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医療企業分析アカデミー

第50講 キャッシュフロー計算書を一枚で読む――営業CF・投資CF・財務CFから企業の「成長段階」を見抜く

JMEI 医療企業分析アカデミー 第50講 営業CF・投資CF・財務CFから企業の「成長段階」を見抜く

ここ数回の講義では、企業の「現金」を追いかけてきました。第46講では、営業キャッシュフロー。第47講では、フリーキャッシュフロー。第48講では、投資キャッシュフロー。第49講では、財務キャッシュフロー。それぞれを一つずつ学びました。しかし、企業分析の目的は、用語を覚えることではありません。最終的に必要なのは、キャッシュフロー計算書を見たときに、「この会社はいま、どのような状態にあるのか」を自分の言葉で説明できることです。例えば、営業CF+500億円、投資CF-300億円、財務CF-150億円という会社があったとします。数字を別々に見るだけでは、「営業CFはプラス」「投資CFはマイナス」「財務CFもマイナス」で終わってしまいます。しかし、3つをつなげると、「本業で500億円を生み出し、その一部を将来の成長へ投資し、さらに借入返済や株主還元も行っている」という企業の姿が見えてきます。では、営業CF-100億円、投資CF-200億円、財務CF+400億円ならどうでしょうか。本業ではまだ現金を生み出せていない。それでも200億円を将来へ投資している。その資金を借入や増資によって外部から調達している。これは、成長初期のバイオ企業や医療DX企業などで見られる可能性があります。重要なのは、プラスかマイナスかだけではありません。なぜその形になっているのか。そして、その形が今後どう変化していくのか。今回は、これまで学んだキャッシュフローの知識を統合し、キャッシュフロー計算書を「企業の物語」として読む方法を学びます。

3つのキャッシュフローと「成長段階」

まず3つのキャッシュフローを思い出しましょう。キャッシュフロー計算書には、大きく3つの流れがあります。営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローです。営業CFとは、本業でどれだけ現金を生み出したか。投資CFとは、将来のためにどれだけ現金を使ったか。財務CFとは、誰からお金を集め、誰へ返したか。つまり、営業CF=稼ぐ、投資CF=使う、財務CF=集める・返す、と覚えると分かりやすいでしょう。

キャッシュフロー計算書は「企業のお金の物語」です。例えば、ある医療機器メーカーが、営業CF+800億円、投資CF-300億円、財務CF-200億円だったとします。この数字を文章にすると、「本業で800億円を生み出し、300億円を設備や将来事業へ投資し、さらに200億円を借入返済や株主還元などに使った」となります。これだけでも、企業の姿がかなり見えてきます。一方、営業CF-200億円、投資CF-100億円、財務CF+500億円なら、「本業では200億円の現金を消費し、さらに100億円を投資し、その資金を外部から500億円調達した」ということになります。同じ医療企業でも、まったく違います。つまり、キャッシュフロー計算書は、企業が1年間にどのように現金を作り、使い、調達したかを記録した物語なのです。

企業には「成長段階」があります。人間に、幼少期、成長期、成熟期があるように、企業にもライフサイクルがあります。大きく分けると、創業・開発期、成長期、成熟期、転換期、衰退期と考えることができます。そして興味深いことに、企業がどの段階にいるかによって、キャッシュフローの形が変わります。

創業・開発期のキャッシュフロー

創業直後の医療DX企業を考えてみましょう。売上はまだ少ない。エンジニアを採用する、システムを開発する、営業担当者を増やす。営業CFは、マイナスになりやすい。一方、システムや設備への投資も必要です。投資CFも、マイナス。では、そのお金はどこから来るのでしょうか。増資、ベンチャーキャピタル、借入。つまり、財務CFはプラス。典型的には、営業CFマイナス、投資CFマイナス、財務CFプラスという形です。

