JMEI 医療企業分析アカデミー 第25講 「粗利は高いのに儲からない医療企業」の理由を読む
第24講では、売上総利益と粗利率について学びました。売上高から売上原価を差し引いたものが、売上総利益です。そして、売上総利益÷売上高×100で求められるのが、売上総利益率、いわゆる粗利率でした。例えば、売上高1,000億円、売上原価300億円なら、売上総利益700億円、粗利率70%です。非常に高い粗利率です。では、この会社の営業利益も700億円近くあるのでしょうか。そうとは限りません。例えば、売上総利益700億円なのに、営業利益100億円という会社もあります。残りの600億円は、どこへ行ったのでしょうか。営業活動、広告宣伝、人件費、本社機能、研究開発、新製品発売準備、海外展開。こうした企業活動にも、多くのお金が必要です。そこで今回学ぶのが、販売費及び一般管理費です。一般には、販管費と呼ばれます。
企業分析では、売上が伸びた、粗利率が高いだけでは十分ではありません。その粗利益を、企業が何に使っているのかを見る必要があります。特に医療企業では重要です。製薬企業が新薬を開発するためには研究開発費が必要です。新薬を世界へ普及させるには販売体制が必要です。医療機器企業が海外展開するには営業・保守拠点も必要です。つまり販管費には、単なる「コスト」だけではなく、未来の成長を作るための費用が含まれている場合があります。一方で、売上が伸びないのに人件費だけ増える、管理部門が肥大化する、広告宣伝費を増やしても売上が伸びないという状態なら、企業の効率性に問題がある可能性があります。第25講では、販管費とは何か、販売費とは何か、一般管理費とは何か、販管費率とは何か、研究開発費をどう考えるのか、なぜ新薬発売前後に費用が増えるのか、売上成長と販管費成長をどう比較するのか、そして「費用を使う会社」と「価値を生むために費用を使う会社」は何が違うのかを、粗利益から営業利益へ至るまでの企業のお金の使い方として学んでいきます。
販管費の基本
企業の損益計算書を非常に単純化すると、売上高から売上原価を差し引いて売上総利益、そこから販管費などを差し引いて営業利益という流れになります。例えば、売上高1,000億円、売上原価300億円なら、売上総利益700億円。さらに、販管費など500億円なら、営業利益200億円となります。つまり粗利益が大きくても、その後に多くの費用が必要なら営業利益は小さくなります。
販管費とは、販売費及び一般管理費を略した言葉です。英語では、SG&A(Selling, General and Administrative Expenses)と表現されることがあります。簡単にいえば、製品を販売し、会社全体を運営するために必要な費用です。販売費とは、商品やサービスを売るために必要な費用と考えると分かりやすいでしょう。例えば、営業担当者の人件費、広告宣伝費、販売促進費、物流に関連する一部の費用、販売手数料、営業拠点の費用などがあります。ただし、具体的な分類は企業の会計方針などによって異なります。一般管理費とは、会社全体を運営するための費用です。例えば、本社人件費、総務、経理、人事、法務、情報システム、役員報酬、オフィス関連費用などです。商品そのものを作る費用ではありませんが、会社を動かすためには必要です。
100円売った会社で考えてみましょう。売上高100円、売上原価30円なら、粗利70円。ここから、営業・販売費20円、管理費10円、研究開発など20円を使ったとします。残る営業利益は20円。つまり、粗利率70%でも、営業利益率20%です。粗利と営業利益の間にある費用を見ることで、その会社が何にお金を使っているかが分かります。
販管費を売上高に対する割合で見る方法があります。販管費率です。単純化すると、販管費÷売上高×100で考えます。例えば、売上高1,000億円、販管費400億円なら、販管費率40%です。
販管費率が高ければ悪い会社なのか
いいえ。これが今回の重要なポイントです。例えば、A社の販管費率20%、B社の販管費率50%だったとします。数字だけならA社の方が効率的に見えます。しかしB社が、研究開発へ巨額投資、新薬の世界発売準備、海外営業網拡大を進めている可能性があります。反対にA社が、将来投資を削っている可能性もあります。したがって、販管費率の高さだけでは企業の良し悪しは判断できません。
