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医療企業分析アカデミー

第29講 市場シェアとは何か?――「売上が増えた会社」と「競合から勝ち取った会社」の違いを読む

JMEI 医療企業分析アカデミー 第29講 「売上が増えた会社」と「競合から勝ち取った会社」の違いを読む

第28講では、売上成長率を分解して考える方法を学びました。売上が20%増えた。この数字だけでは、その企業が本当に強くなったのかは分かりません。売上成長の中には、販売数量の増加、価格上昇、製品ミックス改善、地域ミックス、為替、M&A、新製品など、さまざまな要因があります。そこで、売上高=数量×価格という基本から、「なぜ売上が増えたのか」を考えました。今回は、その中でも特に重要な、数量の増加をもう一段深く分析します。

例えばAメディカルの医療機器販売数量が、前年比+10%だったとします。一見すると、非常に順調です。しかし、その医療機器市場全体が+20%成長していたらどうでしょうか。A社も成長していますが、市場より遅くしか成長していません。つまり、市場シェアを失っている可能性があります。反対に、市場全体+3%、A社+15%ならどうでしょうか。市場そのものはそれほど伸びていないのに、A社だけが大きく成長しています。この場合、競合企業から顧客を獲得している可能性があります。企業分析では、「自社が何%成長したか」だけでは不十分です。「市場が何%成長したか」と比較する必要があります。そこで今回学ぶのが、市場シェアです。第29講では、市場シェアとは何か、市場規模とは何か、市場成長率とは何か、金額シェアと数量シェアは何が違うのか、企業成長率と市場成長率をどう比較するのか、新薬の処方シェアをどう見るのか、医療機器の設置台数シェアをどう考えるのか、値下げによるシェア拡大は本当に良いのか、そして「市場に乗って成長している会社」と「競争力を高めながら成長している会社」は何が違うのかを、企業の相対的な強さを読む方法として学んでいきます。

市場、市場規模、市場シェアの基本

まず「市場」という言葉を整理しましょう。市場とは、簡単にいえば、ある商品やサービスが取引されている範囲全体です。例えば、国内医療機器市場、世界の糖尿病治療薬市場、人工関節市場、歯科インプラント市場、医療AI市場、在宅医療市場などです。企業がどれくらい強いのかを見るためには、その企業が戦っている市場そのものを理解する必要があります。市場全体でどれくらいの商品・サービスが販売されているかを、市場規模と呼びます。例えば、国内A医療機器市場1,000億円だったとします。これは、その市場全体で年間約1,000億円の売上が存在するというイメージです。

市場シェアとは、市場全体の中で、その企業がどの程度を占めているかを見る数字です。代表的な計算は、企業売上÷市場全体売上×100です。例えば、市場規模1,000億円、A社売上300億円なら、300÷1,000×100=30%です。A社の市場シェアは30%です。市場全体の売上が100円で、そのうちA社が30円売っている、B社が25円、C社が20円、その他企業が25円なら、A社シェア30%、B社25%、C社20%、その他25%です。市場シェアを見ることで、企業の市場内での位置が分かります。

売上高だけでは競争力は分かりません。A社売上500億円、B社売上300億円なら、A社の方が大きい会社です。しかし、A社が戦っている市場規模1兆円、B社が戦っている市場規模500億円だったらどうでしょうか。A社のシェアは5%、B社のシェアは60%。市場における存在感はB社の方が圧倒的です。大企業だから、すべての市場で強いとは限りません。逆に会社全体は小さくても、特定の医療分野では世界トップシェアという企業があります。医療企業分析では、会社全体の売上規模だけでなく、特定製品・特定領域での競争力を見ることが重要です。

市場成長率とシェアの変化

市場そのものも毎年変化します。前年市場規模1,000億円、今年1,100億円なら、市場成長率は10%です。この市場で企業が成長しているのかを見るときには、企業成長率と市場成長率を比較します。Aメディカルの前年売上200億円、今年売上220億円で+10%。市場全体は前年1,000億円、今年1,200億円で+20%。A社は増収です。一見、順調です。しかしシェアを計算してみます。前年のシェアは200億円÷1,000億円=20%。今年は220億円÷1,200億円=約18.3%。A社の売上は増えました。しかし市場シェアは、20%から約18.3%へ低下しました。市場全体が20%伸びているのに、A社は10%しか伸びていません。つまり、市場成長の恩恵を十分に取れていない可能性があります。競合企業に比べて成長が遅いということです。「売上+10%」だけを見ていたら、この問題には気づけません。

