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医療企業分析アカデミー

第62講 供給者の交渉力とは何か?――原材料・半導体・医薬品原料は医療企業の利益をどう左右するのか

JMEI 医療企業分析アカデミー 第62講 原材料・半導体・医薬品原料は医療企業の利益をどう左右するのか

はじめに

こんにちは。日本医療企業研究所(JMEI)です。

前回の第61講では、「買い手の交渉力」について学びました。医療企業の利益は、製品を購入する病院や医療機関、卸売業者などとの力関係によって影響を受けます。買い手の交渉力が強ければ、販売価格の引き下げや追加サービスを要求される場合があります。しかし、医療企業の利益を左右するのは、製品を購入する顧客だけではありません。製品を製造するために必要な原材料や部品を供給する企業も、医療企業の収益性に大きな影響を与えます。

例えば、ある医療機器メーカーが、高性能な診断装置を製造しているとします。その装置には、特殊な半導体が使用されています。しかし、その半導体を製造できる企業が世界に2社しか存在しなかったらどうでしょうか。供給企業が価格を20%引き上げた場合、医療機器メーカーは簡単に別の部品へ変更できるでしょうか。あるいは、供給企業の工場が停止し、半導体が入手できなくなった場合、診断装置の製造を続けられるでしょうか。製薬企業でも同じ問題が発生します。医薬品の原薬を特定の企業から調達している場合、その企業の製造設備に問題が発生すれば、医薬品の生産に影響する可能性があります。

ここで重要になるのが、供給者の交渉力(Bargaining Power of Suppliers)という概念です。供給者の交渉力とは、原材料、部品、技術、サービスなどを提供する企業が、購入企業に対して価格や取引条件を有利に設定できる力を意味します。今回は、医療企業の収益性を左右する供給者の交渉力について学びます。さらに、医療機器、製薬、医療DXという異なる事業モデルを比較しながら、供給網の強さを企業分析へどのように活用するのかを考えていきます。

供給者の交渉力とは何か

供給者の交渉力は、経営学者マイケル・ポーターが提唱した「ファイブフォース分析」の5つの競争要因の一つです。企業が事業を行うためには、さまざまな資源が必要です。製造業であれば、原材料や部品。製薬企業であれば、医薬品原料や原薬。医療DX企業であれば、クラウドサービスやソフトウェア開発に必要な技術。こうした資源を外部から調達する場合、企業は供給者との取引関係を持つことになります。

例えば、ある医療機器メーカーが、年間100億円分の電子部品を購入しているとします。その電子部品の価格が10%上昇すれば、購入数量が変わらない場合、調達費用は10億円増加します。医療機器の販売価格を引き上げられなければ、利益が減少する可能性があります。つまり、供給者の交渉力が強い企業から重要な部品を購入している場合、医療機器メーカーの収益性は影響を受けやすくなります。ただし、供給者の交渉力が強いことと、実際に価格が上昇することは同じではありません。長期契約によって価格が固定されている場合もあります。また、供給者が長期的な取引関係を重視し、価格引き上げを控える場合もあります。重要なのは、供給者がどの程度の交渉上の優位性を持っているかを理解することです。

買い手の交渉力との違い

前回学んだ買い手の交渉力と、今回の供給者の交渉力を比較してみましょう。買い手の交渉力が強い場合、企業は販売価格を引き下げるよう要求される可能性があります。一方、供給者の交渉力が強い場合、企業は原材料や部品の購入価格を引き上げられる可能性があります。つまり、企業は両側から利益を圧迫される場合があります。例えば、ある医療機器メーカーを考えます。病院からは、「診断装置の販売価格を下げてください」と要求されます。一方、半導体メーカーからは、「部品価格を引き上げます」と通知されます。この場合、販売価格は下がり、製造費用は上昇します。企業にとって非常に厳しい状況です。企業の利益は、売上高から費用を差し引くことで生まれます。したがって、販売価格と調達費用の両方を分析することが重要です。医療企業の収益性は、顧客に対する価格決定力と、供給者に対する調達交渉力の両方によって影響を受けるのです。

供給者の交渉力を強くする6つの要因

供給者の交渉力は、主に次の6つの要因によって強くなる場合があります。一つ目は、供給企業の数が少ないことです。特定の部品や原材料を製造できる企業が少なければ、購入企業は供給先を選びにくくなります。二つ目は、代替品が存在しないことです。他の部品や原材料へ簡単に変更できなければ、供給者への依存度が高まります。三つ目は、供給先の切り替え費用が高いことです。新しい供給者へ変更するために、製品設計の変更、品質評価、製造工程の検証などが必要な場合、切り替えが難しくなります。

四つ目は、供給者が独自技術を持っていることです。特許や製造ノウハウによって、他社が同じ製品を供給しにくい場合があります。五つ目は、購入企業が供給者にとって重要な顧客ではないことです。供給者の売上高に占める購入企業の割合が小さい場合、購入企業の価格交渉力は弱くなる可能性があります。六つ目は、供給者が完成品市場へ進出できることです。部品メーカーが自ら完成品を製造・販売できる場合、購入企業に対する交渉力が強まる可能性があります。ただし、これらの要因が存在しても、必ず供給者の交渉力が強いとは限りません。実際の交渉力は、需要と供給、契約条件、技術の代替可能性などによって変化します。

