JMEI 医療企業分析アカデミー 第37講 「何年分の利益を買っているのか」から医療企業の株価を見る
第36講では、DCFについて学びました。DCFとは、Discounted Cash Flow、日本語では割引キャッシュフロー法です。企業が将来生み出すFCFを予測し、それをWACCで現在価値へ割り引くことで企業価値を考えました。DCFは非常に重要な企業価値評価法です。しかし、実際に企業を毎日見ていると、もっと簡単に株価の水準を確認したいという場面が数多くあります。そこで最もよく使われる指標の一つが、PERです。PER10倍、PER20倍、PER50倍。「この会社はPERが低いから割安だ」「成長株だからPERが高い」といった表現を見たことがあるでしょう。ところが、PERには大きな落とし穴があります。PER10倍だから安い、PER50倍だから高いとは限りません。特に医療企業では、特許切れ、新薬承認、臨床試験、新製品、薬価改定、M&A、研究開発などによって利益が大きく変化します。
例えば、現在PER8倍の製薬企業があったとします。一見、とても安く見えます。しかし、2年後に売上3,000億円の主力薬が特許切れならどうでしょうか。現在の利益が維持できないため、市場が低PERを付けている可能性があります。逆にPER40倍の医療機器企業。一見、高く見えます。しかし、売上+20%、EPS+25%、ROIC18%、巨大な成長市場という企業なら、現在利益だけで判断するのは適切ではないかもしれません。つまりPERを見るときに重要なのは、「何倍か」ではありません。「なぜ、そのPERなのか」です。第37講では、PERとは何か、EPSとの関係、PER10倍とは何を意味するのか、実績PERと予想PERの違い、高PER企業はなぜ高いのか、低PER企業はなぜ低いのか、特許切れ製薬企業のPERをどう見るのか、赤字バイオ企業でPERが使えない理由、DCFとPERはどうつながるのか、そして「安い株」と「安く見える株」は何が違うのかを、医療企業のバリュエーションを読む基礎として学んでいきます。
PERとEPSの基本
PERは、Price Earnings Ratioの略です。日本語では、株価収益率と呼ばれます。基本式は、PER=株価÷1株当たり利益(EPS)です。EPSは、Earnings Per Shareの略です。日本語では、1株当たり利益です。企業の純利益を発行株式数で割って計算します。EPS=純利益÷発行済株式数です。簡単な例で確認しましょう。純利益100億円、発行株式数1億株なら、EPSは100円です。株価が2,000円なら、PERは、2,000円÷100円=20倍。したがって、PER20倍です。
PER20倍とは何を意味するのでしょうか。非常に単純化すると、「現在の年間利益の20倍の価格で株式が評価されている」ということです。初心者は「利益何年分」と考えると分かりやすいでしょう。EPS100円、株価1,000円、PER10倍なら現在利益10年分。株価2,000円、PER20倍なら現在利益20年分。株価5,000円、PER50倍なら現在利益50年分というイメージです。ただし「20年で元が取れる」という意味ではありません。ここは重要です。PER20倍だから、20年間持てば投資資金を回収できるという意味ではありません。利益は、増える、減る、配当される、再投資されることがあります。PERはあくまで、現在または予想される利益と株価の関係を見る指標です。
PERは、時価総額÷純利益でも考えられます。例えば、時価総額5,000億円、純利益250億円なら、5,000÷250=20倍。株価÷EPS、時価総額÷純利益、どちらも基本的には同じ考え方です。なぜPERが便利なのでしょうか。企業規模が違っても、利益に対して何倍で評価されているかを比較できるからです。
2つの医療企業を比較してみましょう。A Pharmaは、株価3,000円、EPS300円。B Medicalは、株価5,000円、EPS100円。株価だけを見ると、B社5,000円、A社3,000円で、B社の方が高い株に見えます。しかしPERを計算すると、A社は、3,000÷300=10倍。B社は、5,000÷100=50倍。意味が変わります。A社は利益の10倍、B社は利益の50倍。株価そのものではなく、利益との関係を見ることができます。