Bメディカルの前年売上200億円、今年230億円で+15%。市場全体は前年1,000億円、今年1,030億円で+3%。前年シェアは20%。今年は230÷1,030×100=約22.3%。市場シェアは20%から約22.3%へ上昇しました。市場そのものは3%しか伸びていません。しかしB社は15%成長。市場シェアも上昇。この場合、新製品、高い医療価値、営業力、ブランド、価格競争力などによって、競合企業から顧客を獲得している可能性があります。

非常に簡単な見方があります。企業成長率-市場成長率です。例えば、企業+15%、市場+5%なら、市場を10ポイント上回って成長。反対に、企業+5%、市場+15%なら、市場より10ポイント遅い。厳密なシェア計算ではありませんが、競争力の方向を簡単につかむことができます。市場+5%、企業+20%、この状態が数年間続くなら、市場シェアは上昇していく可能性があります。企業に何らかの競争優位性があるかもしれません。そこで、なぜ市場より速く成長できるのかを調べます。反対に、市場+15%、企業+5%の場合、売上は伸びていても市場シェア低下の可能性があります。競合製品、価格、販売力、技術、地域展開などに問題がないか確認します。

市場縮小時はさらに面白い現象が起こります。市場全体が-10%、企業売上が-3%だったとします。企業も減収です。一見、悪い決算です。しかし市場より減少率は小さい。つまり、市場シェアは上昇している可能性があります。前年市場1,000億円、企業売上200億円、シェア20%。今年市場900億円、企業売上194億円。企業売上は3%減。しかしシェアは194÷900×100=約21.6%へ上昇しています。減収でも市場内の競争力は強まっているのです。だから成長率だけで判断しません。企業+10%、企業-3%という数字だけでは十分ではありません。常に、市場全体はどうだったかを確認します。企業は市場の中で活動しているからです。

金額シェアと数量シェア

ここまで使ってきたのは主に、売上金額に基づく市場シェアです。これを、金額シェアと考えることができます。例えば、市場売上1,000億円、A社300億円なら金額シェア30%です。一方、販売数量を基準にする方法もあります。例えば市場全体で10万台の医療機器が販売、A社は2万台なら、数量シェア20%です。

金額シェアと数量シェアは違う場合があります。A社は、数量シェア20%、金額シェア30%だったとします。なぜでしょうか。A社が、市場平均より高価格の製品を販売している可能性があります。例えば、A社販売台数2万台、平均価格150万円、競合平均価格100万円。A社は数量では20%でも、売上金額では30%程度になることがあります。高価格・高付加価値製品を持っている可能性があります。反対のケースとして、B社が数量シェア30%、金額シェア20%だとします。この場合、比較的低価格の製品を大量販売している可能性があります。数量シェアが高いから高収益企業とは限りません。

市場シェア分析でも、数量と価格を分けます。数量シェアが伸びているのか、金額シェアが伸びているのか、両方なのかによって意味が違います。Aデバイスの数量シェアが20%から25%、金額シェアが22%から21%だとします。販売台数は増えています。しかし金額シェアは低下。なぜでしょうか。大幅な値下げによって、数量を増やした可能性があります。シェア獲得戦略としては成功しているかもしれません。しかし、粗利率、営業利益率を確認する必要があります。数量シェア+5ポイント、粗利率60%から40%、営業利益減少なら、値下げによってシェアを買っている可能性があります。市場シェア上昇だけで高評価してはいけません。

良いシェア拡大とは、数量シェア上昇、平均価格維持、粗利率維持、営業利益率上昇という状態です。値下げせずに競合からシェアを獲得している可能性があります。比較的強い成長です。さらに強いパターンは、数量シェア上昇、平均価格上昇、粗利率上昇、市場シェア上昇という企業です。これは、高い医療価値、ブランド、独自技術、価格決定力などによって、競合企業から顧客を獲得している可能性があります。

