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医療企業分析アカデミー

第10講 製品別売上を読む

JMEI 医療企業分析アカデミー 第10講 「会社の成長」を本当に支えている商品はどれか?

第9講ではセグメント分析を学びました。会社全体の売上が伸びていても、すべての事業が成長しているとは限りません。そこで、会社全体からセグメントへと分解することで、現在の売上の柱、現在の利益の柱、未来の成長の柱は必ずしも同じではないことを学びました。

今回は、さらに一段深く、セグメントから製品まで分解します。例えば、ある医療機器会社の医療機器事業が20%成長していたとしても、それだけでは、すべての製品が20%ずつ伸びたのか、新製品だけが急成長したのか、既存製品は実は減少しているのか、までは分かりません。製薬企業ならどの薬が売上を伸ばしているのか、医療機器企業ならどの製品群が成長しているのか、検査企業なら装置本体と試薬のどちらが利益を生み出しているのか。

今回は、「会社が何を売って成長しているのか」を見抜くための製品別分析を学びます。

1.会社全体の20%成長は、どの製品が作ったのか

架空のAメディカルという医療機器会社があります。今年の売上は1,000億円から1,200億円へ20%成長しました。これだけを見ると「Aメディカルは非常に成長している」と考えたくなります。しかし製品別に分けると、カテーテルが500億円から750億円、手術機器が300億円で横ばい、その他が200億円から150億円だったとします。すると会社全体では20%成長していますが、実際にはカテーテルだけが会社の成長を支えていることが分かります。ここから企業分析が始まります。

製品別分析の第一歩は単純で、前年と今年の売上を比較します。製品Aが+30%、製品Bが+5%、製品Cが-10%なら、「製品Aはなぜ30%伸びたのか?」と考えます。新製品なのか、海外販売が始まったのか、市場そのものが成長したのか、競合からシェアを奪ったのか、価格を上げたのか。この「なぜ?」が重要です。

2.成長率と「売上増加額」は別物

ここで注意したいのが、成長率だけではなく売上額も見ることです。製品Aが売上500億円で成長率+10%、製品Bが売上10億円で成長率+100%だったとします。成長率だけならBの方が圧倒的です。しかし増加額を計算すると、Aは500億円から550億円で+50億円、Bは10億円から20億円で+10億円。会社全体の成長への貢献は、Aの方が大きいのです。したがって、成長率と売上増加額の両方を見る必要があります。

架空のJMEIメディカルの製品別売上を見てみましょう。カテーテルは前年400億円から今年500億円で+25%。内視鏡は前年300億円から今年330億円で+10%。手術機器は前年200億円から今年180億円で-10%。新型ロボットは前年10億円から今年30億円で+200%。最も成長率が高いのは新型ロボットで200%成長していますが、売上増加額ではカテーテルが+100億円、内視鏡が+30億円、手術機器が-20億円、新型ロボットが+20億円です。つまり、現在の会社全体の成長を最も支えているのはカテーテルだと分かります。一方、新型ロボットは現在の売上規模は小さいものの、未来の成長候補として注目できます。

3.製品構成比と「製品集中リスク」

次に見るのが製品構成比です。会社全体の売上が1,000億円で主力製品Aの売上が400億円なら、400÷1,000×100=40%。つまり会社売上の40%を一つの製品が生み出しています。この数字は非常に重要です。なぜなら、会社が特定の製品にどれだけ依存しているかが分かるからです。

例えば製薬会社の売上が5,000億円、そのうち主力薬Aが3,500億円だったとします。売上構成比は70%で、非常に大きな割合です。A薬が成長している間は、会社全体も大きく成長する可能性があります。しかし、特許切れ、競合薬登場、副作用問題、薬価引き下げなどが起きれば、会社全体へ大きな影響が及びます。これを企業分析では製品集中リスクとして考えます。

