JMEI 医療企業分析アカデミー 第18講 「利益はあるのに現金がない会社」をどう見抜くか
第17講では、医療企業のM&Aについて学びました。企業が成長するためには、自社で新しい技術や製品を開発するだけでなく、他社が持つ新薬候補、医療機器技術、販売網、人材、データなどをM&Aによって取得する方法があります。しかし、会社を買ったことと、企業価値を高めたことは同じではありません。買収価格、シナジー、のれん、借入、買収後の統合、そして実際の売上や利益。そこまで追いかけなければ、M&Aが成功したかどうかは分かりません。今回から、企業の「お金の流れ」を見ていきます。
ある医療企業が売上高5,000億円、営業利益800億円だったとします。非常に儲かっている会社に見えますが、決算書を見ると現金がほとんど増えていない、そんなことがあります。反対に、営業利益は500億円なのに、毎年700億円近い現金を生み出している会社もあります。なぜでしょうか。ここで重要になるのがキャッシュフローです。「利益」と「現金」は似ているようで、同じではありません。企業は会計上の利益だけでは、給料を払えず、借金を返せず、設備を買えず、M&Aもできず、研究開発も続けられません。実際に使うことができるのは現金です。だから企業分析では、どれだけ利益を出したかと同時に、どれだけ現金を生み出したかを見る必要があります。
キャッシュフローとは、簡単にいえば、会社に入ってくる現金と、会社から出ていく現金の流れです。医療機器を病院へ販売して100万円が会社へ入るのは現金の流入、材料費50万円を支払うのは現金の流出です。現金は、入ってくる、出ていく、また入ってくるという流れを繰り返します。その流れを見るのがキャッシュフローです。
初心者が最初につまずきやすいのが、「利益が出たなら、その分だけ現金も増えるのでは?」という疑問です。しかし、必ずしも一致しません。Aメディカルが12月に病院へ1,000万円の医療機器を販売したとします。会計上は条件を満たせば、12月の売上として計上されることがありますが、病院から代金が振り込まれるのは翌年2月かもしれません。12月時点では、売上は計上されたが現金はまだ入っていない、という状態になります。これが、利益と現金が一致しない理由の一つです。
個人の買い物で考えると分かりやすいでしょう。友人に1万円の商品を売り、「来月払う」と言われたとします。商品は売れましたが、あなたの財布には、まだ1万円はありません。会社でも同じことが起こります。つまり企業分析では、売上が増えただけでなく、売った代金をきちんと回収できているかを見る必要があります。
企業の決算書には、キャッシュ・フロー計算書があります。ここでは会社の現金の動きを、大きく、営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフロー、財務活動によるキャッシュフローの3つに分けて見ることができます。最初は難しく考える必要はありません。営業CFは本業のお金、投資CFは未来へ使ったお金、財務CFは借金や株主などとのお金と考えると理解しやすくなります。
営業キャッシュフローとは、本業によってどれくらい現金を生み出したかを見る数字です。英語ではOperating Cash Flowと呼ばれます。医療機器メーカーなら、医療機器を販売し、代金を回収し、材料代や人件費などを支払うという本業のお金の流れがあり、そこで最終的に現金が増えていれば、営業キャッシュフローはプラスになります。
企業が長期的に存続するためには、本業から現金を生み出す必要があります。毎年営業CFが+500億円なら、本業から毎年500億円程度の現金を生み出していることになり、その現金を使って研究開発、設備投資、M&A、借金返済、配当などを行うことができます。つまり営業キャッシュフローは、企業が自分の力で生み出している「お金の源泉」と考えることができます。
Aメディカルの営業利益が+300億円、営業CFが-100億円だったとします。利益は出ていますが、本業では現金が100億円減っています。売掛金が増えた、在庫が増えたなどが考えられます。一時的な理由なら問題がない場合もありますが、何年も続くなら、利益の質を確認する必要があります。
