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医療企業分析アカデミー

第7講 決算短信はどこから読む?

JMEI 医療企業分析アカデミー 第7講 大量の数字から「重要な5か所」を見つける方法

はじめに

第6講ではPERとPBRについて学びました。ここまでの講義で、売上・利益・利益率、ROE・ROA、自己資本比率・有利子負債、キャッシュ・フロー、PER・PBRと、企業を見るための基本的な数字がかなり揃ってきました。

しかし、実際に企業を分析しようとすると、次の問題にぶつかります。「その数字は、どこを見れば分かるのか?」

そこで今回から、実際の企業資料を読む段階へ進みます。最初に取り上げるのが決算短信です。

企業の決算短信を初めて開くと、数字や専門用語が大量に並んでいます。数十ページあることもあり、「全部読まなければ企業分析できないのでは?」と思ってしまうかもしれません。しかし、初心者の段階で最初からすべてを読む必要はなく、まずは重要な5か所に絞ります。今回の目標は、決算短信を開いたときに迷わず最初のチェックができるようになることです。

決算短信とは何か

決算短信とは、上場企業が決算内容を投資家などへ伝えるために公表する資料です。そこには売上高、利益、財政状態、キャッシュ・フロー、業績予想、配当、事業の状況など、企業分析に必要な重要情報がまとめられています。

企業について調べるとき、ニュース記事だけを読むのではなく、企業自身が発表した資料を読むことが非常に重要です。決算短信は、その代表的な一次情報の一つです。

例えばニュースに「A社、営業利益30%増」と書かれていたとします。これは重要な情報ですが、企業分析ではここで終わりません。決算短信を見ると、売上は何%増えたのか、営業利益率はどうなったのか、通期予想は変更されたのか、キャッシュ・フローはどうか、前年の特殊要因はなかったのか、といった情報を自分で確認できます。

つまり、ニュースは入口、決算短信は企業を自分で確認するための資料と考えるとよいでしょう。

まず見る5か所

初めて決算短信を見ると「専門家でなければ読めない」と感じるかもしれませんが、最初に見る場所を決めておけばかなり読みやすくなります。JMEI医療企業分析アカデミーでは、初心者はまず次の5か所から始めます。

  1. 売上高と利益
  2. 前年同期比
  3. 通期業績予想
  4. 財政状態
  5. キャッシュ・フロー

順番に見ていきましょう。

① 売上高と利益

最初に確認するのは、会社がどれだけ売り、どれだけ利益を生み出したかです。例えば売上高2,000億円、営業利益200億円、当期純利益130億円と記載されていたとします。

ここまで学んだ方なら、単に「売上2,000億円か」では終わりません。営業利益率も考えられます。200億円÷2,000億円×100=10%、つまり売上100円に対して10円の営業利益を生み出していると考えることができます。これまで学んだ知識が、実際の決算資料につながり始めます。

決算には営業利益、経常利益、税引前利益、当期純利益など複数の利益が登場します。初心者のうちは、まず売上高と営業利益の組み合わせを意識してみましょう。営業利益は、本業からどれくらい利益を生み出したかを見る代表的な数字だからです。もちろん企業や会計基準によって表示される利益指標は異なることがありますが、重要なのは「この会社の本業の収益力を表している数字はどれか」を意識することです。

② 前年同期比――「なぜ?」を必ず作る

次に見るのが、前年と比べて増えたのか減ったのかです。例えば売上高+8%、営業利益+20%なら増収増益です。一方、売上高+10%、営業利益-15%なら増収減益です。ここで企業分析では、「増えた」「減った」だけでは終わらせず、必ず「なぜ?」を考えます。

例えば医療機器企業の売上が10%増えたのに、営業利益が15%減ったとします。考えられる理由には、研究開発費増加、新工場への先行費用、人件費上昇、原材料費上昇、海外展開費用、販売促進費などがあります。ここで「利益が減ったから悪い」とすぐに判断してはいけません。将来の成長に必要な投資による一時的な減益かもしれないからです。見るべきなのは、減益の理由です。