企業分析では、販管費500億円という数字だけを見ません。その500億円が、営業費用なのか、研究開発なのか、広告なのか、本社管理なのか、新市場進出なのかを確認します。同じ500億円でも、意味はまったく違います。営業利益率が同じ2社を見てみましょう。Aファーマは、売上高1,000億円、粗利率80%、販管費等700億円、営業利益100億円、営業利益率10%。Bメディカルは、売上高1,000億円、粗利率40%、販管費等300億円、営業利益100億円、営業利益率10%。営業利益率は両社とも10%です。しかし利益構造は大きく違います。A社は高い粗利を生み出していますが、その大部分を研究開発や販売活動などへ使っています。B社は粗利率は低いものの、販管費も小さい。営業利益率だけでは、この違いは分かりません。
研究開発費は「費用」でもあり「未来への投資」でもある
製薬企業を見るときに特に重要なのが、研究開発費です。新薬を作るためには、基礎研究、非臨床試験、第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験、承認申請など長い開発過程があります。そのため製薬企業では、現在販売している薬から得た粗利益のかなりの部分を、次の薬を作るための研究開発へ再投資している場合があります。
会計上、研究開発費は利益を押し下げる要因になります。例えば、研究開発費を100億円増やすと、他の条件が同じなら現在の利益は小さくなります。しかし、その100億円から将来、大型新薬が生まれるかもしれません。つまり研究開発費には、現在利益を減らす費用と、未来の利益を作る投資という二つの側面があります。研究開発費を削れば利益は増えることがあります。例えば製薬会社が、研究開発費500億円を300億円へ減らしたとします。単純化すれば、200億円分、現在の営業利益が増える方向に働きます。決算だけを見ると、利益急増、利益率改善です。しかし5年後はどうでしょうか。パイプラインが弱くなっているかもしれません。だから、利益が増えた、良いとは限りません。
第14講では研究開発費について学びました。研究開発費を見るときには、金額、売上高研究開発費率、パイプライン、承認、将来売上という流れで考えました。今回の販管費分析でも同じです。費用が多いか少ないかではなく、その費用が将来何を生み出すのかを見る必要があります。
新薬発売前後の費用増加
製薬会社が大型新薬を発売するとします。薬が承認された瞬間に、世界中の医療機関へ自然に普及するわけではありません。販売組織、医療従事者への適正使用情報提供、市場導入準備、物流、各地域の体制整備などが必要です。そのため新薬発売前後に、販売関連費用が先に増える場合があります。
Aファーマの今年、売上+5%、営業利益-10%となったとします。一見、悪化です。しかし会社は、来年発売予定の大型新薬の世界販売体制を構築していました。営業人員、海外拠点、発売準備などの費用が増えています。この場合、来年以降の売上を作るための先行費用かもしれません。新薬発売準備のケースを見てみましょう。JMEIファーマの今年、売上高5,000億円、売上総利益4,000億円、販管費等3,200億円、営業利益800億円。前年は、販管費等2,700億円、営業利益1,100億円。営業利益は減っています。販管費等は500億円増加。調べると、新薬Aの米国・欧州発売準備300億円、新薬Bの第Ⅲ相試験関連150億円、その他50億円でした。この500億円をどう評価するでしょうか。
翌年を見る必要があります。新薬Aが予定通り発売し、売上1,000億円、新薬Bも臨床試験成功となれば、前年の費用増加は将来成長のための投資だったと評価できる可能性があります。反対に、新薬発売失敗、販売不振、臨床試験中止となれば、費用が十分な成果につながらなかった可能性があります。費用の評価には、結果の追跡が必要です。
医療機器企業の販管費
