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医療企業分析アカデミー

第14講 研究開発費は「コスト」か「未来への投資」か?

JMEI 医療企業分析アカデミー 第14講 医療企業のR&Dをどう評価するか

はじめに

第13講では海外売上比率を取り上げました。海外売上比率が高いというだけでは、その企業が海外市場で本当に強いとは言い切れません。地域別の売上や成長率、市場シェア、為替の影響、販売網、競争優位性といった要素まで順に確認して、初めて「本当に世界で戦えているか」が見えてくる、という話でした。

今回はいったん企業の「現在」から離れて、「未来」に目を向けます。

医療企業の決算資料を読んでいると、「研究開発費の増加により営業利益が減少しました」という一文に出会うことがあります。利益が減った——それだけを見れば悪い決算に思えるかもしれません。しかし、必ずしもそうとは限りません。

たとえば、ある製薬会社が将来大きな売上を生む可能性を秘めた新薬候補の臨床試験を進めたために、研究開発費が増えたとします。今年の利益は確かに減るでしょう。しかしその薬がいずれ承認されれば、会社の次の成長エンジンになるかもしれません。

医療機器メーカーでも構図は同じです。次世代カテーテル、手術支援ロボット、画像診断装置、AI診断支援、新しい歯科材料——こうした製品はある日突然完成するものではなく、何年にもわたる研究開発の積み重ねの先に生まれてきます。

つまり研究開発費は、現在の利益を減らす「費用」であると同時に、未来の売上をつくる「投資」でもあるのです。

第14講では、研究開発費とは何か、増えた会社をどう見るか、製薬企業と医療機器企業で何が違うのか、そして研究開発費の「量」と「質」をどう考えるかを扱います。最終的には、「研究開発にお金を使っている会社」と「研究開発から実際に利益を生み出せている会社」の違いを見分ける視点を身につけることが目標です。

1.研究開発費とは何か

研究開発費とは、企業が新しい製品や技術を生み出したり、既存の製品を改良したりするために投じる費用のことです。英語では Research and Development、略して R&D と呼ばれます。

医療企業では、新薬候補の探索、臨床試験、新しい医療機器の開発、既存機器の改良、新素材の研究、医療AIの開発、製造技術の改善、新しい診断技術の研究といった活動にこの費用が使われます。ひとことで言えば「会社が未来の製品をつくるために使っているお金」と考えると分かりやすいでしょう。

2.なぜ研究開発費は利益を減らすのか

企業が売上を1,000億円上げたとすると、そこから原材料費、人件費、販売費、研究開発費などを差し引いて利益を計算します。仮に研究開発費が50億円、その他の費用が800億円だとすれば、単純化して利益は150億円です。ここで研究開発費を100億円に増やせば、利益は100億円まで下がります。研究開発費が増えれば、短期的には利益を押し下げる方向に働く——これが会計上の基本構造です。

3.利益が減ったから悪い会社とは限らない

ここが医療企業の分析で特に重要なポイントです。

架空の例で考えてみましょう。Aメディカルという会社の営業利益が前年200億円から今年150億円へ、25%減少したとします。数字だけを見れば悪化です。ところが研究開発費を見ると、前年100億円から今年180億円へと増えていました。内訳を調べると、次世代医療機器3製品の開発、米国での臨床試験、AI診断システムの開発に資金が投じられていたことが分かります。

この場合、現在の利益を犠牲にして未来へ投資している可能性があります。したがって「減益=悪い決算」と単純に判断してはいけません。

4.反対に研究開発費が減ったら良いのか

今度は逆のケースです。研究開発費が200億円から100億円へ減り、その結果、営業利益が300億円から400億円へ増えたとします。一見すると非常に良い決算です。

しかしこれが、単に研究開発を削っただけの結果だとしたらどうでしょうか。短期的には利益が増えても、数年後に新製品が枯渇してしまう可能性があります。研究開発費の削減による増益には、注意が必要です。

5.現在の利益と未来の利益を分けて考える

企業分析では「今年いくら儲かったか」だけでなく、「5年後も儲け続けられるか」を考える必要があります。研究開発は、この現在の利益と未来の利益をつなぐ役割を担っています。

研究開発 → 新技術 → 新製品 → 承認・発売 → 市場シェア獲得 → 売上 → 利益、という一連の流れです。もちろん、すべての研究が成功するわけではありません。だからこそ研究開発を見るときは、金額の大きさだけでなく、そこから何が生まれているかという成果も合わせて見る必要があります。

