JMEI 医療企業分析アカデミー 第27講 「会社全体の数字」に隠れた本当の成長事業を見つける
第26講では、営業レバレッジについて学びました。売上が10%増えたのに、営業利益が30%増える。反対に、売上が10%減っただけなのに、営業利益が50%減る。こうした現象が起こる背景には、固定費、変動費、工場稼働率、販管費などの構造がありました。つまり、企業分析では、売上が増えたかだけでなく、その売上がどれくらい利益へつながる構造なのかを見る必要があります。
今回は、企業全体をさらに分解していきます。大手医療企業を見ると、「売上高1兆円」「営業利益1,500億円」といった全社数字がまず目に入ります。しかし、その1兆円は一つの事業から生まれているとは限りません。例えば、医薬品事業、医療機器事業、診断事業、ヘルスケアIT事業、介護・在宅事業など、複数の事業を持っている場合があります。全社売上が10%増えていても、すべての事業が10%伸びているわけではありません。ある事業は30%成長、別の事業は10%減少、さらに別の事業は赤字。その結果として、全社では10%増収になっているかもしれません。つまり、会社全体の数字だけを見ると、本当に成長している事業、本当に利益を生み出している事業、将来の主力になりそうな事業が見えないことがあります。そこで重要になるのが、セグメント分析です。第27講では、セグメントとは何か、売上構成比をどう見るのか、セグメント利益率をどう見るのか、全社成長を牽引している事業をどう見つけるのか、赤字事業をどう評価するのか、M&Aによって事業構成がどう変わるのか、そして「現在の主力事業」と「5年後の主力事業」をどう見分けるのかを、会社全体の数字を分解して読む方法として学んでいきます。
セグメントとは何か
セグメントとは、企業の事業を一定の単位に分けた区分と考えると分かりやすいでしょう。例えばAヘルスケアグループが、医薬品、医療機器、検査、デジタルヘルスという4事業を行っているとします。この場合、それぞれが事業セグメントとして開示されることがあります。企業によっては、地域別、製品別、事業別など、開示の方法が異なります。
なぜセグメントを見るのでしょうか。理由は簡単です。会社全体の数字だけでは、どこで稼いでいるのかが分からないからです。例えば、全社売上高1兆円、営業利益1,000億円だったとします。これだけでは、医薬品で稼いでいるのか、医療機器で稼いでいるのか、赤字事業があるのか分かりません。セグメントへ分解すると、会社の中身が見えてきます。
簡単な例で考えます。JMEI Healthcareの全社売上が1兆円だったとします。内訳は、医薬品5,000億円、医療機器3,000億円、診断1,500億円、デジタルヘルス500億円です。会社全体では1兆円。しかし事業規模は大きく異なります。各事業が全社売上の何%を占めるかを見るのが、売上構成比です。例えば医薬品事業は、5,000億円÷1兆円×100=50%です。医療機器は30%、診断は15%、デジタルヘルスは5%です。
売上構成比から何が分かるでしょうか。まず、何の会社なのかが見えます。JMEI Healthcareは4事業を持っていますが、売上の半分を医薬品が占めています。つまり現時点では、医薬品が主力事業と考えることができます。しかし売上構成比だけでは十分ではありません。
利益構成を見る
次に、どの事業が利益を生んでいるかを見ます。例えば、医薬品は売上5,000億円、セグメント利益500億円。医療機器は売上3,000億円、セグメント利益600億円。診断は売上1,500億円、セグメント利益150億円。デジタルヘルスは売上500億円、セグメント利益-50億円とします。
売上では、医薬品5,000億円が最大です。しかし利益では、医療機器600億円が最大です。つまり、会社の売上を作っている事業と、会社の利益を作っている事業は違う場合があります。ここがセグメント分析の重要なポイントです。各事業の収益性を見るために、セグメント利益率を計算します。単純化すると、セグメント利益÷セグメント売上×100です。先ほどの例なら、医薬品は500÷5,000×100=10%、医療機器は600÷3,000×100=20%、診断は150÷1,500×100=10%、デジタルヘルスは-50÷500×100=-10%です。