売掛金とは簡単にいうと、商品は販売したが、まだ回収していない代金です。医療機器を100億円販売しても、代金をまだ20億円しか回収していなければ、残り80億円は売掛金などとして残ります。売上は増えても、現金はまだ入っていません。したがって、売上急増と同時に売掛金も急増する会社では、本当に順調に代金を回収できているのかを確認する必要があります。
Aメディカルは前年、売上高1,000億円、営業利益100億円、営業CF90億円でした。今年は、売上高1,500億円、営業利益180億円、営業CF10億円です。売上は50%増、利益も80%増と素晴らしい成長に見えますが、営業CFは90億円から10億円へ大きく減っています。調べると売掛金が急増していました。この場合、売上成長だけで喜んではいけません。「売ったお金を回収できているのか?」という次の質問が必要になります。
医療機器メーカーや製薬企業には在庫があります。製品を作るために原材料、部品、製品を保有しますが、在庫を増やすには通常お金が必要です。大量に製造すると在庫が増え、現金が在庫へ変わるということが起こります。そのため売上が伸びていても、在庫がそれ以上に急増している場合は注意が必要です。ただし、在庫増加は必ずしも悪いことではありません。来年発売する新製品の需要が非常に強く、発売前に在庫を積み増している場合や、供給不足を避けるため安全在庫を増やしている場合もあります。大切なのは、「在庫が増えた=悪い」と判断することではなく、なぜ増えたのかを調べることです。
医療では、単なる商品とは違う在庫管理が必要になる場合があります。医薬品には使用期限があり、医療材料にも保管条件があります。さらに医療では、患者に必要な製品がないという事態を避けなければならない場合があるため、一定の在庫は必要です。しかし、需要以上の在庫、古くなった製品、売れない在庫が積み上がれば、将来損失につながる可能性があります。
初心者でも非常に使いやすい方法があります。営業利益と営業キャッシュフローを比較することです。営業利益500億円、営業CF600億円なら、本業からしっかり現金が生まれています。一方、営業利益500億円、営業CF50億円なら、「なぜ利益500億円なのに現金は50億円しか増えないのか?」と考えます。この「なぜ?」が企業分析です。
ただし営業CFは年によって大きく変動することがあります。売掛金回収のタイミング、在庫の増減、税金支払い、一時的な支出などがあるからです。そのため、複数年で見ることが重要です。例えばA社の営業CFが、2022年500億円、2023年550億円、2024年600億円、2025年650億円、2026年720億円と伸びているとします。本業から生み出す現金が毎年増えていれば、研究開発、設備投資、M&A、株主還元などに使える資金も増えていく可能性があります。
次に投資キャッシュフローです。英語ではInvesting Cash Flowと呼ばれ、設備を買う、工場を建てる、企業を買収するなど、投資活動による現金の動きを表します。成長企業では、投資CFがマイナスになることがよくあります。しかしこれは必ずしも悪いことではありません。Aメディカルの営業CFが+1,000億円、投資CFが-600億円だったとして、600億円の現金を新工場、研究設備、製造ラインなどへ投資している可能性があります。これは、本業で稼いだ現金を未来の成長へ使っているとも考えられます。
重要なのは何に投資したかです。需要が増えている医療機器の生産能力増強、将来性の高い研究施設、高成長地域の新工場なら、将来の売上につながる可能性があります。一方、需要がない工場、高すぎるM&A、使われない設備なら、資金を無駄にする可能性があります。つまり投資CFを見るときにも、金額ではなく中身を見る必要があります。
企業が、工場、機械、研究施設、物流施設など、長期間使用する資産へお金を使うことを設備投資と呼びます。英語ではCapital Expenditure、あるいはCapExと表現されることがあります。医療企業では、医薬品工場、医療機器工場、バイオ医薬品製造設備、研究施設などに大きな設備投資が必要になる場合があります。
