JMEI 医療企業分析アカデミー 第39講 「株価」ではなく「会社まるごとの値段」を見る
第38講では、PBRについて学びました。PBRとは、Price Book-value Ratio、日本語では株価純資産倍率です。そして、PBR=PER×ROEという重要な関係を確認しました。企業を見るときには、利益に対する評価であるPER、純資産に対する評価であるPBR、株主資本から利益を生み出す力であるROE、これらを組み合わせることで、企業に対する市場評価を立体的に見ることができます。しかし、ここで新しい問題が出てきます。例えば、2つの医療企業があるとします。A社は、時価総額1,000億円、有利子負債ほぼゼロ。B社は、時価総額1,000億円、有利子負債1,000億円。株式市場での値段は、どちらも1,000億円です。では、「会社を丸ごと買う」と考えた場合、本当に同じ値段でしょうか。違います。B社を買えば、基本的にはその会社が抱える借金も考えなければなりません。反対に、企業が大量の現金を持っていれば、その現金は企業価値を考えるうえで重要です。つまり、時価総額だけでは会社全体の値段を十分に表せないのです。
そこで登場するのが、EVです。EVとは、Enterprise Value、日本語では一般に企業価値と呼ばれます。そしてEVと一緒によく使われるのが、EBITDAです。EBITDAは、企業が本業からどの程度の収益力を持っているのかを見るために使われる代表的な指標の一つです。この2つを組み合わせた、EV/EBITDA倍率は、M&A、企業比較、医療機器、医療サービス、ヘルスケア企業などの分析で頻繁に登場します。ただし、EV/EBITDAにも弱点があります。特に医療企業を見る場合、設備投資、研究開発費、M&A、リース、負債、事業構造などを考えずに倍率だけを比較すると、企業の実態を見誤ることがあります。今回は、EVとは何か、時価総額との違い、EBITDAとは何か、営業利益との違い、なぜ減価償却費を足し戻すのか、EV/EBITDA倍率とは何を意味するのか、PERと何が違うのか、M&Aでなぜ使われるのか、医療企業ではどのように使えばよいのか、そして「株価が安い会社」と「会社全体として安い会社」は何が違うのかを、企業価値分析を一段深く学んでいきます。
EVの基本と、EBITDAの基本
まず時価総額を確認します。時価総額は、株価×発行済株式数です。例えば、株価2,000円、発行済株式数1億株なら、時価総額は2,000億円です。時価総額は基本的には、株主に帰属する持分の市場価値です。株式市場がその企業の株主価値をいくらと評価しているかを表します。しかし企業は、株主資本だけで事業をしているとは限りません。銀行借入、社債、その他の有利子負債などを使って事業を行う企業もあります。
A MedicalとB Medicalを比較してみましょう。A Medicalは、時価総額1,000億円、有利子負債0円。B Medicalは、時価総額1,000億円、有利子負債1,000億円。株式市場での評価はどちらも1,000億円です。しかし会社全体を見ると、A社にはほとんど借金がない、B社には1,000億円の借金がある。会社全体を取得するという視点では、同じとは考えにくいわけです。そこでEVを使います。EVは、企業全体の事業価値を見るための代表的な考え方です。簡略化すると、EV=時価総額+有利子負債-現金等です。なぜ借金を足すのでしょうか。会社を丸ごと取得すると考えてみましょう。株式を買うだけでなく、企業が抱えている負債も企業価値を考えるうえで無視できません。そのため、有利子負債を加えます。なぜ現金を引くのでしょうか。買収した会社が現金を持っていれば、その現金を取得することになります。そのため簡略化したEVでは、現金等を差し引きます。
簡単な例を見てみましょう。時価総額2,000億円、有利子負債500億円、現金300億円。EVは、2,000+500-300=2,200億円です。時価総額2,000億円、EV2,200億円で、両者は違います。負債が多ければEVは時価総額より大きくなりやすい。現金が非常に多ければ、EVと時価総額との差が小さくなったり、場合によってはEVが時価総額を下回ったりします。
