JMEI 医療企業分析アカデミー 第42講 「売上10%増」で利益が30%増える会社の仕組み
第41講では、粗利益率、営業利益率、純利益率を使って、「企業がどこで稼ぎ、どこでお金を使っているのか」を学びました。今回は、そこから一歩進みます。ある医療DX企業があります。前年の売上高は100億円、営業利益は10億円。翌年、売上高は110億円、売上成長率は10%です。ところが営業利益は13億円、30%増えました。売上は10%しか増えていないのに、なぜ利益は30%も増えたのでしょうか。反対に、売上が10%減っただけなのに、営業利益が50%減ってしまう会社もあります。この違いを理解するために必要なのが、営業レバレッジという考え方です。英語では、Operating Leverage。企業には、売上が増えると一緒に増える費用と、売上が増えてもあまり変わらない費用があります。前者が変動費、後者が固定費です。そして、固定費が大きい企業では、ある水準を超えて売上が増えると、利益が急速に増えることがあります。医療DX、医療AI、製薬、診断機器、医療機器、医療サービス、それぞれ営業レバレッジの構造が違います。営業レバレッジを理解すると、「売上が伸びる企業」と、「売上が伸びると利益がもっと大きく伸びる企業」を区別できるようになります。今回は、固定費とは何か、変動費とは何か、限界利益とは何か、損益分岐点とは何か、営業レバレッジとは何か、売上増加以上に利益が増える理由、売上減少で利益が急減する危険、医療DX企業が黒字化後に利益を急拡大できる理由、新薬上市が製薬企業の利益を大きく変える理由、そして「高成長企業」と「利益が加速する企業」は何が違うのかを学んでいきます。
変動費・固定費と、限界利益
企業の費用を考えるとき、大きく、変動費と固定費に分けて考えることができます。変動費とは、売上や生産量が増えると、それに応じて増える費用です。例えば、製品材料費、仕入費、物流費の一部、販売数量に連動する手数料などです。医療機器メーカーを考えてみましょう。カテーテルを1本作るのに、材料費などが5,000円かかる。1万本作れば5,000円×1万本、2万本作れば、おおむねその費用も増えます。これが変動費の基本イメージです。売上や生産量と一緒に動く費用です。
では固定費とは何でしょうか。売上が増減しても、短期的にはあまり変わらない費用です。例えば、本社賃料、一定の人件費、システム維持費、研究施設費、減価償却費などです。医療DX企業を考えてみましょう。電子カルテ関連システムを開発するため、エンジニア100人を雇う。契約病院100施設、翌年150施設。エンジニアが必ず150人必要になるでしょうか。そうとは限りません。同じシステムを多くの病院へ提供できるからです。売上は50%増えても、開発費が50%増えるとは限りません。これが営業レバレッジを生みます。
簡単な例を見てみましょう。A Medical Cloudは、売上高100億円、変動費40億円、固定費50億円。営業利益は100-40-50=10億円。翌年、売上高120億円、売上20%増です。変動費率が40%なら、変動費は48億円。固定費50億円のままとします。営業利益は120-48-50=22億円。営業利益の変化は10億円から22億円、120%増です。売上は20%増、利益は120%増。これが営業レバレッジです。なぜ起こるのでしょうか。固定費をすでに負担しているからです。売上が増えた部分20億円、そのすべてが利益になるわけではありません。変動費8億円が増えます。しかし固定費は増えていません。追加売上20億円から追加変動費8億円を引く、残り12億円。その12億円が営業利益増加につながります。
ここで重要な言葉が、限界利益です。限界利益とは、簡単に考えると、売上高-変動費です。先ほどの企業、売上高100億円、変動費40億円。限界利益60億円。限界利益率60%。意味は?売上が1円増えると、固定費が変わらない範囲では、おおむね0.6円が固定費回収と利益へ回るというイメージです。固定費を回収するまでは、限界利益は固定費の支払いに使われます。固定費を回収した後、追加の限界利益が、営業利益として残りやすくなります。
ここで損益分岐点です。Break-even Point。利益が、ちょうどゼロになる売上高です。損益分岐点売上高は、簡略化すると、固定費÷限界利益率。先ほどの企業、固定費50億円、限界利益率60%。損益分岐点売上高は、50÷0.6=約83.3億円。つまり、売上高が約83.3億円で、営業利益がほぼゼロ。100億円なら黒字。80億円なら赤字になる可能性があります。
黒字化直前の企業と、コスト構造の違い