Bファーマの営業CFが+800億円、投資CFが-500億円、財務CFが-200億円だとします。投資CFだけを見ると500億円の現金流出ですが、調べると新しいバイオ医薬品工場300億円、研究施設100億円、その他設備100億円でした。この場合、未来の製造能力と研究開発力を高めるための投資と考えることができます。数年後に、生産量、新製品、売上が伸びるかを追跡します。
3つ目が財務キャッシュフローです。英語ではFinancing Cash Flowと呼ばれ、借金する、借金を返す、株式を発行する、配当を支払う、自社株買いを行うなど、資金調達や株主還元に関する現金の動きです。会社が銀行から500億円借りれば、会社へ500億円の現金が入り、財務CFはプラス方向になります。しかし、現金が500億円増えたからといって、会社が500億円儲けたわけではありません。借りたお金だからです。ここを区別する必要があります。
A社は営業CF+500億円、財務CF-300億円。B社は営業CF-100億円、財務CF+800億円。どちらも期末現金が増えているかもしれませんが、内容は大きく違います。A社は本業で現金を稼ぎ、借金返済や配当などに使っている可能性があります。B社は本業で現金が減り、借入などで資金を補っている可能性があります。企業の強さを見るなら、現金が増えたかだけでなく、どこから現金が来たかを見ることが重要です。
ここまでを簡単に整理すると、営業CFは本業から入る・出るお金、投資CFは設備やM&Aなど投資に使うお金、財務CFは借金や株主との間で動くお金です。まずこの3つを覚えるだけでも、企業の現金の動きがかなり分かるようになります。
Aメディカルは営業CF+800億円、投資CF-400億円、財務CF-200億円。Bメディカルは営業CF+100億円、投資CF-700億円、財務CF+800億円。Cメディカルは営業CF-200億円、投資CF-100億円、財務CF+500億円。A社は本業で大きな現金を生み出し、その一部を投資や財務活動へ使っています。B社は大規模投資を借入などで支えている可能性があります。C社は本業から現金が出ている状態を、資金調達で補っている可能性があります。もちろん1年だけで判断できませんが、A社が最も自己資金で事業を回しやすい構造に見えます。
企業分析で非常によく使うのがフリーキャッシュフローです。一般的な考え方の一つは、営業キャッシュフローから設備投資などを引いたものです。厳密な定義は分析方法によって異なることがありますが、初心者の段階では、「本業で稼いだ現金から、事業維持・成長に必要な投資をした後、どれくらい現金が残るか」と考えると分かりやすいでしょう。A社の営業CFが1,000億円、設備投資が400億円なら、単純化したフリーCFは1,000億円-400億円=600億円です。この600億円を、M&A、借金返済、配当、自社株買い、追加投資などへ使うことができます。
毎年大きなフリーCFを生み出せる会社には選択肢があります。年間1,000億円のフリーCFがあれば、研究開発を増やす、M&Aをする、借金を返す、配当を増やす、新しい工場を建てるなどができます。つまり、キャッシュを生み出す力は、経営の自由度につながります。
フリーCFがマイナスなら危険なのかというと、必ずしもそうではありません。急成長中の企業が、新工場建設、海外拠点拡大、製造能力増強などに大きく投資すれば、フリーCFがマイナスになることがあります。重要なのは、なぜマイナスなのかです。将来の高成長を作る投資なのか、本業で現金を生み出せないためマイナスなのか、この違いは非常に大きいです。
Aバイオの営業CFが+300億円、新工場投資が500億円、フリーCFが-200億円だとします。しかし新工場は3年後に生産能力2倍を目指すための投資でした。手元現金も十分で借入も少ないなら、戦略的なマイナスと考えられるかもしれません。一方、Bメディカルの営業CFが-300億円、設備投資が100億円、フリーCFが-400億円で、さらに借入金が毎年増加しているとします。本業そのものが現金を生み出せず、借金で事業を維持している可能性があります。この状態が長期化すれば注意が必要です。