シェアが変化する理由

市場シェアが大きく動く理由の一つが、新製品です。例えば競合製品より、治療成績が良い、使いやすい、患者負担が小さい、安全性が高いという製品が登場。医療機関が採用を切り替える。すると市場シェアが急速に上昇することがあります。例えばカテーテル市場で、市場成長率5%、A社新製品売上+40%、A社シェアが15%から23%なら、新製品が競合製品からシェアを奪っている可能性があります。なぜ医師が採用しているのかを調べます。

医療では、臨床試験、論文、ガイドラインなどが市場シェアへ大きく影響することがあります。新しいエビデンスによって、治療効果が評価される、医師が使用、処方増加、市場シェア上昇という流れです。製薬企業では、処方シェア、患者シェアなどを見る場合があります。例えばある疾患に100万人の治療患者がいる、A薬を使う患者30万人なら、患者ベースでは約30%のシェアと考えられます。新薬Aが発売1年目シェア5%、2年目15%、3年目25%と上昇しているなら、売上成長の背景に、実際の治療現場での採用拡大があることが分かります。ただし薬価が違う、投与量が違う、治療期間が違うため、金額売上だけでは患者シェアが分からないことがあります。可能なら、処方数、患者数、新規処方シェアなども確認します。

新規処方シェアとは、新しく治療を開始した患者のうち、どの薬が選ばれているかを見る考え方です。例えば現在の全患者シェアは20%、しかし新規患者では40%なら、今後全体シェアが上昇する可能性があります。全患者シェアは過去からの積み上げ、新規処方シェアは現在どの薬が選ばれているかを示します。そのため、新規処方シェアが将来の売上を考える先行指標になる場合があります。

医療機器では設置台数シェアを見ます。診断装置、手術ロボット、画像診断機器などでは、新規販売台数だけでなく、累計設置台数も重要です。なぜでしょうか。設置後に、消耗品、保守、試薬、ソフトウェアなどの継続収益が発生するからです。市場全体で手術ロボット10,000台が稼働、A社6,000台なら、インストールベースシェア60%です。この60%の設置基盤から、専用器具、サービスなどの継続収益が生まれる可能性があります。現在の設置台数シェア60%、しかし今年の新規販売シェアが40%だったらどうでしょうか。市場シェアは依然高いですが、新規導入では競合に押されている可能性があります。逆に現在設置シェア30%、しかし新規販売シェア50%なら、今後全体シェアが上昇する可能性があります。ここでも、現在のシェアと、新規のシェアを分けることが重要です。

市場全体稼働台数10,000台のうち、A社が累計設置6,000台でシェア60%、B社が累計設置3,000台でシェア30%、その他10%だとします。しかし今年の新規設置は、A社400台、B社500台、その他100台。今年の新規設置シェアは、A社40%、B社50%です。現在の市場支配力はA社。しかし新規販売ではB社。つまり、現在のリーダーはA社、勢いがあるのはB社という見方ができます。企業分析ではこうした時間軸の違いも重要です。

医療企業では、製品性能だけでシェアが決まるとは限りません。営業網、病院との関係、保守拠点、医師への教育、代理店網なども競争力になります。例えば新興医療機器企業が非常に優れた製品を持っていても、全国の病院へ営業できない、保守網もないと、製品力ほど市場シェアが伸びない可能性があります。

市場シェアを短期間で上げる方法として、競合企業の買収があります。A社シェア20%、B社シェア15%、A社がB社を買収。単純化すれば、合計35%のシェアになります。しかし、自社製品が競合から顧客を獲得して20%から35%になったのと、競合企業を買収して35%になったのでは意味が違います。第28講と同じく、M&A効果と、本業の競争力を分けます。

シェア上昇と成長余地、そして質の見極め

市場シェアが上昇すると、生産量増加、調達量増加、営業効率改善、データ蓄積などによってコストが下がる場合があります。これがさらに競争力を高める可能性があります。医療AI企業で導入病院が増える、データ蓄積、製品改善、さらに病院導入という循環が生まれる場合があります。ただし実際には、個人情報保護、データ利用権、規制などの条件を考える必要があります。