黒字化直前の医療AI企業のケーススタディを見てみましょう。売上高70億円、限界利益率70%、固定費50億円。限界利益49億円。営業利益マイナス1億円。ほぼ損益分岐点です。翌年、売上高100億円。限界利益70億円。固定費仮に52億円。営業利益18億円。売上は約43%増ですが、営業利益はマイナス1億円からプラス18億円。黒字転換後、利益が急速に拡大しました。成長企業でよく見る現象です。だから赤字だけを見てはいけません。第40講で学んだ、PSR、EV/Salesにつながります。赤字成長企業を見るとき、損益分岐点まで、あとどれくらいなのかを見る必要があります。売上が増えれば黒字化する会社と、売上が増えても赤字が続く会社は違います。
2つの医療DX企業のケーススタディを見てみましょう。A Medical DXは、売上80億円、変動費率20%、固定費70億円。限界利益64億円。営業利益マイナス6億円。B Medical DXは、売上80億円、変動費率70%、固定費30億円。限界利益24億円。営業利益マイナス6億円。現在の赤字は同じマイナス6億円。では同じ会社でしょうか。違います。A社は限界利益率80%、B社は限界利益率30%。売上が100億円になると?A社、限界利益80億円、固定費を仮に70億円とすると、営業利益10億円。B社、限界利益30億円、固定費30億円、営業利益0円。同じ赤字企業でも、利益化の速度が違います。だから赤字額だけでは不十分です。コスト構造を見る必要があります。
営業レバレッジの反対側と、スケーラビリティ
次に営業レバレッジの反対側です。ここが非常に重要です。営業レバレッジは利益を増幅します。しかし、良い方向だけではありません。売上が減ると?利益も大きく減る可能性があります。ケーススタディを見てみましょう。売上120億円、変動費率40%、固定費50億円。営業利益22億円。売上が100億円へ減少、約17%減。営業利益10億円。利益は22億円から10億円、約55%減です。売上17%減、利益55%減。これも営業レバレッジです。固定費は売上が減っても残るからです。医療企業で固定費が大きい事業として、研究施設、製造工場、大型営業組織、IT開発組織、検査センターなどがあります。需要が伸びれば強い。しかし、需要が落ちたときには利益が急減する可能性があります。営業レバレッジは「両刃の剣」と覚えてください。
では医療DXは営業レバレッジが高いのでしょうか。一般に、ソフトウェア型ビジネスでは営業レバレッジが働きやすい場合があります。理由は、一度作ったシステムを、複数の顧客へ提供できるからです。しかし例外もあります。病院ごとに、大規模カスタマイズ、導入のたびにエンジニア派遣、現地設定、研修、個別保守。顧客増加とともに人員も増えるなら、思ったほど営業レバレッジは働きません。同じ医療DXでも、SaaS型、受託開発型、コンサル型では、コスト構造が異なります。
2つの医療IT企業のケーススタディを見てみましょう。A社は標準化されたクラウドサービス、追加顧客当たりコストが小さい。B社は病院ごとの個別開発、導入ごとに人員が必要。売上が2倍になったとき、A社は人件費が1.3倍、B社は人件費が1.9倍。どちらの利益率が上がりやすいでしょうか。A社です。これがスケーラビリティ、Scalabilityです。事業規模を拡大しても費用が同じ割合で増えない構造です。営業レバレッジを見るとき、スケーラビリティは重要です。
製薬・診断・製造業での営業レバレッジ
では製薬企業はどうでしょうか。製薬企業も、非常に大きな営業レバレッジが発生することがあります。新薬開発には、研究、前臨床、臨床試験、承認申請、巨額の費用が必要です。つまり上市前、大きな固定的投資を行っています。承認後、薬が売れ始める。売上が急増すると、利益も急増する場合があります。新薬上市のケーススタディを見てみましょう。研究開発費等を含む固定的費用、年間500億円。既存事業の限界利益、450億円。営業利益マイナス50億円。新薬上市、新薬売上500億円。新薬の売上に対する限界利益率を仮に80%とします。追加限界利益400億円。固定費が大きく増えなければ、営業利益は大きく改善します。これが新薬上市による利益インパクトです。しかし逆もあります。特許切れ、主力薬売上が急減します。研究開発組織、本社、製造設備。固定費はすぐには減らない可能性があります。売上減少以上に利益が落ちることがあります。だから製薬企業では、Patent Cliff、特許の崖が重要です。営業レバレッジと特許切れを一緒に考える必要があります。