ここで重要な言葉が利益の質です。毎年営業利益500億円で営業CFも毎年500~600億円なら、利益が現金へしっかり変わっている可能性があります。一方、毎年営業利益500億円で営業CFは100億円前後なら、なぜ現金化されないのかを調べます。売掛金、在庫、一時的な支出、会計処理などを確認します。
Aメディカルは営業利益500億円、営業CF550億円、売掛金・在庫とも安定。Bメディカルは営業利益500億円、営業CF100億円、売掛金+40%、在庫+50%。利益は同じですが、キャッシュの状況は大きく違います。B社では、売上が現金へ変わっていない可能性があります。この場合、売上の回収状況、在庫の中身をさらに確認します。
利益とキャッシュが異なるもう一つの理由に、減価償却があります。会社が100億円の製造装置を購入すると、現金としては購入時に大きな支出が発生しますが、会計上は一定のルールに従って複数年にわたり費用として配分されることがあります。このため、利益計算と現金の支出時期に違いが生じます。
企業分析ではEBITDAという指標を見ることもあります。これは減価償却などの影響を考える前の収益力をみるために使われる指標の一つです。ただし、EBITDAが高いことと、現金がたくさん残ることは同じではありません。設備投資が非常に大きい企業では、EBITDAは高いのにフリーCFは小さいこともあります。そのため最終的には、キャッシュフローそのものを確認することが重要です。
医療機器企業では、製造設備、在庫、売掛金などがキャッシュフローへ影響します。特に、本体を販売し、設置し、消耗品を継続販売するという企業では、一度装置が普及すると安定的なキャッシュフローを生み出す場合があります。設置台数が増え、毎年消耗品が売れれば、継続的に現金が入ってくる仕組みを作れる可能性があります。
製薬企業では、大型薬が成功すると非常に大きな営業CFを生み出す場合があります。その現金を、次の研究開発、M&A、ライセンス導入、株主還元へ使うことができます。つまり、大型薬から大きな営業CF、次世代研究開発、次の新薬という循環を作れるかが重要です。第16講のパテントクリフともつながります。
第17講のM&Aも、キャッシュフローと深く関係します。A社が年間フリーCF1,000億円を生み出しているとすれば、3,000億円の企業買収をしても、数年間のキャッシュフローで資金を補える可能性があります。一方、フリーCF100億円しかない会社が3,000億円の買収をすれば、大きな借入が必要になるかもしれません。つまり、同じ3,000億円のM&Aでも、企業のキャッシュ創出力によって負担は違うのです。
研究開発にも現金が必要です。有望なパイプラインがあっても、研究資金がなく臨床試験費用を払えなければ、開発を続けられません。したがって、パイプラインの質だけでなく、その研究開発を支えられるキャッシュがあるかも重要です。
企業は余った現金を株主へ還元することがあります。代表的なのが配当と自社株買いです。ただし、営業CF500億円なのに配当+自社株買いが800億円を毎年続けるとしたら、不足分を現金残高や借入などで補う必要があります。株主還元も、企業が実際に生み出しているキャッシュの範囲内かを見ることが重要です。
本業から大量の現金を生み出し、手元に多くの現預金を持っている企業を、キャッシュリッチと表現することがあります。こうした企業は、景気悪化への耐久力、M&A余力、研究開発余力、株主還元余力などを持つ場合があります。ただし、現金を大量に持っているだけで使わない場合は、資本効率の問題も考える必要があります。現金1兆円を持っていても、研究開発しない、設備投資しない、M&Aしない、株主還元もしない、高収益事業にも投資しないなら、その1兆円を有効に使えているのかという問題が出てきます。企業分析では、現金を生む力と、現金を使う力の両方を見ることが重要です。