現金の多い製薬企業のケースを見てみましょう。A Pharmaは、時価総額5,000億円、有利子負債500億円、現金等2,000億円。EVは、5,000+500-2,000=3,500億円です。株式市場では5,000億円ですが、事業そのものの価値を考えるときには、豊富なネットキャッシュを考慮する必要があります。ここがEVの重要なところです。株価だけを見るのではなく、企業の財務構造まで含めて考えることができます。
次にEBITDAです。Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortizationの略です。直訳すれば、利払い前・税引前・減価償却前利益です。長い言葉なので難しく見えますが、考え方はそれほど難しくありません。企業は、売上から、原材料費、人件費、販売費、研究関連費用、減価償却費などを差し引いて利益を計算します。減価償却費とは何でしょうか。例えば、10億円の医療機器製造設備を購入したとします。10億円をその年に全部費用にしない場合があります。設備を数年間使用するため、会計上は複数年に分けて費用化します。これが減価償却です。例えば、10億円の設備を10年間使用、単純化すれば、毎年1億円ずつ費用化するというイメージです。重要な点は、減価償却費は費用ですが、その年に同額の現金が出ていくとは限らないことです。設備購入時には現金が出ます。しかし、その後は会計上、毎年減価償却費として費用が計上されます。
そこでEBITDAでは、営業利益などに、減価償却費等を足し戻して、事業の収益力を比較しやすくするという考え方です。簡略化した式は、EBITDA≒営業利益+減価償却費等と考えると初心者には分かりやすいでしょう。例えば、営業利益100億円、減価償却費等50億円なら、EBITDAは約150億円です。なぜEBITDAを見るのでしょうか。企業によって、設備投資、減価償却、資本構成、税負担などが違うからです。事業そのものの収益力を比較しやすくする、これがEBITDAを使う大きな目的の一つです。医療企業では、医療機器メーカー、検査会社、病院関連サービス、介護・ヘルスケアサービス、製造設備を持つ企業、M&A型企業などで使いやすい場面があります。
EBITDAの弱点と、EV/EBITDA倍率
2つの医療機器企業を比較してみましょう。A Deviceは、営業利益100億円、減価償却費等20億円。B Deviceは、営業利益80億円、減価償却費等50億円。営業利益だけを見ると、A社100億円、B社80億円でA社の方が大きい。しかしEBITDAを見ると、A社120億円、B社130億円。見え方が変わります。B社は、減価償却負担が大きいことが分かります。ただし注意が必要です。だからB社の方が必ず優れているという意味ではありません。なぜなら、設備はいつか更新しなければならないからです。減価償却費を足し戻しただけでは設備投資は消えません。これがEBITDAの非常に重要な弱点です。
例えば、EBITDA200億円、しかし毎年必要な設備投資150億円。別企業は、EBITDA180億円、必要設備投資30億円。どちらがキャッシュを生みやすいでしょうか。単純にEBITDAだけを見れば前者です。しかし、設備投資まで考えると後者の方が魅力的かもしれません。だからEBITDA=キャッシュフローではないことは必ず覚えてください。第35講、第36講で学んだFCFとは違います。FCFでは、設備投資、運転資本、税金なども考えます。EBITDAでは、それらが十分反映されていません。したがって、EBITDAが大きい=現金が大量に残るとは限りません。
では、EV/EBITDAとは何でしょうか。ここが今回の中心です。EV/EBITDA倍率=EV÷EBITDAです。例えば、EV2,000億円、EBITDA200億円なら、2,000÷200=10倍。単純化すると、企業全体の価値が、年間EBITDAの何倍で評価されているかを見る指標です。PERとの違いはどうでしょうか。PERは、株価と、株主に帰属する利益を比較します。EV/EBITDAは、企業全体の価値と、事業全体の収益力を比較します。ここが大きな違いです。PERは株主目線、EV/EBITDAは企業全体を見る視点です。なぜM&Aで使われるのでしょうか。企業を買収する場合、株式だけではなく、企業の負債や現金を含めた全体を見る必要があるからです。
