JMEI 医療企業分析アカデミー 第53講 売上10%増で利益が30%増える会社の仕組み
はじめに
前回の第52講では、利益成長率について学びました。売上が10%増え、営業利益は30%増えた。このような企業がある一方で、売上が10%増えたのに営業利益は5%しか増えない企業もあります。さらに、売上が10%減っただけなのに、営業利益が50%も減ってしまう企業もあります。なぜでしょうか。
その違いを理解するために重要なのが、「営業レバレッジ」です。少し難しそうな言葉ですが、考え方はそれほど複雑ではありません。ポイントは、固定費と変動費です。企業には、売上が増えると一緒に増える費用と、売上が増えてもあまり変わらない費用があります。この費用構造の違いによって、同じ売上10%増でも、利益の増え方が大きく変わります。
例えば、すでに大きな工場を持つ医療機器メーカーを考えてみましょう。工場を建てた時点で、建物、製造設備、減価償却費、設備管理費などの大きな固定費が発生しています。しかし、生産能力に余裕があれば、販売量が10%増えても、工場をもう一つ建てる必要はありません。すると、追加売上のかなりの部分が利益へ回る可能性があります。
医療DX企業も同じです。システムを開発するまでには、多額の開発費が必要です。しかし、1,000医療機関が使っているシステムを1,100医療機関が利用するようになったからといって、開発費が必ず10%増えるわけではありません。そのため、一定規模を超えると、売上以上に利益が増えることがあります。
一方、病院、介護、福祉ではどうでしょうか。患者や利用者が増えれば、医師、看護師、介護職、支援員などの増員が必要になる場合があります。そのため、売上増加とともにコストも増え、利益が急激には増えにくいことがあります。
つまり、企業の利益成長を理解するには、「その会社は、売上が増えたときにどれくらい費用が増える会社なのか」を知る必要があります。今回は、固定費、変動費、限界利益、損益分岐点、営業レバレッジを一つにつなげ、医療企業の「利益の増え方」を読み解いていきます。
まず「費用」を二つに分けてみよう
企業分析では、費用をさまざまな方法で分類します。今回は理解しやすくするため、固定費と変動費の二つに分けます。固定費とは、売上が多少変化しても、短期的には大きく変わりにくい費用です。変動費とは、売上や生産量などに応じて増減しやすい費用です。
固定費とは何か
例えば、工場の減価償却費、本社家賃、システム利用料、一定部分の人件費、研究施設の維持費などです。売上が100億円から110億円へ増えたからといって、本社家賃が必ず10%増えるわけではありません。このような費用を、固定費として考えます。
変動費とは何か
一方、製品を一つ作るごとに必要になる原材料、部品、包装材、物流費、販売数量に連動する手数料などは、生産量や販売量が増えれば増加しやすい費用です。これらを、変動費として考えます。
ただし現実は完全には分けられない
ここは重要です。実際の企業では、すべての費用を完全な固定費と完全な変動費に分けられるわけではありません。例えば人件費は、短期的には固定費に近いものの、事業規模が大きくなれば採用が必要です。物流費も、数量に完全に比例するとは限りません。したがって、固定費・変動費は、企業の費用構造を理解するためのモデルとして使います。
簡単な会社を作ってみる
Medical A社の売上高は100億円、変動費は60億円、固定費は30億円とします。式にすると、100億円-60億円-30億円=10億円で、営業利益は10億円です。
売上が20%増えたらどうなるか
翌年、売上高が120億円に増えました。変動費は売上に比例すると仮定して72億円、固定費は30億円のままです。すると、120億円-72億円-30億円=18億円で、営業利益は18億円になります。
売上は20%増、利益は80%増
売上高は100億円から120億円へ、20%増えました。営業利益は10億円から18億円へ、80%増えました。売上は20%しか増えていないのに、利益は80%増えています。これが、営業レバレッジを理解する基本です。
なぜ利益が大きく増えたのか