市場シェア80%、非常に強い企業です。しかし、これ以上シェアを上げる余地が小さいという問題もあります。今後の成長は、市場そのものの成長、新市場参入、新製品などへ依存する可能性があります。一方、優れた新製品を持つ、現在シェア10%、市場も成長中なら、10%から20%、30%とシェアを上げることで、市場成長以上の売上成長が可能です。企業の成長余地は、市場成長率だけではありません。市場成長+市場シェア上昇で考えます。

市場成長率0%、市場規模1,000億円、A社シェアが20%から30%へ上昇。A社売上は200億円から300億円へ、市場そのものは全く成長していません。しかしA社は50%増収です。市場が伸びなくても、競合からシェアを奪うことで成長できます。逆に市場が30%成長していても、シェアを大きく落とせば企業成長は弱くなります。市場+30%、企業+20%なら、企業売上は非常に強く伸びています。しかし、市場より10ポイント遅い。この状態が続けばシェア低下です。「成長企業だから強い」とは限りません。

企業の成長を簡単に、市場成長による部分と、シェア変化による部分へ分けて考えます。市場が伸びているから売上が増えたのか、それとも、市場の中で競合に勝っているから売上が増えたのか。この違いが重要です。市場成長率10%、企業成長率20%なら、市場の成長恩恵に加えて、シェア獲得が起きている可能性があります。市場10%、企業5%なら、市場成長の恩恵を取り切れていない可能性があります。

市場シェアの数字は、誰が、どの市場を、どう定義するかで変わります。例えば、世界医療機器市場と、日本の循環器カテーテル市場では全く違います。企業資料で、「市場シェア世界No.1」と書いてあっても、どの市場なのかを確認します。世界全体なのか、日本だけなのか、特定製品だけなのか、特定患者群なのか、売上金額なのか、数量なのかで意味が変わります。「世界シェア60%」でも、非常に限定された特殊製品市場かもしれません。それ自体は素晴らしい競争力ですが、市場規模100億円なら、売上成長の上限もあります。

成長企業の資料では、TAM、Total Addressable Marketという言葉を見ることがあります。簡単にいえば、理論上アプローチ可能な市場全体という考え方です。市場が10兆円あっても、企業シェア0.1%なら売上は小さい。大きなTAMは、機会が大きいことを示しますが、実際にシェアを取れるかは別問題です。より詳しく市場を見る場合、SAM、Serviceable Available MarketやSOM、Serviceable Obtainable Marketなどの考え方もあります。初心者の段階では、市場全体が大きくても、その企業が実際に狙える範囲はもっと小さいと理解すれば十分です。

医療では患者数から市場を見ることもできます。対象患者100万人、年間治療費10万円なら、単純化すると100万人×10万円=1,000億円の潜在市場です。しかし全患者が治療を受けるとは限りません。対象疾患患者100万人、診断されているのは50万人、治療を受けているのは30万人なら、理論上の患者市場と現在の実市場は異なります。新しい診断技術によって診断率が上がり、30万人から50万人へ治療対象患者が増えるなら、既存企業がシェアを奪い合わなくても市場自体が拡大する可能性があります。医療市場では、競合から患者を奪うだけが成長ではありません。未診断患者を診断する、治療を受けられなかった地域へ医療を届ける、新しい疾患領域を治療可能にすることで、市場そのものを拡大できる場合があります。これは医療企業ならではの重要な視点です。例えば遠隔医療で、地方で専門医療へアクセスできなかった患者が利用できるようになれば、既存市場の奪い合いではなく、新しい需要を作る可能性があります。革新的な医療技術では、既存市場のシェア獲得ではなく、新しい市場そのものを作ることがあります。それまで存在しなかった製品カテゴリーを作る企業は、最初は市場シェア100%かもしれません。しかし市場自体が小さい。重要なのは、市場がどこまで拡大するかです。

A Medical AIの市場シェア80%、市場規模100億円、市場成長率0%、A社売上約80億円。非常に高いシェアですが、市場自体が小さく成長していません。B Surgical Roboticsの市場シェア10%、市場規模5,000億円、市場成長率25%、新製品評価も高いなら、今後シェアを取ることで大きく成長する可能性があります。市場シェアが高いことは競争力の一つです。しかし、市場規模、市場成長率、シェア上昇余地も合わせて見る必要があります。