医療機器企業では、営業部門が重要な場合があります。なぜでしょうか。高度な医療機器は、単にネットで広告して売るという商品ではありません。医師、看護師、臨床工学技士、歯科医師、歯科衛生士など、医療従事者への製品説明、教育、導入支援などが重要になる場合があります。大型医療機器では、販売したら終わりではありません。設置、保守、修理、ソフトウェア更新、操作支援などが必要です。そのため全国・世界にサービス拠点を持つ企業では、販管費が一定程度大きくなることがあります。しかしそのサービス網自体が競争優位性になる可能性があります。
例えば、Aメディカルの製品性能は非常に高いが保守拠点が少ない。Bメディカルは製品性能が同程度で、24時間保守体制、全国サービス網、教育体制充実だったとします。病院からすれば、故障したときにすぐ対応してもらえるB社を選ぶ可能性があります。B社にはサービス人員などの費用がかかります。しかしその費用が、顧客満足、継続利用、市場シェアにつながれば、価値ある販管費です。
一方、「費用削減」が競争力を落とす場合もあります。例えば医療機器企業が、販管費削減を掲げ、サービス人員を30%削減したとします。短期的には、営業利益率改善が起こるかもしれません。しかし、修理対応が遅れる、病院の不満が増える、競合へ切り替えられるとなれば、長期的には市場シェアを失う可能性があります。費用削減にも、良い削減と、危険な削減があります。良い削減の例は、重複する本社機能、不要なオフィス、非効率な事務作業、重複システムなどを統合し、顧客サービス、研究開発、製品品質には影響しない形で削減できる場合です。危険な削減の例は、研究開発費削減、営業支援削減、保守人員削減、品質管理人員削減によって利益を増やす場合です。短期利益は改善しますが、将来、新製品不足、顧客離れ、品質問題につながる可能性があります。企業分析では、利益率改善の理由まで確認します。
営業レバレッジという視点
販管費率の推移を見てみましょう。例えば、2022年35%、2023年34%、2024年32%、2025年30%、2026年28%と低下している会社があります。一見、非常に良い改善です。しかし、なぜ下がったのかを確認します。売上が増えて固定費負担が薄まったのか、業務効率化したのか、研究開発を削ったのか、販売網を縮小したのか。理由によって評価は変わります。
例えば、販管費300億円がほとんど変わらない会社があります。売上高が、1,000億円から1,500億円へ増えた。すると販管費率は、30%から20%へ低下します。売上が増えても費用が同じためです。このような状態を、営業レバレッジという視点で考えることができます。企業には、売上が増えてもそれほど増えない費用があります。例えば本社費用、ITシステム、一定の管理費などです。売上が増えると、売上増加率以上に利益が増えることがあります。これが営業レバレッジの基本的なイメージです。
売上10%増で利益30%増のケースを見てみましょう。Aメディカルの前年は、売上1,000億円、粗利600億円、販管費500億円、営業利益100億円。今年は、売上1,100億円、粗利660億円、販管費530億円、営業利益130億円。売上は+10%、営業利益は+30%です。売上は100億円増加、粗利は60億円増加。一方、販管費は30億円しか増えていません。その結果、追加粗利60億円のうち30億円が営業利益増加へつながったことになります。売上規模が大きくなるほど利益率が改善する事業では、営業レバレッジが働いている可能性があります。
医療SaaSや医療AIなどでは、一度システムを開発すると、顧客が増えても製造原価がそれほど増えない場合があります。さらに管理費の増加も売上より小さければ、売上増加、高粗利、販管費率低下、営業利益率上昇という構造になる可能性があります。ただし営業費用が先行することもあります。医療SaaS企業でも、営業人員を大量採用、新地域進出、新規顧客獲得を進めれば、売上より先に販管費が増えることがあります。その場合、「赤字だから弱い」だけでは判断できません。顧客数、継続率、将来売上などと組み合わせて考える必要があります。
