01JMEI Daily 02JMEIについて 03MEDIX50 04Global 10 05アカデミー 06研究・発信 07評価方法 08お知らせ お問い合わせ

医療企業分析アカデミー

第15講 パイプラインとは何か?

JMEI 医療企業分析アカデミー 第15講 製薬企業の「未来の売上」をどう読むか

はじめに

第14講では研究開発費を扱いました。研究開発費は現在の利益を減らす費用であると同時に、未来の製品をつくるための投資でもある——ただし、研究開発費が多い会社が必ずしも将来性の高い会社とは限らず、大切なのはそこから何が生まれているかを見ることだ、という話でした。

この視点は特に製薬企業で重要になります。たとえば売上高1兆円、営業利益2,000億円という、数字だけを見ればほぼ同じに見える2つの製薬会社があったとします。しかし一方には数年以内の承認を目指す有望な新薬候補が複数あり、もう一方は主力薬の特許切れが近いのに次の大型薬候補がほとんどない——もしそうだとすれば、5年後の両社の姿はまったく違うものになる可能性があります。

製薬企業を分析するときは「現在何が売れているか」だけでなく「次に何を売るのか」を見る必要があります。そこで鍵になるのが、パイプラインという考え方です。

今回は、パイプラインとは何か、新薬がどのような段階を経て発売にたどり着くのか、開発初期と後期で何が違うのか、有望な新薬候補をどう評価するのか、一つの候補に依存する危険性とは何かを見ていきます。

1.パイプラインとは何か

製薬企業でいうパイプラインとは、現在研究・開発中の新薬候補の集合のことです。あるファーマ企業ががん治療薬、糖尿病治療薬、認知症治療薬、希少疾患治療薬を並行して開発しているとすれば、これらすべてがそのパイプラインです。パイプラインを見れば、その会社が将来どんな薬を世に送り出そうとしているかが分かります。

2.なぜ「パイプライン」と呼ぶのか

パイプライン(pipeline)という言葉は、文字どおり一本の管をイメージすると理解しやすくなります。管の入り口には多くの新薬候補があり、それらが研究・開発を進みながら少しずつ出口へ向かっていきます。しかしすべての候補が出口までたどり着くわけではありません。効果が十分でない、安全性に問題が見つかる、期待した結果が出ない、事業性が低い、競合薬に先を越される——こうした理由で途中で開発が止まることも多く、最終的に承認まで到達した薬だけが製品として市場に出てきます。パイプラインとは、いわば未来の製品候補が流れている管なのです。

3.新薬はすぐには発売できない

新しい化合物や治療法が見つかったからといって、翌月から患者に使えるわけではありません。新薬は一般に、研究 → 非臨床試験 → 臨床試験 → 承認申請 → 審査・承認 → 発売、という長い過程を経ます。だからこそ製薬企業の未来を見るには、候補薬が何個あるかだけでなく、それぞれがどこまで進んでいるかを確認する必要があります。

4.研究・探索段階

最初の段階は、どの物質や仕組みが病気の治療に使えるかを研究する段階です。特定のタンパク質を抑える、免疫反応を利用する、遺伝子の働きを変える、新しい抗体をつくる——さまざまなアプローチが試されます。この段階では候補が数多く存在していても、実際に薬になるかどうかはまだ分かりません。したがって研究段階の候補薬と、臨床試験まで進んだ候補薬を同列に扱ってはいけません。

5.非臨床試験とは何か

新薬候補が見つかると、人に投与する前に、薬としての作用の可能性、安全性、毒性、体内での動きなどを調べます。これが非臨床試験です。この段階でも多くの候補が開発中止になります。「新薬候補として発見された」というだけでは、まだ製品化への道のりは遠いということです。

6.臨床試験とは何か

臨床試験とは、人を対象に新しい薬の安全性や有効性などを評価する試験のことです。一般に臨床開発は第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相といった段階を経て進みます。企業資料では Phase 1、Phase 2、Phase 3 と表記されることもあり、この意味を理解しておくと決算資料が格段に読みやすくなります。