M&Aのケーススタディを見てみましょう。ある医療機器企業があります。時価総額800億円、有利子負債400億円、現金100億円。EVは、800+400-100=1,100億円。EBITDA100億円。EV/EBITDAは11倍です。別の会社は、時価総額900億円、有利子負債100億円、現金200億円。EVは、900+100-200=800億円。EBITDA100億円。EV/EBITDAは8倍です。株式時価総額だけなら、最初の企業800億円、2社目900億円で最初の企業の方が安く見えます。しかし、EVで見ると1,100億円対800億円で逆転しました。これが、時価総額だけでは企業全体の値段を判断できない理由です。
倍率の意味と、負債・成長率との関係
EV/EBITDA倍率が低ければ割安でしょうか。PERやPBRと同じです。必ずしもそうではありません。なぜ低いのでしょうか。成長率が低い、利益が減少する、設備投資負担が大きい、事業リスクが高い、負債が重いなどの理由があるかもしれません。高倍率なら割高でしょうか。これも必ずしもそうではありません。高成長企業で、EBITDAが毎年20%、30%成長するなら、高い倍率が付く場合があります。
診断企業のケーススタディを見てみましょう。A Diagnosticsは、EV/EBITDA7倍、EBITDA成長率0%。B Diagnosticsは、EV/EBITDA15倍、EBITDA成長率20%。倍率だけならA社が安い。しかし、B社は急成長しています。さらに事業構造を見ると、A社は装置販売中心で販売後の継続収益が少ない。B社は装置販売+専用試薬で、装置が増えるほど試薬が売れるリカーリング収益です。市場が高倍率を付ける理由には、高成長、継続収益、高い利益予測可能性などが考えられます。医療企業では、EV/EBITDAが何倍かだけでは不十分です。同じ10倍でも、成熟製薬企業、高成長医療機器企業、検査企業、病院運営会社、介護事業会社では意味が違います。EV/EBITDAは、事業構造が近い企業同士で比較することが重要です。
医療サービス3社を比較するケーススタディを見てみましょう。A社は、EV/EBITDA6倍、成長率2%。B社は、EV/EBITDA9倍、成長率8%。C社は、EV/EBITDA14倍、成長率20%。最も安いのはA社でしょうか。倍率だけならそうです。しかし将来EBITDAを見ると、A社はほぼ横ばい、B社は安定成長、C社は急成長。さらに負債を見ると、A社はネット有利子負債/EBITDA4倍、B社は2倍、C社はほぼ無借金。評価は変わります。A社は低倍率ですが、成長が低く、負債も重い。低倍率には理由がある、これもバリュートラップの可能性があります。
重要な指標として、ネット有利子負債/EBITDAがあります。簡単に言えば、現在の事業収益力に対して、実質的な有利子負債がどのくらいあるかを見る一つの尺度です。例えば、ネット有利子負債600億円、EBITDA300億円なら倍率2倍。別企業で、ネット有利子負債1,200億円、EBITDA200億円なら倍率6倍。一般的には後者の方が負債負担が重いと考えられます。ただし業種差があります。安定収益企業と、業績変動の大きい企業では、許容できる負債水準が違います。医療企業でも同じです。安定した検査試薬収入、サブスクリプション型医療IT、単発大型機器販売、新薬一本に依存する企業では、EBITDAの安定性が違います。倍率だけでなく「EBITDAの質」を見ることが非常に重要です。EBITDAの質とは、毎年安定しているか、成長しているか、一時的利益ではないか、継続収益か、高い設備投資を必要としないかなどです。
同じEBITDA100億円のケーススタディを見てみましょう。A Medicalは、EBITDA100億円、毎年ほぼ安定、必要設備投資20億円。B Medicalは、EBITDA100億円、年度による変動大、必要設備投資70億円。数字は同じですが、事業の質は違います。A社の方が、EBITDAからFCFへ転換しやすい可能性があります。ここで第35講、第36講につながります。企業価値を最終的に支えるのは、キャッシュ創出力です。EBITDAは途中の指標です。EBITDAから、税金、運転資本、設備投資を引いて、FCFへと考えます。EBITDAだけで企業価値を決めません。EV/EBITDAは便利な比較指標ですが、DCFの代わりになる万能指標ではありません。
製薬企業・医療機器企業でのEV/EBITDA、Adjusted EBITDAの注意点
