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医療企業分析アカデミー

第60講 市場シェアと競争構造とは何か?――医療企業は市場の何%を握れば強いのか

JMEI 医療企業分析アカデミー 第60講 医療企業は市場の何%を握れば強いのか

はじめに

こんにちは。日本医療企業研究所(JMEI)です。

前回の第59講では、「参入障壁(Barriers to Entry)」について学びました。特許・知的財産、規制・承認制度、研究開発・技術、規模の経済、顧客基盤・販売網。これらの参入障壁は、医療企業の競争優位を支える重要な要因です。しかし、参入障壁が高い市場であっても、複数の企業が競争している場合があります。では、その市場で最も強い企業は、どのように見分ければよいのでしょうか。

例えば、ある医療機器市場に3社が存在するとします。A社の市場シェアは50%、B社は30%、C社は20%。この場合、A社が最も強い企業だと考えたくなります。確かに、市場シェアが高いことは、企業の競争上の地位を示す重要な情報です。しかし、ここで考えてみてください。A社の営業利益率が5%で、B社の営業利益率が25%だったらどうでしょうか。A社は市場シェアが高いものの、利益率ではB社に大きく劣っています。また、A社が販売数量を増やすために、大幅な値引きを行っている可能性もあります。一方、B社は高性能な製品を提供し、価格競争を避けながら高い利益率を維持しているのかもしれません。つまり、市場シェアが高いことと、企業の収益性が高いことは必ずしも一致しません。

今回は、市場シェアの基本から、市場集中度、HHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)、競争構造、利益率との関係まで学びます。さらに、医療企業を分析するときに重要な「市場の定義」についても詳しく考えていきます。

市場シェアとは何か

市場シェア(Market Share)とは、ある市場全体の販売数量や売上高に対して、特定企業が占める割合です。例えば、ある医療機器市場の年間売上高が1,000億円だったとします。その市場で、A社の売上高が300億円だった場合、市場シェアは次のように計算できます。市場シェア=企業の対象市場売上高÷市場全体の売上高×100です。したがって、300億円÷1,000億円×100=30%となります。A社の市場シェアは30%です。これは、対象市場の売上高のうち、30%をA社が占めていることを意味します。ただし、市場シェアを計算するときには、重要な注意点があります。それは、何を市場と定義するかによって、市場シェアが変わることです。

市場の定義が変われば、市場シェアも変わる

例えば、ある企業が超音波診断装置を販売しているとします。この企業の市場シェアを分析する場合、どの市場を対象にすればよいでしょうか。医療機器市場全体でしょうか。画像診断装置市場でしょうか。超音波診断装置市場でしょうか。あるいは、特定の診療領域で使用される超音波診断装置市場でしょうか。市場の定義によって、企業の市場シェアは大きく変わります。

架空のMedical Imaging A社を考えてみましょう。A社の年間売上高は500億円です。すべて超音波診断装置による売上だと仮定します。医療機器市場全体が10兆円なら、A社の市場シェアは0.5%です。画像診断装置市場が1兆円なら、市場シェアは5%です。超音波診断装置市場が2,000億円なら、市場シェアは25%です。同じ企業でも、市場の定義によって0.5%、5%、25%と大きく変わります。したがって、企業分析では、「この企業の市場シェアは何%か」より先に、「どの市場におけるシェアなのか」を確認する必要があります。

医療産業では市場の定義が特に重要

医療産業では、製品やサービスの用途が細かく分かれています。例えば、製薬企業です。医薬品市場全体では、それほど大きなシェアを持っていない企業でも、特定の疾患領域では高いシェアを持つ場合があります。がん治療薬、糖尿病治療薬、希少疾患治療薬、自己免疫疾患治療薬。これらは、同じ医薬品市場に含まれていても、競争環境が異なります。

さらに、同じ疾患領域であっても、治療対象となる患者集団や治療段階によって市場が分かれる場合があります。例えば、ある抗がん剤が特定の遺伝子変異を持つ患者に使用される場合、その企業の競争相手は、がん治療薬市場全体の企業とは限りません。同じ患者集団に対して治療選択肢を提供している企業が、直接的な競争相手になる場合があります。市場シェアを分析するときには、製品分類だけでなく、実際に顧客がどの製品を代替的な選択肢として考えるのかを理解する必要があります。

販売数量シェアと売上高シェア

市場シェアには、大きく分けて2つの考え方があります。一つ目は販売数量シェア(Volume Share)で、市場全体の販売数量に対して、企業の販売数量が占める割合です。例えば、ある医療機器市場で年間1万台が販売されているとします。A社が3,000台を販売していれば、3,000台÷1万台×100=30%です。

二つ目は売上高シェア(Value Share)で、市場全体の売上高に対して、企業の売上高が占める割合です。例えば、市場全体の売上高が500億円で、A社の売上高が200億円なら、200億円÷500億円×100=40%です。同じ企業でも、販売数量シェアと売上高シェアが異なる場合があります。なぜでしょうか。それは、製品の販売価格が異なるからです。

