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医療企業分析アカデミー

第9講 セグメント分析とは何か?

JMEI 医療企業分析アカデミー 第9講 「会社全体の売上」に隠れた本当の成長事業を見つける

はじめに

第8講では決算説明資料の読み方を学びました。決算短信で「何が起きたのか」を確認し、決算説明資料で「なぜ、その数字になったのか」を探していくのが基本でした。その中で重要な言葉として登場したのが、セグメントです。

例えば、ある医療企業の売上が前年比10%増えたとします。これだけを見ると「会社全体が順調に成長している」ように感じます。しかし実際には、医療機器事業+30%、医薬品事業-5%、介護事業-15%かもしれません。つまり、会社全体の数字だけを見ていると、どの事業が会社を成長させ、どの事業が足を引っ張っているのかが分からないのです。

今回は会社を「一つの塊」として見るのではなく、事業ごとに分解して分析するセグメント分析を学びます。

セグメントとは何か

セグメントとは簡単にいえば、企業の中にある事業のまとまりです。架空のJMEIヘルスケアという企業が、医薬品事業、医療機器事業、検査事業、介護事業を運営していたとします。会社全体では一つの企業ですが、中には性格の異なる4つのビジネスがあります。これらを事業別に分けて見るのがセグメント分析です。

全社の数字と、セグメント別の数字

JMEIヘルスケアの売上が、前年5,000億円、今年5,500億円だったとします。10%増です。営業利益も前年500億円、今年550億円で10%増。会社全体だけを見ると「売上も利益も10%伸びた順調な会社」です。

しかし、セグメント別に見ると全く違う姿が見えることがあります。今年の売上5,500億円の内訳が、医療機器2,000億円、医薬品1,500億円、検査1,200億円、介護800億円だったとします。前年と比較すると、医療機器は1,500億円から2,000億円で+33%、医薬品は1,500億円で横ばい、検査は1,100億円から1,200億円で+9%、介護は900億円から800億円で-11%です。会社全体では10%成長していますが、実際には医療機器事業が会社全体の成長をほぼ一手に引っ張っていることが分かります。

ここで非常に重要な考え方があります。会社全体が成長しているからといって、すべての事業が成長しているわけではありません。企業分析では、「この会社は成長している」だけで終わらず、「何が成長しているのか」まで調べます。成長している事業が、その会社の5年後の中心事業になる可能性があるからです。

セグメント利益と利益率

セグメント分析でさらに重要なのが、セグメント利益です。医療機器事業が売上2,000億円、利益300億円、介護事業が売上2,000億円、利益40億円だったとします。売上規模は同じですが、利益は大きく違います。

そこで利益率を計算します。医療機器事業は300÷2,000×100=15%、介護事業は40÷2,000×100=2%です。同じ2,000億円の売上でも、どれだけ利益を残せるかは全く違うことが分かります。つまりセグメント分析では、売上規模だけでなく利益率を見ることが非常に重要です。

架空のAヘルスケアには3事業あります。医薬品事業は売上3,000億円、営業利益300億円、成長率2%。医療機器事業は売上1,500億円、営業利益300億円、成長率20%。介護事業は売上1,000億円、営業利益30億円、成長率3%。売上だけを見ると医薬品事業が最大ですが、利益を見ると医療機器事業と同じ300億円です。さらに成長率は医薬品2%に対し医療機器20%。ここから、現在の最大事業は医薬品だが、将来の成長エンジンは医療機器かもしれないという仮説を立てられます。

利益率も計算してみましょう。医薬品事業は300÷3,000×100=10%、医療機器事業は300÷1,500×100=20%、介護事業は30÷1,000×100=3%です。医療機器事業は、最も成長率が高く、最も利益率も高い。企業分析では、「この事業が将来会社全体の価値を大きく変える可能性がある」と考えることができます。

売上構成比と利益構成比

次に重要なのが、会社全体の売上の何%をその事業が占めているかという売上構成比です。全社売上5,000億円で医療機器事業が1,000億円なら、1,000÷5,000×100=20%。この比率を毎年追うことで、会社の事業構造がどの方向へ変化しているのかを見ることができます。

例えば医療機器事業の売上構成比が2023年15%、2024年18%、2025年23%、2026年30%と増え、一方で医薬品事業が60%から55%、50%、43%と低下していたとします。会社全体の名前や見た目は同じでも、中身は少しずつ「製薬会社」から「医療機器会社」に近づいている可能性があります。これは非常に重要な変化です。

売上構成比だけでなく、利益構成比も見てみましょう。全社営業利益500億円のうち、医薬品150億円、医療機器300億円、その他50億円なら、医療機器が全社営業利益の60%を生み出しています。売上では30%しか占めていなくても、利益では60%。この場合、会社の本当の稼ぎ頭は医療機器事業だと考えることができます。