ポイントは、固定費30億円です。売上が増えても、固定費は増えていません。追加売上20億円に対して、追加変動費は12億円でした。差額の8億円が、そのまま追加利益になっています。だから、営業利益が10億円から18億円へ増えたのです。
限界利益とは何か
ここで、限界利益という考え方を使います。限界利益とは、売上高から変動費を差し引いたものです。限界利益=売上高-変動費です。先ほどの会社なら、100億円-60億円=40億円で、限界利益は40億円です。
限界利益から固定費を払う
限界利益40億円から、固定費30億円を支払うと、残りは10億円です。これが営業利益です。つまり、売上から変動費を払うと限界利益が残り、そこから固定費を払うと営業利益が残る、という構造です。
限界利益率とは何か
限界利益率は、限界利益÷売上高で計算します。先ほどの会社なら、40億円÷100億円=40%です。これは、売上が1億円増えたとき、変動費を差し引いた後、約4,000万円が固定費の回収や利益へ回るというイメージです。
損益分岐点とは何か
次に、損益分岐点(Break-even Point)です。利益がちょうどゼロになる売上高、つまり赤字でも黒字でもない地点のことです。
先ほどの会社で計算する
固定費は30億円、限界利益率は40%です。損益分岐点売上高は、固定費÷限界利益率で求めます。30億円÷40%=75億円。つまり、売上高75億円が損益分岐点です。
売上75億円ならどうなるか
売上が75億円のとき、変動費率は60%なので、変動費は45億円です。限界利益は30億円、固定費も30億円ですから、営業利益は0円になります。確かに損益分岐点です。
損益分岐点を超えると何が起きるか
売上75億円までは、固定費を回収するために限界利益が使われます。しかし、75億円を超えた売上から生まれる限界利益は、固定費が大きく増えなければ、利益へつながりやすくなります。これが、利益が急速に増える理由の一つです。
医療機器メーカーで考える
ある医療機器メーカーが新工場を建設したとします。工場建設費は500億円、最新設備で、生産能力は年間100万本です。しかし現在の生産量は60万本で、40万本分の余力があります。
販売量が増える
販売量が60万本から70万本、80万本と増えても、工場はまだ同じで、設備もほぼ同じ、減価償却費も大きく変わりません。すると、販売量の増加によって、利益が売上以上に伸びる可能性があります。
ケーススタディ① 医療機器メーカー
Medical Device Bは、前年の売上が1,000億円、営業利益が100億円、工場稼働率が60%でした。今年は売上が1,100億円、営業利益が140億円、工場稼働率が72%です。売上成長率は10%、営業利益成長率は40%です。この場合、工場稼働率の上昇によって、固定費負担が効率化されている可能性があります。
しかし工場が満杯になったら
工場稼働率が98%になり、さらに売上を増やしたいとします。すると、新工場、新設備、新しい人員が必要になるかもしれません。固定費が、再び大きく増えます。つまり、営業レバレッジは永遠に同じではありません。
利益は階段状に増えることがある
企業の費用構造は、実際にはきれいな直線ではありません。売上が増え、既存設備で対応でき、利益率が上昇する。やがて設備能力の限界が来て、新工場を建設し、固定費が増え、一時的に利益率が低下する。新工場の稼働率が上がると、再び利益率が上昇する。このように、利益率は階段状に変化することがあります。
診断企業ではどうなるか
診断企業も、営業レバレッジが働きやすい場合があります。最初に検査装置を開発し、販売網を構築し、医療機関へ設置します。Installed Baseが増え、その後、検査件数が増えて、試薬が継続的に売れるようになります。
ケーススタディ② 診断企業
Diagnostics Cは、前年の装置売上が300億円、試薬売上が500億円、営業利益が120億円でした。今年は装置売上が330億円、試薬売上が650億円、営業利益が180億円です。売上は800億円から980億円へ22.5%増え、営業利益は50%増えました。高い限界利益を持つ試薬売上が増えたことで、利益が売上以上に伸びている可能性があります。