ケーススタディ① 数量シェアは低いのに売上高シェアが高い企業

架空の医療機器市場を考えます。年間販売数量は1万台、市場全体の売上高は500億円です。この市場で、A社は2,000台を販売しています。A社の売上高は150億円です。まず、販売数量シェアを計算します。2,000台÷1万台×100=20%です。次に、売上高シェアを計算します。150億円÷500億円×100=30%です。A社の市場シェアは、販売数量では20%、売上高では30%となりました。

なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか。A社の平均販売価格を計算してみましょう。150億円÷2,000台=750万円です。一方、市場全体の平均販売価格は、500億円÷1万台=500万円です。A社の平均販売価格は、市場平均より高いことが分かります。この結果から、A社は高価格帯の製品を多く販売している可能性があります。ただし、製品の機能や構成が異なる可能性もあるため、この数字だけで価格決定力が強いと断定することはできません。企業分析では、販売数量シェアと売上高シェアの両方を確認することが重要です。

市場シェアが高い企業にはどのような強みがあるのか

市場シェアが高い企業には、いくつかの競争上の強みが生まれる可能性があります。第一に、規模の経済です。販売数量が多ければ、生産設備や物流網を効率的に利用できる場合があります。第二に、顧客基盤です。多くの医療機関に製品が導入されていれば、継続的な取引関係を構築しやすくなる可能性があります。第三に、製品改善です。多くの顧客から得られる使用経験や要望を、適切な権利や契約の範囲内で製品開発に活用できる場合があります。第四に、ブランドや信頼です。医療機関で長年使用されている製品は、品質や保守体制への信頼を獲得している場合があります。第五に、販売網の効率性です。広い顧客基盤を持つことで、営業活動や保守サービスの効率が改善する可能性があります。ただし、これらは市場シェアが高ければ必ず生まれるものではありません。企業の事業モデルや競争環境によって異なります。

市場シェアが高くても利益率が低い理由

ここで重要な問題があります。市場シェアが高い企業でも、利益率が低い場合があります。例えば、ある医療機器メーカーが市場シェアを拡大するために、販売価格を大幅に引き下げたとします。販売数量は増加します。しかし、製品1台当たりの利益は減少する可能性があります。また、顧客を獲得するために営業人員を増やしたり、保守サービスを拡充したりすれば、販売管理費が増加する場合があります。さらに、生産量を増やすために大きな設備投資が必要になることもあります。つまり、市場シェアの拡大には費用がかかる場合があります。そのため、企業分析では、「市場シェアが拡大しているか」だけでなく、「そのシェアを獲得するために、どれくらいの費用と投資が必要だったか」を確認する必要があります。

市場集中度とは何か

ここからは、市場全体の競争構造について考えます。市場集中度とは、ある市場の売上高や販売数量が、少数の企業にどれくらい集中しているかを示す概念です。例えば、2つの市場を比較してみましょう。市場Aは、A社50%、B社30%、C社20%です。市場Bは、A社、B社、C社、D社がそれぞれ25%です。市場Aでは、3社が市場全体を占めています。しかも、A社だけで50%のシェアを持っています。一方、市場Bでは、4社が均等に市場を分け合っています。この場合、市場Aの方が少数企業への集中度が高いと考えられます。市場集中度を分析することで、企業間の競争構造を理解する手がかりが得られます。ただし、集中度が高いことだけで、競争が弱いと断定することはできません。少数の企業が激しく競争している市場も存在するからです。

CR3とCR4を理解する

市場集中度を簡単に確認する方法として、CR3やCR4があります。CRとは、Concentration Ratioの略です。CR3は、市場シェア上位3社の合計シェアです。CR4は、市場シェア上位4社の合計シェアです。例えば、ある医療機器市場で、A社35%、B社25%、C社20%、D社10%、その他10%だったとします。CR3は、35%+25%+20%=80%です。CR4は、35%+25%+20%+10%=90%です。この市場では、上位3社が市場の80%を占めています。上位4社では90%です。少数の企業に売上高が集中していることが分かります。ただし、CR3やCR4だけでは、上位企業間のシェアの偏りまでは十分に分かりません。そこで、次に学ぶHHIが役立ちます。

HHIとは何か

HHIとは、Herfindahl-Hirschman Index、日本語ではハーフィンダール・ハーシュマン指数と呼ばれる、市場集中度を測定するための代表的な指標です。計算方法は、各企業の市場シェアを2乗し、それらを合計するというものです。市場シェアを百分率で表す場合、HHI=A社シェア²+B社シェア²+C社シェア²+……となります。

例えば、A社50%、B社30%、C社20%の3社が存在する市場を考えます。この場合、HHI=50²+30²+20²=2,500+900+400=3,800となります。HHIは3,800です。HHIが大きいほど、一般に市場が少数企業へ集中していることを意味します。

