大型医療機器では、保守契約、ソフトウェア更新、サービスなどから継続収益を得る場合もあります。本体販売だけを見るより、機器本体、消耗品、サービスというライフサイクル全体で利益構造を見る必要があります。

粗利率と競争優位性、その他の指標とのつながり

第12講で学んだ競争優位性ともつながります。高い粗利率を長期間維持できる企業には、特許、ブランド、スイッチングコスト、ネットワーク、独自技術、高い医療価値などがある可能性があります。つまり粗利率は、競争優位性が財務数字へ表れたものの一つとして見ることができます。ただし高粗利率ならモートがあるとは限りません。一時的に供給不足、競合企業の製品トラブル、新市場で競争が少ないなどによって、高い粗利率になっている可能性もあります。大切なのは、高い粗利率そのものより、なぜ高く、それが何年続けられるのかです。

粗利率と市場シェアを組み合わせることも重要です。市場シェアが上昇し、粗利率も上昇しているなら、これは強いパターンかもしれません。値下げせず、あるいは高付加価値製品を増やしながらシェアも取れている可能性があります。一方、市場シェアが上昇し、粗利率が急低下しているなら、値下げによってシェアを買っていないかを確認します。

海外展開でも利益率が変化することがあります。例えば、国内粗利率60%、海外新興市場粗利率35%なら、海外売上が大きく伸びるほど全社粗利率が低下する可能性があります。しかし市場規模が大きく、将来的な成長余地があるなら、粗利率低下=悪い海外展開とは限りません。また、海外売上の多い企業では、為替によって売上高や原価の円換算額が変わる場合があります。売上は外貨、製造コストは円、あるいは逆という企業では、為替によって粗利率が変動する可能性があります。したがって企業が「為替影響を除くと粗利率は改善」などと説明している場合、その意味を確認します。

M&Aによっても全社粗利率が変わります。例えば、Aメディカルの粗利率60%が、粗利率30%の企業を大型買収すると、連結後の粗利率は低下する可能性があります。これは必ずしも既存事業が悪化したという意味ではありません。事業構成が変わった可能性があります。企業によっては、製薬事業、医療機器事業、診断事業、ヘルスケアIT事業など複数事業を持っています。全社粗利率だけでは、どの事業が強いのか分かりにくい場合があります。そのため可能であれば、セグメント別売上、セグメント利益、製品別売上も確認します。

粗利率が突然10ポイント下がったらどうするでしょうか。例えば、前年65%、今年55%。かなり大きな変化です。原材料価格、製品ミックス、値下げ、競合、為替、M&A、在庫評価、一時的費用などを調べます。重要なのは、数字を見て終わらず、経営上の原因へ遡ることです。粗利率低下は本当に悪化かというケーススタディを見てみましょう。Cメディカルは前年売上2,000億円・粗利率65%だったのが、今年は売上2,800億円・粗利率58%になりました。一見、粗利率が7ポイント低下し悪化に見えます。しかし会社は今年、低粗利率の装置本体を大量に導入し、設置台数が5,000台から9,000台に増えました。その装置では今後、高粗利の専用消耗品が継続的に販売されます。この場合、現在の粗利率低下が将来の高粗利継続収益を作る先行投資かもしれません。本当に良い戦略なら、設置台数増加、消耗品売上増加、全社粗利率改善、営業CF増加という流れが見えてくるはずです。企業の説明を聞いたら、翌年その通りになったかを検証します。これが企業分析です。

粗利率と営業利益率をセットで見ることも重要です。例えば、粗利率70%、営業利益率10%なら、粗利から営業利益まで60ポイント分の費用があります。研究開発費なのか、販売費なのか、管理費なのかを確認します。一方、粗利率30%、営業利益率20%なら、粗利は低いものの、非常に効率的な運営をしている可能性があります。粗利率と研究開発費を見る例では、Aファーマは粗利率80%・研究開発費率25%・営業利益率20%、Bファーマは粗利率80%・研究開発費率10%・営業利益率35%。現在の営業利益率ではB社が上です。しかしA社には豊富な後期パイプラインがあるかもしれません。B社は研究開発を削って現在利益を高めているかもしれません。したがって、現在の利益と未来の成長を一緒に考えます。

粗利率とROICの関係も見ます。粗利率が高くても、大量の資本が必要ならROICが低いことがあります。反対に粗利率はそれほど高くなくても、少ない資本で大きな売上を生み出せるならROICが高い場合があります。つまり、粗利率=製品・サービスの収益構造を見る指標、ROIC=資本全体の効率を見る指標です。両方を見ることで企業への理解が深まります。粗利率上昇、営業利益増加、それでもFCFが増えないなら、在庫、売掛金、設備投資などを確認します。第18講から第22講まで学んだ内容が、ここでつながってきます。企業分析は指標を一つずつ暗記するのではなく、数字同士をつなげることが重要です。