逆に、売上+20%、営業利益+30%なら非常に良く見えますが、ここでも分析は続きます。為替の影響ではないか、一時的な大型受注ではないか、前年が特別に低かったのではないか、M&Aによって会社規模そのものが大きくなったのではないか、などを確認します。企業分析では、良い数字にも理由を求めることが重要です。

架空の医療機器企業2社を比較してみましょう。Aメディカルは売上高が1,000億円から1,100億円へ、営業利益は100億円から130億円へ。Bメディカルは売上高が1,000億円から1,200億円へ、営業利益は100億円から90億円へ。

売上成長だけならB社の方が上ですが、利益ではA社が大きく伸びています。ここで、A社ではなぜ利益率が改善したのか、B社ではなぜ売上増加にもかかわらず利益が減ったのかを調べます。この「数字→疑問→原因確認」が決算分析の基本です。

③ 通期業績予想と進捗率

決算で非常に重要なのが、会社自身が今後をどう予想しているかです。例えば第1四半期決算が好調で、売上+15%、営業利益+30%という非常に良い数字だったとします。しかし会社が通期業績予想を据え置いていたらどうでしょうか。企業は「今の好調がそのまま年間を通して続くとはまだ見ていない」可能性があります。反対に、会社が通期予想を引き上げれば上方修正です。

例えば当初、年間営業利益予想200億円だった会社が250億円へ変更したとします。これが業績予想の上方修正です。逆に200億円から150億円なら下方修正です。ただし、上方修正だから必ず良い、下方修正だから必ず悪い、と単純には考えません。なぜなら株式市場では、市場がどこまで期待していたかも重要だからです。

実は企業分析で面白いのが、業績予想を変更しなかった場合です。例えば上期時点で営業利益の進捗率が70%なのに、通期予想を据え置いているとします。単純に考えれば「上方修正できそうでは?」と思いますが、会社は下期の研究開発費増加、新工場費用、為替変動、製品価格低下などを見込んでいるのかもしれません。そこで、なぜ予想を据え置いているのかを決算説明資料などで確認します。

ここで覚えておきたいのが進捗率です。通期営業利益予想が200億円、上期終了時点の営業利益が120億円なら、120÷200×100=60%で、通期予想に対して60%まで進んでいます。

ただし、半年で60%だから年間120%達成するとは限りません。企業には季節性があるからです。例えばインフルエンザ関連商品、花粉症薬、健康診断関連、年度末に需要が集中する事業などでは、売上が季節によって偏る場合があります。そのため「第1四半期で25%なら順調」「50%ならすごい」と単純には判断できません。同じ会社の前年同期の進捗率を見ると理解しやすくなります。

製薬会社では、臨床試験、研究開発、承認申請などによって費用発生時期が変わることがあります。そのため上期は非常に利益が高くても、下期に大型臨床試験費用が発生すると会社が予想していることがあります。医療企業では、年間を通した研究開発スケジュールも利益予想に影響することがあります。

④ 財政状態

次に見るのが会社の財務状態です。ここで第3講、第4講が生きてきます。確認する代表的な数字には、総資産、自己資本、自己資本比率、現金、有利子負債などがあります。

例えば自己資本比率が前年55%から今年45%になっていたらどうでしょうか。「悪化した」だけでは終わらず、なぜ10ポイント低下したのかを調べます。

例えば製薬会社が、有望な新薬候補を持つバイオ企業を3,000億円で買収したとします。その結果、現金減少、借入金増加、自己資本比率低下となる可能性があります。数字だけなら財務状態は悪化したように見えますが、買収した企業から将来どれだけ利益を生み出せるのかによって評価は変わります。第4講で学んだ「借金の額より、何のために借りたのかを見る」という考え方がここで使えます。

⑤ キャッシュ・フロー

第5講で学んだキャッシュ・フローも決算短信で確認します。まず営業CFを見る習慣をつけましょう。

例えば営業利益200億円に対して営業CFが+300億円なら、本業からしっかり現金を生み出している可能性があります。一方、営業利益200億円に対して営業CFが-50億円なら「なぜ?」を確認します。

