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医療企業分析アカデミー

第47講 フリーキャッシュフローとは何か?――企業が「自由に使えるお金」はどれだけ残るのか

JMEI 医療企業分析アカデミー 第47講 企業が「自由に使えるお金」はどれだけ残るのか

第46講では、営業キャッシュフローについて学びました。営業キャッシュフローとは、企業が本業からどれだけ現金を生み出したかを見るものです。売上が増えている、利益も増えている、しかし、営業キャッシュフローは増えていない、そんな会社もあります。逆に、純利益以上に、営業キャッシュフローを生み出している会社もあります。そこで私たちは、「利益」と「現金」は同じではないということを学びました。では、営業キャッシュフローが大きければ、その会社は自由に使えるお金をたくさん持っているのでしょうか。必ずしもそうではありません。例えば、A社、営業キャッシュフロー500億円。B社、営業キャッシュフロー500億円。両社とも、本業から同じ500億円の現金を生み出しています。ところが、A社は工場や設備に450億円を投資しています。B社は100億円しか投資していません。すると、本業から生み出した現金から投資を差し引いた後に残る金額は、A社50億円、B社400億円。大きく違います。ここで登場するのが、フリーキャッシュフロー、Free Cash Flow、FCFです。企業分析では、売上高、営業利益、純利益、営業キャッシュフローと進んできたあと、さらに、「最終的にどれだけ現金が残るのか」を見る必要があります。今回は、フリーキャッシュフローとは何か、営業キャッシュフローとの違い、設備投資とは何か、維持投資と成長投資の違い、なぜ利益が増えてもFCFが増えないことがあるのか、そして、製薬、医療機器、診断、医療DX、病院、介護・福祉ではFCF構造がどう違うのか、さらに、M&A、借入返済、配当、自社株買い、企業価値とFCFがどのようにつながるのか、企業分析の中心となる、「現金を残す力」について学んでいきます。

FCFの基本と、維持投資・成長投資

フリーキャッシュフロー、Free Cash Flow、略してFCF。簡単に言えば、企業が事業を続けるために必要な投資を行った後に、どれだけ現金が残ったかを見る考え方です。初心者向けには、FCF=営業キャッシュフロー-設備投資と考えると分かりやすいでしょう。例えば営業キャッシュフロー500億円、設備投資200億円、FCF500-200=300億円。この300億円を、企業はさまざまな用途へ使うことができます。借入返済、M&A、配当、自社株買い、新規事業、現金として蓄える。つまりFCFは、企業経営の自由度を見る重要な数字なのです。

ただし注意です。フリーキャッシュフローには、分析目的によって複数の定義があります。企業価値評価では、FCFF、Free Cash Flow to Firm。株主価値評価では、FCFE、Free Cash Flow to Equityなどを使うことがあります。しかし今回は、初心者向け講座です。まず、営業CF-設備投資という基本形を理解してください。同じ営業CFでも違う会社のケーススタディを見てみましょう。A Medicalは、営業CF500億円、設備投資450億円、FCF50億円。B Medicalは、営業CF500億円、設備投資100億円、FCF400億円。営業CFは同じ。しかし、FCFは8倍違います。なぜでしょうか。事業を維持・成長させるために必要な投資額が違うからです。ここから重要な考え方が出てきます。企業には、「現金を稼ぐ力」だけでなく、「現金を残す力」があります。営業CF=現金を稼ぐ力。FCF=必要な投資をした後に現金を残す力。両方を見ることが重要です。

では設備投資とは何でしょうか。Capital Expenditure、略してCAPEX。工場、製造設備、建物、検査装置、サーバー、病院設備など、将来にわたって使用する資産への投資です。医療企業では、業種によってCAPEXの大きさがかなり違います。例えば医療機器メーカー、製造工場が必要、自動化設備が必要、品質管理設備が必要、CAPEXが大きくなることがあります。一方、医療SaaS企業、大規模工場は必要ありません、設備投資は比較的小さくなる可能性があります。つまり、同じ営業利益率でも、FCF構造は違います。製造業とSaaSのケーススタディを見てみましょう。A Medical Deviceは、売上1,000億円、営業CF200億円、設備投資150億円、FCF50億円。B Medical SaaSは、売上1,000億円、営業CF200億円、設備投資30億円、FCF170億円。営業CFは同じ。しかし、B社の方が多くの現金を残しています。だからB社の方が優秀でしょうか。まだ分かりません。A社には、工場、製造ノウハウ、規制対応、品質管理、販売網など、強い参入障壁があるかもしれません。B社には、競合参入、顧客解約、価格競争などのリスクがあるかもしれません。FCFだけで企業の優劣を決めてはいけません。重要なのは、「なぜそのFCFになっているのか」です。