企業分析で使いやすい方法があります。売上成長率と、販管費成長率を比べます。例えば、売上+15%、販管費+5%なら、売上の方が速く成長。利益率改善につながる可能性があります。反対に、売上+5%、販管費+20%なら、なぜ費用がこれほど増えているのかを確認します。販管費+30%のケースを見てみましょう。Bメディカルの売上は前年2,000億円、今年2,100億円で+5%。販管費は前年600億円、今年780億円で+30%。営業利益は大幅減少しました。これだけを見ると効率悪化です。しかし内容を調べると、米国販売拠点新設、営業人員増員、新製品発売準備でした。重要なのは翌年です。売上が2,100億円から2,800億円へ、米国売上急増、新製品成長となれば、前年の販管費増加には意味があった可能性があります。一方、売上2,150億円、利益低迷継続なら、先行投資の成果が十分出ていない可能性があります。
人件費、M&A、費用の質
医療企業でも一般消費者向けヘルスケア製品などでは、広告宣伝費が重要になることがあります。広告を増やせば、ブランド認知、売上が増える可能性があります。しかし、広告費+50%、売上+3%なら、効率を検証する必要があります。費用には、投資効果を見る必要があります。
販管費で大きな割合を占めることがあるのが、人件費です。医療企業では、営業担当、研究者、規制対応人材、品質保証、保守技術者など高度な専門人材が必要です。そのため、人件費増加=悪いとは言えません。Aメディカルの営業人員+20%、売上+25%、海外シェア上昇。Bメディカルの営業人員+20%、売上横ばい。なら、同じ人員増加でも評価は変わります。何人増やしたかではなく、増やした人員から何を生み出したかを見る必要があります。
第17講で学んだM&Aによっても販管費は変化します。例えば2社が統合すると、本社機能、経理、人事、IT、物流、営業拠点などに重複があります。これを統合すれば、コストシナジーが生まれる可能性があります。Aメディカルの販管費1,000億円、買収したB社の販管費400億円。単純合計なら1,400億円。しかし統合後、重複管理部門を整理し、販管費1,250億円になったとします。150億円の削減です。これがM&Aのコストシナジーの一例です。しかし削減しすぎてはいけません。B社の営業人員、研究者、主要技術者まで削減し、売上や新製品開発が落ちたらどうでしょうか。150億円削減して、売上300億円を失ったのであれば、良い削減とは限りません。企業のコスト削減は、将来収益への影響まで見ます。
販管費と粗利率をセットで見ることも重要です。企業Aは粗利率80%、販管費率60%、営業利益率20%。企業Bは粗利率50%、販管費率25%、営業利益率25%。営業利益率ではB社が高い。しかしA社が巨額の研究開発投資を行い、豊富なパイプラインを持っているかもしれません。現在利益だけではなく、未来の成長源まで確認します。
製薬企業では販管費や関連費用を見るとき、現在の製品を売る費用、会社を維持する費用、未来の薬を作る研究開発費という3つの視点で見ると理解しやすくなります。特に、未来への費用を単純な無駄と考えないことが重要です。医療機器企業では、販売するための営業費用、導入後を支えるサービス・保守、次世代製品の研究開発という視点が重要です。医療機器では、売って終わりではなく、導入後の支援力が競争優位性になる場合があります。
一方で、本社人員、役員、管理部門、オフィス費用などが売上以上に増えている場合があります。例えば、売上+3%、一般管理費+25%が何年も続く。この場合、組織肥大化が起きていないか確認する必要があります。企業が小さいときは、意思決定が速く、管理部門が小さい。しかし成長すると、会議、管理階層、本社人員、システムが増えます。必要な部分もありますが、管理コストが増えすぎれば利益率を圧迫します。企業が大きくなった後も、効率的に運営できているかを見る必要があります。売上1兆円企業だから効率的とは限りません。企業規模が大きければ、規模の経済が働く可能性がありますが、巨大組織、複雑な管理、重複事業によって逆にコストが増える場合もあります。そこで、売上規模ではなく、売上に対してどれくらい販管費を使っているかを見る意味があります。