製薬企業ではどうなるか
製薬企業は非常に特徴的です。新薬を開発するまでには、長期間にわたる多額の研究開発費と臨床試験費が必要です。しかし、承認後に売上が急増すると、既存の販売組織を利用できる場合があります。その結果、売上増加以上に利益が増えることがあります。
ケーススタディ③ 新薬上市後
Pharma Dの新薬は、上市初年度の売上が500億円、営業利益貢献が50億円でした。3年後には、売上が2,000億円、営業利益貢献が700億円になりました。売上は4倍、利益は14倍です。上市初期に必要だった販売体制、マーケティング、市場導入費用などが、売上ほど増えなかった場合、強い営業レバレッジが働く可能性があります。
ただし製薬には特許がある
ここが重要です。売上が増え、利益が急増するのは非常に良いことです。しかし、特許満了、競合薬の登場、薬価改定によって売上が急減すると、営業レバレッジは逆方向に働く可能性があります。
営業レバレッジは「両刃の剣」
売上増加時には利益が大きく増え、売上減少時には利益が大きく減る。これが、営業レバレッジの本質です。高い営業レバレッジは、成長期には魅力的です。しかし、不況、競争激化、製品陳腐化、特許切れなどの局面では、大きなリスクになります。
ケーススタディ④ 逆営業レバレッジ
Medical Eは、前年の売上が1,000億円、変動費が600億円、固定費が300億円で、営業利益は100億円でした。今年は売上が900億円、変動費が540億円、固定費は300億円のままで、営業利益は60億円です。売上は10%減でしたが、営業利益は40%減りました。固定費が変わらないため、利益が大きく減少したのです。
医療DXでは営業レバレッジが重要
クラウド型電子カルテ、医療SaaS、AI診断支援、業務支援システムなどでは、最初に、ソフトウェア開発、セキュリティ、サーバー基盤、規制対応などへ投資します。しかし、顧客が増えても、コストが同じ割合で増えない場合があります。
ケーススタディ⑤ 医療SaaS
Medical SaaS Fは、前年の顧客数が1,000施設、売上が20億円、営業利益が1億円でした。今年は顧客数が1,500施設、売上が30億円、営業利益が6億円です。売上は50%増、営業利益は500%増で、利益率も5%から20%へ上昇しました。典型的な営業レバレッジが働いている可能性があります。
しかしクラウド費用は変動する
SaaSでも、すべてが固定費ではありません。クラウド利用料、カスタマーサポート、導入支援、決済費用、営業人員など、顧客増加とともに増える費用があります。したがって、「ソフトウェア企業だから利益率は必ず上がる」とは限りません。
病院の営業レバレッジ
病院はどうでしょうか。病院には、建物、医療機器、一定数の医師、看護師、事務職など、大きな固定費があります。そのため、病床稼働率が低い状態から上昇すると、利益が大きく改善する場合があります。
ケーススタディ⑥ 病床稼働率
Hospital Gは200床の病院で、前年の稼働率は65%、医業収益は80億円、医業利益は1億円でした。今年は稼働率が80%になり、医業収益は95億円、医業利益は5億円です。売上に相当する医業収益は約19%増、利益は5倍です。既存病床と既存人員を効率的に活用できたことが、利益改善につながった可能性があります。
しかし病院には人員基準がある
患者が増え、看護必要度が上がり、病床を増やし、診療機能を増やす。すると、人員増加が必要になる場合があります。つまり、一定水準を超えると、固定費が階段状に増える可能性があります。
介護・福祉でも同じ
定員20名のグループホームで、利用者が12名だったとします。しかし、家賃、管理者、一定の職員配置、夜間体制など、ある程度の費用はすでに発生しています。ここから、利用者が12名、15名、18名と増えれば、売上以上に利益が改善することがあります。
ケーススタディ⑦ 生活介護事業所