6.売上高研究開発費比率とは何か

企業ごとの研究開発費を比較するときに便利な指標が、売上高研究開発費比率です。計算式は「研究開発費 ÷ 売上高 × 100」。売上高5,000億円、研究開発費500億円の会社なら、500 ÷ 5,000 × 100 = 10%となり、この会社は売上の10%を研究開発に投じていることになります。

7.なぜ「金額」だけでなく「比率」を見るのか

売上高1兆円で研究開発費500億円のA社と、売上高2,000億円で研究開発費300億円のB社を比べてみます。金額だけならA社の方が多く見えます。しかし比率を計算すると、A社は5%、B社は15%となり、会社の規模に対してはB社の方が大きく資金を振り向けていることが分かります。金額の大小だけで判断すると、こうした違いを見落とします。

8.研究開発費比率が高いほど良いのか

ここでも「高い=良い」とは限りません。比率20%の会社が、比率8%の会社より将来性が高いとは必ずしも言えないのです。重要なのは、その研究開発費から何が生まれているかです。比率が20%でも、新製品がほとんど出ない、開発中止が多い、承認が取れない、市場で売れないといった状態であれば、効率の良い研究開発とは呼べません。

9.研究開発の「量」と「質」

研究開発は「量」と「質」に分けて考えることができます。量を見る指標は研究開発費そのものと売上高研究開発費比率です。一方、質を見るには新製品数、承認取得の実績、臨床試験の進捗、売上への貢献、市場シェア、特許といった要素を確認します。つまり「いくら使ったか」だけでなく、「何を生み出したか」まで見る必要があるということです。

10.ケーススタディ①――A社とB社、どちらの研究開発が強いか(架空の例)

売上高3,000億円のAメディカルは、研究開発費450億円(比率15%)を投じ、過去5年間で大型新製品を1製品生み出しました。同じく売上高3,000億円のBメディカルは、研究開発費300億円(比率10%)で、過去5年間に大型新製品を4製品生み出しています。

研究開発費の金額だけならA社が上回りますが、B社は少ない費用からより多くの新製品を生み出しています。もちろん製品数だけで単純に優劣を決めることはできませんが、「研究開発費が多い=研究開発力が高い」とは限らないことが、この例からも分かります。

11.製薬企業の研究開発は特に重要

製薬企業では、研究開発の巧拙が会社の将来を大きく左右します。新薬の開発には、候補物質の探索、非臨床試験、臨床試験、承認申請という長い過程があり、すべての候補薬が発売までたどり着くわけではありません。効果が十分に確認できない、安全性に問題がある、競合薬に劣る、といった理由で開発が中止されることも珍しくありません。だからこそ製薬企業の研究開発には、大きな不確実性がつきまといます。

12.製薬企業では「パイプライン」を見る

製薬企業を分析するときに欠かせないのが、パイプラインという視点です。パイプラインとは「現在開発中の新薬候補群」のことです。初期段階の候補薬、臨床試験中期の候補薬、後期の候補薬、承認申請中の候補薬というように、複数の薬が並行して開発されているのが一般的です。研究開発費の金額だけでなく、どんな薬がどこまで進んでいるのかを見る必要があります(パイプラインについては第15講で詳しく扱います)。

13.一つの新薬候補だけに依存するリスク

架空のAファーマには、将来売上3,000億円が期待される新薬候補があるとします。非常に魅力的に見えますが、パイプラインを確認するとそれ以外に有力な候補がほとんどありません。もしこの薬の開発が失敗すれば、会社の成長戦略そのものが揺らぎかねません。

一方、架空のBファーマには大型候補薬が1つ、中型候補薬が2つ、初期候補薬が3つあります。この場合は研究開発のリスクが分散されていると考えられます。

14.医療機器企業の研究開発は製薬企業と少し違う

医療機器メーカーでも研究開発は重要ですが、その性格は製薬企業とはやや異なります。まったく新しい製品の開発だけでなく、既存製品の改良も同じくらい重要だからです。カテーテルであれば、より細く、より柔らかく、操作性を高め、画像視認性を改善し、安全性を高める——こうした改良の積み重ねが、医療現場での使いやすさに直結します。

15.小さな改良が大きな競争力になることがある

医療機器の世界では、革命的な新製品だけが研究開発の成果ではありません。たとえば外科医から「先端がもう少し柔らかければ使いやすい」という声が上がり、それが製品改良に反映されて操作性が改善し、医師の支持を得て採用病院が増え、結果として市場シェアが上昇する——という流れが起こることがあります。医療現場の小さな不便を解決する研究開発も、十分に重要なのです。