全社数字だけを見ると、売上1兆円の大企業。しかし中身を見ると、医療機器事業が非常に高収益、医薬品事業は規模が大きい、診断事業は安定、デジタルヘルスはまだ赤字という構造が見えてきます。これがセグメント分析です。
Aメディカルのケースを見てみましょう。売上は前年8,000億円、今年8,800億円で+10%。営業利益は前年800億円、今年900億円で+12.5%。全社では順調です。しかし事業別に分けてみると、医療機器は前年3,000億円から今年3,900億円で+30%、医薬品は前年3,000億円から今年2,700億円で-10%、診断は前年2,000億円から今年2,200億円で+10%。全社では+10%ですが、医療機器事業がほぼ成長を牽引していることが分かります。企業ニュースで、「売上高10%増」と見たら、次に、どの事業が増えたのかを確認します。一つの事業だけが急成長し、別の事業は縮小しているかもしれません。つまり、全社成長率は平均値です。
成長率と増収額
各セグメントについて、売上規模だけでなく、成長率を見ることが重要です。例えば、A事業が売上5,000億円で成長率+2%、B事業が売上1,000億円で成長率+30%なら、現在の主力はA事業、未来の成長候補はB事業という見方ができます。企業分析では、「今一番大きい事業」と、「今一番伸びている事業」を分けます。現在売上5,000億円でも成長率0%。一方売上500億円でも成長率50%。数年後には事業構成が大きく変わる可能性があります。
JMEI Medical Groupを見てみましょう。現在、医薬品5,000億円で成長率0%、医療機器2,500億円で成長率8%、診断1,500億円で成長率5%、医療AI500億円で成長率40%。現在最大は医薬品です。しかし医療AIが年40%成長を続けたらどうでしょうか。単純計算で数年後には、企業の重要な成長事業になる可能性があります。
ただし高成長率だけを見てはいけません。売上100億円から150億円になれば+50%です。一方、5,000億円から5,500億円なら+10%。成長率では前者が高い。しかし増収額は、前者+50億円、後者+500億円です。企業全体への影響は後者の方が大きい場合があります。セグメント分析では、成長率と、増収額をセットで見ます。例えば、A事業は売上500億円、成長率+40%、増収200億円。B事業は売上5,000億円、成長率+8%、増収400億円。率ではA、金額ではB。両方を見ることで、全社成長への貢献が分かります。
売上だけでなく、利益も重要です。例えば、売上+20%、利益+5%なら、利益率が低下している可能性があります。一方、売上+10%、利益+30%なら、営業レバレッジや製品ミックス改善が起きている可能性があります。第26講とのつながりです。医療機器事業のケースを見てみましょう。売上は2,000億円から2,600億円で+30%。セグメント利益は300億円から260億円で-13%。非常に大きな増収なのに減益です。なぜでしょうか。考えられるのは、新工場費用、新製品発売費用、原材料高、値下げ、海外進出費用、低粗利製品の増加などです。ここで、売上成長だけでは評価できないことが分かります。売上と利益率を並べると、前年は売上2,000億円・利益300億円・利益率15%だったのが、今年は売上2,600億円・利益260億円・利益率10%。利益率が15%から10%へ低下しています。この変化の理由を決算説明資料などで確認します。
赤字セグメントと成熟事業
企業の中には、赤字事業があります。例えば医療AI事業が、売上300億円、セグメント利益-100億円。これだけを見ると、「撤退すべきでは?」と思うかもしれません。しかし、必ずしもそうではありません。新しい事業では、研究開発、営業組織、システム、海外展開などに先行投資が必要です。現在は赤字でも、売上が急成長し、数年後に黒字化する可能性があります。重要なのは、なぜ赤字なのかです。一方、売上が5年間横ばい、赤字が毎年拡大、市場シェア低下、改善計画も不明なら、問題です。この場合、企業全体の利益と資本を食い続けている可能性があります。