この形は悪いのでしょうか。必ずしも悪くありません。創業期の企業が、最初から大きな営業CFを生み出すことは難しいからです。問題は、この状態がいつまで続くのかです。外部から100億円集める、使い切る、また100億円集める、使い切る、また増資する。これが永遠に続くことはありません。どこかで、営業CFをプラスへ転換する必要があります。

医療AIスタートアップのケーススタディを見てみましょう。Medical AI社は、営業CF-30億円、投資CF-10億円、財務CF+80億円、現金残高100億円。一見すると、財務CF+80億円なので、現金は増えています。しかし、その80億円は本業で稼いだお金ではありません。外部から調達したお金です。ここで確認するのは、売上成長率、契約病院数、継続率、粗利益率、キャッシュバーン、そして、営業CFがいつプラスになるのかです。創業期では、現在の赤字そのものより、赤字から抜け出す道筋が重要なのです。

バイオ企業ではさらに重要です。創薬ベンチャーでは、さらに極端な形になることがあります。まだ製品がありません。売上もほとんどありません。しかし、研究費、臨床試験費、人件費が必要です。営業CFは大幅マイナス。それでも開発を続ける。資金は増資などで調達する。したがって、営業CFマイナス、投資CFマイナスまたは小さい、財務CFプラスという形になることがあります。ここで重要なのは、利益ではありません。現金残高、年間キャッシュバーン、ランウェイ、臨床試験の進捗、次の資金調達時期です。創薬ベンチャーのケーススタディを見てみましょう。Biotech Aは、現金残高300億円、年間キャッシュバーン100億円。単純化すれば、約3年分の資金があります。しかし、主力候補薬のPhase III結果が出るまで4年。この場合、途中で追加資金調達が必要になる可能性があります。すると、増資、株式希薄化、追加借入などが起こるかもしれません。つまり、キャッシュフローを見ることで、「次に会社が何をしなければならないか」まで予測できるようになります。

成長期・成熟期のキャッシュフロー

次に、製品が売れ始めた企業を考えます。営業CFがプラスになった。しかし、需要が急増。工場を増設する、海外へ進出する、販売網を拡大する。投資CFは大きなマイナス。さらに投資が必要なら、借入も行う。この場合、営業CFプラス、投資CF大幅マイナス、財務CFプラスまたはマイナスとなります。成長中の医療機器メーカーのケーススタディを見てみましょう。Medical Device Bは、営業CF+300億円、投資CF-500億円、財務CF+250億円。なぜ投資CFが500億円もマイナスなのか。新工場建設、海外生産拠点、自動化設備だとします。現在の工場稼働率は95%。受注も増加。この場合、投資CFの大幅マイナスは、成長のための投資と考えられます。しかし重要なのは、工場完成後です。2年後、営業CF+500億円。3年後、営業CF+700億円。さらに、借入返済が始まる。財務CFはマイナスへ。この変化が見えれば、外部資金を使って成長し、その投資から現金を生み出し、自分で借金を返せる企業へ変化したと読むことができます。これは非常に良い変化です。

次に成熟企業です。本業が安定、営業CFも大きい、必要な設備投資を行っても、現金が残る。新たに大量の借入をする必要もない。むしろ、借金を返す、配当する、自社株を買う。典型的には、営業CFプラス、投資CFマイナス、財務CFマイナスとなります。成熟した医療企業のケーススタディを見てみましょう。Medical Cは、営業CF+1,500億円、投資CF-400億円、財務CF-600億円。内訳、配当300億円、自社株買い200億円、借入返済100億円。本業で1,500億円を生み出す、400億円を未来へ投資、600億円を株主や債権者へ返す、それでも現金が残る。これは、強いキャッシュ創出力を持つ成熟企業の一つの形です。