16.研究開発と医療現場の距離を見る

優れた医療企業は、研究室の中だけで製品をつくっているわけではありません。医師、歯科医師、看護師、臨床検査技師、診療放射線技師、患者など、現場からの情報を積極的に取り込みます。現場の課題 → 研究開発 → 製品改良 → 臨床評価 → 再改良、という循環をつくれているかどうか。研究開発費の大きさだけでなく、研究開発部門と医療現場がどれだけつながっているかも、見ておきたい視点です。

17.研究開発費と競争優位性

第12講で扱った競争優位性とも関わってきます。現在は市場シェア50%、営業利益率25%という非常に強い会社があったとしても、研究開発をほとんど行っていなければどうでしょうか。競合が次世代製品を開発している間に、5年後には競争優位性を失っている可能性があります。研究開発とは、現在のモートを未来へ延ばすための投資でもあるのです。

18.研究開発と市場シェア

第11講で扱った市場シェアとの関係も見ておきましょう。研究開発 → 製品性能の向上 → 医療現場での採用 → 市場シェアの上昇、という流れができていれば、研究開発は着実に競争力へ変換されています。逆に、研究開発費は増えているのに製品が出ず、シェアも下がっているようであれば、研究開発の効率に問題がないか確認する必要があります。

19.研究開発と海外展開

第13講の海外売上とも関連します。すでに日本で販売されている医療機器について、米国向けの製品開発、海外での臨床試験、各国の規制対応を進めるために研究開発費が増えることがあります。この場合、研究開発費の増加 → 海外承認 → 海外販売開始 → 海外売上の増加、という流れになる可能性があり、研究開発費が海外成長の先行指標として機能することもあります。

20.研究開発費の増加理由を読む

決算で研究開発費が300億円から450億円に増えたとしても、「研究開発に積極的だ」で片づけてはいけません。新薬の臨床試験のためなのか、大型製品の開発なのか、AI技術への投資なのか、海外承認のためなのか、買収した技術の開発なのか、既存製品の改良なのか——理由によって、その増加が将来にとって持つ意味は大きく変わってきます。

21.ケーススタディ②――減益決算をどう評価するか(架空の例)

架空のCメディカルは、売上高が前年4,000億円から今年4,400億円へ10%増加した一方、営業利益は前年600億円から今年500億円へと約17%減少しました。数字だけを見れば「増収減益」です。

ところが研究開発費は前年300億円から今年500億円へと200億円増えていました。内訳を調べると、次世代手術支援システム、AI画像診断、米国での臨床試験への投資であることが分かります。この場合、本業そのものが悪化して利益が減ったとは限りません。未来の成長投資によって、一時的に利益が圧迫された可能性があるのです。

22.研究開発費を除いて考えてみる

実際の会計分析では研究開発費を単純に除外して考えるわけではありませんが、事業の実力を見極めるうえでは「もし研究開発投資が増えていなかったら利益はどうだったか」と仮に考えてみることが役立ちます。

先ほどのCメディカルでは、研究開発費が200億円増える一方、営業利益は100億円しか減っていません。つまり研究開発費の増加以上に本業が悪化しているとは、この数字だけからは言い切れないということです。ここからさらに粗利益率、販売費、製品構成などを掘り下げていく必要があります。

23.研究開発費の急増には注意も必要

研究開発費の増加が常に良いニュースとは限りません。開発が予定より遅れている、臨床試験をやり直している、技術的な問題が発生した、競合に追いつくために追加投資が必要になった、といった事情が背後にあることもあります。研究開発費の増加という数字だけで将来性を判断せず、必ず「何に使っているのか」を確認する姿勢が欠かせません。

24.研究開発費と売上の時間差

研究開発には時間差があります。今年100億円を投じたからといって、来年すぐに100億円の売上が生まれるわけではありません。製薬企業であれば研究開始から発売まで長い年月がかかりますし、医療機器でも研究、試作、臨床評価、承認、製造、販売という段階を踏みます。研究開発費は現在の数字であり、その成果は未来の数字として現れる——このタイムラグを意識しておく必要があります。

25.だから複数年を見る

研究開発費は単年だけで判断すべきではありません。仮に研究開発費が5年連続で増加しているとして、同時に新製品数、売上高、市場シェア、海外売上、利益がどう推移しているかを合わせて確認します。研究開発費の増加とともに新製品が増え、市場シェアが上がり、海外売上も伸びているのであれば、研究開発が事業成果へつながっている可能性が高いと考えられます。