医療企業のキャッシュフローを見るときには、営業キャッシュフローはプラスか、営業CFは数年間安定しているか、営業利益と営業CFは大きく乖離していないか、売掛金は急増していないか、在庫は売上以上に増えていないか、投資CFは何に使われているか、設備投資は将来の成長につながるか、フリーキャッシュフローはどれくらいあるか、借入によって現金を補っていないか、生み出した現金を何に使っているか、という10項目を確認しましょう。そして最後に、「この会社は利益を計上しているだけなのか、それとも本当に現金を生み出しているのか?」と考えます。
今日のチェックテスト
Q1 キャッシュフローとは何でしょうか。(A.株価の値動き B.会社の現金の流れ C.従業員数の増減 D.市場シェアの変化)【答え】B.会社の現金の流れ。企業へ入ってくる現金と、企業から出ていく現金の流れを表します。
Q2 営業利益500億円、営業CF50億円の会社があります。何を考えるべきでしょうか。【答え】なぜ利益が現金へ変わっていないのかを確認します。売掛金、在庫、一時的な支払いなどの変化を見る必要があります。
Q3 投資CFがマイナス500億円でした。必ず悪い会社でしょうか。【答え】いいえ。新工場や研究施設など、将来の成長につながる投資による現金流出である可能性があります。投資内容を確認します。
Q4 営業CFがマイナスなのに、会社の現金残高が増えています。どのような可能性がありますか。【答え】借入や株式発行などによって資金を調達し、財務CFがプラスになっている可能性があります。現金が増えた理由を確認します。
Q5 営業CF1,000億円、設備投資400億円です。単純化したフリーキャッシュフローはいくらでしょうか。【答え】600億円です。1,000億円-400億円=600億円です。
Q6 売上が20%増え、在庫が60%増えました。何に注意すべきでしょうか。【答え】需要以上に在庫を積み上げていないか確認する必要があります。在庫増加の理由や将来の販売可能性を調べます。
Q7 企業が毎年大きなフリーCFを生み出しています。どのような強みがありますか。【答え】研究開発、M&A、借金返済、設備投資、株主還元などに使える資金があり、経営の選択肢が広がる可能性があります。
総合ケーススタディ──JMEIメディカルのキャッシュは本当に強いか?
架空のJMEIメディカルを分析します。売上高8,000億円、営業利益1,200億円、営業CF1,450億円、投資CF-700億円、財務CF-500億円。主な投資内容は、次世代医療機器工場300億円、研究施設150億円、海外販売拠点100億円、その他設備150億円、設備投資合計600億円です。売掛金は前年900億円から今年950億円、在庫は前年700億円から今年730億円、売上成長率は+12%。有利子負債は前年1,500億円から今年1,300億円です。この会社のキャッシュフローをどう見るでしょうか。
まず営業CFを見ると、営業利益1,200億円に対して営業CF1,450億円で、利益以上の営業キャッシュフローを生み出しています。少なくともこの年は、本業の利益が現金へしっかり変わっている可能性があります。
売掛金と在庫を見ると、売上は12%成長している一方、売掛金は900億円から950億円で約5.6%増、在庫は700億円から730億円で約4.3%増と、いずれも売上成長率12%より低い増加率です。単純な比較では、売掛金や在庫が売上以上に膨張している状態ではないと考えられますが、さらに詳細な確認は必要です。
投資CFは-700億円と大きなマイナスですが、内容を見ると次世代医療機器工場、研究施設、海外販売拠点など、将来成長を目指した投資が中心です。つまり、現金が減っているのではなく、現金を将来の事業資産へ変えていると見ることができます。
営業CF1,450億円から設備投資600億円を引くと、単純化したフリーCFは850億円です。かなり大きな現金創出力があります。さらに有利子負債も1,500億円から1,300億円へ減っています。本業で現金を生み、成長投資を行い、さらに借金も返済している。比較的健全なキャッシュフロー構造に見えます。
それでも1年間だけで結論を出してはいけません。工場投資は本当に売上につながるか、海外販売拠点で売上は増えるか、研究施設から新製品が生まれるか、営業CFを維持できるかを見る必要があります。投資したお金が、将来の現金へ戻ってくるか。そこまで確認して、初めて投資の質が評価できます。