製薬企業でもEV/EBITDAは使われます。しかし注意が必要です。なぜなら、研究開発費が大きいからです。研究開発費は将来投資でもあります。新薬候補を生み出すための支出です。しかし会計上は、多くの場合、現在の利益を押し下げます。研究開発型企業を単純比較すると、研究開発投資の多い企業と少ない企業で、EBITDAの意味が違って見えることがあります。
2つの製薬企業のケーススタディを見てみましょう。A Pharmaは、EBITDA1,000億円、研究開発費300億円。B Pharmaは、EBITDA800億円、研究開発費1,000億円。A社の方が優秀でしょうか。数字だけでは判断できません。B社には、有望な第3相試験、新規モダリティ、大型パイプラインがあるかもしれません。将来価値を見る必要があります。製薬企業では、EV/EBITDA+パイプライン+特許切れ+研究開発効率を見る必要があります。バイオ企業ではさらに難しくなります。研究開発段階のバイオ企業で、売上ほぼゼロ、EBITDA赤字なら、EV/EBITDAは使えません。この場合、rNPV、DCF、現金残高、パイプライン価値など別の方法が必要です。PERと同じで、赤字企業には利益倍率が機能しにくい。指標には適材適所があります。企業によって、使うべき評価指標を変えます。
医療機器企業では、比較的EV/EBITDAが使いやすい場面があります。ただし設備投資を見る必要があります。工場、製造設備、研究設備などが必要です。特に大型機器、画像診断装置、放射線治療装置、大型検査装置では、設備投資負担が大きい企業ではEBITDAだけでなくCapexを見る必要があります。Capexとは、Capital Expenditure、設備投資です。JMEIではセットで見ます。EV/EBITDA+Capex/EBITDA+FCFです。
例えば、A社は、EV/EBITDA8倍、Capex/EBITDA60%。B社は、EV/EBITDA11倍、Capex/EBITDA15%。A社が安いでしょうか。倍率だけならA社です。しかし、A社はEBITDAの多くを設備投資に使う。B社は設備投資負担が軽い。FCFでは差が縮まる可能性があります。これが、EBITDAだけを見る危険性です。医療DX企業では、設備投資は比較的小さい場合があります。しかし別の費用があります。ソフトウェア開発、人材、顧客獲得、クラウド費用です。企業フェーズを見る必要があります。成長初期、利益化前、成熟SaaSでは、EBITDAの意味が違います。
EBITDA調整にも注意が必要です。企業資料で、Adjusted EBITDAという言葉を見ることがあります。調整後という意味です。企業が一時費用などを除外します。例えば、M&A関連費用、事業再編費用、一時的訴訟費用、株式報酬などです。調整すると利益が大きく見えることがあります。ここは注意が必要です。毎年「一時費用」が出ているなら、本当に一時的でしょうか。JMEIでは、調整前EBITDA、調整後EBITDA、何を除外したのかを確認します。企業が示す数字をそのまま使わないことが重要です。
Adjusted EBITDAのケーススタディを見てみましょう。報告EBITDA150億円、Adjusted EBITDA220億円。差額70億円。除外項目は、事業再編費30億円、M&A費用20億円、株式報酬20億円です。220億円だけを見ると、収益力が非常に高く見えます。しかし毎年M&Aする会社なら、M&A費用が本当に一時的か考える必要があります。調整項目は企業の経営モデルとセットで見ることが重要です。EV/EBITDAの最大の長所は、資本構成の違う企業を比較しやすいことです。最大の弱点は、設備投資などを無視すると、実際のキャッシュ創出力を過大評価することがあることです。だからFCFへ戻ります。最終的には、その企業がどれだけ現金を残せるかを見る必要があります。
指標の使い分けと、市場期待
PER・PBR・EV/EBITDAを整理しましょう。PERは、株主利益に対する株価。PBRは、株主資本に対する株価。EV/EBITDAは、企業全体の価値に対する事業収益力。それぞれ違います。どれが一番優れているという話ではありません。企業によって使い分けます。成熟製薬企業ならPER。資本効率を見る企業ならPBR。M&A比較や負債構造の異なる企業ならEV/EBITDA。研究開発段階バイオならrNPVなど。複数指標で見る、これが基本です。