これは企業分析で非常に重要な点ですが、売上が最大の事業と利益が最大の事業は、必ずしも同じではありません。低価格で大量販売する事業は売上が大きくても利益率が低いかもしれません。一方、高付加価値の新薬、特殊な医療機器、検査試薬などは、売上規模は小さくても高い利益率を持つ場合があります。そのため、「会社は何で売上を作り、何で利益を稼いでいるのか」を分けて考えます。

赤字のセグメントをどう見るか

会社全体が黒字でも、一部の事業が赤字ということがあります。例えば医薬品+300億円、医療機器+200億円、医療DX-100億円なら、会社全体では400億円の利益があるものの、医療DX事業は赤字です。

ここで「赤字だから撤退すべき」と単純に判断してはいけません。医療DX事業が売上50億円、損失-100億円というかなり大きな赤字だったとしても、AI開発、営業人員採用、病院システム連携、海外展開などへ積極投資している成長初期の事業かもしれません。その場合、現在の赤字が未来の成長投資という可能性があります。重要なのは、なぜ赤字なのか、いつ黒字化する計画なのか、市場は成長しているのかを見ることです。

一方、5年間連続赤字で、売上もほとんど伸びず、市場シェアも低下しているならどうでしょうか。この場合、経営資源を使い続ける意味があるのかという問題が出てきます。経営陣が事業売却、撤退、再編を検討する可能性もあります。セグメント分析によって、会社全体の数字だけでは見えない「問題事業」も見つけられます。

Bメディカルの業績を見てみましょう。全社売上4,000億円、全社営業利益350億円。一見すると健全な会社です。しかし内訳は、医療機器が売上2,000億円・利益300億円、検査が売上1,500億円・利益150億円、医療DXが売上500億円・利益-100億円です。会社全体では350億円の利益ですが、医療機器+検査だけなら450億円で、医療DXの赤字が100億円利益を押し下げています。

ここで確認します。医療DX事業の売上成長率が+80%だったらどうでしょうか。まだ赤字ですが急成長しています。さらに会社が「3年後の黒字化を計画」しているなら、将来の成長事業かもしれません。反対に売上成長率-10%だったら、印象は全く違います。つまり、赤字額+成長率+将来計画をセットで見る必要があります。

市場の成長率と比べる

セグメント分析では、会社内部の数字だけでなく、それぞれの市場が成長しているかも重要です。医薬品市場が年3%成長、医療機器市場が年8%成長、医療AI市場が年25%成長だったとします。会社の医療AI事業が現在小さくても、市場そのものが急成長していれば、将来の重要事業になる可能性があります。

市場全体が20%成長しているのに自社事業が10%しか成長していない場合、数字だけなら10%成長なので良さそうですが、実際には市場シェアを失っている可能性があります。逆に市場が3%しか成長していないのに自社が15%成長なら、シェアを奪っている可能性があります。つまり、自社成長率だけでなく市場との比較も重要です。

地域と組み合わせる

セグメントと地域を組み合わせると、さらに詳しく会社が見えます。医療機器事業+30%の内訳が、日本+2%、米国+50%、欧州+35%だったとします。すると、医療機器事業の成長を海外市場が牽引していると分かります。そこから、米国で何が売れているのか、競合は誰か、市場シェアはどうか、へ分析を進めます。

M&Aとオーガニック成長

セグメント成長率を見るときには、M&Aにも注意します。医療機器事業の売上が前年1,000億円から今年1,500億円へ50%増えたとしても、500億円の会社を買収した結果なら、既存事業そのものはほとんど成長していない可能性があります。

そこで重要になるのがオーガニック成長という考え方です。オーガニック成長とは、買収などを除いた既存事業そのものの成長のことです。売上成長率+30%のうちM&A効果が+20%なら、見た目は30%成長ですが、オーガニック成長は10%程度という見方ができます。会社の本当の成長力を見るうえで重要です。

Cメディカルはセグメント売上+30%、内訳はM&A効果+25%、既存事業+5%。DメディカルはセグメントM&Aなしで売上+20%、すべて既存事業成長です。見た目の成長率はC社の方が高いですが、既存事業の成長力ではD社の方が強い。もちろんM&A自体が悪いわけではありません。重要なのは、成長の中身を分けて見ることです。

利益率の推移と、事業構造の変化

売上だけではなく利益率の推移も重要です。医療機器事業の利益率が2024年10%、2025年12%、2026年15%と改善していたとします。なぜでしょうか。販売数量増加、高付加価値製品増加、工場稼働率改善、値上げ、消耗品売上増加などが考えられます。ここで第8講の「数字の理由を探す」がつながります。

企業は常に同じ事業構造ではありません。成熟事業から得た利益を、新しい成長事業へ投資することがあります。成熟した国内医薬品でキャッシュを得て、そこから医療AIへ投資し、海外展開する、という流れです。現在の売上最大事業より、現在は小さいが急成長している事業の方が、将来の企業価値を左右することがあります。