JMEI式「粗利率を見る12の質問」

医療企業の粗利率を見るときには、次の12項目を確認しましょう。売上高はいくらか。売上原価はいくらか。売上総利益はいくらか。粗利率は何%か。過去3~5年で粗利率はどう変化したか。同業他社より高いか、低いか。粗利率が高い・低い理由は何か。製品ミックスはどう変化しているか。値上げ・値下げの影響はあるか。原材料や製造コストはどう変化したか。高粗利の消耗品やサービス収益があるか。現在の粗利率を維持できる競争優位性があるか。そして最後に、「この会社は単に商品を売っているのか、それとも高い医療価値を価格へ転換できているのか?」と考えます。

練習問題

問題1 売上高1,000億円、売上原価400億円です。売上総利益はいくらでしょうか。(A.400億円 B.500億円 C.600億円 D.1,400億円)

【答え】C.600億円。1,000億円-400億円=600億円です。

問題2 売上高1,000億円、売上総利益600億円です。粗利率は何%でしょうか。

【答え】60%です。600億円÷1,000億円×100=60%です。

問題3 粗利率60%、営業利益率15%です。両者は同じ意味でしょうか。

【答え】いいえ。粗利率は売上高から売上原価を差し引いた段階の利益率です。営業利益率は、そこから販売管理費や研究開発費などを差し引いた後の利益率です。

問題4 粗利率が70%から60%へ低下しました。すぐに企業競争力が悪化したと判断してよいでしょうか。

【答え】いいえ。製品ミックス、原材料価格、戦略的な本体販売、M&A、為替などの影響がある可能性があります。原因を確認します。

問題5 売上は横ばいですが、高粗利率製品の構成比が増えました。何が起こる可能性がありますか。

【答え】全社粗利率や売上総利益が上昇し、売上が横ばいでも利益が増える可能性があります。

問題6 医療機器本体の粗利率が低いため、その企業は必ず収益性が低いでしょうか。

【答え】いいえ。機器を設置した後に高粗利の消耗品、試薬、サービスなどを継続販売するビジネスモデルかもしれません。

問題7 売上成長率が高い一方で粗利率が大きく低下しています。何を確認すべきでしょうか。

【答え】値下げによる売上増加なのか、低粗利製品の売上増加なのか、新市場への戦略的参入なのかなど、成長の中身を確認します。

問題8 粗利率が高い会社なら必ず強い競争優位性を持っているでしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。一時的な供給不足や競争環境などで高くなっている可能性もあります。高い粗利率を長期間維持できる理由を見る必要があります。

総合ケーススタディ――JMEI Diagnosticsの利益構造を読む

架空のJMEI Diagnosticsを分析します。全社売上高2,000億円。事業別売上は、診断装置本体800億円、専用試薬・消耗品900億円、保守・ソフトウェア300億円。粗利率は、装置本体25%、試薬・消耗品72%、保守・ソフトウェア65%。前年の全社売上高は1,700億円、今年は2,000億円。装置設置台数は前年8,000台、今年11,000台。試薬売上成長率は+20%。営業利益率は前年14%、今年18%です。この会社の強さをどう分析すればよいでしょうか。

まず売上構成を見ると、最大売上は試薬・消耗品900億円、次に装置本体800億円、保守・ソフトウェア300億円。全社売上だけを見ると、2,000億円の診断企業です。しかし粗利を見ると、違う姿が見えてきます。事業別粗利益を計算すると、装置本体は800億円×25%=200億円、試薬・消耗品は900億円×72%=648億円、保守・ソフトウェアは300億円×65%=195億円。合計粗利益は1,043億円です。粗利益1,043億円のうち、試薬・消耗品だけで648億円、約62%を占めます。売上構成比では900÷2,000=45%ですが、粗利益では6割以上を生み出しています。つまりJMEI Diagnosticsの利益の中心は、装置本体そのものではなく、装置導入後に継続販売される試薬・消耗品である可能性があります。

装置本体の粗利率は25%。数字だけなら低く見えます。しかし装置を病院へ設置することで、その後、専用試薬、消耗品、保守、ソフトウェアが売れます。つまり装置本体は、将来の継続収益を作る入口としての役割も持っています。装置設置台数は8,000台から11,000台へ37.5%増えています。これは重要です。設置された11,000台が今後、試薬・消耗品売上を生み続ける可能性があるからです。現在の本体売上だけでなく、将来の消耗品市場の母数として設置台数を見ます。

営業利益率は14%から18%へ上昇。その背景として、高粗利の試薬売上+20%があります。つまり、本体設置、インストールベース拡大、試薬売上増加、製品ミックス改善、粗利益増加、営業利益率改善という流れが考えられます。単に売上2,000億円、営業利益率18%だけを見るのではありません。なぜ18%になったのか。それを事業構造まで遡ります。装置、設置台数、消耗品、保守、粗利率、営業利益という流れをつなげる。これが企業分析です。

