JMEI 医療企業分析アカデミー 第3講 会社の「稼ぐ力」を資本と資産から読む
はじめに
第1講では、「株価を見る前に、会社を見る」という企業分析の基本を学びました。
第2講では、売上・利益・利益率を学び、「たくさん売っている会社」と「効率よく利益を生み出している会社」は同じではないことを確認しました。
今回から、もう一段深く会社を見ていきます。
例えば、A社とB社がどちらも年間100億円の利益を出しているとしましょう。利益だけを見れば、「同じくらい稼ぐ会社」に見えます。
しかしA社が1,000億円の資産を使って100億円を稼ぎ、B社が5,000億円の資産を使って100億円を稼いでいたらどうでしょうか。同じ100億円でも、意味が違ってきます。
そこで登場するのが、ROEとROAです。
今回は企業分析で頻繁に登場するこの2つの指標を、できるだけ計算式の暗記ではなく、「会社がお金をどれだけ上手に使って利益を生み出しているか」という視点から理解していきます。
1.利益額だけでは分からないこと
まず2つの架空の医療企業を比較してみましょう。
- Aメディカル:年間利益 100億円
- Bメディカル:年間利益 100億円
どちらも100億円です。この数字だけなら、同じ収益力に見えます。
ところが、A社が事業のために使っている資産が1,000億円、B社が5,000億円だったらどうでしょうか。
A社は1,000億円を使って100億円。B社は5,000億円を使って100億円。同じ利益を生み出すために必要な資産が大きく違います。
そこで企業分析では、
「いくら儲けたか」だけでなく、「何を使って、その利益を生み出したか」
を見る必要があります。
2.ROEとは何か?
まずROEです。ROEは、Return on Equity の略です。日本語では、自己資本利益率と呼ばれます。
少し難しい言葉ですが、考え方はシンプルです。
ROEは、「株主から預かった資本などを使って、会社がどれくらい利益を生み出したか」を見る指標です。
基本的な考え方は、
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
です。
3.ROEを100円で考えてみる
計算式よりも、まず100円で考えてみましょう。
株主のお金を中心とした自己資本が100円ある会社が、1年間で10円の利益を生み出したとします。
すると、10円 ÷ 100円 × 100 = 10%です。ROEは10%です。
つまり、「自己資本100円に対して、1年間で10円の利益を生み出した」と考えると分かりやすいでしょう。
4.A社とB社のROEを比べてみる
A社 自己資本 1,000億円/当期純利益 100億円
ROEは、100 ÷ 1,000 × 100 = 10%です。
B社 自己資本 2,000億円/当期純利益 100億円
ROEは、100 ÷ 2,000 × 100 = 5%です。
両社とも利益は100億円です。しかしROEを見ると、A社10%、B社5%です。
A社の方が、自己資本に対して効率よく利益を生み出していることが分かります。
5.ではROEが高い会社ほど良いのか?
ここで注意が必要です。企業分析では、「ROEが高い=必ず優良企業」とは考えません。
なぜでしょうか。ROEは、利益だけでなく、自己資本の大きさにも影響されるからです。
例えば、借入金を多く使って事業を拡大している企業では、自己資本が相対的に小さくなり、ROEが高く見える場合があります。
したがって、「ROE20%だから素晴らしい」と数字だけで判断してはいけません。次に、なぜROEが高いのかを調べる必要があります。
6.ROEの高さには理由がある
ROEが高くなる理由には、大きくいくつかあります。例えば、
- 利益率が高い。
- 資産を効率よく使っている。
- 借入金などを活用している。
- 自己資本が小さい。
などです。
つまりROEを見るときには、数字そのものより、その数字が生まれた理由を見ることが大切です。
これは第2講で学んだ利益率と同じ考え方です。
7.ROAとは何か?
次にROAです。ROAは、Return on Assets の略です。日本語では、総資産利益率などと呼ばれます。
ROAは簡単にいえば、「会社が持っている資産全体を使って、どれくらい利益を生み出したか」を見る指標です。
基本的には、
ROA = 利益 ÷ 総資産 × 100
という考え方です。
なお、ROAは資料によって分子に当期純利益や営業利益など異なる利益を使う場合があります。企業を比較するときには、同じ定義のROA同士を比較することが重要です。
8.ROAも100円で考える
会社が持つ資産が100円。そこから年間5円の利益を生み出したとします。
5 ÷ 100 × 100 = 5%。ROAは5%です。
つまり、「会社が持つ資産100円から、5円の利益を生み出した」と考えます。
9.そもそも「資産」とは何か?