7.第Ⅰ相試験とは

第Ⅰ相試験では、主に安全性、体内での薬の動き、適切な投与量を判断するための情報を調べます。まだ開発の初期段階であり、「第Ⅰ相試験に入った」というニュースだけで「もうすぐ大型新薬になる」と考えるのは早計です。有望な可能性はあるが、まだ不確実性が大きい段階、と捉えておくのが妥当です。

8.第Ⅱ相試験とは

第Ⅱ相試験では対象患者などに薬を投与し、有効性の兆候、安全性、適切な用量などをさらに評価します。この段階になると「本当に治療効果がありそうか」が少しずつ見えてきます。第Ⅰ相より製品化に近づいてはいますが、まだ開発中止の可能性は残っています。

9.第Ⅲ相試験とは

第Ⅲ相試験では、より多くの患者を対象に有効性と安全性を確認します。承認申請に向けた非常に重要な段階であり、第Ⅲ相まで進んでいる候補薬は、第Ⅰ相の候補薬より発売に近いと考えられます。ただし、第Ⅲ相まで進んだからといって必ず承認されるわけではない点には注意が必要です。

10.承認申請

必要な臨床試験などを終えると、企業は規制当局へ承認申請を行います。ここでは有効性、安全性、品質などに関する多くの資料が審査され、承認されて初めて医薬品として販売できる段階に進みます。研究開始から販売開始までには、これだけ多くの関門があるということです。

11.パイプラインは「数」だけを見ない

パイプライン50品目のA社と、20品目のB社があったとします。数だけを見ればA社の方が将来性が高いように思えるかもしれません。しかしA社の50品目の多くが研究初期段階で、B社の20品目には第Ⅲ相が5品目、承認申請中が3品目含まれているとしたらどうでしょうか。数だけならA社が優位でも、発売に近い候補という観点ではB社の方が厚みがある、という見方ができます。パイプラインの数だけで企業を評価することはできません。

12.「数」と「ステージ」をセットで見る

パイプランを見るときは、候補薬数だけでなく開発段階まで確認します。研究段階20、第Ⅰ相8、第Ⅱ相5、第Ⅲ相3、承認申請2、というように整理すると、未来の候補が豊富かどうか、数年以内に製品化が見込める候補があるかどうかが把握しやすくなります。

13.ケーススタディ①――AファーマとBファーマ(架空の例)

架空のAファーマはパイプライン総数40(第Ⅰ相20、第Ⅱ相10、第Ⅲ相2、承認申請中0)。架空のBファーマはパイプライン総数20(第Ⅰ相5、第Ⅱ相5、第Ⅲ相6、承認申請中4)。

総数ではA社が2倍ですが、数年以内に製品化される可能性がある候補という観点では、B社の方が厚みがあるように見えます。ここからさらに候補薬の市場規模、臨床試験結果、競合状況を確認していくことになります。

14.開発後期なら何でも有望なのか

第Ⅲ相だから必ず大型薬になる、承認申請中だから必ず成功する、というわけではありません。次に確認すべきは、どの疾患を対象としているかです。患者数が非常に少ない疾患と、世界中に患者が多い疾患とでは市場規模が異なる可能性があります。ただし希少疾患であっても、患者数が少ないからといって価値が低いとは限らず、高い医療ニーズや薬価によって重要な事業になるケースもあります。したがって患者数の多寡だけで判断することもできません。

15.対象疾患を見る

パイプラインを見るときは、がん、糖尿病、肥満症、自己免疫疾患、認知症、希少疾患、感染症など、何の薬なのかを確認します。そのうえで市場規模、患者数、治療満足度、既存薬、競合開発品を考慮します。パイプライン分析と市場分析は、組み合わせて初めて意味を持ちます。

16.アンメット・メディカル・ニーズとは

医療企業分析でよく出てくる言葉に「アンメット・メディカル・ニーズ」があります。簡単に言えば、まだ十分な治療法がない医療上のニーズのことです。治療法がほとんどない、既存薬の効果が不十分、副作用が大きい、治療そのものが患者にとって大きな負担になる——こうした疾患領域で大きな改善をもたらす薬が開発されれば、高い医療価値を持つ可能性があります。