セグメントを見つけたら確認する8つのこと

決算資料でセグメントを見つけたら、各事業の売上はいくらか、各事業の売上成長率は、各事業の利益はいくらか、セグメント利益率は、全社売上・利益への貢献度は、赤字事業はあるか理由は何か、市場全体より速く成長しているか、3〜5年後に会社の中心になりそうな事業はどれか、という8つを確認しましょう。そして最後に、「この会社は本当は何で稼ぐ会社なのか?」を考えます。

今日のチェックテスト

Q1 A事業は売上1,000億円、利益100億円です。利益率は何%でしょうか。(A.1% B.5% C.10% D.100%)

【答え】C.10%。100億円÷1,000億円×100=10%です。

Q2 全社売上5,000億円のうち医療機器事業が1,500億円です。売上構成比は何%でしょうか。

【答え】30%です。1,500億円÷5,000億円×100=30%です。

Q3 売上最大のセグメントが、必ず会社に最も利益をもたらしているでしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。事業ごとに利益率が異なるため、売上規模と利益貢献度を分けて確認する必要があります。

Q4 あるセグメントが赤字です。すぐ撤退すべき事業と判断してよいでしょうか。

【答え】判断できません。成長投資による赤字なのか、売上成長率、市場成長率、黒字化計画などを確認します。

Q5 市場全体が20%成長している中で、自社事業は10%成長しています。10%成長なので好調と判断してよいでしょうか。

【答え】注意が必要です。市場より成長率が低いため、市場シェアを失っている可能性があります。

Q6 ある事業の売上が30%増えましたが、そのうち25%分が企業買収によるものでした。何を確認するとよいでしょうか。

【答え】M&Aを除いた既存事業の成長率、つまりオーガニック成長を確認します。

ケーススタディ──JMEIヘルスケアを分析する

架空のJMEIヘルスケアの全社売上は6,000億円、前年比+12%。営業利益は720億円、前年比+20%です。セグメントは3つあります。医薬品は売上3,000億円、前年比+2%、利益300億円。医療機器は売上2,000億円、前年比+25%、利益360億円。医療DXは売上1,000億円、前年比+40%、利益60億円。どこに注目すべきでしょうか。

まず利益率を計算します。医薬品は300÷3,000=10%、医療機器は360÷2,000=18%、医療DXは60÷1,000=6%です。現在の最大事業は医薬品ですが、成長率は2%にとどまります。一方、医療機器は成長率25%、利益率18%。さらに医療DXは成長率40%です。ここから、現在の売上の柱は医薬品、現在の利益・成長の中心は医療機器、将来候補は医療DXという3つの異なる見方ができます。これがセグメント分析の面白さです。

では医療DXが一番魅力的なのかというと、まだ分かりません。40%成長していますが利益率は6%で、市場競争も激しいかもしれません。次に、その40%成長は何年続くのか、市場成長率は何%か、研究開発費はいくらか、競合は誰か、継続収益モデルなのかを調べます。企業分析では、一つの良い数字を見つけても、その数字から次の質問を作ることを忘れません。

JMEIの視点

JMEIでは企業を一枚の決算書だけで評価しません。会社全体からセグメントへ、さらに製品、地域、医療現場へと、少しずつ分解していきます。「医療企業A社は売上12%成長」というだけでなく、「医療機器事業が米国で25%成長し、高利益率の消耗品売上拡大によって全社利益を牽引している」まで説明できれば、企業理解は大きく深まっています。JMEI医療企業分析アカデミーで目指すのは、このレベルです。

医療現場の視点

医療企業のセグメント分析で重要なのは、事業規模と医療インパクトが必ずしも一致しないことです。現在50億円しかない新しい医療技術事業が、5年後には数千億円規模になる可能性があります。反対に、現在数千億円を売る成熟事業でも、より優れた治療技術の登場によって縮小することがあります。

だからJMEIでは、現在の売上順位だけでなく、「その事業はどんな医療課題を解決し、市場はどちらへ向かっているのか」を見ます。企業のセグメント表は、単なる売上の内訳ではありません。会社が現在どこで稼ぎ、未来のどこへ向かっているのかを示す地図なのです。

今回のポイント

今回最も覚えてほしいことは、「会社全体の成長率だけでは、企業の本当の姿は分からない」ということです。会社全体の売上を見たら、セグメントへ分解する。さらに、売上、利益、利益率、成長率、市場との比較と見ていきます。そして、現在の売上の柱、現在の利益の柱、未来の成長の柱を分けて考えます。この3つは、同じ事業とは限りません。セグメント分析ができるようになると、企業を見る目が一段深くなります。

次回予告

第10講 製品別売上を読む──「会社の成長」を本当に支えている商品はどれか?

第9講では、会社を事業単位に分解しました。次は、もう一段細かく、製品まで見ていきます。製薬会社なら、どの薬が売れているのか。医療機器会社なら、どの医療機器や消耗品が伸びているのか。1つの製品に依存していないか。新製品は旧製品を置き換えられるのか。そして、「会社の売上20%成長」のうち、実際に何が20%を作ったのかを調べます。第10講では、製品別売上、製品構成比、成長率、主力製品依存度を使って、企業の「本当の成長エンジン」を見つける方法へ進みます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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