医療機器産業では何が重要なのか

医療機器には、さまざまな部品や材料が使用されています。例えば、画像診断装置です。半導体、センサー、電子回路、画像処理部品、電源装置、精密機械部品、ソフトウェア。こうした要素を組み合わせることで、医療機器が製造されます。しかし、すべての部品が同じ重要性を持つわけではありません。一般的な部品であれば、複数の企業から調達できる場合があります。一方、特殊なセンサーや高性能半導体などでは、供給できる企業が限られる場合があります。

ここで重要なのは、部品の価格だけではありません。その部品が入手できなければ、完成品を製造できなくなるかどうかです。例えば、1台1,000万円の医療機器に、価格5万円の特殊部品が使用されているとします。その部品が供給されなければ、1,000万円の医療機器を完成できない可能性があります。部品価格は製品価格の0.5%にすぎません。しかし、その部品が欠けることで製品全体の出荷が止まる場合があります。このように、調達金額が小さくても、事業への影響が非常に大きい部品が存在します。

重要部品と調達金額は必ずしも一致しない

ここで、企業分析に重要な考え方を紹介します。それは、調達金額の大きさと、供給停止による影響の大きさを分けて考えるということです。例えば、ある医療機器メーカーが3種類の部品を購入しているとします。一般的な金属部品は年間調達額が50億円で、供給企業は多数あり、供給が止まっても代替調達は比較的容易です。特殊センサーは年間調達額が10億円で、供給企業は2社であり、供給が止まると製品の生産停止につながる可能性があります。専用半導体は年間調達額が5億円で、供給企業は1社であり、供給が止まると代替設計が必要になる可能性があります。

この場合、調達金額が最も大きいのは金属部品です。しかし、供給網のリスクが最も大きいのは、専用半導体かもしれません。企業分析では、調達金額の大きさだけで重要な供給者を判断してはいけません。部品の代替可能性や、供給停止時の影響を確認する必要があります。

ケーススタディ① 原材料価格が15%上昇したら利益はどうなるか

架空の医療機器メーカー、Medical Device A社を考えます。A社の年間業績は、売上高500億円、売上原価300億円、売上総利益200億円、売上総利益率40%です。売上原価300億円のうち、原材料・部品の購入費用が120億円を占めています。ここで、原材料・部品の購入価格が平均15%上昇したとします。購入数量は変わらないと仮定します。追加費用は、120億円×15%=18億円です。したがって、売上原価は、300億円+18億円=318億円となります。売上高が500億円のままであれば、売上総利益は、500億円-318億円=182億円です。売上総利益率は、182億円÷500億円×100=36.4%となります。

比較してみましょう。価格上昇前は、売上高500億円、売上原価300億円、売上総利益200億円、売上総利益率40.0%でした。価格上昇後は、売上高500億円、売上原価318億円、売上総利益182億円、売上総利益率36.4%です。原材料価格が15%上昇した結果、売上総利益率は3.6ポイント低下しました。ここで重要なのは、原材料価格の上昇率と利益率の低下幅が同じではないことです。原材料が売上原価全体のどれくらいを占めているかによって、影響は異なります。

価格転嫁とは何か

原材料価格が上昇した場合、企業にはいくつかの対応方法があります。その一つが、価格転嫁(Cost Pass-through)です。価格転嫁とは、原材料費や人件費などの費用上昇を、製品やサービスの販売価格へ反映することです。例えば、原材料費が10%上昇した場合、医療機器メーカーが製品価格を引き上げることで、利益率の低下を抑えられる可能性があります。しかし、医療産業では価格転嫁が簡単ではない場合があります。病院の予算には制約があります。競合製品との価格競争もあります。さらに、製品によっては公的な保険償還制度の影響を受けます。そのため、原材料価格が上昇しても、販売価格を十分に引き上げられない場合があります。企業分析では、原材料価格の変化だけでなく、価格転嫁能力を確認する必要があります。

ケーススタディ② 原材料費の上昇をどこまで価格転嫁できるか

先ほどのMedical Device A社を使って考えましょう。原材料費の上昇によって、年間18億円の追加費用が発生しました。A社は顧客との交渉によって、この追加費用の50%を販売価格へ転嫁できたとします。価格転嫁額は、18億円×50%=9億円です。販売数量が変わらないと仮定すると、売上高は、500億円+9億円=509億円となります。売上原価は318億円です。したがって、売上総利益は、509億円-318億円=191億円となります。売上総利益率は、191億円÷509億円×100=約37.5%です。

価格転嫁をしなかった場合の売上総利益率は36.4%でした。価格転嫁によって利益率の低下を一部抑えることができました。ただし、原材料価格上昇前の40%には戻っていません。また、実際には値上げによって販売数量が減少する可能性があります。したがって、価格転嫁の効果を分析するときには、販売数量への影響も確認する必要があります。