低PERと高PERの落とし穴
ではPER10倍は割安でしょうか。ここがPER分析の最初の落とし穴です。答えは、分かりません。なぜなら、PERが低い理由があるかもしれないからです。例えば、利益減少予想、特許切れ、市場縮小、訴訟、競争激化、財務悪化などです。PER50倍は割高でしょうか。これも、PERだけでは分かりません。高PERには理由があります。高成長、高ROIC、高い競争優位、巨大市場、高い利益成長期待などを市場が評価している可能性があります。PERは「期待」の指標でもあります。PERは単なる利益倍率ではありません。市場が、企業の未来にどれくらい期待しているかを反映することがあります。
低PER製薬企業のケースを見てみましょう。JMEI Pharma Aは、株価2,000円、EPS250円、PER8倍。非常に安く見えます。一般的な感覚では、PER8倍は低い水準です。しかし主力薬を見ると、主力薬Xが年間売上4,000億円、全社利益の50%を生んでいます。そして2年後に特許切れ。市場は現在EPS250円ではなく、3年後EPS120円を見ている可能性があります。3年後利益で考えると、現在株価2,000円÷将来EPS120円=約16.7倍。見え方が変わります。現在PER8倍、将来利益ベース約17倍。低PERの正体は、「割安」ではなく、「利益減少を織り込んでいる」可能性があります。これをバリュートラップと呼ぶことがあります。Value Trap、割安に見えるが、実際には利益悪化などの理由がある企業です。医療企業では特に注意が必要です。製薬企業には、Patent Cliff、特許の崖があります。特許切れ前は、主力薬が高利益、EPSが大きい、PERが低い。特許切れ後は、売上急減、利益急減、EPS低下。だから現在PERだけでは危険です。製薬企業を見るなら、PER+特許期間+パイプラインをセットで見ます。
高PER医療機器企業のケースも見てみましょう。JMEI Medical Deviceは、株価6,000円、EPS150円、PER40倍。PERだけを見ると、高く見えます。しかし業績を見ると、売上成長率+18%、EPS成長率+25%、ROIC20%。さらに市場を見ると、手術ロボット市場、年率15%成長。さらにビジネスモデルを見ると、本体販売+専用器具+保守+ソフトウェア。設置台数が増えるほど、継続収益が積み上がるリカーリング収益の構造です。市場は未来利益を評価しています。現在EPS150円、3年後EPS300円まで成長すると仮定すると、現在株価で将来PERを見ると、6,000÷300=20倍。現在PER40倍、しかし3年後利益ベースでは20倍。高PERの正体は、「割高」ではなく、「将来の利益成長を先に織り込んでいる」可能性があります。PERは未来を含む。だから、現在PERだけを見るのではなく、EPSがこれからどうなるかを見る必要があります。
実績PERと予想PER、そして利益の質
PERには、実績利益を使うものと、予想利益を使うものがあります。実績PERは、過去12か月などの実績EPSを使います。すでに確定した数字です。予想PERは、会社予想、市場予想、アナリスト予想など将来EPSを使います。企業分析では予想PERが重要です。株価は基本的に、過去ではなく未来を見て動くからです。ただし予想は外れます。新薬失敗、製品回収、薬価引き下げ、景気変化、為替変動などによって、EPS予想は変わります。だから予想PERも絶対ではありません。予想PER15倍、だから安い、ではありません。そのEPS予想が本当に実現するかを確認します。
予想PERのケースを見てみましょう。A Pharmaは、株価3,000円、前年EPS150円、今期予想EPS200円、来期予想EPS300円。実績PERは、3,000÷150=20倍。今期予想PERは、3,000÷200=15倍。来期予想PERは、3,000÷300=10倍。急速に割安化しているように見えます。しかし確認します。EPS300円になる理由は何でしょうか。例えば、新薬A発売、ピークセールス期待、利益率改善なら、成長の根拠があります。一方、一時的な特別利益、資産売却、税効果なら、持続的利益とは違います。PERでは利益の「質」を見ます。EPSが増えただけでは不十分です。営業利益による増益か、一時利益か、自社株買いによるEPS上昇かを確認します。