ここで設備投資を、2つに分けて考えます。維持投資と成長投資です。維持投資とは、今の事業を続けるために必要な投資です。例えば老朽化した医療機器の交換、工場設備の更新、サーバー更新、病院の設備更新。これをしなければ、現在の売上や利益を維持できない、これが維持投資です。一方、成長投資。新工場建設、生産能力増強、新施設開設、新しいデータセンター、新規地域への展開。将来の売上を増やすための投資です。ここは非常に重要です。同じFCFマイナスでも意味が違うケーススタディを見てみましょう。A社は、営業CF100億円、設備投資150億円、FCFマイナス50億円。設備投資の内訳、維持投資150億円。つまり、今の事業を維持するだけで150億円必要。営業CFは100億円しかない。これは注意が必要です。B社は、営業CF100億円、設備投資150億円、FCFマイナス50億円。内訳、維持投資30億円、成長投資120億円。新工場を建設中。3年後、生産能力2倍を計画。同じFCFマイナス50億円。しかし意味は、まったく違います。A社は、現在の事業維持だけで現金不足。B社は、将来成長のために意図的に投資。だから、FCFがマイナス=悪い会社ではありません。必ず、「何に投資しているのか」を確認します。

成長投資が実を結ぶケーススタディを見てみましょう。Medical Robotics社は、1年目、営業CF100億円、設備投資200億円、FCFマイナス100億円。新工場建設。2年目、営業CF130億円、設備投資180億円、FCFマイナス50億円。工場完成。3年目、営業CF250億円、設備投資80億円、FCF170億円。4年目、営業CF400億円、設備投資100億円、FCF300億円。投資期、回収期、この流れが見えます。企業分析では、1年のFCFだけを見ない。3年、5年、できれば10年を見る。なぜなら、企業には投資サイクルがあるからです。特に、医薬品工場、医療機器工場、病院、介護施設では、大型投資の年にFCFが大きく減ることがあります。しかし、その投資が将来の営業CFを増やすなら、企業価値を高める可能性があります。重要なのは、投資額ではなく、投資リターン。ここで、ROICとつながります。例えば新工場に500億円投資、その結果、毎年100億円の追加利益。別の会社、500億円投資、追加利益10億円。同じ500億円の投資でも、価値は違います。つまり、FCFを再投資する、その投資から利益を生む、さらに営業CFが増える、これが、企業成長の好循環です。営業CF、投資、売上増加、利益増加、営業CF増加、再投資。この循環を、高いROICで続けられる企業、非常に強い企業になる可能性があります。

業種別のFCF構造――製薬・医療機器・診断・医療DX・病院・介護

次に製薬企業です。製薬企業では、FCFを見るときに少し注意が必要です。なぜでしょうか。研究開発費です。製薬企業にとって、研究開発は、将来の新薬を生むための重要な投資です。しかし、研究開発費の多くは、会計上、その年度の費用として処理されます。つまり、工場投資のように、CAPEXとしてだけ現れるわけではありません。そのため、営業CF-設備投資だけを見ると、製薬企業の将来投資を十分に理解できないことがあります。例えばPharma Aは、営業CF2,000億円、設備投資300億円、FCF1,700億円。非常に強い。しかし、研究開発費1,500億円。この研究開発費は、すでに営業利益や営業CFの中に反映されています。つまり、製薬企業では、FCFだけでなく、研究開発費、研究開発費率、パイプライン、臨床試験、特許満了まで見る必要があります。2つの製薬企業のケーススタディを見てみましょう。A Pharmaは、FCF1,500億円、研究開発費1,200億円、Phase III5品目。B Pharmaは、FCF1,800億円、研究開発費300億円、Phase III1品目。FCFだけなら、B社が上。しかし、将来の新薬候補まで考えると、評価は変わる可能性があります。FCFは、現在の現金創出力。パイプラインは、未来の現金創出力。両方を見ることが重要です。