同業他社比較も重要です。A医療機器の販管費率35%、B医療機器の販管費率22%だからB社が優秀とは限りません。A社は直販中心、B社は代理店中心。A社は自社保守網を持つ、B社は外部委託。など、ビジネスモデルが違う可能性があります。比較するときには、同じような事業モデルであることが重要です。
販管費が急増したら、なぜかを確認します。研究開発費増加、新製品発売、海外展開、人員増加、M&A、広告、一時的な費用などに分解します。販管費が急減した場合も同じです。一見、素晴らしい効率化ですが、研究開発費を削った、営業拠点を閉鎖した、人材が大量退職したという可能性もあります。費用減少も、理由を見る必要があります。利益率改善の正体を見るケースを考えてみましょう。Cファーマの前年は、売上5,000億円、粗利率75%、研究開発費1,000億円、営業利益率15%。今年は、売上5,100億円、粗利率75%、研究開発費500億円、営業利益率25%。営業利益率は15%から25%へ大幅改善。非常に良く見えます。しかし研究開発費が半減しています。もし研究開発費削減の理由が、無駄な研究テーマの整理で、残ったパイプラインが強いなら合理的かもしれません。しかし、短期利益を増やすため研究開発を削減、後期パイプラインも減少なら、5年後の成長力には注意が必要です。「利益率が上がった」だけでは評価できません。
第24講では、売上の質を考えました。第25講では、費用の質を考えます。例えば100億円の費用。A社は不要な管理コスト100億円。B社は有望な第Ⅲ相新薬への臨床開発100億円。会計上はどちらも費用です。しかし企業の未来に対する意味は大きく違います。販管費や関連費用を見るとき、現在の事業を維持する費用、将来成長を作る費用、非効率によって発生している費用に分けて考えてみると企業が見えやすくなります。すべての費用を一括して、多い、少ないと判断しないことが重要です。企業が、海外営業網へ300億円、研究開発へ500億円、広告へ100億円使った。重要なのは、300億円使ったことではなく、何が生まれたかです。海外売上、新薬候補、市場シェア、ブランド認知などの成果へつながったかを追跡します。
JMEI式「販管費を見る12の質問」
医療企業の販管費を見るときには、次の12項目を確認しましょう。販管費はいくらか。売上高に対する販管費率は何%か。販管費は過去3~5年でどう変化したか。売上成長率と販管費成長率のどちらが高いか。販売費は何に使われているか。一般管理費が肥大化していないか。研究開発費は増えているか、減っているか。費用増加は新製品発売や海外展開によるものか。費用削減で競争力を損なっていないか。M&Aによるコストシナジーは実現しているか。営業レバレッジは働いているか。費用が将来の売上・利益・医療価値につながっているか。そして最後に、「この会社はコストを使っているのか。それとも未来を作るためにお金を使っているのか?」と考えます。
練習問題
問題1 販管費とは何の略でしょうか。(A.販売費及び一般管理費 B.販売原価及び管理利益 C.販促原価及び一般利益 D.販売利益及び管理資本)
【答え】A.販売費及び一般管理費。製品やサービスを販売し、会社を運営するために必要な費用を表します。
問題2 売上高1,000億円、販管費400億円です。単純化した販管費率は何%でしょうか。
【答え】40%です。400億円÷1,000億円×100=40%です。
問題3 粗利率70%の企業なら、営業利益率も70%近くになるでしょうか。
【答え】いいえ。粗利益から販売費、一般管理費、研究開発費などが差し引かれるため、営業利益率は粗利率より低くなります。
問題4 販管費率が50%の会社は、20%の会社より必ず経営効率が悪いでしょうか。
【答え】必ずしもそうではありません。研究開発、新製品発売、海外展開などに積極投資している可能性があります。費用の中身を確認します。
問題5 売上が10%増、販管費が3%増でした。他の条件が変わらなければ何が期待できますか。
【答え】売上より販管費の伸びが小さいため、販管費率低下や営業利益率改善につながる可能性があります。
問題6 研究開発費を大幅削減した結果、営業利益率が急上昇しました。必ず良い経営でしょうか。
【答え】いいえ。短期利益は改善しても、将来のパイプラインや新製品を失う可能性があります。