シェア上昇と利益率を必ずセットで見ます。市場シェアが15%から25%、素晴らしい。しかし、営業利益率が20%から5%だったらどうでしょうか。大幅値下げや販売促進費によってシェアを取った可能性があります。A社はシェア15%から20%、価格維持、粗利率60%から61%、営業利益率15%から18%。B社はシェア15%から20%、価格-20%、粗利率60%から40%、営業利益率15%から6%。シェア上昇幅は同じです。しかし意味は大きく違います。A社のシェア上昇は、価格を維持、利益率も改善。これは、製品価値、ブランド、競争優位性などによるシェア拡大の可能性があります。B社のシェア上昇は、大幅値下げ、利益率急低下。競合から顧客を獲得していますが、利益を犠牲にしている可能性があります。長期間続けられる戦略か確認します。

市場リーダーになると、競合から攻撃されます。研究開発、広告、営業、値引きなどによってシェアを守る必要があります。市場シェア維持にも投資が必要です。一方、高いシェアには、規模の経済、ブランド、医師の使用経験、病院の標準化、販売網、データなどの強みが生まれる場合があります。これがさらにシェアを守る、競争優位性につながります。第12講で学んだスイッチングコストも重要です。例えば病院が一度ある手術支援システムを導入、医師が訓練、専用器具、保守契約が必要。すると他社製品への切り替えにはコストがかかります。高いインストールベースがシェア防衛力になる可能性があります。

前年30%、今年27%、来年予想24%と低下している。何が起きているのでしょうか。競合新製品、価格差、技術劣位、保守問題、供給不足、営業力低下などを調べます。供給不足でもシェアは落ちます。製品需要は非常に強い、しかし工場能力不足、製品を納入できない、競合企業へ注文が流れる。すると、製品力は強いのにシェア低下ということもあります。供給能力も競争力です。A社で受注+30%、売上+5%、市場+20%、シェア低下。調べると、部品不足で出荷できない、受注残が急増。この場合、競争力低下ではなく、供給制約の可能性があります。翌年を確認し、新工場稼働、受注残解消、シェア回復なら、一時的な供給問題だったと分かります。分析では、数字の理由を確認します。

JMEI式「市場シェアを見る12の質問」

医療企業の市場シェアを見るときには、次の12項目を確認しましょう。対象市場は何か。市場規模はいくらか。市場成長率は何%か。企業売上成長率は市場成長率を上回っているか。現在の市場シェアは何%か。シェアは過去3~5年で上昇しているか。金額シェアと数量シェアに違いはあるか。新規販売・新規処方シェアはどうか。シェア上昇の理由は新製品、価格、販売網、M&Aのどれか。シェア拡大によって利益率が悪化していないか。市場そのものに今後の成長余地があるか。現在のシェアを守れる競争優位性があるか。そして最後に、「この会社は市場に乗って成長しているだけなのか。それとも市場の中で競争力を高めているのか?」と考えます。

練習問題

問題1 市場規模1,000億円、A社売上250億円です。A社の市場シェアは何%でしょうか。(A.10% B.20% C.25% D.40%)

【答え】C.25%。250億円÷1,000億円×100=25%です。

問題2 市場全体が20%成長し、A社が10%成長しました。A社の市場シェアは一般的にどうなる可能性が高いでしょうか。

【答え】低下する可能性があります。企業の成長率が市場全体より低いためです。

問題3 市場全体+3%、B社+15%です。何が考えられますか。

【答え】B社が市場平均を大きく上回って成長しているため、市場シェアを獲得している可能性があります。

問題4 市場が10%縮小し、A社売上が3%減少しました。A社は必ず競争力を失っているでしょうか。

【答え】いいえ。市場全体より減少率が小さいため、市場シェアはむしろ上昇している可能性があります。

問題5 数量シェア20%、金額シェア30%です。どのような可能性がありますか。

【答え】市場平均より高い価格の高付加価値製品を販売している可能性があります。

問題6 市場シェアが15%から25%へ上昇しましたが、粗利率が60%から35%へ急低下しました。何を確認すべきでしょうか。

【答え】大幅値下げや過剰な販売促進など、利益を犠牲にしてシェアを獲得していないか確認します。

問題7 現在の累計設置台数シェア60%ですが、新規販売シェアは40%です。何を意味する可能性がありますか。

【答え】現在は市場リーダーですが、新規導入では競合企業に押されており、将来的にシェアが低下する可能性があります。

問題8 市場シェア80%なら、今後も高成長できるでしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。シェア上昇余地が小さいため、市場そのものの成長、新製品、新市場進出などが重要になります。

