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医療企業分析アカデミー

第43講 ROAとは何か?――会社が持つ「すべての資産」からどれだけ利益を生み出しているか

JMEI 医療企業分析アカデミー 第43講 会社が持つ「すべての資産」からどれだけ利益を生み出しているか

第42講では、営業レバレッジについて学びました。売上が増えたとき、利益がどれだけ増えるのか。その背景には、変動費、固定費、限界利益、損益分岐点という企業のコスト構造がありました。今回は、別の角度から企業の「稼ぐ力」を見ていきます。例えば、2つの医療企業があるとします。A社、純利益100億円。B社、純利益100億円。利益だけを見れば、同じです。しかしA社は、5,000億円の資産を使って100億円を稼いでいる。B社は、1,000億円の資産で100億円を稼いでいる。同じ100億円でも、資産を使う効率は大きく違います。そこで登場するのが、ROAです。ROAとは、Return on Assets。日本語では、総資産利益率と呼ばれます。簡単に言えば、「会社が持っている資産を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているか」を見る指標です。企業は利益を生むために、現金、売掛金、在庫、工場、研究施設、医療機器、土地、建物、特許、ソフトウェア、のれんなど、さまざまな資産を使っています。製薬企業、医療機器企業、医療DX企業、病院、介護企業では、必要とする資産の構造がまったく違います。だからROAを見ると、企業のビジネスモデルまで見えてきます。今回は、ROAとは何か、どう計算するのか、ROEとの違い、ROICとの違い、なぜ業種によってROAが違うのか、M&AをするとROAはどう変化するのか、資産を持たない企業はなぜROAが高くなりやすいのか、そして「大きな会社」と「資産を上手に使う会社」は何が違うのかを学んでいきます。

ROAの基本と、業種差

ROAは、Return on Assetsの略です。日本語では、総資産利益率です。基本的な考え方は、企業が保有するすべての資産を使って、どれだけ利益を生み出したのかを見ます。代表的には、ROA=純利益÷総資産×100で計算します。ただし注意が必要です。ROAには、営業利益÷総資産などを使う分析方法もあります。資料によって分子が異なることがあるため、企業比較をするときは、同じ定義で比較することが重要です。この講義では、まず初心者向けにROA=純利益÷総資産×100を基本として考えます。

例を見てみましょう。総資産1,000億円、純利益50億円。ROAは、50÷1,000×100=5%。何を意味するのでしょうか。会社が保有する資産100円につき、年間5円の純利益を生み出したというイメージです。もう一つ例を見てみましょう。総資産2,000億円、純利益50億円。ROAは、50÷2,000×100=2.5%。利益は同じ50億円ですが、ROAは違います。なぜでしょうか。必要とした資産額が違うからです。

同じ利益の2社のケーススタディを見てみましょう。A Medicalは、総資産1,000億円、純利益100億円。B Medicalは、総資産5,000億円、純利益100億円。ROAは、A社10%、B社2%。同じ100億円を稼ぐために、A社は1,000億円の資産、B社は5,000億円の資産を使っています。ROAだけを見るなら、A社の方が、資産を効率的に使っていると考えられます。しかし、ここで終わってはいけません。なぜB社は、5,000億円もの資産が必要なのでしょうか。例えばB社が大型医療機器メーカーだったとします。必要なもの、工場、製造設備、物流拠点、在庫、研究施設。A社は医療ソフトウェア企業。必要なもの、開発人員、クラウド環境、ソフトウェア。物理的資産は比較的少ないかもしれません。つまり、ビジネスモデルが違います。ROAを異業種で単純比較してはいけない、ここが最初の重要ポイントです。