製薬企業は、数少ない大型薬が利益の大部分を生み出すことがあります。A薬売上4,000億円、B薬1,500億円、C薬800億円、その他1,700億円という会社なら、まずA薬を詳しく調べます。どんな病気の薬なのか、患者数は増えているのか、競合薬はあるか、特許はいつまでか、適応拡大の可能性はあるか。つまり製薬企業では、企業分析が主力薬分析につながることがあります。

新薬には特許があります。特許などによる独占的な保護が弱まると、後発医薬品などとの競争が強まり、売上が大きく低下する場合があります。現在売上5,000億円、会社売上構成比50%の薬が数年後に大きな競争圧力を受ける可能性があるとすれば、「現在の利益が大きいから安心」とは言えません。会社には次の主力薬が必要になります。ここで今後学ぶパイプライン分析につながっていきます。

4.世代交代とカニバリゼーション

医療機器企業でも同じ考え方があります。旧型検査装置が500億円から400億円、新型検査装置が100億円から250億円だったとします。旧製品は100億円減少しましたが、新製品は150億円増加しており、合計すると600億円から650億円に増えています。つまり、旧製品から新製品への世代交代が進んでいる可能性があります。旧製品の売上減少だけを見て「悪化」と判断してはいけません。

ここで覚えておきたいのがカニバリゼーションという言葉です。自社の新製品が自社の旧製品の売上を奪う現象で、旧型製品-100億円、新型製品+150億円なら、新製品が旧製品を置き換えている可能性があります。一見すると旧製品は不調ですが、会社全体では50億円成長しています。企業分析では、製品単体ではなく製品世代全体で見ることも重要です。

5.「本体+消耗品」というビジネスモデル

医療機器企業を分析するときに非常に重要なのが、本体+消耗品というビジネスモデルです。血液検査装置を病院へ販売すると、病院が装置を導入した後は、検査をするたびに試薬、専用カートリッジ、消耗品などが必要になります。つまり、装置を一度販売し、その後消耗品が繰り返し売れるという構造です。検査装置本体が500億円、試薬・消耗品が800億円だったとします。本体を販売することは重要ですが、装置の設置台数が増えるほど将来の試薬売上の基盤が広がります。そのため医療機器企業では、現在の本体売上だけでなく、設置台数、稼働台数、消耗品売上を確認することがあります。

装置を販売した後も継続的に消耗品やサービスから収益を得られるビジネスを、ストック型に近い収益構造として見ることがあります。装置販売100億円、消耗品・保守300億円なら、毎年新しい装置を大量販売しなくても、既存顧客から継続収益が発生する可能性があります。医療企業では、一度売って終わる製品なのか、継続的に収益が生まれる製品なのかを見ることも大切です。

A検査は装置売上500億円、試薬売上300億円、装置成長率+20%、試薬成長率+5%。B検査は装置売上300億円、試薬売上700億円、装置成長率+5%、試薬成長率+15%。どちらが魅力的でしょうか。A社は装置販売が強く、B社は継続的な試薬売上が大きい。単純にどちらが優れているとは決められませんが、B社は既存装置から継続的に売上を生み出す基盤が大きい可能性があります。次に利益率や設置台数などを調べます。

6.成長は「数量」か「価格」か、そしてどの地域か

製品売上が増えた理由は、大きく分けると数量と価格です。売上+20%でも、販売数量+20%で価格変化なしなら製品普及が進んだ可能性があります。一方、販売数量0%で価格+20%なら値上げによる成長です。同じ売上20%増でも意味は異なります。数量成長なら市場拡大、シェア拡大、患者数増加などの可能性があり、価格上昇なら高いブランド力、製品差別化、インフレ対応などが考えられます。どちらが必ず良いということではなく、重要なのは成長が続く理由があるかです。

同じ製品でも、地域によって成長率が違うことがあります。新型カテーテルが日本+5%、米国+40%、欧州+25%、中国-10%だったとします。会社全体では高成長ですが、米国市場が主な成長エンジンだと分かります。ここから、米国市場規模、競合、シェア、承認状況などへ分析を進めます。