自社株買いとEPSの関係を考えてみましょう。純利益100億円、発行株式数1億株、EPS100円。自社株買い後、発行株式数8,000万株、純利益は同じ100億円。EPSは、100億円÷8,000万株=125円。利益は増えていません。しかしEPSは100円から125円へ。PERは低下します。株価2,000円なら、以前20倍、自社株買い後16倍。事業成長とは違います。EPS成長の原因を確認する必要があります。
PERと成長率、PEGレシオ
PERを見るときに重要なのが、利益成長率です。A社はPER10倍、EPS成長率0%。B社はPER30倍、EPS成長率30%。単純にどちらが安いでしょうか。PERだけならA社です。しかし5年後、A社EPSはほぼ変わらない、B社EPSは大きく増加。未来利益を考えると評価は変わります。これが、成長企業のPERが高くなりやすい理由です。
PERと利益成長率を組み合わせる考え方として、PEG Ratioがあります。基本的な考え方は、PEG=PER÷EPS成長率です。例えば、PER30倍、EPS成長率30%なら、PEGは約1。別企業で、PER30倍、EPS成長率10%なら、PEGは約3。同じPER30倍でも違います。前者は高成長、後者は低成長。ただしPEGも万能ではありません。利益成長率が、一時的、不安定、予測困難なら意味が変わります。医療企業では特に注意が必要です。新薬発売によって、EPS+100%、翌年+5%ということもあります。単年度成長率だけでは危険です。3年、5年の利益成長を見ます。
赤字バイオ企業とPERの限界
次に赤字企業です。PERには大きな弱点があります。利益がマイナスなら、EPSが-100円になることがあります。PERは意味のあるPERを計算できません。赤字バイオ企業では、現在売上ほぼゼロ、研究開発費300億円、純損失200億円ということがあります。PERでは評価できません。しかし、第3相候補薬に大きな価値があるかもしれません。そこで別の方法を使います。DCF、rNPV、EV/Sales、パイプライン価値、現金残高などです。「PERがない=価値がない」ではありません。特にバイオ企業では重要です。反対に「黒字だからPERが使える」とも限りません。利益が極端に小さい場合、PERが100倍、200倍になることがあります。成長企業が赤字から黒字へ転換した直後、純利益1億円、時価総額1,000億円、PER1,000倍ということがあります。翌年、純利益50億円なら、同じ時価総額でPER20倍。初期成長企業ではPERが不安定です。だから、事業フェーズを確認します。医療企業を事業フェーズで考えると、研究開発期、上市初期、成長期、成熟期、特許切れ期があります。研究開発期バイオ企業、成熟製薬企業、高成長医療機器企業を、PER20倍という一つの基準で評価することはできません。
PERは、同じ業種、似た成長率、似た収益構造の企業比較で特に役立ちます。医療機器3社のケースを見てみましょう。A社はPER20倍、EPS成長率5%。B社はPER30倍、EPS成長率15%。C社はPER40倍、EPS成長率30%。PERだけならA社が最も安い。成長率を見るとC社が最も高成長。さらにROICを見ると、A社8%、B社15%、C社25%。さらにリカーリング比率を見ると、A社20%、B社50%、C社75%。見え方が変わります。C社の高PERには、高成長、高ROIC、高リカーリングという理由がある可能性があります。「高PER=割高」ではありません。重要なのは、高PERを正当化できる企業構造があるかです。逆も同じで、「低PER=割安」ではありません。低PERの理由を探します。成長停止、特許切れ、低ROIC、負債、競争激化、規制リスクなどです。
PERとROIC、再投資機会