2つの赤字事業を比較してみましょう。A Health AIは、売上100億円から180億円、320億円と成長する一方、赤字は-80億円から-60億円、-20億円と縮小しています。B Care Systemsは、売上300億円から290億円、280億円と減少する一方、赤字は-20億円から-40億円、-70億円と拡大しています。どちらも赤字です。しかし状況は違います。A Health AIは売上急増、赤字縮小で、営業レバレッジが働き、近い将来黒字化する可能性があります。B Care Systemsは売上減少、赤字拡大で、市場そのもの、競争力、コスト構造を再評価する必要があります。だから赤字セグメントを見るときには、赤字額だけでなく、売上成長率、粗利率、赤字縮小速度、市場成長率、顧客数、将来の黒字化計画を見る必要があります。
企業には、大きく成長しないが安定して現金を生み出す事業もあります。例えば売上成長率1%、利益率20%、営業CF安定という事業です。派手な成長はありません。しかし企業全体を支える重要な役割があります。成熟事業=悪い事業ではありません。例えばA社の成熟事業が毎年FCF500億円を生み出し、その現金を新薬開発、医療AI、M&Aへ使うなら、成熟事業が新規事業を育てていると考えることができます。経営戦略では、成熟していても安定的に現金を生み出す事業を重要なキャッシュ源として考えることがあります。企業分析では、成長率だけでなく、キャッシュ創出力も見る必要があります。
反対に、高成長事業は、研究開発、設備投資、運転資本、販売網に大量の現金が必要になることがあります。つまり、成熟事業は現金を生み、成長事業は現金を使うという企業内資金循環が起きることがあります。JMEI Healthcareの例を見てみましょう。成熟診断事業のFCFは+600億円。成長医療AI事業のFCFは-200億円。新規ロボット事業のFCFは-250億円。企業全体では、成熟事業のキャッシュを新規成長事業へ再投資しています。これが合理的なら、企業全体の将来価値につながります。問題は「いつまで支えるか」です。赤字成長事業へ現金を投入し続けること自体は悪くありません。しかし、5年、10年ずっと赤字で黒字化の道筋もないなら問題です。企業には、育てる、改善する、売却する、撤退するという判断が必要です。
企業分析では、事業を売却した=失敗とは限りません。低ROIC事業、低成長事業、将来性のない事業から撤退し、資本を高成長・高ROIC事業へ移す。これは合理的な資本配分かもしれません。第20講のROICとつなげると、各セグメントに使っている資本が分かれば、事業別ROICを考えることができます。A事業ROIC20%、B事業ROIC5%、C事業ROIC-2%。企業全体ROICだけでは見えなかった、資本を生かしている事業、資本を消費している事業が見えてきます。例えばB事業が、売上3,000億円と非常に大きいのに、ROIC3%、WACC7%、さらに毎年500億円追加投資なら、規模は大きいが企業価値を十分生み出していない可能性があります。逆にC事業が、売上500億円でもROIC25%、成長率30%、市場も拡大中なら、現在は小さいが将来の主力候補と考えられるかもしれません。経営者が、どの事業へ資金を配分しているかを見ることも重要です。高成長・高ROIC事業へ投資、成熟事業から現金を回収、低収益事業を縮小という流れなら、合理的な資本配分かもしれません。逆に、低ROICの旧来事業へ大量投資、高成長事業への投資不足、赤字事業を何年も温存なら、資本配分に問題がある可能性があります。
M&Aと地域セグメント
第17講のM&Aともつながります。例えば製薬中心の会社が医療機器企業を大型買収すると、製薬90%・医療機器10%だった会社が、製薬60%・医療機器40%へ変わるかもしれません。企業そのものの性格が変化します。M&A後はセグメント利益を見ます。買収によって売上は増えたが、買収セグメントの利益率は低いという場合があります。売上規模だけではなく、買収した事業が本当に利益を生み出しているかを確認します。A Healthcareの例を見てみましょう。買収前は売上8,000億円、営業利益1,200億円。M&A後は売上1兆円、営業利益1,250億円。売上は2,000億円増、利益は50億円しか増えていません。買収事業を見ると、売上2,000億円、利益50億円、利益率2.5%。既存事業の利益率15%前後と比べて低い。この場合、なぜ低利益率の事業を買収したのかを確認します。将来の成長事業なのか、一時的な統合費用なのか、戦略的意味があるのかを見る必要があります。