しかし、成熟企業にも注意点があります。営業CFプラス、投資CFマイナス、財務CFマイナスだから安心、とは限りません。研究開発を削っていないか、設備投資を先送りしていないか、新しい成長分野へ投資しているか、主力製品が陳腐化していないかを確認する必要があります。特に医療企業では、現在の製品が強いからといって、10年後も強いとは限りません。大手製薬企業を考えてみましょう。主力薬から、大量の営業CF。その現金を、研究開発、M&A、配当、自社株買いへ配分します。ここで重要なのは、現在の営業CFの大きさだけではありません。主力薬の特許満了後も、同じ営業CFを生み出せるのかです。特許満了前の製薬企業のケーススタディを見てみましょう。Pharma Dは、営業CF+4,000億円、投資CF-1,000億円、財務CF-2,000億円。非常に強い。しかし、営業CFの60%を生み出す主力薬が、3年後に特許満了。後継薬はまだPhase II。この場合、現在のキャッシュフローだけを見て、「非常に安全」とは言えません。キャッシュフロー分析では、現在だけでなく、未来のキャッシュフロー源まで考える必要があります。

転換期・衰退期のキャッシュフロー

企業は、ずっと同じ事業を続けるわけではありません。既存事業を売却する、新事業を買収する、工場を閉鎖する、成長分野へ集中する。こうした時期を、転換期と考えてみましょう。この時期には、投資CFが大きく動きます。事業ポートフォリオ転換のケーススタディを見てみましょう。Medical Eは、営業CF+500億円、投資CF+800億円、財務CF-700億円。投資CFが大幅プラス。良いのでしょうか。内訳を見ると、旧事業売却+1,200億円、新規投資-400億円。つまり、会社を縮小しているだけではありません。旧事業を売却し、成長事業へ資本を移している可能性があります。さらに、売却資金の一部で借入返済、財務CFマイナス。これは、事業ポートフォリオを組み替えている企業と読むことができます。

注意したいのが、衰退期です。営業CFが継続的にマイナス、投資CFがプラス、財務CFもプラスという形です。本業で現金が出ていく、資産を売る、さらに借金する。この状態が何年も続く。これは、企業の持続可能性に注意が必要です。資産を売って生き延びる企業のケーススタディを見てみましょう。Hospital Fは、営業CF-50億円、投資CF+100億円、財務CF+80億円。内訳、病院不動産売却+150億円、設備投資-50億円、借入+80億円。つまり、本業で50億円の現金を失う、不動産を売却、さらに借入。これが1年だけなら、事業再編かもしれません。しかし、3年連続ならどうでしょうか。売れる資産には限界があります。借入にも限界があります。最終的には、営業CFを改善しなければなりません。

キャッシュフローは「時間」で読む

ここまでの最大のポイントです。キャッシュフローは、1年だけで見ない。最低3年、できれば5年、さらに長期分析なら10年見てください。なぜなら、企業の変化は、キャッシュフローの「形の変化」に現れるからです。5年間の変化のケーススタディを見てみましょう。ある医療DX企業、1年目、営業CF-100億円、投資CF-30億円、財務CF+200億円。2年目、営業CF-50億円、投資CF-40億円、財務CF+150億円。3年目、営業CF+20億円、投資CF-50億円、財務CF+50億円。4年目、営業CF+100億円、投資CF-60億円、財務CF0。5年目、営業CF+250億円、投資CF-80億円、財務CF-100億円。何が起きたのでしょうか。最初は、外部資金に依存。その後、本業が成長。営業CFがプラス化。外部資金依存が低下。最終的には、借入返済や株主還元が可能になった。つまり、資金を集める企業から、自分で現金を生み出す企業へ変化したのです。

この変化こそ企業分析です。単年度の数字だけなら、1年目は悪い、5年目は良い、で終わります。しかし、企業分析では、なぜ変わったのかを考えます。顧客数が増えた、解約率が下がった、粗利益率が改善した、営業レバレッジが効いた、運転資本が改善した、そして、営業CFがプラス化した。この因果関係を追います。逆のケースもあります。1年目、営業CF+500億円、投資CF-200億円、財務CF-200億円。5年目、営業CF-100億円、投資CF+300億円、財務CF+200億円。何が起きたのでしょうか。本業が悪化、資産売却、借入増加。この場合、成熟企業から、再建が必要な企業へ移行している可能性があります。