ここで、「会社の資産とは何ですか?」と思うかもしれません。
例えば医療企業なら、
- 現金
- 工場
- 土地
- 建物
- 製造設備
- 在庫
- 売掛金
- 特許などの無形資産
といったものがあります。
企業は、こうしたさまざまな資産を使って事業を行っています。
ROAは、会社が保有する資産全体を、どれくらい効率よく利益へ変えているかを見る指標です。
10.医療企業でROAを考えてみる
例えば、2つの医療機器会社があります。
- Aメディカル:総資産 1,000億円/利益 100億円
- Bメディカル:総資産 4,000億円/利益 200億円
利益額だけなら、B社200億円、A社100億円なので、B社の方が2倍稼いでいます。
しかしROAを計算すると、A社は 100 ÷ 1,000 × 100 = 10%、B社は 200 ÷ 4,000 × 100 = 5%です。
つまりB社は利益額では大きいものの、資産を利益に変える効率ではA社の方が高いと考えることができます。
11.ROEとROAは何が違うのか?
ここが初心者には少し分かりにくいところです。簡単に分けて覚えましょう。
- ROE:株主側から会社を見る。自己資本を使って、どれだけ利益を生み出したか。
- ROA:会社全体を見る。会社が持つ資産全体を使って、どれだけ利益を生み出したか。
この違いです。
12.なぜROEだけでは足りないのか?
架空のCメディカルを考えてみましょう。当期純利益100億円、自己資本500億円、総資産5,000億円とします。
ROEは、100 ÷ 500 × 100 = 20%。かなり高い数字です。
しかしROAは、100 ÷ 5,000 × 100 = 2%。かなり印象が変わります。
なぜでしょうか。自己資本500億円に対して、総資産は5,000億円あります。つまり、自己資本以外の資金も大きく使っていることが分かります。
この場合、負債の状況などをさらに確認したくなります。
13.ROE20%だけを見てはいけない
企業情報サイトで、「ROE20%」と表示されていたら、「すごい会社だ」と思うかもしれません。
しかし企業分析では、そこで終わりません。次に、
- ROAは何%か。
- 自己資本比率はどうか。
- 借入金は多くないか。
- 利益は一時的ではないか。
- 過去5年間のROEはどうか。
- 同業他社と比べてどうか。
を確認します。
つまり、ROEは企業分析の答えではなく、次の質問を作るための数字なのです。
14.医療企業では業種によって違う
ROEやROAを比較するときに非常に重要なのが、業種の違いです。
例えば、大規模な製造工場が必要な企業。巨大な研究施設が必要な企業。比較的少ない設備で事業を行える医療IT企業。では、必要な資産構造が違います。
したがって、製薬会社のROAと医療AI企業のROAを単純に比較して、「こちらの方が優良企業」と判断するのは適切ではありません。
基本は、同じ業種の企業同士で比較することです。
15.ケーススタディ――AファーマとBファーマ
2つの架空の製薬会社を比較してみましょう。
- Aファーマ:売上高 5,000億円/当期純利益 500億円/自己資本 2,500億円/総資産 5,000億円
- Bファーマ:売上高 5,000億円/当期純利益 500億円/自己資本 5,000億円/総資産 7,000億円
利益はどちらも500億円です。
16.ROEを計算する
Aファーマ:500 ÷ 2,500 × 100 = 20%
Bファーマ:500 ÷ 5,000 × 100 = 10%
ROEだけを見るとAファーマの方が高い。ではA社の方が優れているのでしょうか。まだ分かりません。
次にROAを見ます。
Aファーマ:500 ÷ 5,000 × 100 = 10%
Bファーマ:500 ÷ 7,000 × 100 = 約7.1%
A社はROAでも高くなっています。
ここまで来ると、A社は資本・資産の両面で効率よく利益を生み出している可能性があるという仮説を立てられます。しかし、まだ結論ではありません。
17.さらに「なぜ?」を見る
次に調べるのは、A社はなぜ高いROE・ROAを維持できているのか、です。
例えば、
- 高利益率の新薬を持っている。
- 研究開発効率が高い。
- 工場の稼働率が高い。
- 高収益製品への集中が進んでいる。
などの理由かもしれません。
反対に、一時的な資産売却益などが利益を押し上げているだけかもしれません。
企業分析では、数字 → 理由まで進むことが大切です。
18.ROEの推移を見る
ROEは1年だけでなく、数年間の推移を見るとさらに分かりやすくなります。
例えば、2022年8%→2023年9%→2024年11%→2025年13%→2026年15%と改善していたらどうでしょうか。会社の収益性や資本効率が継続的に改善している可能性があります。
反対に、20%→15%→10%→5%と下がっているなら、何が起きているのかを調べる必要があります。
19.同業他社と比較する
ROEやROAは単独で見るより、同業他社比較が有効です。
例えば、A医療機器 ROE 15%、B医療機器 ROE 8%、C医療機器 ROE 7%だったとします。A社だけ突出しています。
ここで、「A社は優秀だ」で終わらず、「なぜA社だけ高いのだろう?」と考えます。
高利益率なのか。消耗品ビジネスが強いのか。海外比率が高いのか。資産効率が良いのか。借入金が多いのか。
この問いから、その企業のビジネスモデルが見えてきます。
20.ケーススタディ――どちらを高く評価する?