企業によっては、日本、北米、欧州、中国、その他アジアという地域別情報を開示しています。全社売上が伸びていても、地域によって大きく違う場合があります。Aメディカルの例では、日本+2%、米国+25%、欧州+12%、中国-15%、その他アジア+20%。全社海外売上は成長。しかし中国は大きく減っています。ここから、米国の成長要因、中国の減少理由をさらに調べます。売上だけでなく、地域ごとに利益率が違うこともあります。米国は高利益率、新興国は低利益率だが高成長ということがあります。海外売上比率が上がることで、全社利益率が上がる場合も下がる場合もあります。
セグメントの中でも、どの製品が成長しているかを見るとさらに深くなります。例えば医薬品事業+10%でも、中身は主力薬A+30%、薬B-20%、薬C-15%かもしれません。医薬品事業全体の+10%だけでは見えません。第15講のパイプラインとつなげると、製薬セグメントを見るなら、現在の製品売上、特許切れ、パイプラインを組み合わせます。現在は最大事業でも、大型薬の特許切れが近く、次の新薬がないなら、5年後には縮小する可能性があります。医療機器セグメントなら、装置販売、設置台数、消耗品売上、保守売上などを見ます。現在の装置売上より、将来の継続収益源が重要な場合があります。デジタルヘルスでは、契約施設数、解約率、月額売上、粗利率、営業利益率などを見ます。セグメントによって見るべきKPIが違います。医薬品、医療機器、SaaS、介護では事業モデルが違います。そのため、「利益率15%なら合格」というように単純評価できません。セグメントごとに、市場構造、成長段階、必要資本を見る必要があります。
企業によっては、ある事業部が別の事業部へ製品を販売するなど、セグメント間取引があります。そのためセグメント売上を単純合計すると全社売上と一致しない場合があります。決算資料の、調整額、消去などにも注意しましょう。セグメント利益を合計しても全社営業利益と一致しないこともあります。本社管理費、共通費用、調整項目などがあるからです。例えば、各事業利益合計1,500億円、本社共通費300億円、全社営業利益1,200億円ということがあります。本社費用は必ず無駄ではありません。法務、財務、IT、人事、研究基盤などを共通化することで、各事業を支えています。しかし本社コストが急増する場合には、組織肥大化も確認します。
JMEI式セグメントマップ
初心者がセグメント分析をするときには、各事業についてまず、売上高、売上成長率、利益、利益率、全社への利益貢献という5つを見ると分かりやすくなります。慣れてきたら、市場成長率、市場シェア、ROIC、FCF、将来成長材料を追加します。すると、現在大きい事業と、未来に強い事業を分けられるようになります。
JMEIでは、セグメントを次のように4つへ整理すると理解しやすいと考えます。成長・高収益事業、成熟・高収益事業、成長・低収益事業、低成長・低収益事業です。成長・高収益事業は最も魅力的に見える事業です。例えば、売上成長率20%、利益率25%、ROIC20%、市場も拡大なら、資本を追加投入したい事業かもしれません。成熟・高収益事業は、売上成長率2%、利益率25%、FCF安定という事業。成長性は低いですが、企業のキャッシュエンジンとして重要です。そこで生まれた現金を次の成長事業へ回せます。成長・低収益事業は、売上成長率40%、利益率-5%という事業。将来性が高い可能性はありますが、本当に黒字化できるのかが重要です。医療AIなどの新規事業に多い形かもしれません。低成長・低収益事業は、売上成長率0%、利益率2%、ROICも低いという事業。改善、売却、撤退など、経営判断の対象になる可能性があります。
JMEI Health Groupの4事業を分類してみましょう。A医薬品は成長率2%・利益率22%で、成熟・高収益。B医療機器は成長率18%・利益率20%で、成長・高収益。C医療AIは成長率45%・利益率-8%で、成長・低収益。D旧来型ヘルスケアは成長率-3%・利益率3%で、低成長・低収益と整理できます。経営者ならどこへ投資するでしょうか。B医療機器には、成長市場、高利益率があります。追加投資候補です。C医療AIは、高成長だが赤字。黒字化可能性を検証します。A医薬品は、安定キャッシュ源。D旧来型事業は、改善または事業再編を検討という考え方ができます。