次に医療機器企業です。医療機器企業では、工場投資、製造設備、自動化などが重要です。特に、売上が急成長している会社、生産能力が足りない、新工場建設、FCF低下。これは、将来成長のための投資かもしれません。しかし、新工場を作った、需要が伸びない、稼働率が上がらない、なら、問題です。第44講の、総資産回転率、固定資産回転率とつながります。設備投資、固定資産増加、売上増加、固定資産回転率改善、利益増加、営業CF増加、FCF増加。この流れを確認します。

次に診断企業です。診断企業では、装置と試薬の組み合わせが重要です。最初に診断装置を設置。その後、試薬を継続販売。Installed Baseが増える、試薬売上が増える、営業CFが増える。装置投資以上に、継続収益が積み上がれば、FCFが拡大します。これは、Razor and Blades Model、本体と消耗品モデルの一種です。装置を売って終わりではない。装置が、将来の試薬売上を生み出す。だから、初期投資だけではなく、顧客生涯価値を見る必要があります。

次に医療DXです。医療SaaS企業では、大規模な工場投資がありません。営業CFが増えれば、比較的FCFへ変換されやすい可能性があります。例えば営業CF200億円、CAPEX20億円、FCF180億円。FCFマージン、売上高1,000億円なら、18%。高い現金転換力です。ただし、ソフトウェア開発費、AI開発費、顧客獲得費、人件費を見る必要があります。会計上CAPEXが小さいから、投資していないという意味ではありません。人材への投資が、費用として処理されている場合があるからです。これは製薬企業の研究開発と似ています。「会計上の設備投資」と、「経済的な成長投資」は必ずしも同じではない。重要な考え方です。

次に病院です。病院では、設備投資が非常に重要です。CT、MRI、内視鏡、手術室、電子カルテ、建物。これらは、定期的に更新が必要です。例えば営業CF5億円、年間平均設備投資4億円、FCF1億円。一方、営業CF5億円、年間平均設備投資1億円、FCF4億円。後者の方が良いでしょうか。必ずしもそうではありません。設備更新を先送りしているだけかもしれません。MRIが老朽化、建物修繕を延期、医療機器更新を延期、すると、短期的なFCFは増えます。しかし、将来、一気に設備投資が必要になります。つまり、高いFCFが、設備投資不足によって作られていないかを見る必要があります。これは非常に重要です。良すぎるFCFのケーススタディを見てみましょう。Hospital Aは、営業CF10億円、設備投資1億円、FCF9億円。一見、非常に優秀。しかし、建物築40年、MRI更新時期超過、空調設備老朽化。つまり、必要な維持投資を先送りしている。この場合、9億円のFCFをそのまま評価してはいけません。将来必要となる維持投資を考える必要があります。FCF分析で重要なのは、「持続可能なFCF」です。

次に介護・福祉です。介護施設、障害福祉施設では、建物、車両、設備などの投資があります。しかし、最大のコストは人件費であることが多い。つまり、製造業ほどCAPEXは大きくない場合があります。その一方で、職員確保、教育、処遇改善への支出が重要です。会計上のFCFが大きくても、人材投資を削って作ったFCFなら、長期的には危険です。離職増加、採用費増加、サービス品質低下、利用者減少、将来の営業CF低下につながる可能性があります。だからJMEIでは、FCFの額だけではなく、「何を削って作ったFCFなのか」まで見ます。