医薬品や医療機器は、一般商品とは異なり、規制当局による承認などが事業成長に大きく関係します。日本で販売している医療機器が米国で承認されれば、新しい巨大市場へ参入できる可能性があります。したがって、現在売上100億円だけを見るのではなく、「次にどの国で販売できるようになるのか」を見ることも重要です。製品別分析は、現在の売上分析だけではなく、未来の売上を考える入口でもあります。

7.TAM――「まだ伸びしろがあるのか」を測る

新製品が発売されても、初年度から会社の主力になるとは限りません。1年目20億円、2年目50億円、3年目120億円、4年目250億円と成長することがあります。現在20億円だから重要ではない、とは限りません。そこで見るのが成長率と市場規模です。

企業資料でTAM(Total Addressable Market)という言葉を見ることがあります。簡単にいえば、その製品が対象とできる市場全体の大きさです。現在売上50億円でも対象市場5,000億円なら、まだ大きな成長余地があるかもしれません。一方、現在売上500億円で市場全体600億円なら、すでにかなり高いシェアを持っている可能性があります。もちろん、市場が大きければ必ず成長するわけではありません。TAMが1兆円でも、競合が強い、製品優位性がない、価格が高い、保険適用されない、医療現場で使いにくいなら、売上は伸びないかもしれません。医療企業では特に、市場規模+医療現場で採用される理由を見る必要があります。

架空のCメディカルには3製品があります。製品Aは売上800億円、成長率+2%、対象市場1,000億円。製品Bは売上300億円、成長率+20%、対象市場2,000億円。製品Cは売上50億円、成長率+80%、対象市場5,000億円。現在の主力はAですが、市場規模と成長率を見ると、BやCが将来の主力になる可能性があります。特にCは現在売上50億円なので会社への貢献はまだ小さいものの、将来を考えると非常に重要な製品候補です。

8.製品ポートフォリオという見方

企業分析では、主力製品依存度を簡単に確認できます。全社売上2,000億円、主力製品売上1,000億円なら、1,000÷2,000×100=50%で、売上の半分を一つの製品に依存しています。ここで、特許、競合、製品寿命、市場成長率を必ず確認します。

会社は一つの製品だけではなく、成熟製品、成長製品、新製品、開発中製品を組み合わせています。これを製品ポートフォリオとして考えることができます。理想的には、現在稼ぐ製品の利益を研究開発へ投資し、次の成長製品を生み出すという循環が必要です。

企業分析でよくある失敗は、現在一番売れている製品だけを見ることです。本当に重要なのは、現在の主力製品がいつまで成長するか、次の主力候補は何か、その次の研究開発はあるか、です。特に医療企業では、新薬や医療機器の開発に長い時間がかかります。そのため、現在から3年後、5年後という時間軸で製品を見る必要があります。

医療企業の製品を分析するときは、まず、製品売上はいくらか、前年比で何%成長しているか、全社売上の何%を占めるか、売上増加額はいくらか、成長は数量か価格か、市場全体はどれくらい大きいか、競合・特許・製品寿命に問題はないか、次の主力製品候補はあるか、という8つを確認します。そして最後に、「この会社の3年後の主力製品は何だろう?」と考えます。

今日のチェックテスト

Q1 全社売上2,000億円、主力製品売上800億円です。主力製品の売上構成比は何%でしょうか。(A.20% B.30% C.40% D.80%)