17.「売れる薬」と「医療価値の高い薬」

企業分析では市場規模を見ることも大切ですが、売上の大きさだけで薬の価値を測ってはいけません。患者数が少なくても、これまで治療法がなかった疾患に初めて有効な治療を提供するのであれば、そこには大きな医療価値があります。市場性と医療価値を分けて考え、その医療価値がどのように事業価値へつながっていくかを見る、という視点が重要です。

18.競合薬を見る

市場規模1兆円という非常に大きな新薬候補があったとします。それだけを見れば魅力的ですが、同じ領域で競合企業10社が同時に開発を進めていたらどうでしょうか。承認にこぎつけても、その先に激しい市場競争が待っている可能性があります。パイプラインを見るときは、自社の候補だけでなく競合のパイプラインも合わせて確認する必要があります。

19.先に発売すれば必ず勝てるのか

最初に発売された薬は有利になることがあります。しかし後発の薬が、効果が高い、副作用が少ない、投与回数が少ない、使いやすい、患者負担が小さいといった特長を持っていれば、市場シェアを奪う可能性があります。発売の早さだけでなく、既存薬に対して何が優れているかを見る必要があります。

20.ケーススタディ②――同じ領域の2つの新薬候補(架空の例)

第Ⅲ相まで進み、競合より発売が早い可能性があるが毎日投与が必要なA薬。第Ⅱ相段階で発売はA薬より遅れる見込みだが、週1回投与で初期データ上は良好な効果を示しているB薬。開発段階だけを見ればA薬が先行していますが、もしB薬が本当に週1回投与で同等以上の効果を示せるなら、医療現場での利便性が競争力になる可能性があります。開発ステージと製品差別化の両方を見る必要がある、という一例です。

21.大型新薬候補とは何か

企業資料や報道では「ブロックバスター候補」という表現を目にすることがあります。一般には、非常に大きな年間売上を生み出す可能性のある医薬品を指す言葉として使われます。こうした大型新薬が一つ誕生すると、会社全体の成長率や利益構造が大きく変わることもあり、製薬企業では将来の大型薬候補が強く注目されます。

22.大型候補薬一つだけでは危険

将来年間5,000億円規模の売上が期待される薬を持つ架空のAファーマがあったとします。魅力的に見えますが、他に有力なパイプラインがほとんどないとしたらどうでしょうか。臨床試験の失敗、承認の遅延、安全性の問題、競合薬の登場——こうした事態が起これば、会社の成長期待は一気に揺らぎかねません。一つの新薬候補への依存は、それ自体がリスクになります。

23.パイプラインも分散が重要

がん薬候補3、自己免疫疾患候補3、代謝疾患候補2、神経疾患候補2、希少疾患候補3というように、疾患領域も開発段階も分散している架空のBファーマがあったとします。この場合、一つの薬が失敗しても別の候補が成長する可能性が残ります。パイプラインの分散も、リスク管理の観点から重要な視点です。

24.疾患領域の偏りを見る

候補薬10品目と聞けば十分な数に思えるかもしれません。しかしその10品目すべてが同じ疾患、同じ作用機序だった場合はどうでしょうか。その治療アプローチそのものに問題が見つかれば、複数の候補に同時に影響が及ぶ可能性があります。候補薬の数だけでなく、疾患領域、技術、作用機序の分散も確認しておきたいところです。

25.自社開発か導入品か

製薬企業はすべての新薬を自社で発見しているわけではありません。大学、バイオベンチャー、他の製薬企業から新薬候補を導入することもあります。パイプラインには自社創製、導入品、共同開発といった性格の異なる候補が混在しています。どれが優れているという話ではなく、有望な技術を見つけ、開発し、承認を取得し、世界へ販売できるかどうかが重要です。

26.導入品には対価が必要

他社から有望な新薬候補を導入する場合、契約一時金、開発進捗に応じた支払い、売上に応じたロイヤルティなどが発生することがあります。「大型薬を獲得した」というニュースだけでなく、どのような契約条件なのかも、利益への影響を考えるうえで見ておく価値があります。