業種別の読み方

医療機器企業では、営業CF、設備投資、工場稼働率、生産能力を見ることが重要です。投資CF大幅マイナス、新工場建設、その後、営業CF増加、これは良い流れです。しかし、新工場建設、投資CF大幅マイナス、その後、在庫増加、工場稼働率低下、営業CF低下なら、過剰投資の可能性があります。製薬企業では、営業CFだけでなく、特許満了、研究開発、パイプライン、M&Aを見ます。現在の営業CFが強くても、主力薬の特許切れが近い。その場合、将来CFは減少する可能性があります。逆に、現在は大型M&Aで投資CFが大幅マイナス、しかし、有望なパイプラインを獲得、将来営業CFが増える、という可能性もあります。診断企業では、装置の設置、Installed Base、試薬販売、継続収益が重要です。装置設置に現金を使う、その後、試薬売上が積み上がる、営業CFが増える。この流れが作れているかを確認します。

医療DX企業では、初期は営業CFマイナスでも、顧客が増えることで、継続課金収入が積み上がる可能性があります。見るべきは、ARR、顧客数、解約率、粗利益率、営業CF、そして、外部資金依存度です。特に重要なのは、増資を繰り返さなくても成長できる段階へ到達できるかです。病院では、営業CFが最重要です。医業収益があっても、現金が残らない病院はあります。さらに、設備更新が必要です。CT、MRI、手術室、建物、電子カルテ。つまり、営業CFから、必要な設備投資を行った後に、どれだけ現金が残るのか。そして、借入返済できるのかを見る必要があります。介護・福祉では、営業CFに加えて、人件費、利用率、定員充足率、新規施設投資、借入返済を見る必要があります。例えば、グループホームを新設、財務CFプラス、投資CFマイナス、これは普通です。しかし、その後、満床、営業CFプラス、借入返済開始となれば、投資が事業へ変わったと言えます。反対に、空室が続く、営業CFマイナス、追加借入となれば、投資計画を見直す必要があります。

FCF・現金残高・有利子負債を加える

3つのCFに加えて、FCFも確認します。基本的には、営業CF-設備投資。企業が、本業で現金を作る、必要な設備投資をする、その後、どれだけ現金が残るのか。このFCFが、借入返済、配当、自社株買い、M&A、次の成長投資の原資になります。現金残高も忘れません。例えば、営業CF-100億円、投資CF-50億円、合計150億円の現金流出。しかし、現金残高2,000億円なら、すぐに資金不足になるわけではありません。一方、現金残高100億円、年間150億円流出なら、資金調達が必要になります。つまり、キャッシュフローだけではなく、現金残高を見る必要があります。有利子負債も見ます。現金が500億円ある、安心、とは限りません。借入金3,000億円かもしれません。そこで、現金、有利子負債、営業CF、FCFを一緒に見ます。2社比較のケーススタディを見てみましょう。A社は、現金500億円、有利子負債200億円、営業CF+300億円、FCF+200億円。B社は、現金500億円、有利子負債3,000億円、営業CF+100億円、FCF+20億円。現金残高は同じ。しかし、財務余力は大きく違います。

JMEI式キャッシュフロー読解法

JMEI式キャッシュフロー読解法は、まず、営業CF、本業で現金を作れているか。次に、投資CF、何へお金を使っているか。次に、財務CF、誰からお金を集め、誰へ返しているか。次に、FCF、投資後に現金が残っているか。次に、現金残高、あとどれくらい余力があるか。次に、有利子負債、将来どれだけ返済が必要か。そして、3年から5年の変化を見る。最後に、その会社が、創業・開発期、成長期、成熟期、転換期、衰退期のどこにいるのかを考えます。