問題7 医療機器会社が保守人員を増やしたため販管費が上昇しました。どのように評価すべきでしょうか。
【答え】保守体制強化によって顧客満足、市場シェア、継続収益などが増加しているかを確認します。
問題8 M&A後に販管費が減少しました。何を確認すべきでしょうか。
【答え】重複部門統合などによる合理的なコストシナジーなのか、研究開発や営業力まで損なう削減なのかを確認します。
総合ケーススタディ――JMEIファーマは「利益の低い会社」なのか
架空のJMEIファーマを分析します。売上高8,000億円、粗利率78%、売上総利益6,240億円、販売・管理関連費用2,000億円、研究開発費2,400億円、その他営業関連費用等を考慮した営業利益1,600億円、営業利益率20%。前年の研究開発費は2,000億円、今年は2,400億円で+20%。一方、売上成長率は+8%。営業利益率は前年22%から今年20%へ低下しています。さらに、第Ⅲ相新薬候補4品目(前年は2品目)、第Ⅱ相候補8品目、米国で新薬発売準備中、海外営業人員+15%。この会社をどう見ればよいでしょうか。
まず粗利率を見ると78%と非常に高い水準です。少なくとも製品そのものは大きな粗利益を生み出しています。ではなぜ営業利益率は20%なのでしょうか。研究開発費を見ると、2,400億円で、売上高8,000億円に対して30%です。非常に大きな研究開発投資です。つまり粗利益の相当部分を、次世代新薬開発へ再投資しています。パイプラインを見ると、前年第Ⅲ相2品目から今年4品目、第Ⅱ相も8品目。研究開発費増加とパイプライン進展がつながっている可能性があります。単に費用だけ増えているわけではありません。
販売費増加も見ます。米国新薬発売準備、海外営業人員+15%。つまり、研究開発だけでなく、開発した新薬を世界で販売する体制にも投資しています。この結果、一時的に営業利益率が22%から20%へ低下しました。数字だけなら利益率悪化です。しかし、研究開発強化、第Ⅲ相候補増加、新薬発売準備という将来投資によるものなら、必ずしも企業競争力の悪化とは限りません。重要なのは、今後2~5年です。
仮に2年後、第Ⅲ相4品目のうち3品目が承認、新薬売上3,000億円増加、粗利率維持、営業利益増加、FCF増加となれば、現在の費用増加は非常に価値ある投資だった可能性があります。反対に、第Ⅲ相候補の多くが失敗、新薬発売も低調、研究開発費2,400億円を継続、売上成長停止となれば、研究開発効率を再検討する必要があります。「研究開発費が多いから良い会社」ではありません。JMEIファーマを見るときには、研究開発費増加、パイプライン進展、承認、新薬発売、売上、利益、キャッシュフローという流れを追跡します。これが企業分析です。
もう一つ、医療機器のケースを見てみましょう。JMEIデバイスは、売上高5,000億円、粗利率55%、営業利益率12%。今年、海外保守拠点を50か所新設、サービス人員+20%、販管費+15%。営業利益率は14%から12%へ低下。一方、海外設置台数+35%、保守契約件数+40%。この会社も単純に、利益率低下=悪化とは言えません。設置台数が増えれば、消耗品、保守、ソフトウェアなどの継続収益が増える可能性があります。つまり現在の販管費増加が、将来のインストールベース拡大を支えているかもしれません。第24講の粗利率分析とつながります。しかし結果を確認する必要があります。翌年、保守契約売上、消耗品売上、海外営業利益が増えなければ、投資効率に問題がある可能性があります。先行投資という説明は、永遠には使えません。いつ成果が出るのかを見る必要があります。
JMEIでは、販管費が増えた、悪いとは考えません。また、販管費が減った、良いとも考えません。見る順番は、粗利益、販管費、販管費率、費用の中身、研究開発、販売・サービス体制、将来の売上、利益、キャッシュフローです。企業がお金を使う理由を理解し、その支出が最終的に企業価値へつながるかを考えます。例えば、研究開発費100億円増加という情報だけでは評価できません。その100億円によって、パイプラインが進んだか、承認が増えたか、新製品が生まれたかを見る。営業人員100人増加なら、売上、市場シェア、顧客数が増えたかを見る。企業分析では、費用と成果をセットにすることが重要です。