ここまでくると、決算を少し立体的に読めます。例えば売上+20%、営業利益+30%、営業CF+40%なら、売上も利益も現金も増えており、かなり強い成長に見えます。一方、売上+20%、営業利益+30%、営業CF-50%なら数字の印象が変わり、売掛金や在庫が増えている可能性などを確認したくなります。つまり、一つの数字ではなく数字同士をつなげることが重要です。

ケーススタディ――JMEIメディカルの決算を読む

架空のJMEIメディカルの決算を見てみましょう。売上高は1,500億円から1,800億円、営業利益は150億円から180億円、通期営業利益予想は240億円、上期営業利益は180億円、自己資本比率は60%から48%、営業CFは+250億円。一見すると非常に好調です。JMEI式に順番に見ていきます。

売上は1,500億円から1,800億円で20%増、営業利益も150億円から180億円で20%増です。営業利益率は前年150÷1,500×100=10%、今年180÷1,800×100=10%で変わっていません。つまり、売上・利益は成長していますが利益率は変わっておらず、規模が拡大したことが主な成長要因と考えられます。

通期営業利益予想は240億円で、すでに上期で180億円を稼いでいます。進捗率は180÷240×100=75%と非常に高く見えますが、ここで「上方修正確実」とはまだ判断せず、なぜ会社が240億円予想を維持しているのかを調べます。

自己資本比率は60%から48%へかなり低下しており、ここだけ見れば心配です。しかし会社説明を見ると、海外医療機器企業を買収するため借入金が増加したと書いてありました。では次に、その買収企業は何を持っているのか、買収価格は妥当か、将来利益はどれくらいかを分析します。

営業CFは+250億円で、本業から大きな現金を生み出しています。この数字を見ると、借入金が増えたものの、返済原資となる本業のキャッシュ創出力もあることが分かります。つまり、自己資本比率低下という一つの数字だけでは見えなかった会社の姿が、複数の数字を組み合わせることで見えてきます。

決算短信の「次」に読むもの

決算短信は非常に重要な資料ですが、それだけで企業分析が完了するわけではありません。次に、決算説明資料、適時開示、統合報告書、企業IRなどを確認します。特に、なぜ売上が伸びたのか、なぜ利益率が変化したのか、どの製品が成長したのか、研究開発はどうなっているのかについては、決算説明資料の方が詳しいことがあります。

例えば、ある医療企業の売上が10%増えたとします。しかし内訳を見ると、医療機器事業+30%、医薬品事業-10%、介護事業+2%だったとします。会社全体の+10%だけでは見えないため、どの事業が成長しているのかを見る必要があります。こうした事業ごとの区分をセグメントと呼びます。セグメント分析は今後さらに詳しく学びます。

医療企業では、どの製品が会社を引っ張っているのかも重要です。例えば製薬会社の売上が20%増えていても、1つの新薬だけが+100%でその他の薬は減少していたらどうでしょうか。会社は急成長している一方で、その新薬への依存度が高まっている可能性があります。医療機器でも同様です。企業全体の数字から事業、製品へと少しずつ分解していくことで、より深い分析ができるようになります。

「5分で読む」順番

初心者が決算資料を読めなくなる最大の理由の一つは、全部理解しようとすることです。最初は、売上・利益、前年比、業績予想、財政状態、キャッシュ・フローを見る。慣れてきたら、セグメント、製品別売上、研究開発、海外売上などを追加します。企業分析もスポーツと同じで、少しずつ見る範囲を広げる方が身につきます。

初めて見る企業なら、まず次の順番で確認しましょう。

  1. 1分目に売上高・営業利益を見る
  2. 2分目に前年同期比を見る
  3. 3分目に通期業績予想と進捗率を見る
  4. 4分目に自己資本比率・現金・有利子負債を見る
  5. 5分目に営業キャッシュ・フローを見る

そして最後に一つだけ「この決算で一番気になったことは何か?」を決め、その疑問を次の資料で調べます。これだけで企業分析が始まります。

JMEIの視点

JMEIでは決算短信を「企業の成績表」だけとは考えません。むしろ、企業について新しい疑問を見つける資料と考えます。

売上が伸びた、なぜ? 利益率が上がった、なぜ? 自己資本比率が下がった、なぜ? 営業CFが減った、なぜ? この「なぜ?」を繰り返すことで、企業のビジネスモデルや経営戦略が見えてきます。決算書に書かれている数字は、企業分析のゴールではなく入口なのです。