資産とは何でしょうか。ROAを理解するためには、総資産を理解する必要があります。貸借対照表の左側に、企業が保有する資産が並びます。代表的な資産は、現金、売掛金、在庫、土地、建物、機械設備、投資有価証券、特許などの無形資産、のれんです。企業はこれらの資産を使って、売上、利益、キャッシュを生み出します。ROAの本質は、「この資産、本当に働いていますか?」を見る指標とも言えます。例えば、巨大な工場、しかし稼働率30%。資産は大きい、しかし、十分な利益を生んでいない。ROAは低くなりやすいということです。逆に、工場稼働率90%、同じ工場から多くの製品を生産、利益増加、ROA改善につながる可能性があります。第42講とのつながりを考えると、前回、稼働率を学びました。稼働率上昇、売上増加、営業利益増加、ROA改善。つまり、利益率と資産効率はつながっています。

医療機器工場のケーススタディを見てみましょう。A Deviceは、総資産2,000億円、純利益100億円。ROA5%。新製品がヒット、工場稼働率上昇。翌年、総資産2,100億円、純利益168億円。ROAは、168÷2,100×100=8%。資産は5%増えた、しかし利益は68%増えた。既存資産を有効活用できた可能性があります。これは良いROA改善です。ではROAが高ければ必ず良いのでしょうか。そうとは限りません。例えば、設備投資をしない、老朽設備を使い続ける。資産額が小さいため、ROAが高く見えることがあります。しかし将来、設備故障、生産能力不足、品質問題につながる可能性があります。つまり、高ROIC=必ず優良企業ではありません。重要なのは、なぜ高いのか、なぜ低いのか。これは利益率分析と同じです。数字の理由を見ることが重要です。

ROAの分解と、ROE・ROICとの違い

次にROAを分解してみます。ROAは、利益率と、資産回転率に分けて考えることができます。ROA=純利益÷総資産。これを、純利益÷売上高×売上高÷総資産に分解できます。つまり、ROA=売上高純利益率×総資産回転率。非常に重要な式です。なぜでしょうか。ROAが高い理由を、2つに分解できるからです。1つ目は利益率が高い。2つ目は資産を高速で回している。このどちらか、または、両方です。

2つの会社のケーススタディを見てみましょう。A Pharmaは、売上高1,000億円、純利益200億円、総資産2,000億円。純利益率20%。総資産回転率、1,000÷2,000=0.5回。ROA、20%×0.5=10%。B Medical Distributorは、売上高4,000億円、純利益100億円、総資産1,000億円。純利益率2.5%。総資産回転率4回。ROA、2.5%×4=10%。ROAは同じ10%、しかし、稼ぎ方はまったく違います。A社は高利益率、低回転。B社は低利益率、高回転。これがビジネスモデルの違いです。製薬企業では、特許、高付加価値薬によって、高い利益率を生み出すことがあります。一方、医薬品卸などでは、利益率は低くても、大量の商品を流通させることで、資産を回転させます。だからROAだけでは足りません。利益率、資産回転率まで分解することが重要です。第41講と接続します。第41講では、利益率を学びました。今回、資産回転率が加わります。企業の収益力=どれだけ利益を残すか×どれだけ資産を回すか。この考え方は企業分析の基本です。

では総資産回転率とは何でしょうか。総資産回転率=売上高÷総資産です。例えば、総資産1,000億円、売上高2,000億円。総資産回転率2回。資産1円から年間2円の売上を作っているというイメージです。別企業、総資産1,000億円、売上高500億円。総資産回転率0.5回。資産効率が大きく違います。しかしここでも業種差があります。病院は、土地、建物、医療機器、資産が大きい。医療SaaSは、物理的資産が比較的小さい。資産回転率の構造は違います。

次にROEとの違いです。ROEは、Return on Equity、自己資本利益率です。代表的な式は、ROE=純利益÷自己資本。ROA=純利益÷総資産。何が違うのでしょうか。分母です。ROAは会社が持つすべての資産、ROEは株主が出した資本などの自己資本。企業の資産は、自己資本だけで作られているわけではありません。借入金、社債などの負債も使います。だから、総資産=負債+純資産。