供給者の交渉力と価格決定力は表裏一体

ここで、前回学んだ買い手の交渉力との関係を考えましょう。ある医療機器メーカーが、供給者から原材料価格の引き上げを要求されたとします。その企業が強い価格決定力を持っていれば、費用上昇の一部を販売価格へ転嫁できるかもしれません。しかし、病院や医療機関の交渉力が強ければ、価格転嫁は難しくなる可能性があります。つまり、企業の利益率は、供給者からどのような価格で購入できるか、顧客へどのような価格で販売できるかという2つの関係によって影響を受けます。この関係を理解することは、医療企業の収益性を分析するうえで重要です。

製薬企業では原薬の供給が重要

次に、製薬企業について考えましょう。製薬企業が医薬品を製造するためには、原薬や添加剤、包装材料などが必要です。原薬とは、医薬品の有効成分となる物質です。英語では、API(Active Pharmaceutical Ingredient)と呼ばれます。原薬は、医薬品の品質や安定供給に直接関係する重要な材料です。製薬企業が原薬を外部企業から購入している場合、その供給者との関係が重要になります。例えば、ある医薬品の原薬を製造できる企業が限られている場合、供給者が強い交渉力を持つ可能性があります。さらに、原薬の製造には品質管理や製造管理が求められます。そのため、価格が安いという理由だけで、簡単に別の供給者へ変更できるとは限りません。

医薬品では供給先の変更が難しい理由

医薬品では、品質の一貫性が重要です。例えば、ある製薬企業がA社から原薬を購入しているとします。ところが、B社がA社より20%安い価格を提示しました。製薬企業は、すぐにB社へ変更できるでしょうか。必ずしもそうではありません。新しい原薬供給者について、品質や製造工程を評価する必要があります。また、製品や変更内容によっては、製造販売承認に関係する変更手続きなどが必要になる場合があります。具体的には、原薬の品質確認、不純物プロファイルの評価、製造工程への影響確認、製剤の品質への影響確認、供給者の品質管理体制の評価、必要な規制手続きなどが考えられます。こうした対応には、時間と費用がかかります。したがって、原薬の供給先変更には一定のスイッチングコストが存在する場合があります。これは、既存の原薬供給者にとって交渉上の優位性につながる可能性があります。

ケーススタディ③ 安い原薬供給者へ変更すべきか

架空の製薬企業、Pharma B社を考えます。B社は、ある医薬品の原薬を年間20億円購入しています。現在の供給者はA社です。新しい供給者C社から、15%安い価格で供給できるという提案がありました。年間の購入費用削減額は、20億円×15%=3億円です。一見すると、C社へ変更する方が有利に見えます。しかし、変更には追加費用が必要です。品質評価費用が5,000万円、製造工程の検証費用が8,000万円、関連する文書整備・規制対応費用が2,000万円で、合計1億5,000万円です。仮に変更後も年間3億円の費用削減効果が継続するとします。この場合、単純計算では、初年度に費用削減効果が追加費用を上回る可能性があります。

しかし、実際にはさらに検討が必要です。新しい供給者は安定供給できるのか。品質上の問題が発生する可能性はないか。変更に必要な期間はどれくらいか。既存の製造工程に影響はないか。供給停止による損失はどれくらいか。これらを考慮する必要があります。医薬品では、調達価格の安さだけで供給者を選ぶことはできません。品質、安定供給、規制対応を含めた総合的な評価が必要です。

単一供給先への依存とは何か

供給網を分析するときに重要なのが、Single Sourcing(単一供給先調達)という考え方です。これは、特定の原材料や部品を、原則として1つの供給者から調達する方法です。単一供給先調達には利点があります。大量購入によって価格交渉が有利になる場合があります。品質管理や取引管理を集約できます。供給者との長期的な協力関係を構築しやすくなる可能性もあります。しかし、問題もあります。供給者の工場が停止した場合、代替調達が難しくなる可能性があります。また、供給者が価格を引き上げた場合、他社へ変更しにくいことがあります。そのため、単一供給先への依存度が高い企業では、供給者の交渉力が強くなる可能性があります。ただし、単一供給先調達が必ず悪いわけではありません。高品質な製品を安定的に供給できる企業との長期契約が、競争優位につながる場合もあります。

複数調達先の確保は万能ではない

単一供給先への依存を減らす方法として、Dual Sourcing(複数供給先調達の一形態)があります。これは、同じ部品や原材料について、2つの供給者を確保する方法です。例えば、ある医療機器メーカーが特殊センサーをA社から100%購入していたとします。新たにB社を供給者として採用し、A社70%、B社30%という調達構造に変更しました。これにより、A社の供給が停止しても、B社から一部の部品を調達できる可能性があります。ただし、B社がすぐに必要数量を増産できるとは限りません。また、供給者を増やすことで、品質管理や物流管理の負担が増える場合があります。さらに、購入数量が分散することで、単価が上昇する可能性もあります。したがって、複数調達先の確保には、費用と安定供給のバランスが必要です。