医療企業の決算を見るときに、一般企業以上に注意したいことがあります。それは「今期の数字」と「未来の医療価値」に時間差があることです。

例えば、製薬会社が研究開発費を大幅に増やせば今期の利益は減るかもしれませんが、その研究から5年後に大きな新薬が生まれる可能性があります。医療機器会社が海外工場を建設すれば現在のキャッシュ・フローは悪化するかもしれませんが、数年後、世界市場で売上を拡大できるかもしれません。

そのためJMEIでは、現在の決算数字だけでなく、「その数字の変化が未来の医療と事業に何を意味するのか」まで考えます。決算を読むということは、過去3か月、6か月の数字を確認するだけではありません。企業が次にどこへ向かおうとしているのかを読み取る作業でもあります。

今回のポイント

決算短信を初めて見るときに、全部読む必要はありません。まずは、売上高と利益、前年同期比、通期業績予想、財政状態、キャッシュ・フローの5か所を見ます。そして数字を見たら「なぜ?」を一つ作る。これが第7講で最も覚えてほしいことです。

これまで学んだ、売上・利益、ROE・ROA、財務、キャッシュ・フロー、PER・PBRという知識を、いよいよ実際の企業資料へ当てはめられる段階に入りました。

今日のチェックテスト

Q1 売上高1,000億円、営業利益100億円です。営業利益率は何%でしょうか。(A.1% B.5% C.10% D.100%)

【答え】C.10%です。100億円÷1,000億円×100=10%です。

Q2 前年売上1,000億円、今年1,200億円です。売上は何%増えたでしょうか。

【答え】20%です。200億円増加しているため、200÷1,000×100=20%です。

Q3 通期営業利益予想200億円に対して、上期営業利益が120億円でした。進捗率は何%でしょうか。

【答え】60%です。120÷200×100=60%です。ただし、進捗率だけで通期利益を単純予想してはいけません。

Q4 売上+20%、営業利益-10%でした。最初に何を確認すべきでしょうか。

【答え】なぜ利益が減ったのかを確認します。原材料費、人件費、研究開発費、先行投資などの可能性があります。

Q5 自己資本比率が60%から40%へ低下しました。すぐに危険な会社と判断してよいでしょうか。

【答え】判断できません。M&Aや設備投資などが原因かもしれないため、低下した理由を確認します。

Q6 営業利益は200億円ですが、営業CFが-50億円でした。何を見るべきでしょうか。

【答え】売掛金や在庫の増加など、利益が現金につながっていない理由を調べます。

ケーススタディ──あなたなら何を調べる?

架空のバイオ企業Aファーマの決算です。売上高+40%、営業利益+60%、通期予想は据え置き、自己資本比率は低下、営業CFはマイナス、株価は決算発表後に下落しました。

数字だけなら非常に好決算に見えます。では、なぜ通期予想を上方修正しなかったのでしょうか。なぜ営業CFはマイナスなのでしょうか。自己資本比率低下の理由は何でしょうか。市場はなぜ株価を下げたのでしょうか。

この4つの疑問が自然に出てくれば、企業分析はかなり進歩しています。企業分析とは、答えを見つける前に、正しい質問を作ることだからです。

次回予告

第8講 決算説明資料はこう読む──「数字の理由」を経営者の説明から探す

決算短信で「売上が20%伸びた」ことは分かりました。しかし、なぜ20%伸びたのでしょうか。どの製品が売れたのか、どの国が伸びたのか、価格が上がったのか、患者数が増えたのか、M&Aの影響なのか。こうした「数字の理由」を理解するために役立つのが決算説明資料です。第8講では、決算説明資料のどこを見るのか、セグメント別売上とは何か、製品別売上をどう読むのか、経営者の説明で何に注意するのか、そして「数字」と「会社のストーリー」が一致しているかをどう確認するのかを学びます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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