同じROAでもROEが違うケーススタディを見てみましょう。A社は、総資産1,000億円、自己資本800億円、純利益80億円。ROA8%。ROE10%。B社は、総資産1,000億円、自己資本400億円、純利益80億円。ROA8%。ROE20%。利益も総資産も同じ、しかしROEは、B社が2倍。なぜでしょうか。B社は、自己資本が少なく、負債を多く使っているからです。これが財務レバレッジです。ROEが高いから安全とは限りません。借金を増やせば、ROEが高くなる場合があります。だから、ROEだけではなく、ROA、負債、自己資本比率を一緒に見る必要があります。ROAが教えてくれることは、借入を含めて会社が集めた資金によって形成された資産を、どれだけ効率的に利益へ変えているか。ROEより広い視点で企業を見ることができます。

次にROICとの違いです。ROICは、Return on Invested Capital、投下資本利益率です。ROAは総資産全体を見る。ROICは事業に実際に投下されている資本と、そこから生まれる税引後営業利益を見る。代表的には、ROIC=NOPAT÷投下資本。ROAには、余剰現金、投資有価証券なども含まれます。ROICでは、本業の事業運営に必要な資本へ焦点を当てます。したがって、企業の本業の資本効率を見るならROIC、会社全体の資産効率を見るならROA、株主資本の効率を見るならROE。3つを整理すると、ROA=会社全体、ROIC=事業、ROE=株主。このイメージで覚えると分かりやすいでしょう。

現金を大量に持つ製薬企業のケーススタディを見てみましょう。A Pharmaは、総資産1兆円。そのうち現金3,000億円。純利益500億円。ROA5%。しかし、3,000億円の現金が、事業にほとんど使われていないとします。ROAは低く見える可能性があります。だからROICも見ます。本業で実際に使っている資本の効率を見るためです。ここがROAの弱点の一つです。総資産の中身を見ないと、意味を誤解することがあります。

M&Aと、のれん、研究開発型企業でのROA

次にM&Aです。医療企業では非常に重要です。企業を買収すると、買収先の資産、無形資産、のれんなどが総資産へ加わります。総資産が大きく増える可能性があります。しかし利益は、すぐに同じ割合では増えないことがあります。すると、ROA低下。M&A後のケーススタディを見てみましょう。買収前、総資産2,000億円、純利益200億円。ROA10%。大型M&A実施。買収後、総資産4,000億円、純利益260億円。ROA6.5%。純利益は増えた、200億円から260億円。しかしROAは、10%から6.5%。なぜでしょうか。買収で増えた資産に対して、利益増加がまだ十分でないからです。ではM&A失敗でしょうか。まだ分かりません。3年後、統合効果、新製品販売、海外展開。純利益450億円。総資産4,100億円。ROA約11%。買収資産が働き始めた可能性があります。M&Aは、買収直後の利益だけではなく、数年後のROA改善を見ると面白い。特に「のれん」に注目します。

のれんとは何でしょうか。企業買収時に、純資産などだけでは説明できない、ブランド、顧客基盤、技術、将来収益力などに対して支払った価値が、会計上ののれんとして計上されることがあります。のれんが大きい企業、総資産も大きくなります。しかし、買収先が期待通り稼げない。すると、ROAが低下したまま。さらに、減損が発生する可能性があります。医療企業のM&A分析では、のれんと、ROAをセットで見る価値があります。

次に研究開発型企業です。ここは少し注意が必要です。製薬企業では、研究開発費の多くが、費用として処理される場合があります。研究開発によって、将来大きな価値を生む可能性がある。しかし貸借対照表上の資産として、すべて残るわけではありません。すると、非常に強い知的資産を持つ企業でも、会計上の総資産だけでは、本当の企業資産を完全には表現できません。医療DXも同じです。人材、アルゴリズム、データ、組織能力。こうしたものは、必ずしも総資産に十分反映されません。したがって、ROAだけで知識集約企業を評価しないことが重要です。