3社比較のケーススタディを見てみましょう。A Medicalは、PER12倍、PBR0.9倍、EV/EBITDA6倍。B Medicalは、PER20倍、PBR2.5倍、EV/EBITDA10倍。C Medicalは、PER35倍、PBR6倍、EV/EBITDA18倍。A社が一番安いでしょうか。倍率だけならそう見えます。成長率を見ると、A社-3%、B社+10%、C社+25%。ROICを見ると、A社5%、B社14%、C社24%。負債を見ると、A社は大きい、B社は適度、C社はネットキャッシュ。FCF成長を見ると、A社は横ばい、B社は+10%、C社は+30%。見え方が変わります。低倍率には、低成長、低ROIC、高負債という理由がある可能性があります。高倍率には、高成長、高ROIC、高FCF成長という理由があるかもしれません。
しかしC社も安全ではありません。高い期待がすでに織り込まれている可能性があります。重要なのは期待との差です。これは第37講PERでも学びました。EV/EBITDA18倍、市場が高成長を期待。成長が+25%から+10%へ鈍化、企業はまだ成長している、しかし倍率低下、18倍から12倍。企業価値が下落する可能性があります。これが、マルチプル・コンプレッションです。反対に、EV/EBITDA6倍、市場期待低い、事業改革、EBITDA成長率が-3%から+8%へ、市場評価が6倍から9倍へ。利益成長と倍率上昇で、企業価値が大きく上昇する可能性があります。
JMEI式「EV/EBITDAを見る15の質問」
JMEI式EV/EBITDA分析は、EVを見る、時価総額を見る、ネット有利子負債を見る、EBITDAを見る、EBITDA成長率を見る、設備投資を見る、FCFを見る、負債返済能力を見る、同業比較する、市場期待を見るという順番で考えます。
医療企業のEV/EBITDAを見るときには、次の15項目を確認しましょう。EVはいくらか。時価総額はいくらか。有利子負債はいくらか。現金等はいくらか。ネット有利子負債はいくらか。EBITDAはいくらか。EBITDAは成長しているか。EV/EBITDAは何倍か。同業他社と比べて高いか低いか。設備投資はいくら必要か。EBITDAからFCFへどの程度転換できているか。ネット有利子負債/EBITDAは何倍か。Adjusted EBITDAの調整項目は妥当か。医療企業特有の研究開発・特許・製品リスクは何か。現在倍率にはどの程度の成長期待が入っているか。そして最後に、「この会社を丸ごと買うと考えたとき、その事業が生む収益力に対して本当に安いのか?」と問いかけます。
練習問題
問題1 EVとは何でしょうか。
【答え】Enterprise Value。企業全体の事業価値を見るための代表的な指標です。
問題2 簡略化したEVの計算式は何でしょうか。
【答え】EV=時価総額+有利子負債-現金等です。
問題3 時価総額1,000億円、有利子負債500億円、現金200億円。EVはいくらでしょうか。
【答え】1,300億円です。
問題4 EBITDAとは何でしょうか。
【答え】利払い前・税引前・減価償却前利益です。
問題5 営業利益100億円、減価償却費等40億円。簡略化したEBITDAはいくらでしょうか。
【答え】約140億円です。
問題6 EV1,400億円、EBITDA140億円。EV/EBITDAは何倍でしょうか。
【答え】10倍です。
問題7 EV/EBITDAが低ければ必ず割安でしょうか。
【答え】いいえ。低成長、高負債、大きな設備投資負担、事業リスクなどが低倍率の理由になっている可能性があります。
問題8 EBITDAとFCFは同じでしょうか。
【答え】違います。FCFでは設備投資や運転資本なども考慮します。
問題9 研究開発段階で赤字のバイオ企業にEV/EBITDAを使いやすいでしょうか。
【答え】使いにくいと考えられます。EBITDAが赤字なら意味のある倍率比較が難しいため、rNPVやDCF、パイプライン価値など別の方法を検討します。
問題10 Adjusted EBITDAを見るとき何を確認すべきでしょうか。
【答え】どの費用を除外しているか、その費用が本当に一時的なのかを確認します。
総合ケーススタディ――どちらの医療企業が安いのか?