27.パイプラインと研究開発費をつなげる

第14講の研究開発費と組み合わせて考えます。研究開発費2,000億円で後期パイプライン1品目のA社と、研究開発費1,500億円で後期パイプライン6品目のB社を比べても、それだけでB社が優れているとは言い切れません。しかし研究開発費 → パイプライン → 承認 → 製品売上、という流れで見ることで、投じた研究開発費がどのような成果につながっているかを立体的に捉えられます。

28.パイプラインと特許切れをセットで見る

これは製薬企業分析で特に重要な視点です。年間5,000億円を売り上げる主力薬があったとしても、重要な特許の満了が近づいていれば、競合品や後発品の影響で将来の売上が減少する可能性があります。このとき、次の大型薬がパイプラインに控えているかどうかが極めて重要になります。

29.「崖」を埋められるか

現在の主力薬売上が5,000億円、5年後の想定売上が2,000億円まで落ち込むと仮定します。3,000億円分の売上減少です。一方で新薬候補A、B、Cがそれぞれ将来売上1,500億円、1,000億円、800億円の可能性を持っているとすれば、単純計算では既存薬の減少分を新薬群で補える可能性があります。あくまで見通しに基づく試算ですが、こうした考え方は製薬企業の将来分析で非常に重要です。

30.ケーススタディ③――現在は好調でも5年後は?(架空の例)

架空のCファーマは、現在売上1兆円、主力薬売上6,000億円で、その主力薬の特許満了が数年後に迫っているものの、後期パイプランは1品目しかありません。一方、架空のDファーマは現在売上8,000億円と規模はやや小さいものの、最大製品の売上は2,000億円にとどまり、後期パイプラインが5品目、中期パイプラインが8品目あります。

現在の売上規模ではC社が上回りますが、C社は一つの主力薬への依存、特許切れ、パイプライン不足というリスクを抱えている可能性があります。D社は現時点の売上こそ小さいものの、将来の成長源が複数育っている可能性があります。企業分析では、現在の順位だけでなく未来の構造まで見る必要がある、という好例です。

31.臨床試験結果のニュースをどう見るか

「第Ⅲ相試験で主要評価項目を達成」というニュースが出れば、企業にとって重要な進展であることは間違いありません。しかしすぐに売上予想だけに飛びつくのではなく、安全性はどうか、効果の大きさはどうか、既存薬と比べてどうか、承認申請はいつになりそうか、競合候補はどこまで来ているかを確認する必要があります。見出し一つだけで企業価値を判断しないことが大切です。

32.主要評価項目とは

臨床試験では、薬の効果を何によって判断するかをあらかじめ設定します。これが主要評価項目です。疾患によって症状改善、再発までの期間、生存期間、検査値など評価方法は異なります。「試験成功」という言葉を見たら、何をもって成功としたのかを確認する習慣をつけておきたいところです。

33.副作用も競争力になる

効果は非常に高いが副作用が多いA薬と、効果はA薬と同程度で副作用が少ないB薬があれば、B薬の方が医療現場で支持される可能性があります。新薬の価値は効果だけで決まるわけではなく、安全性、投与方法、投与頻度、患者負担、医療従事者の負担なども重要な要素です。

34.パイプラインの「質」を考える

パイプラインは「多い」「少ない」だけで評価すべきではありません。開発段階、対象疾患、医療ニーズ、市場規模、競合、差別化、安全性、承認可能性、製品化後の販売力といった要素まで見て、初めて「量」と「質」の両面から評価できます。

35.JMEI式「パイプラインを見る10の質問」

製薬企業のパイプラインを見るときは、次の10項目を確認するとよいでしょう。

  1. 開発中の候補薬はいくつあるか
  2. 第Ⅰ相、第Ⅱ相、第Ⅲ相、承認申請中はそれぞれ何品目か
  3. どの疾患を対象としているか
  4. アンメット・メディカル・ニーズは高いか
  5. 市場規模はどれくらいか
  6. 競合薬・競合開発品は何か
  7. 既存治療に対する差別化ポイントは何か
  8. 特定の一薬や疾患領域へ依存していないか
  9. 現在の主力薬の特許切れを補えるか
  10. 承認後に世界で販売できる体制があるか