医療AI企業のケーススタディを見てみましょう。A Medical AIは、総資産200億円、純利益30億円。ROA15%。非常に高い。しかし本当の競争力は?医師ネットワーク、医療データ、AIモデル、開発人材。会計上の資産額だけでは十分に表れない可能性があります。高ROAの背景に、アセットライトなビジネスモデルがあるわけです。アセットライトとは、Asset Light、大量の物理的資産を持たずに事業を行うモデルです。例えば、クラウド型医療ソフトウェア、医療情報サービス、プラットフォーム。総資産をあまり増やさず、売上と利益を増やせる。ROAが高くなりやすい可能性があります。反対にアセットヘビー、Asset Heavy、大量の設備資産が必要。例えば、病院、大型製造工場、検査センターなどです。ROAは低くなりやすい場合があります。しかし低ROA=悪い会社ではありません。参入障壁になる場合があるからです。巨大工場、品質管理システム、世界的物流網、規制対応設備。簡単には真似できない。資産の重さが競争優位になることもあります。ここが企業分析の面白いところです。

病院・介護施設での稼働率、そして在庫・売掛金分析

次に病院経営を考えます。病院は、典型的なアセットヘビー事業です。土地、建物、MRI、CT、手術室、医療設備。大きな資産が必要です。しかし設備を持っているだけでは利益は出ない。重要なのは、病床稼働率、手術件数、検査件数、外来患者数。つまり、資産をどれだけ使っているか。2つの病院のケーススタディを見てみましょう。A Hospitalは、総資産200億円、年間利益4億円。ROA2%。B Hospitalは、総資産200億円、年間利益10億円。ROA5%。同じ設備規模、しかし、B病院は、病床稼働率、手術室稼働率、画像診断装置稼働率が高い。資産がよく働いている可能性があります。

次に介護施設です。介護でも同じです。建物、設備、車両。定員100人、入居者60人、資産が十分使われていない。入居者90人、同じ施設からより多くの売上と利益、ROA改善につながります。第42講で学んだ稼働率が再び登場します。稼働率は、営業レバレッジだけではなく、資産効率にも影響します。

次に在庫です。医療企業では重要です。総資産には在庫も含まれます。大量在庫は資産です。しかし売れなければ?利益を生みません。期限切れ、陳腐化、廃棄につながる可能性があります。医薬品、診断試薬、医療材料では在庫管理が重要です。売上が変わらないのに在庫が急増、総資産増加、ROA低下。これは注意信号になる場合があります。次に売掛金です。売上を計上したが、まだ現金を回収していない。売掛金も資産です。売上成長以上に売掛金が増えている場合、回収が遅れている可能性があります。ROA分析から運転資本分析へつながります。企業分析では、総資産の数字だけではなく、中身を見ることが重要です。

ROA低下の原因を探すケーススタディを見てみましょう。前年、総資産1,000億円、純利益80億円。ROA8%。今年、総資産1,400億円、純利益84億円。ROA6%。なぜ総資産が400億円増えたのでしょうか。調べます。在庫+150億円、売掛金+100億円、新工場+150億円。評価が分かれます。新工場は将来成長投資かもしれません。しかし在庫急増は売れ残りの可能性。売掛金急増は回収悪化の可能性。ROA低下という一つの数字から、複数の問題を発見できます。

ROAを見るときはトレンドが重要です。1年だけでは判断しません。例えば、5年前4%、4年前5%、3年前6%、2年前7%、前年8%、今年9%。継続改善。何が起きているのでしょうか。利益率改善、資産回転率改善、あるいは両方。反対に、10%から8%、6%、4%。なぜ低下したのでしょうか。大型投資、利益率悪化、在庫増加、M&A、稼働率低下。原因を調べます。