第34講で学んだROICも重要です。A社はPER25倍、ROIC30%。B社はPER15倍、ROIC5%。どちらが魅力的でしょうか。PERだけではB社。資本効率ではA社。高ROIC企業には高PERが付く場合があります。なぜでしょうか。利益を高い収益率で再投資できるからです。100億円の利益、その一部を、ROIC25%で再投資できる。すると将来利益が増えやすい。これが、高ROIC+再投資機会の強さです。しかし成熟企業では、ROIC30%、しかし市場成長ゼロ、再投資先なしということもあります。高ROICでも成長できない、その場合、必ずしも非常に高いPERになるとは限りません。PERを決める重要な要素は、成長率、ROIC、再投資機会、リスク、資本コスト、利益の持続性です。
ここでDCFとつながります。なぜ成長企業は高PERなのでしょうか。DCFでは、将来FCFが大きい、現在価値が大きい、企業価値が高い。現在利益との比較では、企業価値が高い、現在利益がまだ小さい、PERが高くなる。つまりPERはDCFの結果を簡略化した姿とも考えられます。PERとDCFは、別々の世界ではありません。高PERの背景には未来CF期待があります。市場は、将来利益成長を現在株価へ織り込みます。
DCFとPERのケースを見てみましょう。A Medicalは、現在EPS100円、株価5,000円、PER50倍。高いですが、5年後EPS500円を市場が期待しているとします。5年後利益基準は、現在株価÷5年後EPS、5,000÷500=10倍。現在PER50倍の意味は、市場が非常に大きな利益成長を期待している可能性があります。問題はその期待が実現するかです。ここが企業分析です。期待通りなら高PERが正当化される可能性。期待以上なら株価上昇余地が生まれる可能性。期待以下なら、PER縮小とEPS下方修正が同時に起こる可能性があります。
期待と株価、そしてリレーティング
これが成長株の怖さです。業績は増益、それでも株価下落ということがあります。なぜでしょうか。市場は+30%成長を期待していた、実績は+15%。増益なのに期待以下。株価は、未来期待との差で動きます。医療企業イベントでも同じです。新薬承認、だから株価上昇とは限りません。承認確率90%を織り込んでいたら、承認はほぼ期待通り。市場が見ているのは次です。薬価、発売速度、ピークセールス、競合です。
PERと「期待の織り込み」を考えます。PERが高い企業ほど、高い期待が入っている場合があります。期待が高い企業は、良い決算だけでは上がらないことがあります。必要なのは、期待を上回る決算です。逆に低PER企業は、期待が非常に低い場合があります。悪くない決算だけでも、市場予想を上回れば、評価修正が起きる可能性があります。これをリレーティングといいます。Re-rating、企業に対する評価倍率が変わることです。
EPS100円、PER10倍、株価1,000円。事業改善、EPS120円、さらに市場評価、PER15倍。株価は、120×15=1,800円。利益+20%、しかし株価+80%。なぜでしょうか。EPS成長+PER上昇が同時に起きたからです。反対もあります。EPS100円、PER30倍、株価3,000円。EPS120円へ増益、しかしPER20倍へ低下。株価は、120×20=2,400円。利益は増えた、しかし株価は下落。これがPER変化の力です。株価は、EPS×PERと考えることができます。非常に重要な式です。株価=EPS×PER。株価が上がる2つの方法は、EPSが上がる、PERが上がるです。最も強いパターンは、EPS上昇+PER上昇。最も弱いパターンは、EPS低下+PER低下です。
新薬承認後のケースを見てみましょう。JMEI Pharmaは、承認前EPS200円、PER15倍、株価3,000円。新薬承認、3年後EPS予想300円。さらに企業評価改善、PER20倍。理論上のイメージは、300×20=6,000円。利益成長と評価倍率上昇、二つが株価を押し上げます。反対に特許切れでは、EPS300円→180円、PER20倍→12倍。株価イメージは、以前6,000円、その後180×12=2,160円。利益低下だけではありません。市場評価倍率も低下する可能性があります。だから製薬株は特許切れ前から動きます。市場は、未来を先に織り込むからです。
JMEI式PER分析と練習問題
PERを見るときには、「低いか高いか」ではなく、次の順番で考えます。現在PER、予想PER、EPS成長率、利益の持続性、ROIC、再投資余地、競争優位、医療企業特有イベント、同業他社PER、市場期待。そして最後に、「このPERを正当化するには、どんな未来が必要なのか?」と考えます。