供給者集中度をどう分析するか

前回は、顧客集中度について学びました。今回は、その反対側にある供給者集中度を考えます。供給者集中度とは、企業の調達額が特定の供給者にどれくらい依存しているかを示す考え方です。例えば、ある医療機器メーカーの年間部品調達額が200億円だったとします。そのうち、A社からの購入額が100億円です。この場合、A社への調達依存度は、100億円÷200億円×100=50%です。ただし、企業全体の調達額に占める割合だけでは十分ではありません。特定の重要部品について、1社に100%依存している場合もあります。したがって、供給者集中度は、企業全体の調達集中度と、重要部品ごとの調達集中度という2つの視点から分析する必要があります。

供給者の交渉力と供給停止リスクは同じではない

ここで、重要な違いを整理します。供給者の交渉力とは、供給者が価格や取引条件を有利に設定できる力です。一方、供給停止リスクとは、必要な原材料や部品が入手できなくなる可能性です。両者は関係していますが、同じではありません。例えば、ある部品を多数の企業が供給している場合、個々の供給者の交渉力は弱いかもしれません。しかし、複数の供給企業が同じ地域に集中していれば、自然災害によって同時に供給が停止する可能性があります。反対に、供給者が1社しか存在しなくても、長期契約によって価格や供給数量が安定している場合があります。したがって、企業分析では、供給者の交渉力と、供給網の安定性を分けて評価する必要があります。

在庫を増やせば安全になるのか

供給停止に備える方法の一つが、在庫の確保です。例えば、ある医療機器メーカーが特殊部品を毎月1,000個使用しているとします。通常は1か月分の安全在庫を保有しています。つまり、1,000個です。ここで、供給停止リスクが高まったため、安全在庫を3か月分へ増やすことにしました。必要な安全在庫は3,000個になります。追加で必要な在庫は、3,000個-1,000個=2,000個です。部品1個の購入価格が20万円だった場合、追加在庫の取得費用は、2,000個×20万円=4億円となります。供給停止に備えるために、4億円の資金が追加で在庫に固定されることになります。在庫を増やせば、短期的な供給停止への対応力が高まる可能性があります。しかし、資金負担も増加します。

在庫増加はキャッシュフローに影響する

先ほどのケースをさらに考えてみましょう。追加在庫は4億円です。仮に、この追加在庫を保有することによる年間の資金調達費用や保管費用などが、在庫金額の8%に相当するとします。年間費用は、4億円×8%=3,200万円です。つまり、供給停止に備えるために、年間3,200万円の追加負担が生じる計算になります。もちろん、実際の費用は資金調達条件、保管方法、在庫の陳腐化リスクなどによって異なります。また、在庫を増やしても、長期間の供給停止に対応できるとは限りません。したがって、在庫戦略では、供給停止による損失、追加在庫の費用、部品の使用期限や陳腐化リスク、代替供給先の有無を比較する必要があります。これは、企業の運転資金管理とも関係します。

供給者の交渉力とROIC

ここで、資本効率との関係を考えましょう。ROICは、投下資本に対してどれくらいの税引後営業利益を生み出しているかを示す指標です。基本的には、ROIC=税引後営業利益(NOPAT)÷投下資本×100で計算します。供給者の交渉力が強い場合、企業には次のような影響が生じる可能性があります。原材料費の上昇によって利益が減少する。供給停止に備えて在庫が増加する。供給先変更のために追加投資が必要になる。長期契約によって前払金が必要になる。これらは、ROICの分子である利益、または分母である投下資本に影響する可能性があります。例えば、原材料価格の上昇によって利益が減少し、同時に在庫増加によって投下資本が増えた場合、ROICは低下する可能性があります。つまり、供給者の交渉力は、営業利益率だけでなく、資本効率にも関係するのです。

垂直統合とは何か

供給者への依存を減らす方法として、垂直統合(Vertical Integration)があります。垂直統合とは、企業が製品の製造や販売に関係する複数の工程を、自社グループ内で担うことです。例えば、ある医療機器メーカーが、これまで外部企業から購入していた重要部品を自社で製造するようになった場合です。これを上流方向への垂直統合と考えることができます。自社製造によって、外部供給者への依存を減らせる可能性があります。また、部品開発と完成品開発を一体化することで、技術的な競争優位が生まれる場合もあります。しかし、垂直統合には問題もあります。工場の建設費用が必要です。製造技術の開発が必要です。品質管理体制も整備しなければなりません。さらに、自社で製造する方が外部から購入するより高くなる可能性もあります。したがって、垂直統合が必ず優れた戦略とは限りません。

ケーススタディ④ 部品を自社製造すべきか

架空の医療機器メーカー、Medical Technology C社を考えます。C社は、特殊センサーを外部企業から購入しています。年間購入費用は30億円です。C社は、このセンサーを自社製造することを検討しています。自社製造へ変更した場合、年間の製造費用は22億円になると見込まれています。ただし、工場や製造設備への初期投資が40億円必要です。年間の費用削減額は、30億円-22億円=8億円です。単純な投資回収期間は、40億円÷8億円=5年となります。一見すると、5年間で投資を回収できる計算です。