次に診断企業です。診断企業には面白い構造があります。最初に装置を設置します。その後、試薬、消耗品、保守、継続売上が発生します。装置設置台数が増える、試薬需要増加。試薬が高粗利益率なら、会社全体の利益率が改善する可能性があります。診断装置企業のケーススタディを見てみましょう。1年目、装置売上300億円、試薬売上200億円。営業利益率10%。3年後、装置売上350億円、試薬売上500億円。総売上500億円から850億円。試薬比率が大きく上昇しました。営業利益率10%から20%。営業利益50億円から170億円。売上70%増、営業利益240%増。売上成長+製品ミックス改善+営業レバレッジ。複数の要因が重なっています。第41講との接続を考えると、利益率を見るとき、単に固定費だけでなく、製品ミックスも確認する必要があります。
次に医療機器メーカーです。工場を持つ企業では、固定費が大きくなることがあります。工場、減価償却、設備保守、品質管理。生産量が増えると、固定費を多くの製品へ分散できます。1個当たり固定費が下がることがあります。これを規模の経済、Economies of Scaleと呼びます。ケーススタディを見てみましょう。工場固定費100億円、年間100万個生産。単純化すると1個当たり固定費1万円。年間200万個生産、固定費が120億円へ増えたとします。1個当たり固定費6,000円。生産量2倍、固定費は1.2倍。1個当たりコスト低下します。利益率改善につながる可能性があります。しかし工場には別の危険、稼働率低下です。大型工場を作った、しかし製品が売れない。固定費だけ残る、利益率が急低下します。医療機器企業では、工場稼働率も重要な分析ポイントです。
医療・介護サービスと、稼働率の重要性
次に医療・介護サービスです。ここでは営業レバレッジが異なります。利用者が増える、職員が必要。患者が増える、医師、看護師、介護職などが必要。売上増加と人件費増加が連動しやすい事業です。そのため、ソフトウェアほど大きな営業レバレッジが働きにくい場合があります。しかし全くないわけではありません。施設には、家賃、管理者、設備など固定費があります。定員100人、現在利用者60人。利用者が80人へ増加しても、施設家賃は同じ。管理者も同じ。一定範囲では利益率が大きく改善する可能性があります。介護施設のケーススタディを見てみましょう。定員100人、利用者60人、売上6,000万円。変動費3,000万円、固定費3,000万円。営業利益0円。利用者80人、売上8,000万円。変動費率50%なら4,000万円。固定費3,000万円。営業利益1,000万円。稼働率60%から80%。利益構造が大きく改善しました。医療・介護では「稼働率」が営業レバレッジを左右することがあります。病院なら病床稼働率、検査センターなら検査処理量、介護施設なら入居率、医療機器工場なら設備稼働率、医療DXなら契約顧客数。企業ごとに「稼働率」の意味が違う、ここを見つけることが重要です。
営業レバレッジを数字で見る、そして「悪い営業レバレッジ」
次に営業レバレッジを数字で見ます。代表的な考え方の一つに、営業利益の変化率÷売上高の変化率があります。例えば、売上高100億円から110億円、10%増。営業利益10億円から13億円、30%増。営業利益変化率30%÷売上変化率10%、3。売上変化に対して利益がより大きく動いていることが分かります。ただし単年度だけで判断しないことが重要です。一時費用、値上げ、為替、M&A、製品ミックス。他の要因でも利益は動きます。営業レバレッジを見るなら、数年間の推移を確認します。3年間を見るケーススタディを見てみましょう。売上高1年目100億円、2年目110億円、3年目125億円。営業利益1年目5億円、2年目8億円、3年目15億円。営業利益率5%、7.3%、12%。売上成長とともに利益率も改善しています。営業レバレッジが働いている可能性があります。確認するには、固定費率は低下しているか、粗利益率は安定しているか、一時要因ではないか。ここまで見て初めて、構造的な営業レバレッジかを判断します。
次に「悪い営業レバレッジ」です。企業が急成長すると、逆に費用が増えすぎることがあります。売上+30%、人件費+50%、広告費+80%。利益率低下。なぜでしょうか。成長するために、売上以上の費用が必要だからです。これを見抜くには、販管費率を見ます。販管費÷売上高。売上が増えるほど販管費率が下がる、良い営業レバレッジの可能性があります。売上が増えるほど販管費率が上がる、スケールできていない可能性があります。医療AI企業のケーススタディを見てみましょう。A AIは、売上50億円から100億円。販管費40億円から60億円。販管費率80%から60%。改善しています。B AIは、売上50億円から100億円。販管費40億円から90億円。販管費率80%から90%。売上は倍増、しかし費用はそれ以上に増加。成長の質が違います。