【答え】C.40%。800÷2,000×100=40%です。

Q2 製品Aは500億円から550億円へ成長しました。製品Bは10億円から20億円へ成長しました。成長率が高いのはどちらですか。

【答え】製品Bです。Bは100%成長、Aは10%成長です。ただし売上増加額はAが50億円、Bが10億円なので、会社全体の売上増加への貢献はAの方が大きいです。

Q3 製薬会社の売上の70%を一つの薬が占めています。何に注意すべきでしょうか。

【答え】特許切れ、競合薬、薬価、適応症、市場成長などを確認し、主力薬への依存リスクを考えます。

Q4 旧製品が100億円減少し、新製品が150億円増加しました。旧製品減少だけを見て悪化と判断してよいでしょうか。

【答え】判断できません。新製品への世代交代、つまりカニバリゼーションが起きている可能性があります。製品群全体では50億円増加しています。

Q5 検査装置を販売した後、専用試薬が継続的に売れる会社があります。何に注目するとよいでしょうか。

【答え】装置売上だけでなく、設置台数、稼働台数、試薬・消耗品売上などを確認します。継続収益を生み出す構造がある可能性があります。

Q6 現在売上50億円、成長率80%、対象市場5,000億円の新製品があります。現在の売上が小さいので無視してよいでしょうか。

【答え】無視できません。現在の会社業績への貢献は小さくても、高い成長率と大きな対象市場を持つため、将来の主力製品候補として分析する価値があります。

総合ケーススタディ――JMEIメディカルを分析する

架空のJMEIメディカルの全社売上は3,000億円、前年比+15%です。製品別では、既存カテーテルである製品Aが売上1,200億円・前年比+3%。新型カテーテルである製品Bが売上600億円・前年比+40%。検査装置である製品Cが売上500億円・前年比+10%。検査試薬である製品Dが売上600億円・前年比+20%。AI診断システムである製品Eが売上100億円・前年比+100%。どこに注目するでしょうか。

現在最大の製品はAですが、成長率は3%で、成熟製品に近づいている可能性があります。Bは600億円で40%成長しており、旧型Aから新型Bへの移行が進んでいる可能性があります。Dの検査試薬は600億円で20%成長しており、もし検査装置Cの設置台数増加に伴って試薬売上が増えているなら、継続収益モデルが拡大している可能性があります。Eはまだ100億円ですが100%成長しており、現在の会社への貢献は小さいものの未来の成長候補です。ここから、現在の柱はA、現在の成長エンジンはB・D、未来候補はEという整理ができます。

JMEIの視点――数字の向こう側には患者と医療従事者がいる

JMEIでは企業分析を、会社からセグメント、製品、市場、医療現場へと分解していきます。「売上15%増」という数字だけでは、企業の未来は見えません。どの製品が伸びたのか、なぜ伸びたのか、患者数が増えたのか、医師が採用したのか、海外承認を取得したのか、競合より優れているのか。そして、その成長は何年間続くのか。ここまで考えることで、財務数字と医療産業の実態がつながります。

医療企業の製品を分析するとき、最も重要なのは、「売れている理由」を医療現場まで戻して考えることです。新しいカテーテルが50%成長している、数字だけなら高成長製品です。しかし本当に知りたいのは、なぜ医師が従来品ではなく、その製品を選ぶのかです。手技時間が短くなる、合併症を減らせる、操作しやすい、患者負担が小さい、治療成績が改善する。こうした医療価値があるなら、成長が長期間続く可能性があります。反対に、一時的な価格政策や販売キャンペーンだけで伸びているなら、同じ成長率が続くとは限りません。したがってJMEIでは、売上成長率から製品の競争力、医療現場での価値までつなげて考えます。医療企業の数字の向こう側には、必ず患者と医療従事者がいます。

今回のポイント

第10講で最も覚えてほしいことは、「会社が成長している」ではなく、「何が会社を成長させているのか」を見ることです。会社全体からセグメント、製品と分解します。そして製品について、売上規模、成長率、売上増加額、売上構成比、市場規模、競合、製品寿命を見る。さらに、現在の主力製品、現在の成長製品、未来の主力候補を分けます。ここまでできるようになると、決算資料の数字から会社の未来を考えられるようになります。

次回予告

第11講 市場シェアとは何か?──「売上が伸びた」だけでは分からない本当の競争力

製品売上が20%伸びた。一見、素晴らしい成長です。しかし市場全体が30%成長していたらどうでしょうか。会社は20%成長しているのに、実は市場シェアを失っている可能性があります。反対に市場が3%しか成長していない中で、自社製品が15%成長していれば、競合からシェアを奪っているかもしれません。第11講では、市場規模、市場成長率、市場シェア、競合企業を組み合わせ、「その会社は本当に競争に勝っているのか」を分析する方法へ進みます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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