A Healthcareは、時価総額1,200億円、有利子負債1,000億円、現金200億円、EBITDA200億円。B Healthcareは、時価総額1,500億円、有利子負債200億円、現金500億円、EBITDA200億円。株式時価総額だけを見ると、A社1,200億円、B社1,500億円で、A社が安く見えます。EVを計算すると、A社は1,200+1,000-200=2,000億円。B社は1,500+200-500=1,200億円。EV/EBITDAは、A社2,000÷200=10倍。B社1,200÷200=6倍。評価が逆転しました。株価だけならA社、企業全体ならB社の方が低い倍率です。
しかし分析はまだ終わりません。A社のEBITDA成長率は+20%、B社は0%。設備投資は、A社が年間30億円、B社が年間100億円。さらに見え方が変わります。B社はEV/EBITDA6倍ですが、設備投資負担が大きい。A社は10倍だが、高成長+低設備投資。どちらが本当に安いかは、倍率一つでは決められません。だから企業分析が必要です。EV/EBITDAは答えではありません。問いを作るための指標なのです。
JMEIでは、EV/EBITDAを単なる「割安ランキング」の数字として使いません。例えば、EV/EBITDA6倍という企業を見つけても、「安い」とはすぐに判断しません。まず、なぜ6倍なのかと考えます。成長が止まっているのか、負債が重いのか、設備投資が大きいのか、主力製品が成熟しているのか、特許切れが近いのか、競争力が低下しているのか。反対に、EV/EBITDA20倍の企業なら、なぜ市場は20倍もの評価を与えているのかを調べます。高成長、高ROIC、リカーリング収益、強い競争優位、巨大市場、新製品、高いFCF転換率などが背景にあるかもしれません。そしてJMEIでは、EV/EBITDAだけでは終わりません。EV/EBITDA、EBITDA成長率、Capex、FCF、ROIC、競争優位、医療市場の成長性、市場期待へ進みます。企業価値評価で重要なのは、倍率そのものではありません。その倍率を生み出している事業構造を理解することです。
JMEI Medical Insight
医療企業でEV/EBITDAを見るとき、特に注目したいのが、「継続収益」と「設備投資」の組み合わせです。例えば、診断機器企業。最初に検査装置を病院へ設置します。その後、専用試薬、消耗品、保守サービスが継続的に売れる。このモデルでは、設置台数が将来売上の基盤になります。装置が増える、試薬売上が増える、EBITDAが増える、FCFが増えるという構造が成立する可能性があります。一方、大型設備を毎年大量に更新しなければならない企業では、EBITDAが大きくても、Capexが大きくなります。そのためJMEIでは、EV/EBITDAだけを見るのではなく、EV/EBITDA+Capex/EBITDA+FCF Conversionを組み合わせて見ます。
そして製薬企業では、さらに、特許切れ、研究開発費、パイプライン、新薬上市を見ます。医療DXでは、契約数、解約率、継続課金、顧客獲得コストを見ます。同じEV/EBITDA10倍でも、企業によって中身は全く違います。JMEIが見たいのは、「10倍」という数字ではありません。その10倍の裏側にある、医療企業の収益構造なのです。
今回のポイント
第39講で最も覚えてほしいのは、「時価総額と企業全体の価値は同じではない」ということです。まず、EV=時価総額+有利子負債-現金等という基本構造を覚えます。そして、EV/EBITDA=EV÷EBITDA。これによって、企業全体の価値が事業収益力の何倍で評価されているかを見ることができます。ただし、EV/EBITDAが低い=割安ではありません。見る順番は、EV、EBITDA、EBITDA成長率、負債、設備投資、FCF、ROIC、競争優位、市場期待です。特に覚えてほしいのは、EBITDA=FCFではないということです。減価償却費を足し戻しても、設備を永遠に交換しなくてよいわけではありません。企業は、設備投資、研究開発、運転資本などへ現金を使います。だから最終的には、EBITDAからどれだけFCFが残るのかを見る必要があります。EV/EBITDAは非常に便利な指標です。しかし、企業価値分析の答えではありません。企業を丸ごと買うと考えたとき、その事業が将来生み出すキャッシュに対して、現在の企業価値は高いのか、低いのか。そこまで考えて初めて、EV/EBITDAは企業分析の道具になるのです。
次回予告
第40講 PSR・EV/Salesとは何か?――「まだ利益が出ていない成長企業」をどう評価するのか
第39講では、EV/EBITDAを学びました。しかし、次のような企業ではどうでしょうか。売上100億円、営業利益赤字、EBITDA赤字、しかし売上成長率+50%、契約病院数急増、巨大な市場を開拓中。こうした企業では、PERが使えない、EV/EBITDAも使いにくいという問題が起こります。特に、医療AI、医療DX、デジタルヘルス、研究開発型企業、成長初期のヘルスケア企業では珍しくありません。そこで登場するのが、PSR、Price Sales Ratioと、EV/Salesです。売上高を基準に企業価値を考える方法です。しかし、売上が伸びているから価値があるとは限りません。売上100億円、利益率30%の会社と、売上100億円、利益率-30%の会社では、同じ売上でも価値は違います。さらに、売上成長率、粗利益率、顧客獲得コスト、解約率、将来利益率を見る必要があります。次回は、PSRとは何か、EV/Salesとは何か、PERとの違い、赤字企業でなぜ使われるのか、医療DX企業をどう評価するのか、売上成長率と倍率の関係、高成長でも危険な企業とは何か、そして「売上を作れる企業」と「売上を利益へ変えられる企業」は何が違うのかを、利益がまだ見えない企業の評価方法へ進みます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。