定員20名の生活介護事業所で、前年の平均利用者は12名、売上は4,000万円、営業利益は100万円でした。今年の平均利用者は17名、売上は5,500万円、営業利益は600万円です。売上は37.5%増、利益は500%増です。既存の施設、送迎車、管理者、基本的な職員配置を活用できたことが、利益改善につながっている可能性があります。
しかし満員になった後は
利用者が20名になり、さらに増やしたいとしても、定員は20名です。すると、新しい施設、新しい管理者、追加職員、車両、設備が必要になります。固定費が再び増えます。だから、稼働率上昇による利益成長と、新規拠点開設による成長は、分けて考える必要があります。
「売上が増えれば利益率も上がる会社」を探す
企業分析では、売上成長率だけを見るのではなく、売上が増えたとき、営業利益率がどう変化したかを確認します。売上が10%増え、営業利益率が10%から13%になったなら、営業レバレッジが働いている可能性があります。
反対に利益率が下がったら
売上が20%増えたのに、営業利益率が10%から7%に下がったとします。なぜでしょうか。原材料費の上昇、人件費の増加、値下げ、低利益率商品の増加、新工場の立ち上げ費用、新製品の販促費、研究開発費の増加などを調べます。必ずしも悪いとは限りません。将来の成長のために、一時的に費用が増えている可能性もあります。
営業レバレッジを見る簡単な方法
初心者なら、まず売上高成長率と営業利益成長率を並べます。売上が10%増え、営業利益が30%増えたなら、営業レバレッジが働いている可能性があります。売上が10%増え、営業利益が5%増にとどまったなら、利益への転換効率が低下している可能性があります。売上が10%減り、営業利益が40%減ったなら、逆方向の営業レバレッジが働いている可能性があります。このように考えます。
ただし1年だけでは判断しない
売上が10%増え、利益が50%増えた。すごい、と思うかもしれません。しかし、前年に一時費用があっただけかもしれません。そこで、3年、5年を見ます。売上成長とともに、継続的に営業利益率が上昇しているかを確認します。
損益分岐点の余裕を見る
現在の売上が100億円、損益分岐点売上が75億円なら、差額は25億円です。この差が大きいほど、ある程度売上が落ちても黒字を維持できる可能性があります。これを、安全余裕という考え方で見ることがあります。
ケーススタディ⑧ 2社比較
A社は売上100億円、損益分岐点60億円。B社は売上100億円、損益分岐点95億円です。同じ売上100億円でも、B社は、少し売上が減るだけで赤字になる可能性があります。費用構造のリスクが違います。
高固定費企業は悪いのか
違います。高固定費企業には、大きなメリットもあります。売上が十分に増えれば、利益が急増する可能性があります。問題は、需要が安定しているか、競争優位があるか、設備稼働率が高いか、固定費を回収できる売上があるかです。
低固定費企業にも特徴がある
変動費中心の会社では、売上が増えても費用も増えます。そのため、利益率が急上昇しにくい傾向があります。しかし、売上が減った場合には費用も減りやすく、利益の安定性が高い場合があります。企業分析では、どちらが良いかではなく、事業モデルとの整合性を考えます。
JMEI式営業レバレッジ分析
まず売上高成長率を見て、次に営業利益成長率、営業利益率を見ます。そのうえで、固定費構造、変動費構造、限界利益率を考え、設備稼働率と人員余力を確認します。さらに損益分岐点を考え、売上増加時の利益成長と、売上減少時の利益リスクを見ます。そして最後に、「売上が20%増えたとき、この会社の利益はいくら増えるだろう?」と考えます。
JMEI式「営業レバレッジを見る15の質問」
JMEIでは、営業レバレッジを見るときに次の15の質問を投げかけます。売上高は増えているか。営業利益は売上以上に増えているか。営業利益率は上昇しているか。固定費の大きい事業か。主な固定費は何か。主な変動費は何か。限界利益率は高いか。工場稼働率は何%か。設備能力に余裕があるか。人員に余力があるか。追加売上に必要な追加コストはいくらか。損益分岐点からどれくらい離れているか。売上減少時に利益はどれくらい減るか。次の大型設備投資はいつ必要か。そして最後に、この営業レバレッジは3年後も続くか。