最後に、「この会社のパイプラインは、現在の売上を将来の売上へつなぐことができるか」を自分に問いかけてみてください。

36.練習問題

問題1 製薬企業のパイプラインとは何か。 A.現在販売している薬だけの一覧 B.研究・開発中の新薬候補の集合 C.医薬品工場の製造設備 D.過去に販売中止した薬の一覧

答え:B.研究・開発中の新薬候補の集合。パイプラインを見ることで、その企業が将来どのような薬を製品化しようとしているかを考えられます。

問題2 A社には第Ⅰ相の候補薬が30品目、B社には第Ⅲ相の候補薬が5品目ある。候補薬数だけでA社の方が将来性が高いと判断してよいか。

答え:判断できません。開発初期の候補と後期の候補では、製品化までの距離や不確実性が異なります。数と開発段階をセットで確認する必要があります。

問題3 第Ⅲ相まで進んだ新薬なら必ず承認されるか。

答え:いいえ。第Ⅲ相まで進んでも、期待した有効性が確認できない、安全性上の問題が生じる、審査上の問題が生じるといった可能性があります。

問題4 有望な大型新薬候補を一つ持つ企業がある。何に注意すべきか。

答え:その一薬への依存度です。開発失敗、承認遅延、競合薬登場などが企業全体に大きな影響を与える可能性があります。

問題5 現在の主力薬の特許満了が近い製薬会社では、何を特に確認すべきか。

答え:主力薬の売上減少を補える新薬候補がパイプラインに存在するかどうかです。

問題6 A薬とB薬の効果がほぼ同じだが、B薬は投与回数が少なく副作用も少ない。何が考えられるか。

答え:B薬の利便性や安全性が差別化要因となり、医療現場で競争力を持つ可能性があります。

37.総合ケーススタディ――JMEIファーマの5年後を読む(架空の例)

架空のJMEIファーマ。現在売上高8,000億円、営業利益1,600億円。主力薬Aの売上は3,000億円で、重要特許の満了が5年以内に迫っています。パイプラインは、がん領域の新薬Bと自己免疫疾患の新薬Cが第Ⅲ相、希少疾患の新薬Dが承認申請準備中、代謝疾患の新薬Eと神経疾患の新薬Fが第Ⅱ相、そのほか新薬G・H・Iが第Ⅰ相にあります。研究開発費は前年1,100億円から今年1,300億円へ増加し、米国・欧州・アジアに自社販売拠点を持っています。

38.まず現在のリスクを見る

最大のリスクは主力薬Aへの依存です。売上8,000億円のうち3,000億円、約37.5%をA薬が生み出しており、その重要特許の満了が迫っています。つまり現在は高収益であっても、将来的に売上が低下する可能性がある、という構造です。

39.次にパイプラインを見る

一方でパイプラインは、承認申請準備中1、第Ⅲ相2、第Ⅱ相2、第Ⅰ相3と、開発段階が比較的分散しています。対象疾患もがん、自己免疫、希少疾患、代謝疾患、神経疾患と広がっており、一つの領域だけに依存しているわけではありません。研究開発費も増加傾向にあります。

40.事業化能力を見る

JMEIファーマは米国・欧州・アジアに自社の販売拠点を持っています。これは第12講、第13講で扱った競争優位性や海外展開力ともつながる要素です。新薬を開発するだけでなく、承認後に世界へ届けられる体制があるかどうかも、研究開発 → 承認 → 海外販売 → 市場シェア → 売上・利益、という流れを完結させるうえで欠かせません。

41.それでも安心してはいけない

新薬Bの第Ⅲ相の結果はどうか、新薬Cは競合より優れているか、新薬Dの市場規模はどれくらいか、主力薬Aの売上減少を新薬群が本当に補えるか、競合企業に強いパイプラインがないか——これらはいずれも今後確認すべき未確定の要素です。パイプライン分析とは候補薬の名前を並べることではなく、将来の売上と利益の構造を見通すことにほかなりません。