JMEIでは、企業分析で利益を見た後、必ずキャッシュフローへ進みます。見る順番は、売上から営業利益、営業キャッシュフロー、売掛金・在庫、設備投資、フリーキャッシュフロー、借入、現金の使い道です。営業利益が20%増えたからといって分析を終えるのではなく、次に、営業CFも増えたか、売掛金が急増していないか、在庫が積み上がっていないかを見る。さらに、生み出した現金を、研究開発、設備投資、M&A、借金返済、株主還元のどこへ使っているのかを見る。これによって、企業がどのように稼ぎ、そのお金で何をしようとしているのかが分かります。企業分析とは、利益を見ることだけではありません。稼ぐ、現金に変える、投資する、さらに稼ぐという循環を見ることです。
医療企業のキャッシュフローを見るとき、JMEIが特に重視するのは、「医療価値を生み出すために現金がどう使われているか」です。年間1,000億円のフリーキャッシュフローを生み出す企業があるとして、その1,000億円を、次世代治療の研究開発、新しい医療機器、製造能力増強、病院へのサポート体制、医療AI、有望なスタートアップとの提携に使えば、患者の治療選択肢が増え、医療従事者の負担が減り、治療成績が改善し、医療アクセスが広がるという価値が生まれ、その投資は将来の企業競争力にもつながる可能性があります。反対に、大量の現金を生み出しているのに、研究開発をせず、設備更新もせず、次世代事業も作らない会社は、現在は強くても将来の競争力を失う可能性があります。だからJMEIでは、キャッシュを生む力とキャッシュを使う力の両方を見ます。優れた医療企業とは、利益を出す会社だけではありません。利益を現金へ変え、その現金を次の医療価値へ再投資できる会社です。医療企業の成長を理解するには、研究開発から製品、売上、利益、キャッシュ、再投資、次の製品という循環を見ることが重要なのです。
第18講で最も覚えてほしいのは、「利益と現金は同じではない」ということです。キャッシュフローを見るときには、まず営業CFを見て、営業利益と比較し、売掛金を見て、在庫を見て、投資CFを見て、何に投資しているか確認し、フリーCFを見て、財務CFを見て、借金や株主還元を見る、という順番で考えます。そして最後に、「この会社は本業から現金を生み、その現金を未来の成長へ再投資できているか?」と考えます。利益は企業の成績表ですが、キャッシュは企業を実際に動かす血液ともいえます。売上があっても、利益があっても、現金がなくなれば事業を続けることはできません。逆に、安定して大量の現金を生み出す会社は、研究開発、M&A、設備投資、借金返済など、さまざまな選択肢を持つことができます。キャッシュフローを理解すると、企業の「本当の体力」が見えるようになります。
次回予告
第19講 フリーキャッシュフローで企業の「自由に使えるお金」を読む──成長投資と株主還元をどう評価するか
第18講では、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローという3つの現金の流れを学びました。次回は、その中でも企業価値分析で特に重要な、フリーキャッシュフローをさらに掘り下げます。A社は営業利益1,000億円、フリーCF200億円。B社は営業利益700億円、フリーCF600億円。利益ではA社が上ですが、自由に使える現金ではB社が上です。では、本当に経営の自由度が高いのはどちらでしょうか。さらに、企業が生み出したフリーCFを、研究開発へ使うのか、M&Aへ使うのか、配当へ使うのか、自社株買いへ使うのか、借金返済へ使うのかによって、5年後の会社は大きく変わります。第19講では、フリーキャッシュフローをどう計算するのか、設備投資の多い企業をどう評価するのか、成長投資と維持投資は何が違うのか、配当はフリーCFで賄えているのか、自社株買いは合理的なのか、そして「現金を稼ぐ会社」と「現金を上手に使う会社」は何が違うのかを、企業経営の重要テーマである「資本配分」へつながる分析を学んでいきます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。