26.研究開発効率という考え方

研究開発にいくら使ったかだけでなく、そのお金からどれだけの成果を生み出しているか——これを研究開発効率という視点で捉えます。厳密に一つの数式で測れるものではなく、研究開発費、新製品売上、承認数、市場シェア、利益率、特許、パイプランといった複数の要素を組み合わせて総合的に判断することになります。

27.ケーススタディ③――研究開発費が少ない会社の方が強いのか(架空の例)

架空のDメディカルは研究開発費500億円で新製品売上600億円、市場シェアは横ばい。架空のEメディカルは研究開発費300億円で新製品売上900億円、市場シェアは上昇しているとします。

数字だけを見れば、E社の方が少ない研究開発費から大きな成果を生んでいるように見えます。ただし開発期間、製品分野、過去の研究投資の蓄積、M&Aの有無なども考慮する必要があり、同じ年度の研究開発費と売上を単純に割り算するだけでは、本当の効率は見えてきません。

28.自社研究だけが研究開発ではない

医療企業はすべての技術を自社だけで開発しているわけではありません。大学との共同研究、スタートアップとの提携、他社からの技術導入、ライセンス契約、M&Aなど、外部の力を取り込む手段は多様です。特に製薬企業では、外部で生まれた新薬候補を導入することも重要な研究開発戦略の一つです。自社の研究力に加えて、外部の有望な技術を見つける力、そしてそれを製品化する力を合わせて評価する必要があります。

29.「発明する会社」と「育てる会社」

新しい技術を発明するのが得意な会社もあれば、大学やスタートアップから技術を見つけ、それを臨床開発して世界に届けるのが得意な会社もあります。どちらも医療企業として重要な能力です。企業分析でチェックすべきは「すべてを自社で発明しているか」ではなく、「有望な技術を最終的な医療価値に変換できるか」という点です。

30.研究開発の最終目的は「研究」ではない

これは非常に重要な点です。企業にとって研究開発の最終目的は、研究すること自体ではありません。新しい治療、新しい診断、新しい医療機器を通じて、患者の利益や医療従事者の負担軽減につなげ、その結果として企業の売上・利益に結びつける——ここまで到達して初めて、研究開発は企業価値に変わります。研究 → 技術 → 製品 → 医療現場 → 患者価値 → 事業価値、という流れがつながっているかを常に意識しておきたいところです。

31.JMEI式「研究開発を見る9つの質問」

医療企業の研究開発を評価するときは、次の9つを確認するとよいでしょう。

  1. 研究開発費はいくらか
  2. 売上高研究開発費比率は何%か
  3. 研究開発費は増えているか、減っているか
  4. 何に研究開発費を使っているか
  5. 有力な新薬・新製品候補があるか
  6. 開発はどの段階まで進んでいるか
  7. 過去の研究開発から実際に製品が生まれているか
  8. その製品が売上・市場シェアにつながっているか
  9. 研究開発が5年後の競争優位性につながりそうか

そして最後に、「この会社は研究開発費を使っているだけなのか、それとも研究開発から未来の利益を作れているのか」を自分に問いかけてみてください。

32.練習問題

問題1 売上高5,000億円、研究開発費500億円の場合、売上高研究開発費比率は何%か。 A.5% B.10% C.15% D.20%

答え:B.10%(500 ÷ 5,000 × 100 = 10%)

問題2 研究開発費が増えたため営業利益が減少した。必ず悪い決算か。

答え:必ずしもそうではありません。将来の新薬、新製品、海外承認などに向けた成長投資である可能性があります。何に研究開発費を使っているのかを確認する必要があります。

問題3 研究開発費比率20%の会社と10%の会社では、20%の会社の方が必ず研究開発力が高いか。

答え:必ずしもそうではありません。比率や金額だけでなく、新製品、承認、市場シェア、売上といった成果まで見る必要があります。

問題4 製薬企業を見るときに研究開発費と一緒に確認したいものは何か。

答え:開発中の新薬候補、すなわちパイプラインです。どの薬がどの開発段階にあるかを確認します。

問題5 研究開発費が減り、営業利益が増えた。良いことだと判断してよいか。

答え:すぐには判断できません。効率化によって減った可能性もあれば、将来の製品開発を犠牲にして短期利益を増やしている可能性もあります。

問題6 研究開発費が毎年増えているのに、市場シェアは下がり、新製品もほとんど出ていない。何を疑うべきか。

答え:研究開発の効率や方向性に問題がないかを確認する必要があります。研究開発費の「量」だけでなく「成果」を見ることが大切です。

33.総合ケーススタディ――JMEIメディカルの研究開発力を分析する(架空の例)