問題9 企業が競合会社を買収してシェアを20%から35%へ上げました。自社製品の競争力だけでシェアを15ポイント獲得したと言えるでしょうか。

【答え】いいえ。M&Aによってシェアが加わった部分と、既存事業のオーガニックなシェア変化を分けて考える必要があります。

総合ケーススタディ――JMEI Cardio Deviceは本当に強くなっているのか?

架空のJMEI Cardio Deviceを分析します。同社は循環器領域の医療機器メーカーです。前年、世界対象市場5,000億円、同社売上750億円、市場シェア15%。今年、市場規模5,400億円、市場成長率+8%、JMEI Cardio Device売上950億円、売上成長率約+27%。市場シェアは、950÷5,400×100=約17.6%。シェアは、15%から約17.6%へ上昇しています。

まず市場成長との比較です。市場+8%、企業+27%。企業が市場を大きく上回って成長しています。つまり、市場成長の恩恵だけでは説明できません。競合からシェアを獲得している可能性があります。売上成長の内訳を見ると、会社資料では、販売数量+20%、平均販売価格+2%、高性能製品ミックス+5%程度と説明されています。為替・大型M&Aの影響は小さいものとします。比較的、本業による成長です。

数量シェアを見ると、前年数量シェア14%、今年17%。数量そのものでもシェア上昇。つまり高価格化だけで金額シェアが上がったわけではありません。粗利率を見ると、前年粗利率58%、今年61%。シェア上昇にもかかわらず、粗利率も改善。値下げでシェアを買っている可能性は低そうです。

なぜシェアが上がったのか調べると、新しいカテーテルAが、従来製品より操作性改善、手技時間短縮、臨床データ良好、米国と欧州で採用拡大という状況でした。つまり、医療価値、医師の採用、販売数量増加、市場シェア上昇という流れが考えられます。利益を見ると、売上+27%、営業利益+45%、営業利益率も改善。第26講の営業レバレッジも働いている可能性があります。シェア拡大が利益成長へつながっています。キャッシュを見ると、営業CF+40%、FCF+35%なら、売上、利益、キャッシュまで連動して成長しています。比較的質の高いシェア拡大と考えられる可能性があります。

では弱点はないのか、さらに調べます。現在シェア17.6%、最大手競合A社35%、競合B社25%です。まだシェア上昇余地があります。しかし競合も次世代製品を準備しています。JMEI Cardio Deviceが今後もシェアを上げられるかを見るには、次世代製品、臨床データ、価格、生産能力、営業網、医師の評価を確認します。供給能力も重要です。需要が+30%あっても、工場能力が+10%しか増やせないなら、市場シェア拡大の機会を逃す可能性があります。成長企業では、需要だけでなく供給能力も確認します。

反対の企業を考えます。B Cardioは市場+8%、企業売上+12%。一見順調です。しかし、数量+25%、価格-15%、粗利率55%から40%、営業利益-10%だったとします。市場シェアは上昇していても、利益を犠牲にした成長かもしれません。市場シェアは重要です。しかし、シェアが上がっただけでは十分ではありません。価格維持、粗利率、利益率、FCF、ROICまでつなげます。企業価値へつながるシェア拡大なのかを見る必要があります。

JMEIでは、「売上高が20%増えた」と聞いたら、第28講で、なぜ増えたのかを分解します。そして第29講では、市場全体と比較します。見る順番は、企業売上成長率、市場成長率、市場シェア、数量シェア、金額シェア、新規販売・新規処方シェア、価格、粗利率、営業利益率、FCF、競争優位性です。企業が20%成長していても、市場が30%成長していれば、競争上は弱くなっている可能性があります。反対に企業が3%減収でも、市場が15%縮小していれば、競争力を高めている可能性があります。重要なのは、絶対成長率ではなく、相対的な成長力です。そして最後には、「そのシェア上昇を生み出している理由は何か?」まで考えます。