JMEI式ROA分析

JMEI式ROA分析は、ROAを見る、過去5年を見る、同業他社と比較する、純利益率を見る、総資産回転率を見る、総資産の中身を見る、現金を見る、在庫を見る、売掛金を見る、固定資産を見る、のれんを見る、ROICと比較する、ROEと比較する、FCFにつながっているかを見るという流れです。

医療企業のROAを見るときには、次の15項目を確認しましょう。ROAは何%か。5年間で上昇しているか。同業他社より高いか。純利益率は何%か。総資産回転率は何回か。ROAの高さは利益率によるものか。資産回転率によるものか。総資産は急増していないか。在庫は増えていないか。売掛金は増えていないか。大型設備投資を行っていないか。M&Aでのれんが増えていないか。ROICとの差はなぜ生じているか。ROEが高いのは負債の影響ではないか。資産増加が将来のFCF増加につながるか。最後に、「この会社が持つ資産は、本当に利益を生み出すために働いているか?」と考えます。

練習問題

問題1 ROAとは何でしょうか。

【答え】Return on Assets。総資産利益率です。企業が保有する総資産を使って、どれだけ効率よく利益を生み出しているかを見る指標です。

問題2 総資産1,000億円、純利益50億円。ROAはいくらでしょうか。

【答え】5%です。

問題3 総資産2,000億円、純利益100億円。ROAはいくらでしょうか。

【答え】5%です。

問題4 ROAを2つの要素に分解すると?

【答え】純利益率×総資産回転率です。

問題5 純利益率10%、総資産回転率0.8回。ROAはいくらでしょうか。

【答え】8%です。

問題6 ROAとROEの違いは何でしょうか。

【答え】ROAは総資産に対する利益率。ROEは自己資本に対する利益率です。

問題7 ROEが非常に高い会社で確認したいことは?

【答え】負債を多く使うことで自己資本が小さくなり、ROEが高くなっていないかを確認します。

問題8 M&A後にROAが低下することがあるのはなぜでしょうか。

【答え】買収によって総資産やのれんが大きく増える一方、利益がすぐに同じ割合では増えないことがあるためです。

問題9 医療DX企業のROAが高くなりやすい理由の一つは?

【答え】大規模な工場や土地などの物理的資産をあまり必要としないアセットライト型の事業である場合があるためです。

問題10 ROAが低下したら何を見るべきでしょうか。

【答え】利益率低下なのか、資産増加なのかを確認し、さらに在庫、売掛金、設備投資、M&A、のれんなど総資産の中身を調べます。

総合ケーススタディ――どちらの医療企業が資産を上手に使っている?

A Medicalは、売上高1,000億円、純利益100億円、総資産1,000億円。純利益率10%。総資産回転率1回。ROA10%。B Medicalは、売上高2,000億円、純利益100億円、総資産1,000億円。純利益率5%。総資産回転率2回。ROA10%。ROAは同じ10%、しかし稼ぎ方は違います。A社は高利益率型、B社は高回転型。さらに調べます。A社は特許医療機器、高価格、高粗利益率。B社は医療材料流通、低利益率、大量販売。どちらが優秀でしょうか。ROAだけでは決められません。次に見ます。A社は主力特許、3年後に満了。B社は物流自動化によって、資産回転率がさらに改善。将来性が変わります。さらにA社は次世代製品開発成功、特許切れを補えるなら、高利益率を維持できる可能性があります。企業分析とは、ROAランキングを作ることではありません。ROAを分解し、利益率、資産回転率、資産内容、競争優位、将来投資まで考えることです。