JMEI式「キャッシュフロー計算書を見る20の質問」として、①営業CFはプラスか?②営業CFは増えているか?③営業利益と営業CFは連動しているか?④投資CFはプラスかマイナスか?⑤何へ投資しているか?⑥CAPEXはいくらか?⑦維持投資か成長投資か?⑧M&Aはあるか?⑨資産売却はあるか?⑩財務CFはプラスかマイナスか?⑪借入は増えているか?⑫増資しているか?⑬配当はいくらか?⑭自社株買いはあるか?⑮FCFはプラスか?⑯現金残高はいくらか?⑰有利子負債はいくらか?⑱外部資金依存度は高まっているか?⑲5年前よりキャッシュフロー構造は強くなったか?⑳この会社はいま、どの成長段階にいるか?そして最後に、「この会社のお金の流れは、5年後にもっと強くなるのか?」と考えます。

練習問題

問題1 営業CF+、投資CF-、財務CF-の企業は、どのような状態の可能性がありますか。

【答え】本業で生み出した現金を成長投資へ使いながら、借入返済や株主還元も行っている成熟企業などで見られる可能性があります。

問題2 営業CF-、投資CF-、財務CF+は、どのような企業で見られることがありますか。

【答え】バイオベンチャーや医療DXスタートアップなど、本業でまだ現金を生み出せず、外部資金を使って成長投資を行っている企業で見られることがあります。

問題3 営業CF-、投資CF+の場合、何に注意しますか。

【答え】本業の現金不足を、土地・工場・子会社などの資産売却で補っていないかを確認します。

問題4 キャッシュフロー計算書は何年見るべきでしょうか。

【答え】最低3年、できれば5年程度、長期分析では10年程度を見ることで、企業の変化を把握しやすくなります。

問題5 バイオ企業で重要なキャッシュフロー指標は何でしょうか。

【答え】現金残高、キャッシュバーン、ランウェイ、資金調達状況などです。

問題6 成熟企業で財務CFがマイナスになるのは悪いことでしょうか。

【答え】必ずしも悪くありません。借入返済、配当、自社株買いなどによって財務CFがマイナスになる場合があります。

問題7 投資CFが大幅マイナスの医療機器企業で確認すべきことは何でしょうか。

【答え】新工場や設備投資の目的、需要、生産能力、稼働率、投資後の売上・利益・営業CFなどです。

問題8 現金残高だけを見て企業の安全性を判断できますか。

【答え】できません。有利子負債、営業CF、FCF、今後の投資や返済予定なども合わせて確認する必要があります。

問題9 企業のライフサイクルを見るために重要なのは何でしょうか。

【答え】営業CF、投資CF、財務CFの符号だけでなく、それらが数年間でどのように変化しているかを見ることです。

問題10 キャッシュフロー計算書を読む最後の目的は何でしょうか。

【答え】企業がどのように現金を生み出し、何へ使い、どのように資金を調達し、その構造が将来さらに強くなるのかを理解することです。

総合ケーススタディ――あなたならどの企業を選ぶ?

A Medicalは、営業CF+1,000億円、投資CF-400億円、財務CF-300億円、FCF+600億円、現金1,500億円、有利子負債500億円。主力製品は安定成長。B Biotechは、営業CF-200億円、投資CF-50億円、財務CF+500億円、現金600億円、有利子負債50億円。Phase III候補薬あり。C Medical Deviceは、営業CF+300億円、投資CF-800億円、財務CF+600億円、現金400億円、有利子負債1,000億円。新工場建設中、受注は急増。どの会社が一番良いでしょうか。答えは、「この情報だけでは決められない」です。A社は、最も安定しているように見えます。しかし、成長余地はどれくらいあるのか。B社は、現在のCFだけなら弱い。しかし、新薬が成功すれば企業価値が大きく変わる可能性があります。C社は、借入を増やして大型投資。リスクはあります。しかし、需要が本当に強く、新工場から大きな営業CFが生まれれば、数年後には最も大きく成長しているかもしれません。だから企業分析では、現在の数字だけで順位をつけません。現在、未来、リスク、成長余地、そして医療価値を一緒に考えます。