練習問題
問題1 固定費とは何でしょうか。
【答え】売上や生産量が多少変化しても、短期的には大きく変わりにくい費用です。工場の減価償却費、本社家賃、一定部分の人件費などが例として挙げられます。
問題2 変動費とは何でしょうか。
【答え】売上や生産量の増減に応じて変化しやすい費用です。原材料、部品、包装材などが代表例です。
問題3 売上100億円、変動費60億円の場合、限界利益はいくらでしょうか。
【答え】40億円です。
問題4 限界利益40億円、固定費30億円の場合、営業利益はいくらでしょうか。
【答え】10億円です。
問題5 固定費30億円、限界利益率40%の場合、損益分岐点売上高はいくらでしょうか。
【答え】75億円です。
問題6 売上が20%増えたのに営業利益が80%増えることがあるのはなぜでしょうか。
【答え】固定費が大きく増えず、追加売上から生まれる限界利益の多くが営業利益へ回るためです。
問題7 営業レバレッジが高い企業で売上が減少するとどうなる可能性がありますか。
【答え】固定費がすぐには減らないため、売上減少率以上に営業利益が減少する可能性があります。
問題8 医療機器企業で営業レバレッジを見るときに重要な指標は何でしょうか。
【答え】工場稼働率、生産能力、設備投資、営業利益率などです。
問題9 病院や福祉施設で稼働率上昇によって利益が大きく増えることがあるのはなぜでしょうか。
【答え】建物、設備、管理者、一定の職員配置などの固定費がすでに発生しているため、既存能力の範囲内で利用者が増えると追加売上の一部が利益へつながりやすいためです。
問題10 営業レバレッジ分析で最も注意すべきことは何でしょうか。
【答え】営業レバレッジは売上増加時には利益を大きく押し上げますが、売上減少時には利益を大きく悪化させる可能性があることです。
総合ケーススタディ――どの会社の利益が最も伸びるか
3社の医療企業があります。A社は現在の売上が1,000億円、変動費率が70%、固定費が200億円。B社は現在の売上が1,000億円、変動費率が50%、固定費が400億円。C社は現在の売上が1,000億円、変動費率が80%、固定費が100億円です。
現在の営業利益を計算してみましょう。A社は、売上1,000億円、変動費700億円、固定費200億円で、営業利益は100億円。B社は、売上1,000億円、変動費500億円、固定費400億円で、営業利益は100億円。C社は、売上1,000億円、変動費800億円、固定費100億円で、営業利益は100億円です。3社とも、営業利益は100億円です。
では、売上が10%増えて1,100億円になったらどうなるでしょうか。A社は、変動費770億円、固定費200億円で、営業利益130億円、30%増です。B社は、変動費550億円、固定費400億円で、営業利益150億円、50%増です。C社は、変動費880億円、固定費100億円で、営業利益120億円、20%増です。同じ売上10%増でも、利益の増加率はA社30%、B社50%、C社20%と、まったく違います。B社は、固定費が大きい代わりに、変動費率が低い。そのため、売上増加時には最も強い営業レバレッジが働きます。
しかし、売上が減ったらどうでしょうか。売上が900億円になった場合、B社は変動費450億円、固定費400億円で、営業利益は50億円です。売上は10%減っただけなのに、営業利益は50%減少します。つまり、最も利益が伸びやすい企業は、最も利益が減りやすい企業でもあり得る。これが、営業レバレッジの重要な特徴です。
JMEIの視点
JMEIでは、営業レバレッジを「利益を増やす仕組み」としてだけは見ません。営業レバレッジとは、企業の事業構造そのものです。医療機器メーカーなら、工場、設備、稼働率。製薬企業なら、研究開発、販売網、特許。診断企業なら、Installed Base、試薬、検査件数。医療DXなら、開発基盤、顧客数、継続率。病院なら、病床、人員配置、稼働率。介護・福祉なら、定員、職員配置、利用率。それぞれに、異なる営業レバレッジがあります。