しかし、実際にはさらに検討が必要です。設備の減価償却、設備維持費用、研究開発費、品質管理費用、生産数量の変化、技術の陳腐化、将来の設備更新費用。こうした要因によって、実際の経済性は変わります。また、自社製造によって供給の安定性が高まる可能性がある一方、自社工場が停止した場合には別のリスクが生じます。したがって、垂直統合を評価するときには、単純な費用削減だけでなく、資本効率と供給網の安定性を考える必要があります。

医療DX企業にも供給者は存在する

ここまで、医療機器と製薬企業を中心に考えてきました。しかし、供給者の交渉力は医療DX企業にも関係します。例えば、電子カルテや医療AIシステムを提供する企業です。これらの企業は、クラウドインフラ、データセンター、通信サービス、AIモデルやソフトウェア基盤、外部開発サービスといった外部サービスを利用する場合があります。例えば、ある医療AI企業が、特定のクラウドサービスに強く依存しているとします。クラウドサービスの利用料金が上昇した場合、医療AI企業の費用が増加する可能性があります。また、別のクラウドへ移行するには、システム設計の変更やセキュリティ評価、動作検証などが必要になる場合があります。つまり、医療DX企業でも、供給者の交渉力やスイッチングコストが重要になります。

医療AI企業では計算資源も重要になる

医療AI企業では、AIモデルの開発や運用に計算資源が必要になる場合があります。例えば、画像診断支援AIを開発する企業です。AIモデルの学習には、高性能な計算設備が必要になることがあります。また、AIサービスの提供方法によっては、推論処理にも継続的な計算費用が発生します。この場合、クラウドサービスや計算基盤の価格が、企業の収益性に影響する可能性があります。ただし、医療AI企業のすべてが同じ費用構造を持つわけではありません。自社設備を利用する企業もあります。外部クラウドを利用する企業もあります。医療機関側の設備でAIを実行する製品もあります。そのため、医療AI企業を分析するときには、実際のシステム構成と費用構造を確認する必要があります。重要なのは、医療AI企業の競争力は、AIの性能だけでなく、そのAIをどれくらい効率的な費用で提供できるかにも関係するということです。

供給者の交渉力を決算資料からどう読み取るか

ここからは、実際の企業分析に近づけていきましょう。供給者の交渉力を調べる際には、企業の決算資料や有価証券報告書などを確認します。ただし、すべての企業が主要供給者や調達価格を詳細に公表しているわけではありません。そのため、複数の情報を組み合わせて分析する必要があります。

一つ目は売上総利益率です。原材料価格の上昇が、売上総利益率に影響している可能性があります。ただし、製品構成や販売価格なども影響するため、利益率の変化だけで原材料費の影響を断定してはいけません。二つ目は棚卸資産です。在庫が大きく増加している場合、供給停止への備えや需要予測の変化などが考えられます。一方、売れ残りによって在庫が増加している可能性もあります。三つ目は仕入債務です。買掛金などの仕入債務は、供給者との支払条件に関係します。ただし、仕入債務の増減には購入数量や会計上の要因も影響します。

四つ目は事業等のリスクです。特定の原材料や部品への依存、供給停止リスクなどが記載されている場合があります。五つ目は経営者による業績説明です。原材料価格の上昇や調達費用の変化について説明されている場合があります。六つ目は設備投資です。重要部品の内製化や供給網の強化を目的とした設備投資が行われている場合があります。こうした情報を組み合わせることで、供給者との関係を分析する手がかりが得られます。

供給者の交渉力を評価する際の注意点

供給者の交渉力が強い市場では、購入企業の利益率が圧迫される可能性があります。しかし、供給者との関係を単純な対立関係として考えるべきではありません。医療産業では、供給者との長期的な協力が競争優位につながる場合があります。例えば、医療機器メーカーとセンサーメーカーが共同開発を行う場合です。両社が協力することで、より高性能な医療機器を開発できる可能性があります。また、製薬企業と原薬メーカーが長期的な品質改善に取り組むことで、安定供給や製造効率の向上につながる場合があります。つまり、供給者は単なる費用の発生源ではありません。企業の技術力や品質を支える重要なパートナーでもあります。JMEIでは、供給者の交渉力を分析するとき、調達価格だけでなく、技術協力や品質管理、供給の安定性も重視します。

総合ケーススタディ――3つの医療企業を比較する

ここでは、3つの架空企業を比較します。Medical Device D社は、一般的な医療材料を製造しています。売上高は500億円、営業利益率は12%です。主要原材料は複数企業から調達しています。原材料の代替可能性は比較的高く、特定供給者への依存度は低い状況です。ただし、原材料価格の変動によって利益率が影響を受ける場合があります。

Medical Technology E社は、高度な診断機器を製造しています。売上高は500億円、営業利益率は20%です。特殊センサーを特定企業から調達しています。そのセンサーは製品性能に重要な役割を果たしています。供給者の数は少なく、供給先の変更には設計変更や品質評価が必要です。そのため、供給者の交渉力が強くなる可能性があります。