FCFの使い道と、Capital Allocation

次にFCFの使い道です。企業がFCFを生み出した。そのお金をどう使うでしょうか。大きく分けると、再投資、M&A、借入返済、配当、自社株買い、現金保有があります。ここで重要なのが、Capital Allocation、資本配分です。企業経営者にとって、非常に重要な仕事です。100億円のFCF、何に使うでしょうか。新工場、新薬研究、AI企業買収、借入返済、配当、どれが正解でしょうか。会社によって違います。最も重要なのは、その100億円を、最も高い価値を生むところへ配分できるかです。FCF100億円の使い方のケーススタディを見てみましょう。A社は、FCF100億円、新規事業へ100億円投資、5年後、年間利益30億円。B社は、FCF100億円、収益性の低い事業へ投資、5年後、年間利益2億円。C社は、FCF100億円、魅力的な投資先がない、50億円配当、50億円自社株買い。どれが正しいでしょうか。状況次第です。成長機会があり、高いROICを生めるなら、再投資。良い投資先がないなら、無理に事業を拡大せず、株主へ還元する。これも合理的です。問題なのは、現金があるから、とりあえずM&A。現金があるから、とりあえず新規事業。という資本配分です。FCFを生み出す力と、FCFを使う力。両方が必要です。

ここでM&Aです。医療業界では、M&Aが非常に多い。製薬企業が、バイオ企業を買収。医療機器企業が、新技術企業を買収。医療DX企業を買収。FCFが豊富な企業は、借入だけに頼らずM&Aを行える可能性があります。しかし、買収価格が高すぎれば、企業価値を壊します。だから、FCF、M&A、のれん、ROIC、買収後FCFまで追う必要があります。

次に借入返済です。FCFが安定している会社は、借入返済能力も高くなります。例えば有利子負債1,000億円、年間FCF500億円、非常に大きな返済余力。別企業、有利子負債1,000億円、年間FCF50億円、負担感は大きい。つまり、借金の大きさだけでなく、FCFとの比較が重要です。

次に配当です。年間FCF300億円、配当総額100億円、比較的余裕があります。年間FCF100億円、配当総額150億円、どうやって払うでしょうか。現金を取り崩す、借入、資産売却などが必要になる可能性があります。配当の持続性を見るときも、利益だけでなくFCFを見ることが重要です。

次に自社株買いです。FCFが豊富、成長投資先が少ない、株価が企業価値より低い、この場合、自社株買いが合理的な資本配分になることがあります。しかし、借金を増やしてまで自社株買い、FCFが弱いのに自社株買い、なら、慎重に見る必要があります。ここまで来ると、FCFは単なる財務指標ではありません。経営者が、会社の未来をどう作るかを見る数字です。

FCFマージンと、企業価値へのつながり

次にFCFマージンです。FCFマージン=FCF÷売上高。例えば売上1,000億円、FCF150億円、FCFマージン15%。売上100円から、15円のFCFを残しているというイメージです。別企業、売上1,000億円、FCF30億円、FCFマージン3%。同じ売上規模でも、現金を残す力は違います。ただし、業種によって水準は異なります。だから、同業比較、時系列比較が重要です。5年間を見るケーススタディを見てみましょう。1年目、売上500億円、FCF20億円。2年目、売上600億円、FCF30億円。3年目、売上750億円、FCF60億円。4年目、売上900億円、FCF100億円。5年目、売上1,100億円、FCF160億円。売上成長、FCF成長、さらに、FCFマージン改善。非常に良い傾向の可能性があります。なぜ改善したのでしょうか。利益率上昇、運転資本改善、設備稼働率上昇、CAPEX効率改善、継続収益増加などを調べます。逆パターン、売上500億円から600億円、750億円、900億円、1,100億円。FCF、50億円から40億円、20億円、0億円、マイナス50億円。売上は増えている。しかし、現金は残らなくなっている。なぜでしょうか。在庫増加、売掛金増加、設備投資増加、利益率低下などを調べます。売上成長だけでは、企業の本当の成長は分かりません。企業価値へつながるのは、最終的に、将来どれだけキャッシュを生み出せるかだからです。