医療企業のPERを見るときには、次の15項目を確認しましょう。現在PERは何倍か。実績PERか予想PERか。来期EPSは増えるか。3年後EPSはどうなるか。EPS増加は本業成長によるものか。一時利益が含まれていないか。自社株買いによるEPS押し上げはあるか。ROICは高いか。高ROICで再投資できるか。同業他社よりPERが高いか低いか。その差には理由があるか。主力製品の特許切れはいつか。新薬・新製品は利益を補えるか。現在PERにはどの程度の成長期待が入っているか。期待を上回る余地があるか。最後に、「安いのか?」ではなく、「なぜ、この倍率なのか?」と問いかけます。
練習問題
問題1 PERとは何でしょうか。(A.株価÷EPS B.売上÷株価 C.営業利益÷株価 D.株価÷配当)
【答え】Aです。PER=株価÷EPSです。
問題2 株価2,000円、EPS100円です。PERはいくらでしょうか。
【答え】20倍です。
問題3 PER10倍なら必ず割安でしょうか。
【答え】いいえ。将来の利益減少、特許切れ、競争激化などが織り込まれて低PERになっている可能性があります。
問題4 PER50倍なら必ず割高でしょうか。
【答え】いいえ。高い利益成長、高ROIC、巨大な市場機会などによって高PERが正当化される場合があります。
問題5 株価3,000円、現在EPS150円、来期予想EPS300円です。現在利益ベースPERと来期予想PERはいくらでしょうか。
【答え】現在PERは20倍、来期予想PERは10倍です。
問題6 赤字バイオ企業でPERが使いにくいのはなぜでしょうか。
【答え】EPSがマイナスで、意味のあるPERを計算できないためです。その場合はDCF、rNPV、パイプライン価値など別の方法を検討します。
問題7 株価=何×何と考えられるでしょうか。
【答え】株価=EPS×PERです。
問題8 EPSが20%増えても株価が下落することはありますか。
【答え】あります。PERが大きく低下すれば、EPSが増加しても株価が下落する可能性があります。
問題9 製薬企業のPERを見るとき、特に重要なものは何でしょうか。
【答え】主力薬の特許切れ、パイプライン、新薬発売、将来EPSなどです。
問題10 PER分析で最も重要な問いは何でしょうか。
【答え】「現在のPERを正当化するには、どの程度の将来利益成長が必要なのか」です。
総合ケーススタディ――3社のPERを比較する
3つの架空医療企業があります。A Pharmaは、PER8倍、EPS成長率-15%。B Medical Devicesは、PER25倍、EPS成長率+12%。C Healthcare AIは、PER50倍、EPS成長率+40%。PERだけを見ると、A社が最も安く、C社が最も高い。しかし未来を見ると、A社は主力薬特許切れ、B社は安定成長、C社は急成長市場。ROICを見ると、A社7%、B社16%、C社28%。さらに再投資余地を見ると、A社は限定的、B社は十分、C社は非常に大きい。見え方が変わります。A社のPER8倍には、利益減少という理由があります。B社PER25倍には、安定成長と高ROIC。C社PER50倍には、非常に高い成長期待が入っています。
ではC社が最も良いのでしょうか。まだ分かりません。市場期待が高すぎる可能性があります。市場は、EPS+40%成長が5年間続くと期待しているかもしれません。実際は+20%なら、十分高成長です。しかし市場期待以下だと、PER50倍からPER30倍へ低下する可能性があります。EPSが増えても株価が下がる、これが高期待企業のリスクです。A社の場合、市場は大幅減益を予想。しかし新薬成功でEPS減少が止まった。市場期待を上回ると、PER8倍から12倍、15倍へ評価が変わる可能性があります。低期待企業には逆の可能性がある、これが、期待と株価の関係です。