大企業は、一つの会社であると同時に、複数事業の集合体でもあります。どの事業を育てるか、どこから現金を得るか、どの事業を縮小するか。これが経営者の重要な仕事です。1年だけでなく、5年間の売上構成を見ると企業変革が分かります。例えば、2022年は医薬品70%・医療機器20%・デジタル10%だったのが、2026年には医薬品45%・医療機器35%・デジタル20%へ変化しているとします。企業の収益構造が大きく変化しています。企業名は同じでも、中身は変わります。昔は製薬企業、現在は医薬品+診断+デジタルの複合ヘルスケア企業ということがあります。過去のイメージだけで企業を見ないことが重要です。
A Healthcareの例では、前年売上1兆円、今年売上1兆円で全社では0%成長です。しかし、旧来事業は6,000億円から4,500億円へ、成長事業は4,000億円から5,500億円へ。全社売上は変わりません。数字だけなら売上横ばいです。しかし中身は、低成長事業縮小、高成長事業拡大です。さらに成長事業の利益率が高いなら、企業の質は改善している可能性があります。企業再編では、一時的に売上が減る場合があります。低利益事業を売却したからです。売上高は下がる。しかし、利益率、ROIC、FCFは改善という場合があります。「減収=悪化」とは限りません。
Bメディカルの例を見てみましょう。前年は売上1兆円、営業利益800億円、ROIC6%。今年は低収益事業2,000億円分を売却し、売上8,500億円、営業利益900億円、ROIC11%。売上は減っています。しかし利益は増加。ROICも改善。企業価値の質は高まっている可能性があります。第17講のM&Aとは逆に、事業売却という戦略もあります。企業は、何を買うかだけでなく、何を手放すかによっても変化します。資本配分の重要な一部です。
JMEI式「セグメントを見る12の質問」
医療企業のセグメント分析では、次の12項目を確認しましょう。どの事業が最大の売上を持つか。各事業の売上構成比は何%か。どの事業が最も成長しているか。全社増収を最も牽引している事業はどこか。各事業の利益はいくらか。セグメント利益率は何%か。どの事業が全社利益を最も生んでいるか。赤字事業は成長投資段階か、構造不振か。成熟事業はどれだけFCFを生んでいるか。各事業の市場シェア・市場成長率はどうか。経営者はどの事業へ資本を配分しているか。5年後に主力になりそうな事業はどこか。そして最後に、「この会社の現在の主力と、未来の主力は同じ事業なのか?」と考えます。
練習問題
問題1 セグメント分析を行う主な理由は何でしょうか。(A.会社のロゴを調べるため B.会社全体の数字を事業別に分解して理解するため C.株価だけを見るため D.従業員の年齢を見るため)
【答え】B.会社全体の数字を事業別に分解して理解するため。全社数字だけでは、どの事業が成長し、どの事業が利益を生んでいるか分からないためです。
問題2 全社売上1兆円、医療機器事業売上3,000億円です。医療機器事業の売上構成比は何%でしょうか。
【答え】30%です。3,000億円÷1兆円×100=30%です。
問題3 セグメント売上3,000億円、セグメント利益600億円です。セグメント利益率は何%でしょうか。
【答え】20%です。600億円÷3,000億円×100=20%です。
問題4 会社全体の売上が10%増えました。すべての事業が10%成長したと考えてよいでしょうか。
【答え】いいえ。ある事業が大きく成長し、別の事業が減少した結果、全体で10%増になっている可能性があります。
問題5 赤字セグメントはすぐ撤退すべきでしょうか。
【答え】必ずしもそうではありません。新規成長事業で先行投資中の場合もあります。売上成長、赤字縮小、市場性、黒字化計画などを確認します。
問題6 売上成長率40%の事業と8%の事業があります。40%の事業の方が全社成長への貢献が必ず大きいでしょうか。
【答え】いいえ。事業規模が違うため、増収額も確認する必要があります。
問題7 成熟事業にはどのような役割が考えられますか。