JMEI Medical Insight
医療企業の費用には、一般企業以上に、「削ってはいけないコスト」が存在します。例えば、研究開発、品質保証、安全管理、製造管理、保守、医療従事者への適正使用情報提供。こうした活動です。財務数字だけを考えれば、費用を減らす、利益が増える、利益率が上がるという流れは魅力的に見えます。しかし医療では、利益率を上げるため品質管理を削る、安全管理人員を減らす、保守体制を縮小する、研究開発を止めるという経営は、長期的な企業価値だけでなく患者の安全にも関係します。だからJMEIでは、低コスト企業を無条件に高く評価しません。重要なのは、必要なところには十分なお金を使い、不要なところでは徹底的に効率化することです。
例えば、管理業務をAIで効率化し、重複する本社機能を削減する。そこで生まれた100億円を、新薬研究、医療AI、患者支援、品質管理へ再配分する。これなら、コスト削減が、医療価値への再投資につながります。JMEIが注目したいのは、単に費用を減らせる企業ではありません。「どの費用が価値を生み、どの費用が価値を生まないか」を判断できる企業です。理想的な流れは、高い粗利益、必要な研究開発・販売・サービスへ投資、新しい医療価値、市場シェア拡大、売上・利益増加、キャッシュフロー増加、次の医療価値へ再投資です。販管費を見ることは、単なるコスト分析ではありません。経営者が、現在の利益と未来の成長の間でどのような選択をしているのかを見ることなのです。
今回のポイント
第25講で最も覚えてほしいのは、「費用は少なければ良いのではなく、その費用が何を生み出しているかを見る」ということです。販管費を見るときには、売上総利益を見て、販管費を見て、販管費率を見て、販売費を見て、一般管理費を見て、研究開発費を見て、前年と比較し、売上成長率と販管費成長率を比べ、費用増加の理由を見て、数年後の成果を確認するという順番で考えます。そして最後に、「この会社の費用は、現在を維持するための費用なのか、無駄な費用なのか、それとも未来を作るための費用なのか?」と問いかけます。企業は、費用を減らすだけでは成長できません。特に医療企業では、研究開発、安全管理、販売支援、保守、品質保証などへの継続的な投資が必要です。一方で、管理部門の肥大化、重複業務、成果につながらない支出は企業価値を下げます。優れた企業とは、コストが少ない会社ではありません。価値を生まない費用を減らし、価値を生む費用へ資金を振り向けられる会社です。
次回予告
第26講 営業レバレッジとは何か?――「売上10%増で利益30%増」の仕組みを読む
第25講では、粗利益から営業利益へ至るまでに、販売費、一般管理費、研究開発費など、さまざまな費用があることを学びました。その中で一つ興味深い現象が出てきました。売上が10%しか増えていないのに、営業利益が30%増える。なぜでしょうか。企業には、売上が増えれば同じように増える費用と、売上が増えてもそれほど増えない費用があります。例えば、研究施設、本社システム、工場、ソフトウェア開発、営業組織などへ先に大きな費用をかけている会社では、一定の売上を超えると、追加売上の多くが利益へつながる場合があります。これが、営業レバレッジです。しかし営業レバレッジは、良い方向だけには働きません。売上が減ったときには、利益が売上以上に急減する可能性があります。つまり、成長期には強力な利益拡大装置である一方、不況期には利益を急速に縮小させる性質もあります。第26講では、固定費とは何か、変動費とは何か、営業レバレッジとは何か、なぜ売上以上に利益が増えるのか、医療機器工場の稼働率は利益へどう影響するのか、医療SaaSの利益率はなぜ急上昇することがあるのか、反対に売上減少時には何が起きるのか、そして「売上成長企業」と「売上成長が利益急増につながる企業」は何が違うのかを、企業の利益が加速する仕組みとして読み解いていきます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。