JMEIでは、PERを、「安い企業を探すための数字」としてだけは使いません。PERは、市場が企業の未来に付けている値段として読みます。PER8倍、なぜ8倍なのか。PER20倍、なぜ20倍なのか。PER50倍、なぜ50倍なのか。ここから分析を始めます。例えば製薬企業なら、特許切れまで何年か、後継薬はあるか、パイプラインは十分か、新薬のピークセールスはどの程度かを見ます。医療機器企業なら、市場成長率、新製品、インストールベース、消耗品、リカーリング収益を見ます。医療DXなら、契約数、ARPU、解約率、利益率、市場規模を見ます。そして、EPS、EPS成長率、ROIC、再投資、将来FCF、DCF、市場期待、PERという形でつなげます。PERは企業分析の出発点にもなりますが、結論ではありません。PERが低ければ、なぜ低い?PERが高ければ、なぜ高い?と考える。さらに、市場が期待している未来と、自分が分析した未来を比較します。この差が企業分析の核心です。
JMEI Medical Insight
医療企業でPERを見るときに最も注意したいのは、「現在の利益が、将来も続くとは限らない」という点です。一般企業でも利益は変動します。しかし医療企業では、特許切れ、臨床試験成功、臨床試験失敗、承認、非承認、薬価改定、競合薬登場、大型製品発売によって、利益構造そのものが変わることがあります。つまり、現在EPSだけを使ったPERは、企業の未来を誤って表す場合があります。例えば、PER7倍の製薬企業、一見、非常に割安。しかし主力薬特許切れ後、EPSが半分になるなら、未来PERは14倍。逆に、PER40倍の医療機器企業、一見、非常に割高。しかし3年間でEPSが2倍になるなら、未来利益ベースではPER20倍。重要なのは、「PER何倍か」ではありません。その倍率の分母である、EPSが未来にどう変わるかです。
そしてもう一つ重要なのが、市場期待です。株価は、良い企業だから上がるのではありません。市場が期待していた未来より、さらに良い未来が見えたとき、評価が変わります。したがってJMEIでは、PER、利益成長、医療イベント、市場期待という順番で読みます。PERは単なる割安指標ではありません。市場が医療企業の未来へ付けている、「期待の値札」なのです。
今回のポイント
第37講で最も覚えてほしいのは、「PERが低いから安い、高いから高いとは限らない」ということです。PERを見るときには、現在PERを見る、予想PERを見る、EPSを見る、EPS成長率を見る、利益の質を見る、ROICを見る、再投資余地を見る、特許・新薬・新製品を見る、同業比較する、市場期待を見るという順番で考えます。特に医療企業では、現在利益ではなく、将来利益を見ることが重要です。そして、株価=EPS×PERという関係を覚えてください。株価が上がるには、EPSが増える、PERが上がるという二つの力があります。最も強いのは、EPS上昇+PER上昇。最も弱いのは、EPS低下+PER低下です。最後に、「このPERを正当化するためには、企業はこれからどれだけ利益を成長させなければならないのか?」と問いかけます。PERを、安い・高いで終わらせず、企業の未来に対する市場期待として読むこと。これが医療企業分析におけるPERの本当の使い方です。
次回予告
第38講 PBRとは何か?――「会社が持つ資本」に市場はいくらの値段を付けているのか
第37講では、PERを学びました。PERは、株価と利益の関係を見る指標でした。では、企業が持っている純資産と、株価の関係を見る方法はないのでしょうか。そこで登場するのが、PBR、Price Book-value Ratioです。日本語では、株価純資産倍率と呼ばれます。PBR1倍、PBR2倍、PBR5倍という数字を見たことがあるでしょう。しかし、PBR1倍割れだから割安とは限りません。なぜ市場は、ある医療企業にPBR0.8倍しか付けないのか。なぜ別の企業には、PBR5倍、10倍を付けるのか。その違いを理解する鍵になるのが、第34講で学んだ、ROE、ROIC、そして、資本コストです。次回は、PBRとは何か、BPSとは何か、PBR1倍とは何を意味するのか、なぜPBR1倍割れ企業が存在するのか、高ROE企業のPBRはなぜ高くなりやすいのか、研究開発型医療企業では簿価をどう考えるべきか、M&Aとのれんはどう影響するのか、PERとPBRをどう組み合わせるのか、そして「資産が多い会社」と「資産から価値を生み出せる会社」は何が違うのかを、医療企業のバリュエーションを、利益から「資本」の視点へ広げていきます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。