JMEIでは、キャッシュフロー計算書を、単なる財務資料ではなく、「経営の行動記録」として読みます。損益計算書には、結果が表れます。売上、利益、純利益。しかし、キャッシュフロー計算書を見ると、その会社が実際に何をしたのかが見えてきます。本業から現金を生み出した、工場を建てた、企業を買収した、借金をした、借金を返した、株主へ配当した、自社株を買った、資産を売った。そこには、経営者の意思決定があります。さらに、1年だけではなく5年を見る。すると、企業の変化が見えてきます。外部資金に依存していた企業が、営業CFを生み出せるようになった。設備投資を続けた企業が、大きなFCFを生み始めた。成熟企業が、資産売却と借入へ依存し始めた。キャッシュフローは、企業の過去を説明する数字であると同時に、未来を考えるための数字なのです。

JMEI Medical Insight

医療企業のキャッシュフロー分析で、JMEIが特に重視したいのは、「良いキャッシュフローとは何か」です。営業CFが大きい、FCFが大きい、現金が多い。もちろん重要です。しかし、医療企業の場合、現金を最大化すればよいわけではありません。研究開発を削れば、短期的なFCFは増えるかもしれません。設備更新を延期すれば、短期的なFCFは増えるかもしれません。人材教育を減らせば、短期的には現金が残るかもしれません。しかし、それによって、新薬が生まれなくなる、医療機器の競争力が落ちる、医療安全が低下する、職員が離職する、患者への価値が低下する、なら、長期的な企業価値はむしろ低下します。だからJMEIでは、キャッシュフローの「量」だけではなく、キャッシュフローの「質」を見ます。良い医療企業とは、患者へ価値を提供する、その結果、売上を生む、利益を生む、営業CFを生む、その現金を、研究、設備、人材、技術へ再投資する、そこから、さらに大きな医療価値が生まれる、そして、さらに大きな営業CFが生まれる。この循環を持つ企業です。医療価値、企業価値、キャッシュフロー。この3つが、同じ方向へ回っているか。それこそが、JMEIが医療企業を見るときの重要な視点です。

今回のポイント

第50講で最も覚えてほしいのは、キャッシュフロー計算書は、「3つの数字を別々に見るものではない」ということです。営業CFは、本業でどう稼いだか。投資CFは、未来へどう使ったか。財務CFは、誰から集め、誰へ返したか。この3つをつなげます。さらに、FCF、現金残高、有利子負債を加えます。そして、1年だけではなく、3年、5年、できれば10年と時間軸を伸ばします。すると、企業が、創業・開発期なのか、成長期なのか、成熟期なのか、転換期なのか、衰退期なのかが見えてきます。そして最後に、「この会社のお金の流れは、5年後にもっと強くなっているだろうか?」と考えます。数字を覚えることが、企業分析ではありません。数字から、企業の物語を読む。これが、キャッシュフロー分析なのです。

次回予告

第51講 売上高成長率とは何か?――「伸びている会社」の中身を見抜く

ここまで、利益、資産効率、キャッシュフローを学んできました。次回からは、企業の「成長」を分析していきます。最初に取り上げるのは、売上高成長率です。売上が、1,000億円から1,100億円になった。10%成長。一見すると簡単です。しかし、企業分析では、「10%成長した」だけでは不十分です。なぜ増えたのでしょうか。患者数が増えたのか、販売数量が増えたのか、価格を上げたのか、新製品が売れたのか、M&Aで会社を買ったのか、為替で増えただけなのか。製薬企業なら、新薬の上市、適応拡大、薬価、特許。医療機器なら、販売数量、新製品、海外展開。診断企業なら、装置台数、検査件数、試薬売上。医療DXなら、顧客数、単価、ARR。病院・介護なら、患者数、利用者数、稼働率、単価。同じ「売上10%増」でも、成長の質はまったく違います。次回は、売上高成長率の計算方法から、オーガニック成長、M&A成長、価格成長、数量成長、為替影響、そして、「一時的に伸びた会社」と、「長期的に伸び続けられる会社」をどう見分けるのか。企業分析における「成長」の読み方を学びます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

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