Pharma F社は、医薬品を製造しています。売上高は800億円、営業利益率は15%です。主要製品の原薬を複数企業から調達しています。ただし、供給者変更には品質評価や必要な規制対応が伴います。また、原薬の安定供給が重要な経営課題となっています。

この3社を比較すると、どうでしょうか。D社は、供給者の選択肢が比較的多く、調達交渉力を確保しやすい可能性があります。E社は、高い利益率を持つ一方、特定部品への依存が事業リスクとなる可能性があります。F社は、複数調達先を確保していますが、医薬品特有の品質管理や規制対応が必要です。ここで重要なのは、営業利益率だけで供給網の強さを判断できないということです。利益率が高い企業でも、供給停止によって大きな損失が発生する可能性があります。反対に、利益率がそれほど高くない企業でも、安定した供給網を持っている場合があります。したがって、企業分析では、収益性、調達構造、供給者への依存度、供給停止リスク、資本効率を組み合わせて評価する必要があります。

JMEI式「供給者の交渉力分析の15の質問」

医療企業を分析するときには、次の15項目を確認してみましょう。1つ目は、この企業の主要な原材料や部品は何か。2つ目は、重要な部品を供給できる企業は何社あるか。3つ目は、特定の供給者への依存度は高いか。4つ目は、代替できない部品や原材料は存在するか。5つ目は、供給先を変更するために、どれくらいの費用と時間が必要か。

6つ目は、供給者は独自技術や特許を持っているか。7つ目は、供給者の製造能力は十分か。8つ目は、原材料価格の上昇が利益率にどの程度影響するか。9つ目は、費用上昇を販売価格へ転嫁できるか。10個目は、長期契約によって価格や供給数量を安定させているか。

11個目は、複数の調達先を確保しているか。12個目は、供給停止に備えた在庫戦略は適切か。13個目は、供給網の強化によって運転資金が増加していないか。14個目は、重要部品の内製化を進める必要があるか。15個目は、5年後、10年後も安定した供給網を維持できる可能性があるか。これらの質問を通じて、企業の製造費用だけでなく、供給網の競争力を理解することができます。

練習問題

問題1

供給者の交渉力とは何でしょうか。

【答え】原材料、部品、技術、サービスなどを提供する企業が、購入企業に対して価格や取引条件を有利に設定できる力です。

問題2

供給者の交渉力が強くなる要因を3つ挙げてください。

【答え】例えば、供給企業の数が少ないこと、代替品が存在しないこと、供給先の切り替え費用が高いこと、の3つです。

問題3

ある医療機器メーカーの年間原材料購入費用は100億円です。原材料価格が10%上昇した場合、購入数量が変わらなければ、追加費用はいくらになりますか。

【答え】10億円です。100億円×10%=10億円。

問題4

ある医療機器メーカーの売上高は500億円、売上原価は300億円です。原材料価格の上昇によって売上原価が20億円増加しました。売上高が変わらない場合、売上総利益はいくらになりますか。

【答え】180億円です。500億円-320億円=180億円。

問題5

問題4の条件で、売上総利益率はいくらになりますか。

【答え】36%です。180億円÷500億円×100=36%。

問題6

ある製薬企業が原薬を年間40億円購入しています。新しい供給者へ変更すると、購入価格が10%下がります。年間の購入費用削減額はいくらになりますか。

【答え】4億円です。40億円×10%=4億円。ただし、実際には供給先変更に伴う費用や品質管理上の対応を考慮する必要があります。

問題7

Single Sourcingとは何でしょうか。

【答え】特定の原材料や部品を、原則として1つの供給者から調達する方法です。

問題8

Dual Sourcingにはどのような利点がありますか。

【答え】複数の供給者を確保することで、特定供給者への依存を減らし、供給停止リスクを軽減できる可能性があります。ただし、供給能力や品質管理などの条件によって効果は異なります。

問題9

ある医療機器メーカーが、1個10万円の部品を追加で3,000個在庫として保有することにしました。追加在庫の取得費用はいくらでしょうか。

【答え】3億円です。10万円×3,000個=3億円。

問題10

垂直統合とは何でしょうか。

【答え】企業が製品の製造や販売に関係する複数の工程を、自社グループ内で担うことです。例えば、医療機器メーカーが重要部品を自社製造する場合などが該当します。

問題11

供給者の交渉力が強い場合、ROICにどのような影響が生じる可能性がありますか。

【答え】原材料価格の上昇によって利益が減少したり、在庫増加によって投下資本が増えたりすることで、ROICが低下する可能性があります。

問題12

供給者の交渉力と供給停止リスクは同じでしょうか。

【答え】同じではありません。供給者の交渉力は、価格や取引条件を有利に設定できる力です。供給停止リスクは、必要な原材料や部品が入手できなくなる可能性です。両者は関係していますが、区別して分析する必要があります。