【答え】大きな成長はなくても、安定的な利益やキャッシュを生み、成長事業への投資原資になる可能性があります。
問題8 低成長・低ROIC事業へ企業が毎年大量投資しています。何を確認すべきでしょうか。
【答え】改善可能性、戦略的必要性、撤退・売却の選択肢、高成長事業への資本再配分などを確認します。
問題9 M&A後に全社売上が20%増えました。それだけで成功と判断してよいでしょうか。
【答え】いいえ。買収したセグメントの利益率、ROIC、成長性、シナジーなどを確認する必要があります。
総合ケーススタディ――JMEI Healthcare Groupの「本当の主力事業」はどこか
架空のJMEI Healthcare Groupを分析します。全社売上高1兆2,000億円、全社営業利益1,500億円。4つの事業があります。医薬品事業は、売上高5,000億円、前年比-2%、セグメント利益750億円、利益率15%、主力薬特許切れ4年後。医療機器事業は、売上高3,500億円、前年比+18%、セグメント利益700億円、利益率20%、海外売上+25%。診断事業は、売上高2,500億円、前年比+5%、セグメント利益300億円、利益率12%、FCF安定。医療AI事業は、売上高1,000億円、前年比+45%、セグメント利益-100億円(前年赤字-180億円)、契約病院数+60%。この会社をどう分析すればよいでしょうか。
まず現在最大の事業を見ると、売上最大は医薬品事業5,000億円で、全社売上に占める割合は約42%。現時点では最大事業です。セグメント利益も、医薬品750億円、医療機器700億円、診断300億円、医療AI-100億円で、現在最大の利益源も医薬品です。しかし差はかなり小さくなっています。
成長率を見ると、医薬品-2%、医療機器+18%、診断+5%、医療AI+45%。成長の中心は、医療機器と医療AIです。さらに医薬品事業では、主力薬特許切れ4年後があります。つまり現在最大の事業でも、5年後には縮小する可能性があります。第16講のパテントクリフとつながります。
医療機器事業を見ると、売上3,500億円、成長率+18%、利益率20%、海外売上+25%です。成長率、利益率、海外展開すべて比較的強い。現在の数字だけなら、最も質の高い成長事業と考えられる可能性があります。診断事業は、成長率+5%、利益率12%、FCF安定。派手ではありませんが、安定してキャッシュを生む成熟事業として、企業全体を支える役割が考えられます。医療AIは、売上+45%。まだ100億円の赤字ですが、前年赤字は-180億円で今年-100億円と縮小しています。さらに契約病院数+60%。黒字化へ向かっている可能性があります。
5年後の主力候補を考えると、現在は医薬品が最大。しかし、特許切れ、医療機器+18%成長、医療AI+45%成長を考えると、5年後の主力は医療機器あるいは医療AIを含む新事業群へ変わる可能性があります。中期経営計画を見ると、今後5年間の投資計画は、医薬品2,000億円、医療機器4,000億円、診断1,000億円、医療AI3,000億円だったとします。経営陣も、次の成長源を医療機器とAIへ移そうとしていることが分かります。
医療機器事業は、高成長、高利益率、海外成長です。そこへ大きな資金を配分。比較的合理性があります。医療AIは赤字ですが、高成長、赤字縮小、顧客急増なら、将来の成長事業として投資する合理性があるかもしれません。それでも医薬品を捨てるわけではありません。医薬品は、現在最大の利益源です。この利益やキャッシュを使って、医療機器、AIへ投資できます。つまり、旧主力を切るのではなく、現在の主力が生み出す現金で次の主力を育てるという構造です。
これが企業変革の読み方です。企業はある日突然、別の会社になるわけではありません。成熟事業が現金を生む、成長事業へ投資、新事業が拡大、売上構成が変わる、利益構成も変わる、企業そのものの性格が変わる。この流れをセグメント分析で追います。JMEIでは、大手医療企業を分析するとき、全社売上、全社営業利益だけでは終わりません。必ず、どの事業が売上を作るのか、どの事業が利益を作るのか、どの事業が現金を作るのか、どの事業が将来成長するのか、どの事業へ資本を配分しているのかを分けます。見る順番は、全社売上、セグメント売上、売上構成比、セグメント成長率、セグメント利益、利益率、FCF、ROIC、市場成長率、資本配分、5年後の事業構成です。企業の本当の姿は、全社平均の中に隠れています。平均を分解する。これがセグメント分析の基本です。