JMEI Medical Insight

医療企業の市場シェアを見るとき、JMEIが特に重視したいのは、「シェアを取った結果、医療そのものが良くなっているか」という視点です。企業がシェアを伸ばす方法はいくつもあります。値下げする、広告を増やす、競合を買収する、営業人員を増やす。しかし医療企業で最も強いシェア拡大の一つは、患者や医療従事者にとって明確な価値を提供した結果として選ばれることです。例えば、手術時間を短縮する機器、合併症率を下げるデバイス、生存期間を延長する新薬、診断精度を向上させるAI、在宅でも治療を受けられるシステム。こうした技術が実際に医療現場で評価されれば、医療価値、採用増加、数量シェア上昇、売上成長、利益増加という流れが生まれます。さらに利益を研究開発へ再投資できれば、シェア拡大、FCF増加、次の技術開発、さらに高い医療価値という循環になります。

JMEIが注目したいのは、市場シェアの数字そのものだけではありません。なぜ医療現場から選ばれているのか、その選択理由が長期的に続くのかを見ます。もう一つ重要なのは、市場そのものを拡大する企業です。例えば未診断患者を発見する新しい診断法、地方で専門医療を受けられる遠隔システム、従来治療できなかった疾患への新薬。こうした企業は、競合からシェアを奪うだけではなく、今まで存在しなかった医療市場を作る可能性があります。これは単なる市場シェア競争を超えています。JMEIでは、市場成長×市場シェア×医療価値×競争優位性×利益・キャッシュで企業を考えます。市場に乗って成長する企業より、市場の中で選ばれ、場合によっては市場そのものを拡大できる企業。そのような企業に、医療産業の長期的な強さが現れる可能性があります。

今回のポイント

第29講で最も覚えてほしいのは、「企業の成長率は、市場成長率と比較して初めて意味が分かる」ということです。市場シェアを見るときには、市場規模を見る、市場成長率を見る、企業成長率を見る、市場シェアを計算する、過去のシェア推移を見る、数量シェアを見る、金額シェアを見る、新規販売・新規処方シェアを見る、シェアが変化した理由を見る、利益率への影響を見るという順番で考えます。市場+20%、企業+10%なら、増収でもシェア低下の可能性があります。市場+3%、企業+15%なら、競合からシェアを獲得している可能性があります。また、シェア上昇=必ず良い、ではありません。大幅値下げでシェアを取っていないか、粗利率を犠牲にしていないか、営業CFやROICは改善しているかまで確認する必要があります。そして最後に、「この会社は市場に乗って成長しているのか。それとも競争力を高めることで市場を上回って成長しているのか?」と問いかけます。市場シェアを理解すると、売上高という絶対的な数字から、競合企業との相対的な強さへ企業分析を一段進めることができます。

次回予告

第30講 受注高・受注残とは何か?――決算にまだ表れていない「未来の売上」を読む

第29講では、市場成長率と市場シェアを学びました。企業の売上が伸びているだけでは、本当に競争力が高まっているかは分かりません。市場より速く伸びているか、競合からシェアを獲得しているかを見る必要がありました。次回は、現在の売上高から、さらに未来へ進みます。例えば大型医療機器メーカーがあります。今年の売上は1,000億円。しかし今年すでに顧客から1,500億円分の注文を受けているとしたらどうでしょうか。まだ製品を納入していないため、すべてが今年の売上にはなっていません。しかし将来の売上につながる可能性があります。そこで重要になるのが、受注高と、受注残です。特に、大型医療機器、画像診断装置、手術ロボット、医療ITシステム、CDMO、研究・検査装置などでは、受注情報が将来業績を考える重要な先行指標になる場合があります。ただし、受注が増えた=必ず売上になるとは限りません。キャンセル、納期、供給制約、契約変更などもあります。第30講では、受注高とは何か、受注残とは何か、売上高と何が違うのか、Book-to-Bill Ratioとは何か、受注残が急増した会社をどう見るのか、受注は多いのに売上が伸びない場合には何が起きているのか、そして「現在の決算が良い会社」と「未来の売上が積み上がっている会社」は何が違うのかを、決算書の数字より一歩先にある「未来の需要」を読む方法へ進みます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。

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