42.JMEIの視点

パイプラインが多い=将来性が高い、とは考えません。見る順番はパイプライン数 → 開発段階 → 対象疾患 → 医療ニーズ → 競合 → 差別化 → 承認可能性 → 世界販売力 → 将来売上、です。そのうえで現在の主力薬と未来の主力候補を並べてみます。現在の主力薬Aは5年後に売上減少が見込まれる一方、新薬Bが将来の主力候補、新薬Cが次の成長候補、新薬Dが新市場の候補として控えている——という形が見えてくれば、「現在何で稼いでいるのか」と「5年後に何で稼ごうとしているのか」の両方が把握できます。これが製薬企業分析における非常に重要な視点です。

JMEI Medical Insight

製薬企業のパイプラインを見るとき、忘れてはいけないことがあります。新薬候補は、企業にとっての売上候補である前に、患者にとっての新しい治療選択肢の候補だということです。

既存治療で十分な効果が得られない、強い副作用のため治療を続けられない、毎日注射しなければならない、病院へ頻繁に通わなければならない、そもそも有効な治療法がない——こうした問題を解決する新薬には、大きな医療価値があります。医療価値が高ければ医師から選ばれ、患者へ届き、市場シェアを獲得し、売上につながっていく可能性があります。

そのためJMEIでは、パイプライン × 医療ニーズ × 臨床価値 × 競争優位性 × 事業化能力、という視点で考えます。新薬の価値を「将来何億円売れるか」だけで見るのではなく、「患者の治療をどれだけ変えられるのか」という医療価値から出発し、その価値がどのように企業価値へ転換されるのかを見る——これがJMEIの医療企業分析です。

今回のポイント

第15講で最も覚えておきたいのは、「製薬会社を見るときは、現在売れている薬だけでなく、次に売る薬を見る」ということです。パイプラインを見るときは、候補薬の数 → 開発段階 → 対象疾患 → 医療ニーズ → 競合 → 差別化 → 主力薬の特許切れとの比較 → 承認後の販売力、という順番で考えます。

そして最後に、「この会社は現在の利益を、次の利益へつなげられるか」を問い続けること。現在売上1兆円の会社でも、次の製品がなければ将来は分かりません。現在売上5,000億円の会社でも、有力なパイプラインが複数育っていれば、大きく変化する可能性があります。現在の決算書と未来のパイプライン、その両方を見ることが製薬企業分析では欠かせません。

次回予告

第16講 特許切れとは何か?――製薬企業の「パテントクリフ」をどう読むか

第15講では、現在の主力薬の特許切れを新薬候補が補えるかという視点が出てきました。製薬企業では一つの薬が年間数千億円という売上を生み出すこともありますが、その売上が永遠に続くわけではありません。重要な特許の満了などをきっかけに競争環境が変化し、主力薬の売上が大きく低下する可能性がある——これが「パテントクリフ」と呼ばれる問題です。医薬品特許の仕組み、ジェネリック医薬品とバイオシミラー、大型薬への依存度の見方、パイプラインとパテントクリフの組み合わせ方など、製薬企業の未来を左右する特許切れの分析へ進みます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。

受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

一覧へ戻る

免責事項

当サイトに掲載する分析・レポート・指標・講座等の内容は、医療企業および医療産業に対する理解を深めることを目的とした調査・研究および教育目的の情報提供です。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業その他の登録業務には該当せず、特定の有価証券の取得・売却を勧誘・推奨するものではありません。投資その他の意思決定は、利用者ご自身の判断と責任において行ってください。

掲載内容は作成時点で入手可能な公開情報等に基づいて作成していますが、その正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。また、掲載内容は予告なく変更・削除される場合があります。当サイトの情報の利用により生じたいかなる損害についても、当研究所は責任を負いかねます。

当サイトで言及する企業名・製品名・サービス名は、各社の商標または登録商標です。当研究所は、分析対象企業からの依頼に基づく評価の作成・掲載は行いません。