JMEI Medical Insight
医療企業のセグメント分析でJMEIが特に重視するのは、「売上が大きい事業」と「医療の未来を変える事業」は必ずしも同じではないということです。例えば、現在の売上5,000億円を生み出す成熟医薬品事業。一方、現在は売上500億円しかない医療AI事業。財務規模だけなら、医薬品事業の方が圧倒的に重要に見えます。しかし医療AIが、医師の診断負担を大幅に減らす、早期診断率を改善する、地方医療へのアクセスを広げるという大きな医療価値を持ち、市場も急成長しているなら、5年後、10年後には企業の重要な柱になる可能性があります。反対に、現在は大きな利益を生む事業でも、医療ニーズが縮小、競合に代替される、技術が古くなる、特許切れを迎えるのであれば、現在の数字をそのまま未来へ延長してはいけません。
JMEIでは、現在の売上×現在の利益×医療価値×市場成長×競争優位性×資本配分という視点で各セグメントを見ます。そして、現在の主力事業、未来の主力候補、安定キャッシュ事業、育成中の新規事業、再編候補事業という役割に分けます。医療産業では、技術革新が非常に速くなっています。新薬、遺伝子治療、RNA、AI、ロボット、在宅医療、デジタルヘルス。今日の小さなセグメントが、10年後の巨大市場になる可能性があります。だからJMEIのセグメント分析では、「今、一番大きい事業は何か?」だけではなく、「次に一番大きくなる可能性がある事業は何か?」を必ず考えます。企業分析とは、現在の会社を説明することだけではありません。企業がどこへ変わろうとしているのかを読むことでもあるのです。
今回のポイント
第27講で最も覚えてほしいのは、「企業全体の数字は、複数事業の平均値である」ということです。全社売上が10%増えていても、すべての事業が10%成長しているわけではありません。全社営業利益率15%でも、利益率30%の事業、利益率5%の事業、赤字事業が混在している可能性があります。セグメント分析では、売上構成比を見て、各事業の成長率を見て、増収額を見て、利益を見て、利益率を見て、赤字事業の理由を見て、FCFを見て、ROICを見て、市場成長率を見て、資本配分を見るという順番で考えます。そして最後に、「現在の主力事業と、5年後の主力事業は同じなのか?」と問いかけます。現在最大の事業が、将来も最大とは限りません。現在赤字の事業が、永遠に赤字とも限りません。現在小さな事業が、次の企業成長を作る可能性があります。セグメント分析を理解すると、会社を一つの大きな箱として見るのではなく、複数の事業の集合体として見ることができるようになります。そこから、企業がどの事業で稼ぎ、どの事業を育て、どの事業から撤退しようとしているのかが見えてきます。
次回予告
第28講 売上成長率を分解する――「数量・価格・製品ミックス」から本当の増収理由を読む
第27講では、セグメント分析によって、会社全体の成長を事業別に分解しました。次回はさらに一段深く、一つの事業の売上成長そのものを分解します。例えば医療機器事業の売上が、前年比+20%だったとします。なぜ20%増えたのでしょうか。販売数量が増えたのか、値上げしたのか、高価格製品が多く売れたのか、海外売上が増えたのか、M&Aで売上が加わったのか、為替によって円換算売上が増えただけなのか。同じ「+20%増収」でも、中身はまったく違います。例えば、数量+20%なら、医療現場で製品の普及が進んでいる可能性があります。価格+20%なら、価格決定力がある可能性があります。為替+20%だけなら、実際の販売数量はほとんど増えていないかもしれません。第28講では、売上高=数量×価格という基本から始め、数量効果、価格効果、製品ミックス、為替、M&A、地域構成を分解します。そして、「売上が伸びている会社」と「本業そのものが強くなっている会社」は何が違うのか、増収の「質」を読む方法へ進みます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。