- Cメディカル:ROE 18%/ROA 3%/借入金 多い
- Dメディカル:ROE 14%/ROA 9%/借入金 少ない
ROEだけならC社が上です。しかしROAと財務状況を見ると、D社にも魅力があります。
ここで重要なのは、一つの数字だけで順位をつけないことです。
C社は借入金を有効に使って急成長しているかもしれません。D社は堅実な財務体質で高い資産効率を維持しているかもしれません。
企業分析とは、数字の優劣ではなく、数字が示す会社の姿を理解する作業です。
21.JMEI式「ROE・ROAを見る7つの質問」
医療企業を見るときは、次の7つを確認しましょう。
- ROEは何%か?
- ROAは何%か?
- 過去数年間で上昇しているか、低下しているか?
- 同業他社より高いか、低いか?
- ROEが高い理由は利益率なのか?
- 借入金などによってROEが高く見えていないか?
- その高いROE・ROAは今後も続きそうか?
この7つを確認することで、単に「ROE15%だから良い」という分析から一歩進めます。
22.練習問題
問題1 自己資本1,000億円、当期純利益100億円の会社があります。ROEは何%でしょうか。(A.1% B.10% C.100%)
【答え】B.10%です。100億円 ÷ 1,000億円 × 100 = 10%です。
問題2 総資産2,000億円、利益100億円の会社があります。単純化したROAは何%でしょうか。
【答え】5%です。100億円 ÷ 2,000億円 × 100 = 5%です。
問題3 A社のROEは20%、B社は10%です。A社の方が必ず優良企業でしょうか。
【答え】必ずしもそうではありません。借入金、自己資本の大きさ、一時的利益、ROAなども確認する必要があります。
問題4 ROEを比較するとき、製薬会社と医療IT企業を単純比較してよいでしょうか。
【答え】基本的には注意が必要です。業種によって必要な設備や資産構造が異なるため、まず同業他社と比較する方が適切です。
問題5 ROEが5年間連続して改善しています。次に何を調べるべきでしょうか。
【答え】なぜ改善したのかを調べます。利益率、資産効率、財務構造、事業構成などを確認します。
23.JMEIの視点
JMEIではROEやROAを、企業を点数化するだけの数字とは考えません。
むしろ、
ROEを見る → 同業他社と比較する → 過去の推移を見る → ROAを見る → 財務を見る → なぜ違うのかを調べる
という使い方をします。
大切なのは、「ROEが高い会社を探すこと」ではなく、「なぜROEが高いのか説明できるようになること」です。
これが企業分析です。
JMEI Medical Insight
医療企業では、ROE・ROAが低いことが必ずしも「経営が悪い」ことを意味するわけではありません。
例えば、新しい製造工場を建設した直後なら、資産が先に増えて利益がまだ十分に増えていない可能性があります。新薬開発のために大規模な研究設備へ投資している企業もあります。医療機器企業が世界展開のために工場や販売拠点を増やしている場合もあります。
つまり、現在の効率性と未来への投資を分けて考える必要があります。
一方で、何年たっても投資した資産から十分な利益を生み出せなければ、その投資の妥当性を検討する必要があります。
JMEIでは、「資産を持っているか」ではなく、「その資産が将来どのような医療価値と利益を生むのか」まで考えて企業を見ていきます。
今回のポイント
今回最も覚えてほしいのは、「同じ100億円の利益でも、その100億円の価値は同じとは限らない」ということです。
ROEは、自己資本を使ってどれだけ利益を生み出したか。ROAは、会社の資産全体を使ってどれだけ利益を生み出したかを見る指標です。
そして企業分析では、数字そのものより、「なぜその数字になっているのか」を考えることが重要です。
第2講までの「売上 → 利益 → 利益率」に、今回から「ROE → ROA」が加わりました。
少しずつ、会社の「稼ぐ力」を立体的に見られるようになってきています。
次回予告
第4講 自己資本比率と有利子負債――「借金がある会社」は本当に危ないのか?
ROEを見ると、「借入金が多いとROEが高く見える場合がある」ことが分かりました。
では、借金のある会社は悪い会社なのでしょうか。実はそう単純ではありません。
成長企業が工場を建設する。製薬会社が企業を買収する。医療機器会社が海外進出する。こうしたときには、借入金を使うことがあります。
第4講では、自己資本比率・有利子負債・財務健全性を学び、「良い借金」と「危険な借金」をどう見分けるのかへ進みます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
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