営業レバレッジを見るときの最大の落とし穴は、固定費は永遠に固定ではないということです。例えば、契約病院100施設までは、現在のサーバー、営業人員、サポート体制。200施設になると、新しいデータセンター、人員、管理体制。固定費が段階的に増えることがあります。これをステップコストと考えることができます。売上増加、利益急増。一定水準、新しい固定費発生。利益率一時低下。さらに売上増加、再び利益率改善。企業成長は一直線ではないということです。だから将来予測では、「固定費はずっと同じ」と考えてはいけません。
JMEI式営業レバレッジ分析
JMEI式営業レバレッジ分析は、売上成長率を見る、粗利益率を見る、変動費率を見る、限界利益率を見る、固定費を見る、損益分岐点を見る、現在売上との距離を見る、販管費率を見る、稼働率を見る、利益率改善を見る、将来の追加固定費を見る、FCFにつながるかを見るという流れです。
医療企業の営業レバレッジを見るときには、次の15項目を確認しましょう。売上高は成長しているか。売上成長率は何%か。変動費率は何%か。限界利益率は高いか。固定費はいくらか。損益分岐点売上高はいくらか。現在の売上は損益分岐点を超えているか。売上増加に対して営業利益はどれだけ増えているか。営業利益率は改善しているか。販管費率は低下しているか。顧客増加に対して人員増加はどの程度必要か。工場・施設・システムの稼働率は上昇しているか。製品ミックス改善も利益増加に影響していないか。次の成長段階で追加固定費は必要か。売上成長がFCF成長につながっているか。最後に、「この会社は売上が1円増えたとき、そのうち何円を追加利益として残せるのか?」と考えます。
練習問題
問題1 変動費とは何でしょうか。
【答え】売上高や生産量などの増減に応じて変化する費用です。
問題2 固定費とは何でしょうか。
【答え】売上高が変化しても、短期的には大きく変わらない費用です。
問題3 売上高100億円、変動費40億円。限界利益はいくらでしょうか。
【答え】60億円です。
問題4 問題3の限界利益率はいくらでしょうか。
【答え】60%です。
問題5 固定費30億円、限界利益率60%。損益分岐点売上高はいくらでしょうか。
【答え】30÷0.6=50億円です。
問題6 売上高が10%増え、営業利益が30%増えました。売上の変化に対して利益がより大きく動いているでしょうか。
【答え】はい。営業レバレッジが働いている可能性があります。
問題7 営業レバレッジが高い企業では、売上減少時に何が起こる可能性がありますか。
【答え】固定費が残るため、売上の減少率以上に営業利益が大きく減少する可能性があります。
問題8 医療DX企業で営業レバレッジが働きやすいのはなぜでしょうか。
【答え】一度開発したシステムを多くの顧客へ提供でき、顧客数の増加ほど開発費などが増えない場合があるためです。
問題9 介護施設で営業レバレッジを見る際に重要な指標の一つは何でしょうか。
【答え】稼働率や入居率です。
問題10 固定費は永遠に固定でしょうか。
【答え】いいえ。事業規模が一定水準を超えると、新施設、人員、設備、システムなどの追加投資が必要になり、段階的に固定費が増えることがあります。
総合ケーススタディ――どちらの医療DX企業が伸びると儲かるのか?
A Medical Cloudは、売上高100億円、売上成長率+30%、限界利益率80%、固定費75億円。現在の限界利益80億円。営業利益5億円。B Medical Supportは、売上高100億円、売上成長率+30%、限界利益率40%、固定費35億円。現在の限界利益40億円。営業利益5億円。現在の営業利益は同じ5億円。売上成長率も同じ30%。翌年、両社とも売上130億円。固定費が変わらないと仮定します。A社、限界利益104億円。営業利益29億円。B社、限界利益52億円。営業利益17億円。同じスタート営業利益5億円、同じ売上成長30%。しかし翌年利益はA社29億円、B社17億円。なぜでしょうか。限界利益率が違うからです。これが営業レバレッジ分析の面白さです。現在の利益だけでは、将来の利益成長力は分かりません。
しかしまだ終わりません。A社は、売上120億円を超えると、追加サーバー、サポート人員、海外拠点。固定費が75億円から95億円へ増えるとします。すると、売上130億円、限界利益104億円、固定費95億円。営業利益9億円。先ほどの29億円とは大きく違う。つまり、将来の固定費投資まで見る必要があります。企業分析とは、現在の数字を延長するだけではありません。事業が成長したとき、何が追加で必要になるかを考えることなのです。