JMEIの視点

JMEIでは、供給者の交渉力を医療企業の競争優位を理解するための重要な要素として位置づけています。しかし、医療産業における供給者の交渉力は、一般的な製造業とは異なる特徴があります。その理由は、医療製品では品質と安定供給が特に重要だからです。例えば、ある医療機器メーカーが特殊センサーを外部企業から購入しているとします。そのセンサーの価格が高い場合、メーカーは安い供給者へ変更したいと考えるかもしれません。しかし、新しいセンサーが医療機器の性能や安全性に影響する場合、簡単に変更できません。また、製薬企業では、原薬の品質や製造工程が医薬品の品質に関係します。そのため、調達価格だけを重視した供給先変更は、必ずしも適切ではありません。ここに、医療企業の供給網分析の難しさがあります。

JMEIでは、供給者の交渉力を次の4つの視点から分析します。第一の視点は調達価格で、原材料や部品を、どのような価格で購入しているのか、価格上昇が利益率にどの程度影響するのかを見ます。第二の視点は供給の安定性で、必要な原材料や部品を、安定して調達できるのか、供給停止に備えた体制は整っているのかを見ます。第三の視点は技術と品質で、供給者は独自技術を持っているのか、供給者との協力関係が、製品の品質や性能向上につながっているのかを見ます。第四の視点は資本効率で、在庫の増加や内製化によって、投下資本が増えていないか、供給網の強化が、長期的な収益性につながっているかを見ます。この4つを組み合わせることで、調達費用だけでは分からない企業の競争力を理解できます。

さらに、医療産業では、供給網の安定性が社会的な価値を持ちます。例えば、医薬品の供給が停止すれば、患者の治療に影響する可能性があります。医療機器の部品が不足すれば、医療機関への製品供給や保守に影響する場合があります。つまり、医療企業の供給網は、企業の利益だけでなく、医療提供体制にも関係しています。JMEIでは、供給者との関係を単なる費用削減の問題としてではなく、企業の競争力と医療の安定供給を両立させるための重要な経営課題として考えます。

医療企業の本当の供給網の強さは、最も安く調達できることではなく、必要な品質と数量を持続的に確保できることにある

医療企業を分析するとき、原材料費の削減は重要な経営課題です。同じ品質の原材料を安く購入できれば、製造費用を削減できる可能性があります。しかし、医療産業では、調達価格の安さだけで供給網の強さを判断することはできません。例えば、ある製薬企業が、原薬を非常に安い価格で購入できる供給者を見つけたとします。その供給者へ調達を集中させることで、年間10億円の費用削減が可能になりました。一見すると、優れた経営判断に見えます。しかし、その供給者の工場が停止した場合はどうでしょうか。原薬が入手できなくなれば、医薬品の製造に影響する可能性があります。また、代替供給者を確保するために、品質評価や必要な規制対応が必要になる場合があります。その間、医薬品の供給が制限される可能性もあります。この場合、年間10億円の費用削減と引き換えに、大きな供給停止リスクを抱えていたことになります。

もちろん、費用削減額と供給停止リスクを単純に比較することはできません。供給停止の発生確率、供給停止期間、代替供給の可能性、在庫の保有状況、患者への影響。こうした要因を考慮する必要があります。しかし、ここから重要なことが分かります。調達価格の最小化と、企業価値の最大化は、必ずしも一致しないのです。医療企業では、原材料費を削減することが短期的な利益率改善につながる場合があります。一方、安定供給のために複数の供給者を確保したり、一定の在庫を保有したりすることが、長期的な競争力につながる場合があります。つまり、供給網の強さは、調達費用と供給の安定性をどのように両立させているかによって評価する必要があります。

ここで、もう一つ重要な視点があります。それは、供給者との技術的な関係です。例えば、ある医療機器メーカーが特殊センサーを使用しているとします。そのセンサーは、医療機器の性能を左右する重要な部品です。供給者が高度な技術を持っている場合、医療機器メーカーはその技術に依存する可能性があります。しかし、両社が長期的に共同開発を行えば、新しい製品性能を実現できる可能性もあります。つまり、供給者の技術力は、購入企業にとって依存リスクであると同時に、競争優位の源泉にもなり得ます。ここに、医療企業の供給網分析の重要な特徴があります。供給者との関係を、単純に強いか弱いかだけで評価してはいけません。供給者との関係が、どのような価値を生み出しているかを確認する必要があります。

さらに、医療企業では、供給網の強化が資本効率に影響します。例えば、供給停止に備えて在庫を増やせば、運転資金が増加します。重要部品を内製化すれば、設備投資が増加する場合があります。こうした対応は、短期的にはROICを低下させる可能性があります。しかし、供給停止による損失を回避できれば、長期的な利益の安定性に貢献する場合があります。したがって、ROICの高さだけを追求して、必要な在庫や設備投資を削減することが、必ずしも優れた経営判断とは限りません。重要なのは、資本効率と事業継続性のバランスです。

JMEIでは、医療企業の供給網を分析するとき、次の3つの問いを重視します。第一に、この企業は、どの供給者に、どれくらい依存しているのか。第二に、その供給者との関係は、企業の利益率や技術的競争優位にどのような影響を与えているのか。第三に、その供給者からの供給が停止した場合、企業は事業を継続できるのか。この3つの問いによって、単純な原材料費の分析から、企業の長期的な競争力の分析へ進むことができます。