架空のJMEIメディカルを見てみましょう。売上高5,000億円、営業利益700億円、研究開発費は前年450億円から今年600億円へ増加(売上高研究開発費比率12%)。研究開発中の製品は、承認申請準備中の次世代カテーテル、臨床評価中の手術支援システム、国内販売を開始したAI画像診断、米国承認申請中の新型検査装置です。

過去3年間に発売した新製品の売上は300億円 → 500億円 → 800億円と伸び、海外売上比率は45% → 50% → 58%、市場シェアは28% → 31% → 35%へと、いずれも右肩上がりで推移しています。

34.ケーススタディを分析する

研究開発費は450億円から600億円へ増加し、比率は12%とかなり積極的な水準に見えます。しかし重要なのはその成果です。過去3年間の新製品売上は300億円から800億円へと着実に増え、市場シェアも28%から35%へ、海外売上比率も45%から58%へ上昇しています。

研究開発 → 新製品 → 市場シェア上昇 → 海外展開 → 売上成長、という流れができている可能性がうかがえ、これは比較的質の高い研究開発と評価できそうです。

35.しかし将来も確認する

とはいえ分析はここで終わりません。次世代カテーテルは承認されるのか、手術支援システムの臨床評価は成功するのか、AI画像診断は収益化できるのか、新型検査装置は米国でシェアを取れるのか、競合企業は何を開発しているのか——これらはあくまで今後の見通しであり、現時点で確定した事実ではありません。企業分析では、過去の研究開発成果と、未来の研究開発の可能性、その両方を見ることが欠かせません。

36.JMEIの視点

研究開発費が多い=将来性が高い、とは考えません。見る順番は、研究開発費 → 研究開発費比率 → 研究テーマ → 開発段階 → 承認 → 製品化 → 医療現場での採用 → 市場シェア → 売上・利益、です。研究開発費はあくまで「未来への入口」にすぎず、本当に重要なのは研究開発から医療価値と事業価値を生み出せるかどうかです。

もう一つ重要なのが、現在の主力製品と未来の主力製品を分けて考えることです。今利益を生み出している製品が、5年後も主力であるとは限りません。だからこそ企業分析では「今、何を売っているか」だけでなく「次に、何を売ろうとしているか」を見る必要があります。研究開発を見ることは、いわば会社の未来の商品棚をのぞき込むことでもあるのです。

JMEI Medical Insight

医療企業の研究開発を評価するとき、最も大切にしたいのは「その研究は誰の何を変えるのか」という視点です。新しい技術だから、AIを使っているから、最新の材料だから価値がある、というわけではありません。

手術時間を30分短縮できる、患者の痛みを減らせる、合併症を減らせる、医師の操作負担を軽くできる、看護師の業務を減らせる、検査結果を早く出せる、在宅でも治療できる——こうした具体的な価値が医療現場に届いて初めて、研究開発は意味を持ちます。そしてその価値が病院での採用 → 市場シェア → 売上 → 利益へとつながったとき、研究開発は企業価値へと変換されます。

優れた医療企業とは、研究費をたくさん使う会社ではありません。研究によって医療を変え、その結果として新しい市場をつくれる会社です。

今回のポイント

第14講で最も覚えておきたいのは、「研究開発費はコストであると同時に、未来への投資でもある」ということです。研究開発を見るときは、研究開発費 → 売上高研究開発費比率 → 何に使っているか → 開発段階 → 新製品 → 市場シェア → 売上・利益への貢献、という順番で考えます。

そして「いくら研究開発に使ったか」ではなく、「その研究開発から何を生み出したか」を問い続けること。研究開発費が増えて利益が減った会社を単純に悪い会社と判断してはいけませんし、逆に研究開発費を減らして利益が増えた会社を単純に良い会社と判断してもいけません。現在の利益と未来の利益を同時に見る——これが第14講の要点です。

次回予告

第15講 パイプラインとは何か?――製薬企業の「未来の売上」をどう読むか

第14講では研究開発費を扱いました。しかし特に製薬企業では、研究開発費の多寡だけで将来性を判断することはできません。重要なのは、その費用によってどんな新薬候補が育っているのか、というパイプラインの中身です。臨床試験の各段階の理解、大型新薬候補の評価方法、一つの候補への依存リスク、特許切れとの組み合わせ方など、製薬企業の未来を読むためのパイプライン分析へ進みます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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