ただし競争優位性を確認する必要があります。専用試薬の粗利率72%。非常に魅力的です。では、競合他社の試薬を使えるのか、病院が簡単に別機種へ変更できるのか、検査精度に差があるのか、特許はあるのか、医療従事者の操作習熟は必要なのかを確認します。ここで第12講の、スイッチングコスト、競争優位性につながります。5年後を見ると、仮に設置台数11,000台から20,000台へ、試薬売上も倍増、高い粗利率維持なら、非常に強い収益モデルへ成長する可能性があります。反対に、競合の新装置登場、病院の切り替え、試薬価格低下となれば、高い粗利率は崩れるかもしれません。高粗利率を、現在の数字ではなく、将来維持できる構造として評価することが重要です。

JMEIでは、医療企業の売上が増えたとき、「何%増収したか」だけでは評価しません。見る順番は、売上高、売上原価、売上総利益、粗利率、製品ミックス、営業利益率、研究開発費、競争優位性、キャッシュフローへ進みます。例えば、売上+30%、粗利率-10ポイントなら、どのような売上が増えたのかを考えます。反対に、売上+5%、粗利率+8ポイントなら、高付加価値製品への転換が進んでいる可能性があります。企業の成長とは、売上を増やすことだけではありません。より高い医療価値を持つ製品へ事業構成を変え、利益の質を高めることも成長です。

JMEI Medical Insight

粗利率という数字を医療企業で考えるとき、「高い粗利率=患者から高い価格を取っている」と単純に考えてはいけません。医療製品の価値は、材料原価だけでは測れないからです。例えば、一本のカテーテルがあります。材料だけを見れば、販売価格よりはるかに小さな金額かもしれません。しかしその製品によって、手術時間が短縮する、合併症リスクが低下する、難しい治療が可能になる、患者の入院期間が短くなるのであれば、その価値は材料費だけではありません。医薬品も同じです。薬の原材料価格だけでは、長年の研究、臨床試験、治療効果、患者の生命や生活の質という価値を表せません。

だからJMEIでは、高粗利率そのものを評価するのではなく、「その高い粗利率を正当化する医療価値があるのか」を考えます。理想的なのは、高い医療価値、医療現場で選ばれる、価格競争力、高い粗利率、研究開発へ再投資、さらに高い医療価値という循環です。一方で、競争がないから高価格、臨床価値との差が小さい、制度だけに依存して高収益という場合は、将来的な政策変更や競争参入によって利益構造が変化する可能性があります。JMEIでは、粗利率×医療価値×競争優位性×持続可能性で考えます。高い利益率を持つ企業では、「なぜ高いのか」を必ず考える。これが医療企業分析では非常に重要です。

今回のポイント

第24講で最も覚えてほしいのは、「売上高だけでは、その製品がどれくらい価値を生み出しているかは分からない」ということです。まず、売上高-売上原価=売上総利益を理解します。そして、売上総利益÷売上高×100=粗利率です。企業分析では、売上を見て、売上原価を見て、売上総利益を見て、粗利率を見て、過去数年と比較し、製品ミックスを見て、粗利率が変化した理由を見て、競争優位性につなげるという順番で考えます。特に医療企業では、特許、独自技術、医療価値、価格決定力、インストールベース、専用消耗品、サービスなどが粗利率へ影響します。そして最後に、「この会社の高い粗利率は、患者や医療現場へ提供している高い価値によって支えられているのか?」と問いかけます。粗利率を見るようになると、企業の大きさではなく、製品そのものの経済的な強さが少しずつ見えるようになります。

次回予告

第25講 販管費とは何か?――「粗利は高いのに儲からない医療企業」の理由を読む

第24講では、売上高、売上原価、売上総利益、粗利率まで学びました。しかし高い粗利率を持っている企業が、必ず高い営業利益を出しているとは限りません。例えば、売上高1,000億円、売上総利益700億円、粗利率70%。非常に高収益の商品を持つ会社に見えます。ところが営業利益は50億円、営業利益率5%では、残り650億円はどこへ行ったのでしょうか。営業人員、広告・販売促進、本社機能、研究開発、人件費。さまざまな費用があります。これらを理解するために重要なのが、販売費及び一般管理費、いわゆる販管費です。第25講では、販管費とは何か、販売費と一般管理費には何が含まれるのか、販管費率をどう見るのか、研究開発費との関係はどう考えるのか、なぜ新薬発売前後に販管費が増えることがあるのか、売上成長率より販管費の伸びが速い会社をどう評価するのか、そして「コストが多い会社」と「未来の成長のために費用を使っている会社」は何が違うのかを、粗利から営業利益へ至るまでの「企業のお金の使い方」として読み解いていきます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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