ここで、FCFと企業価値がつながります。企業価値評価の基本的な考え方の一つは、将来生み出すFCFを、現在価値へ割り引くというものです。これが、DCF、Discounted Cash Flow、割引キャッシュフロー法です。なぜ企業価値にFCFを使うのでしょうか。売上は、現金ではない。利益も、そのまま現金ではない。企業が最終的に生み出す、自由に使えるキャッシュ。それが企業価値の源泉になるからです。DCFは今後、別の講義で詳しく学びます。今回は、「FCFは企業価値へつながる」と覚えてください。同じ利益、違う企業価値のケーススタディを見てみましょう。A社は、純利益100億円、FCF120億円、今後10年間、年10%成長予想。B社は、純利益100億円、FCF30億円、今後、横ばい予想。現在の利益は同じ。しかし、将来キャッシュ創出力は大きく違います。企業価値も、同じとは限りません。だから、PERだけでは分からない、PBRだけでも分からない、ROEだけでも分からない、ROICだけでも分からない。最終的には、将来キャッシュを見る必要があります。これまで学んできた数字が、少しずつ一つにつながってきます。売上高、営業利益、純利益、営業キャッシュフロー、設備投資、FCF、再投資、ROIC、将来FCF、企業価値。これが、企業分析の大きな流れです。

JMEI式FCF分析

JMEI式FCF分析は、売上を見る、営業利益を見る、純利益を見る、営業CFを見る、運転資本を見る、CAPEXを見る、FCFを計算する、維持投資と成長投資を考える、FCFマージンを見る、過去5年を見る、同業他社と比較する、FCFの使い道を見る、再投資を見る、ROICを見る、将来FCFを考えるという流れです。

JMEI式「FCFを見る15の質問」として、①営業CFはいくらか?②CAPEXはいくらか?③FCFはいくらか?④FCFは過去5年間安定しているか?⑤FCFマージンは改善しているか?⑥CAPEXは維持投資か成長投資か?⑦設備投資を先送りしていないか?⑧成長投資は売上増加につながっているか?⑨成長投資は利益増加につながっているか?⑩成長投資は営業CF増加につながっているか?⑪FCFを何に使っているか?⑫M&Aの投資効率は高いか?⑬借入返済余力はあるか?⑭配当や自社株買いはFCFで賄えているか?⑮現在のFCFは将来も持続可能か?最後に、「この会社は、稼いだ現金を、さらに大きな現金へ変えられるか?」と考えます。

練習問題

問題1 フリーキャッシュフローとは何でしょうか。

【答え】企業が本業から生み出した現金から、事業に必要な投資を差し引いた後に残る現金です。

問題2 初心者向けのFCFの基本式は何でしょうか。

【答え】営業キャッシュフロー-設備投資です。

問題3 営業CF500億円、設備投資200億円の場合、FCFはいくらでしょうか。

【答え】300億円です。

問題4 FCFがマイナスなら必ず悪い会社でしょうか。

【答え】いいえ。新工場建設など将来成長のための大型投資によって、一時的にFCFがマイナスになることがあります。

問題5 維持投資とは何でしょうか。

【答え】現在の事業規模やサービスを維持するために必要な設備更新などの投資です。

問題6 成長投資とは何でしょうか。

【答え】将来の売上や利益を増やすための新工場、新施設、生産能力増強などへの投資です。

問題7 FCFが非常に大きければ必ず良いのでしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。必要な設備更新や人材投資を先送りしてFCFを増やしている可能性があるためです。

問題8 FCFの主な使い道には何がありますか。

【答え】再投資、M&A、借入返済、配当、自社株買い、現金保有などがあります。

問題9 FCFマージンはどのように計算しますか。

【答え】FCF÷売上高です。

問題10 FCFを見るときに最も重要な問いは何でしょうか。

【答え】「このFCFは持続可能なのか。そして、この会社は生み出したFCFを将来の企業価値へ変えられるのか」です。

総合ケーススタディ――3つの医療企業を比較する

A Medical Deviceは、売上2,000億円、営業CF400億円、CAPEX300億円、FCF100億円。新工場建設中。B Medical SaaSは、売上2,000億円、営業CF400億円、CAPEX50億円、FCF350億円。年間前払い契約が多い。C Pharmaは、売上2,000億円、営業CF500億円、CAPEX100億円、FCF400億円。研究開発費600億円。3社をどう見るでしょうか。A社、FCFは少ない。しかし、新工場が将来の成長につながる可能性。B社、高いFCF転換力。ただし、解約率や競争環境を確認。C社、高いFCF。さらに、研究開発へ大きく投資。しかし、主力薬特許満了やパイプラインを確認。どの会社が一番良いでしょうか。FCFだけでは決められません。重要なのは、現在のFCF、将来のFCF、再投資機会、ROIC、競争優位性、医療価値を一緒に見ることです。FCFは、企業分析の終点ではありません。むしろ、次の問いへの入口です。その会社は、生み出した現金を、どこへ配分しているのか。そして、その現金は、さらに大きな医療価値と企業価値を生み出しているのか。ここから、企業分析は、数字の分析から、経営者の意思決定の分析へ進んでいきます。