また、医療企業では、供給網の安定性が医療現場への価値提供にも関係します。例えば、医療機器メーカーが安定した部品供給を確保していれば、製品の供給だけでなく、修理や保守サービスの継続にも役立つ可能性があります。製薬企業が安定した原薬供給を確保していれば、医薬品の継続的な製造に貢献できます。このように、供給網の強さは、医療企業の収益性だけでなく、医療の継続性にも関係しています。JMEIでは、医療企業の供給網を、調達費用、供給者集中度、代替可能性、品質管理、技術的な協力関係、供給停止への対応力、資本効率という複数の視点から評価します。そして、最終的には、その供給網が持続的な利益と医療価値を生み出しているかを確認します。

本当に強い医療企業とは、最も安い原材料を購入できる企業ではありません。必要な品質と数量を安定して確保し、それを競争力のある製品と持続的な利益へ変えることができる企業です。さらに、技術革新や供給環境の変化に対応しながら、供給網を改善し続けられる企業です。供給者の交渉力を分析する目的は、単に原材料費が高いか安いかを調べることではありません。その企業が、どのような供給網によって事業を支え、どのようなリスクを抱え、将来も安定して医療価値を提供できるのかを理解することです。これが、JMEIの供給網分析の基本的な考え方です。

今回のポイント

第62講で最も覚えてほしいのは、「供給者の交渉力は、医療企業の利益率だけでなく、安定供給と資本効率にも影響する重要な競争要因である」ということです。供給者の交渉力とは、原材料や部品などを提供する企業が、購入企業に対して価格や取引条件を有利に設定できる力です。供給者の交渉力が強くなる要因には、供給企業の数が少ないこと、代替品が存在しないこと、供給先の切り替え費用が高いこと、供給者が独自技術を持っていること、購入企業の交渉力が弱いことなどがあります。

医療機器では、特殊な半導体やセンサーなどが重要になる場合があります。製薬企業では、原薬の品質と安定供給が重要です。医療DX企業では、クラウドサービスや計算基盤などへの依存が重要になる場合があります。また、原材料価格が上昇した場合、その影響を販売価格へ転嫁できるかどうかが収益性を左右します。ただし、医療産業では、病院の購買力や公的制度などによって、価格転嫁が難しい場合があります。さらに、供給停止に備えるためには、複数調達先の確保や在庫の増加、内製化などが考えられます。しかし、これらの対応には費用や投資が必要です。したがって、供給網を分析するときには、調達費用、供給の安定性、品質、資本効率を組み合わせて評価することが重要です。

最後に、次の3つの問いを覚えておきましょう。「この医療企業は、どの供給者に依存しているのか」。「供給者との力関係は、利益率や資本効率にどのような影響を与えているのか」。「その供給者からの供給が停止しても、事業を継続できるのか」。この3つの問いによって、決算書の数字だけでは分からない、医療企業の供給網の強さが見えてきます。

次回予告

第63講 代替品の脅威とは何か?――新しい医療技術は既存企業の市場をどう変えるのか

今回は、供給者の交渉力について学びました。医療企業の収益性は、原材料や部品を供給する企業との力関係によって影響を受けます。しかし、企業の競争環境を変えるのは、顧客や供給者だけではありません。まったく異なる技術や治療法が登場することで、既存の製品市場そのものが変化する場合があります。

例えば、ある医療機器メーカーが、特定の診断装置市場で高いシェアを持っているとします。しかし、新しい診断技術が登場し、従来の装置を使用しなくても同じ臨床上の目的を達成できるようになったらどうでしょうか。既存企業の市場シェアが高くても、市場全体が縮小する可能性があります。製薬企業でも同様です。新しい作用機序を持つ医薬品、遺伝子治療、細胞治療、医療機器を用いた治療。こうした技術が登場することで、従来の治療市場が変化する可能性があります。また、医療DXでは、新しいソフトウェアやAI技術によって、既存の業務システムが代替される場合があります。このような競争要因を、代替品の脅威(Threat of Substitutes)と呼びます。

次回は、医療企業の長期的な競争力を考えるうえで重要な、代替品の脅威について学びます。特に、代替品と競合製品の違い、新しい医療技術による市場構造の変化、医薬品と新しい治療法の関係、医療機器の技術革新、医療AIによる既存業務の変化、代替技術の普及速度、既存企業が代替技術へ対応する方法、市場シェアが高い企業でも競争優位を失う理由について考えます。さらに、既存市場で高いシェアを持つ企業が、新しい医療技術の登場によってどのような影響を受けるのか、ケーススタディを通して学びます。第63講では、「この医療企業の製品やサービスは、将来、まったく異なる技術によって代替される可能性があるのか」という問いから、医療企業の長期的な競争優位と技術革新への対応力を読み解いていきます。

JMEI|日本医療企業研究所 医療を変える企業と技術を読み解く。

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