JMEIでは、ROAを単なる「効率性ランキング」として使いません。ROAが高い、だから優良企業。ROAが低い、だから悪い企業という見方はしません。重要なのは、その会社が、「何の資産を持ち、その資産からどう利益を生み出しているのか」です。製薬企業なら、研究設備、製造設備、特許、現金。医療機器企業なら、工場、製造装置、在庫、販売網。診断企業なら、装置、試薬製造設備、Installed Base。医療DX企業なら、ソフトウェア、データ、開発人材。病院なら、建物、病床、MRI、CT、手術室。介護施設なら、建物、居室、車両。それぞれ利益を生み出す資産が違います。そして、会計上の資産に表れるものと、表れにくいものがあります。データ、人材、ブランド、医師ネットワーク、研究能力、組織文化。これらは企業価値を生み出していても、貸借対照表だけでは十分に見えないことがあります。だからJMEIでは、ROA、利益率、資産回転率、資産の中身、見えない資産、競争優位、ROIC、FCFという順番で見ます。ROAは答えではありません。「この会社の資産は、どのように利益を生み出しているのか?」という問いを始めるための指標なのです。

JMEI Medical Insight

医療企業のROA分析で特に注目したいのは、「医療資産の稼働率」です。医療では、高価な資産を購入しただけでは価値は生まれません。例えば、MRI、CT、手術支援ロボット、検査装置、研究設備、病床、介護施設の居室。それらが、どれだけ使われているかが重要です。1億円の医療機器を導入した。しかし、1日1件しか使わない。別の施設では、同じ機器を1日10件使う。同じ資産でも、生み出す医療価値と経済価値は大きく違います。これは企業でも同じです。工場を作る、検査センターを作る、営業拠点を作る、買収する。重要なのは、「資産を増やしたこと」ではありません。その資産を使って、売上、利益、FCFをどれだけ増やしたかです。JMEIでは、Capital Expenditureを見たら、その後の、稼働率、売上、利益率、ROA、ROIC、FCFまで追いかけます。設備投資は、支出した瞬間には企業価値を生みません。その設備が働き、医療現場に価値を提供し、利益とキャッシュを生んだとき、初めて企業価値につながります。医療企業分析では、「何を持っている会社か」ではなく、「持っているものを、どれだけ働かせている会社か」を見る。これがROAを医療企業分析に使う意味です。

今回のポイント

第43講で最も覚えてほしいのは、「利益額だけでは、企業の稼ぐ効率は分からない」ということです。ROAは、Return on Assets、総資産利益率、基本的には、純利益÷総資産×100で考えます。そしてROAは、純利益率×総資産回転率に分解できます。つまりROAを高める方法は、大きく2つあります。一つは、高い利益率で稼ぐ。もう一つは、資産を効率よく回す。です。さらに、ROA、ROIC、ROEは、それぞれ見る対象が違います。ROAは会社全体の資産。ROICは事業へ投下された資本。ROEは株主資本を見る指標です。ROAを見る順番は、ROA、純利益率、総資産回転率、総資産の中身、在庫、売掛金、固定資産、のれん、ROIC、ROE、FCFです。そして最後に、「この会社の資産は、本当に働いているのか?」と考えます。資産をたくさん持つ会社が、強い会社なのではありません。持っている資産を、医療価値、売上、利益、キャッシュへ効率的に変えられる会社。それが、資産を上手に使う会社なのです。

次回予告

第44講 総資産回転率とは何か?――「資産を何回転させて売上を作るか」で企業を見る

第43講では、ROAを学びました。そしてROAを、純利益率×総資産回転率に分解しました。では、総資産回転率とは何なのでしょうか。同じ1,000億円の資産を持つ企業でも、年間500億円しか売上を作れない会社、年間1,000億円売る会社、年間3,000億円売る会社では、資産の使い方がまったく違います。さらに、総資産回転率を細かく見ると、在庫、売掛金、工場、設備など、「どこで資産が眠っているのか」まで見えてきます。次回は、総資産回転率とは何か、回転率と回転期間の違い、在庫回転率、売掛金回転率、固定資産回転率、医薬品在庫、医療機器工場、病院設備、介護施設、医療DXでは資産回転の意味がどう違うのか、そして「資産を持つ会社」と「資産を働かせる会社」は何が違うのかを、企業の資産効率を、さらに一段深く読み解いていきます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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