JMEI Medical Insight

医療企業における理想的なキャッシュフローは、単に現金を大量に残すことではありません。患者へ価値を提供する、売上を生む、利益を生む、営業キャッシュフローを生む、必要な設備と研究へ投資する、FCFを残す、そのFCFを次の医療価値へ再投資する、さらに大きな患者価値を生む。この循環を作れることです。つまり、医療企業におけるFCFとは、過去の成功によって生まれた現金であると同時に、未来の医療を作る資金でもあります。特にJMEIでは、「FCFの額」だけではなく、「FCFの質」を見ます。研究開発を削って作ったFCF、設備更新を先送りして作ったFCF、人材投資を削って作ったFCF。これらは、短期的には良く見えても、持続可能性に問題があります。一方、必要な研究開発を行う、設備を適切に更新する、人材へ投資する、供給体制を維持する、そのうえで、なおFCFを生み出せる。この会社は強い。そして、さらに重要なのは、そのFCFを高いROICで再投資できることです。100億円を生み出す、100億円を再投資する、その100億円が、さらに20億円、30億円の利益を生み出す、そこから、さらにFCFが生まれる。この循環が続けば、企業価値は長期的に拡大していきます。医療企業分析で本当に見たいのは、「今年いくら儲けたか」だけではありません。「今年生み出した現金を使って、5年後、10年後にどんな医療価値を生み出せるのか」です。FCFは、現在の企業と未来の企業をつなぐ数字なのです。

今回のポイント

第47講で最も覚えてほしいのは、「営業CFが大きくても、自由に使える現金が多いとは限らない」ということです。初心者向けには、FCF=営業キャッシュフロー-設備投資と考えます。そして、設備投資には、維持投資と、成長投資があります。FCFがマイナスでも、成長投資が原因なら、将来のFCF増加につながる可能性があります。反対に、FCFが大きくても、必要な設備更新、研究開発、人材投資を削って作られたFCFなら、持続可能ではない可能性があります。FCFを見るときは、営業CF、CAPEX、維持投資、成長投資、FCFマージン、過去5年の推移、同業比較、資本配分、ROIC、将来FCFまでつなげて考えます。そして最後に、「この会社は、生み出した現金を、さらに大きな価値へ変えられるのか?」と考えます。売上を作る、利益を作る、現金を作る、現金を残す、そして、残した現金を再投資して、さらに大きな現金を作る。ここまでできる企業が、長期的に強い企業なのです。

次回予告

第48講 投資キャッシュフローとは何か?――「お金を使う会社」と「未来へ投資する会社」の違いを見抜く

第47講では、フリーキャッシュフローを学びました。営業キャッシュフローから、設備投資を差し引く。すると、企業が自由に使える現金が見えてきます。しかし、ここで新しい疑問が出てきます。企業は、その「投資」に、いったい何のお金を使っているのでしょうか。新工場、製造設備、土地、研究施設、病院設備、ITシステム、子会社買収、企業買収、有価証券取得。企業が未来のために使う現金の多くは、キャッシュフロー計算書の、投資キャッシュフローに現れます。投資キャッシュフローが大きなマイナス。これは、悪いことでしょうか。必ずしもそうではありません。むしろ、将来成長のために積極投資している会社ほど、投資キャッシュフローが大きなマイナスになることがあります。反対に、投資キャッシュフローが大きなプラス。一見良さそうですが、工場、土地、子会社などを売却して現金を作っているだけかもしれません。次回は、投資キャッシュフローとは何か、CAPEXとの違い、設備投資、資産売却、M&A、研究施設、医療機器、病院設備、そして、「未来を作る投資」と「苦しくて資産を売る会社」を、キャッシュフロー計算書からどう見抜くのか、企業の「お金の使い方」を読む方法を学んでいきます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

講座に関するご注意

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受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

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