JMEIでは、売上成長率だけを見て「成長企業」と判断しません。重要なのは、その売上成長が、どの程度の利益成長へ変わるのかです。売上が20%増えて、営業利益も20%増える会社。売上が20%増えて、営業利益が60%増える会社。売上が20%増えても、営業利益がほとんど増えない会社。企業価値へのインパクトは大きく異なります。そこでJMEIでは、売上成長率、限界利益率、固定費、損益分岐点、稼働率、営業利益率、FCFという流れで分析します。特に注目するのは、「現在の利益」ではなく、「追加売上の何%が追加利益になるのか」です。そして、営業レバレッジが高ければ良いとも考えません。高い営業レバレッジは、成長局面では利益を加速させます。しかし、売上減少局面では、利益減少も加速させます。したがって、営業レバレッジと売上の安定性をセットで見る必要があります。継続課金、試薬、消耗品、保守、慢性疾患薬など、需要の予測可能性が高い事業で営業レバレッジが働けば、非常に強い利益構造になる可能性があります。一方、単発大型機器、一製品依存、一時的特需など、売上変動が大きい事業で固定費が重い場合には、大きなリスクにもなります。JMEIが見るのは、「売上が伸びているか」だけではありません。「売上が伸びた先で、利益がどう変化する会社なのか」なのです。
JMEI Medical Insight
医療企業の営業レバレッジを考えるとき、特に重要なのが、「先に基盤を作り、後から繰り返し収益を得られるか」という視点です。例えば診断企業。最初に検査装置を病院へ設置します。装置販売だけを見ると、設置時の一回限りの売上です。しかし、その装置で検査を行うたびに、専用試薬、消耗品が必要になる。装置設置台数が、1,000台、2,000台、3,000台と増える。すると、翌年の試薬需要の土台も大きくなります。つまり、装置の累積設置台数が、将来の継続収益を生む基盤になります。医療DXなら契約病院数、医療AIなら導入施設数、製薬なら処方患者数、介護なら稼働率、それぞれ将来利益を生む「基盤」があります。JMEIでは、この基盤を、Installed Baseという考え方で見ることを重視します。重要なのは、今期何台売ったかだけではありません。これまで何台設置され、そこから来年、どれだけ継続売上が発生するのか。ここを見ると、売上成長の予測可能性と、営業レバレッジを同時に考えることができます。医療企業の強さは、一度売って終わることではありません。医療現場に基盤を作り、その基盤から長期間にわたって価値と収益を生み続けられるか。この構造を持つ企業は、売上成長以上の利益成長を実現できる可能性があります。
今回のポイント
第42講で最も覚えてほしいのは、「売上の伸び率と利益の伸び率は同じではない」ということです。企業の費用には、変動費と固定費があります。売上高から変動費を引いたものが、限界利益。限界利益から固定費を引いたものが、営業利益という考え方をすると、企業の利益構造が見えやすくなります。固定費を回収した後、売上が増えると、追加の限界利益が営業利益へ残りやすくなります。これが、営業レバレッジです。しかし、営業レバレッジは両刃の剣です。売上増加時には、利益を大きく増やす。売上減少時には、利益を大きく減らす。だから見る順番は、売上成長率、変動費率、限界利益率、固定費、損益分岐点、稼働率、営業利益率、将来の追加固定費、FCFです。そして最も重要な問いは、「この会社は、追加売上1円から何円を追加利益として残せるのか?」です。売上成長企業を見つけたら、次に、その売上がどの程度利益へ変換されるのかを見る。ここまでできるようになると、企業分析はさらに一段深くなります。
次回予告
第43講 ROAとは何か?――会社が持つ「すべての資産」からどれだけ利益を生み出しているか
第42講では、営業レバレッジを学びました。売上が増えたとき、どれだけ利益が増えるのか。その構造を見ることで、成長企業の利益成長力を分析できるようになりました。しかし、企業は利益を生むために、工場、研究施設、医療機器、現金、在庫、売掛金、特許、ソフトウェアなど、さまざまな資産を使っています。では、1,000億円の資産を持って100億円稼ぐ会社と、500億円の資産で100億円稼ぐ会社。どちらが効率的でしょうか。ここで登場するのが、ROA。Return on Assets、総資産利益率です。第34講で学んだROIC、第38講で扱ったROE、そしてROA。似た指標ですが、見ているものは違います。次回は、ROAとは何か、ROEとの違い、ROICとの違い、なぜ総資産を見るのか、製薬企業、医療機器企業、医療DX企業、病院・介護事業でROAの意味がどう違うのか、M&Aで「のれん」が増えるとROAはどうなるのか、そして「大きな会社」と「資産を上手に使う会社」は何が違うのかを、企業の資産効率へ進みます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
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本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。