だから、単に「固定費が高い」「固定費が低い」で評価しません。重要なのは、固定費を生かせるだけの需要があるかです。100億円の設備を持っていても、誰も使わなければ負担です。しかし、その設備がほぼ満稼働し、さらに需要が増えているなら、大きな利益を生み出す資産になります。費用は、それ単独では良いとも悪いとも言えません。需要と組み合わせて、初めて意味を持ちます。これが、JMEIが営業レバレッジを見るときの基本姿勢です。
JMEI Medical Insight
医療産業で営業レバレッジを考えるとき、特に重要なのが「余力」です。工場に余力がある、病床に余力がある、システムに顧客追加余力がある、既存販売網に余力がある、施設定員に余力がある。この余力へ需要が流れ込むと、大規模な追加投資をせずに、売上を増やせる可能性があります。その結果、利益が売上以上に伸びます。
逆に、余力がない企業では、売上を増やすたびに、新工場、新施設、新しい人員、新しいシステムが必要になります。すると、売上は伸びても、利益率はなかなか上がりません。したがってJMEIでは、成長企業を見るとき、「売上はどれくらい伸びるか」だけでなく、「その成長を、現在の経営資源でどこまで吸収できるか」を見ます。工場稼働率、病床稼働率、施設利用率、Installed Base、顧客数、生産能力、人員数。これらは単なる業務指標ではありません。将来の利益成長を考えるための、重要な先行指標なのです。
そして医療企業では、もう一つ忘れてはいけません。効率を高めることと、医療の質を削ることは違います。病院で人員を極端に減らす、介護施設で必要な職員まで削る、研究開発を止める、設備更新を先送りする。これによって短期的な利益率が上がったとしても、持続可能な営業レバレッジとは言えません。医療の質を維持しながら、既存資源をより有効に使う。その結果として、売上以上に利益が伸びる。JMEIが評価したいのは、このような営業レバレッジです。
今回のポイント
第53講で最も覚えてほしいのは、「売上の伸びと利益の伸びは、同じではない」ということです。売上が増え、変動費も増える。しかし、固定費が大きく増えない。すると、追加売上から生まれた限界利益が、営業利益へ流れ込みます。その結果、売上10%増で利益30%増ということが起こります。これが、営業レバレッジです。
しかし、反対もあります。売上が10%減り、利益が40%減る。固定費が大きい企業では、売上減少が利益を大きく圧迫します。だから、営業レバレッジは、利益成長のエンジンであると同時に、利益変動のリスクでもあります。企業を見るときは、売上高成長率、営業利益成長率、営業利益率、固定費、変動費、限界利益、損益分岐点、工場稼働率、施設利用率、病床稼働率、Installed Baseなどをつなげて考えます。そして最後に、「この会社は、追加売上1億円から、いくら利益を生み出せる会社なのか」と考えてみてください。企業の利益構造が、少しずつ見えるようになります。
次回予告
第54講 損益分岐点を企業分析に使う――「あと何%売上が落ちたら赤字になるか」を考える
今回は、営業レバレッジを学びました。その中で、損益分岐点が登場しました。売上100億円、損益分岐点75億円なら、この会社には25億円の余裕があります。一方、売上100億円、損益分岐点95億円なら、売上が少し減っただけで赤字になる可能性があります。企業分析では、現在利益が出ているかどうかだけでは不十分です。「どれくらい売上が落ちても耐えられるのか」を見る必要があります。
次回は、損益分岐点売上高、限界利益率、安全余裕率、固定費構造を使って、企業の収益耐久力を考えます。医療機器メーカーで需要が減ったらどうなるのか。製薬企業で主力薬の特許が切れたらどうなるのか。病院で病床稼働率が下がったらどうなるのか。介護・福祉施設で利用率が下がったらどうなるのか。医療DX企業で解約率が上昇したらどうなるのか。第54講では、「利益が出ている会社」から一歩進んで、「売上が悪化しても利益を守れる会社」を見抜く方法を学びます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。