HHIはなぜ市場シェアを2乗するのか

ここで疑問が生まれるかもしれません。なぜ、市場シェアをそのまま合計するのではなく、2乗するのでしょうか。市場シェアをそのまま合計すると、すべての企業を含む場合、合計は100%になります。これでは、市場集中度を比較できません。一方、シェアを2乗すると、大きなシェアを持つ企業の影響が強く反映されます。例えば、市場シェア10%の企業の場合、10²=100です。市場シェア50%の企業の場合、50²=2,500です。市場シェアは5倍ですが、HHIへの寄与は25倍になります。つまり、HHIは大きな市場シェアを持つ企業の存在を強く反映する指標です。

ケーススタディ② 2つの市場のHHIを比較する

先ほどの市場Aと市場Bを比較してみましょう。市場Aは、A社50%、B社30%、C社20%で、HHIは50²+30²+20²=3,800です。市場Bは、4社がそれぞれ25%で、HHIは25²+25²+25²+25²=2,500です。比較すると、市場Aが3,800、市場Bが2,500となり、市場Aの方が集中度は高いことが分かります。

ただし、ここで重要な注意点があります。HHIが高いことは、必ずしも企業の利益率が高いことを意味しません。市場が集中していても、企業間で激しい価格競争が起こる場合があります。また、医療産業では、保険償還制度や医療機関の購買行動なども競争環境に影響します。HHIは競争構造を理解するための指標であり、企業の収益性を直接示す指標ではありません。

HHIの最大値と最小値

HHIの最大値は10,000です。これは、1社が市場シェア100%を持つ場合で、100²=10,000となります。一方、多数の企業が小さなシェアを持つ市場では、HHIは低くなります。例えば、10社がそれぞれ10%のシェアを持つ場合、HHI=10²×10社=1,000です。100社がそれぞれ1%のシェアを持つ場合、HHI=1²×100社=100です。このように、HHIは市場の集中度を数値として比較できます。

ただし、実際の企業分析では、対象市場の定義やシェアの測定方法によって結果が変わります。また、競争当局によるHHIの評価基準は、国や制度、分析目的によって異なります。そのため、特定のHHIの数値だけで、市場の競争が適切かどうかを判断することはできません。

市場集中度が高いと何が起こるのか

市場集中度が高い場合、少数の企業が市場の大部分を占めています。そのため、各企業の行動が競争環境に大きな影響を与える場合があります。例えば、ある診断機器市場で、A社とB社の2社が市場の大部分を占めているとします。A社が新製品を発売すれば、B社も対抗製品を投入するかもしれません。B社が価格を引き下げれば、A社も価格を見直す可能性があります。つまり、少数の企業が互いの行動を強く意識する市場になる場合があります。このような市場では、製品性能、価格、研究開発、サービス体制などをめぐる競争が重要になります。ただし、集中度が高いからといって、企業同士が協調していると推測してはいけません。市場集中度と実際の競争行動は、区別して分析する必要があります。

医療産業では市場集中度だけでは判断できない

医療産業には、一般的な製造業とは異なる特徴があります。例えば、医薬品です。ある医薬品の市場シェアが非常に高くても、薬価制度によって価格が影響を受ける場合があります。また、新しい治療法が登場することで、市場構造そのものが変化する可能性があります。医療機器でも同様です。ある企業が高い市場シェアを持っていても、医療機関が価格や保守費用を重視すれば、収益性に影響する可能性があります。さらに、医療機関の共同購入や入札制度によって、企業間の競争が強まる場合もあります。したがって、医療企業を分析するときには、市場集中度に加えて、価格決定の仕組みや顧客の購買行動を確認する必要があります。

市場シェアと市場成長率を組み合わせる

ここで、もう一つ重要な視点を紹介します。それは、市場成長率です。市場シェアが同じ30%でも、市場全体が成長している場合と縮小している場合では、企業の将来性が異なる可能性があります。例えば、ある医療機器市場の年間売上高が1,000億円だったとします。翌年、市場全体が1,100億円へ成長しました。市場成長率は、(1,100億円-1,000億円)÷1,000億円×100=10%です。この市場で、A社が30%のシェアを維持した場合、売上高は1,100億円×30%=330億円です。前年の売上高は300億円でした。したがって、市場シェアが変わらなくても、売上高は10%増加します。これは市場全体の成長による効果です。

市場成長とシェア拡大を区別する

次に、A社の売上高が360億円になった場合を考えます。市場全体は1,100億円です。A社の市場シェアは、360億円÷1,100億円×100=約32.7%となります。前年の市場シェアは30%でした。つまり、A社は市場全体の成長に加えて、市場シェアも拡大しています。ここで、A社の売上増加額を分解してみましょう。前年の売上高は300億円、今年の売上高は360億円で、増加額は60億円です。もし市場シェアが30%のままだった場合、売上高は330億円でした。したがって、市場全体の成長による増加額は30億円、市場シェア拡大による増加額は30億円と分解できます。この例では、売上増加額60億円のうち、半分が市場成長、残り半分がシェア拡大によるものです。ただし、これは市場売上高を基準にした単純な分解です。実際の企業分析では、為替、価格、製品構成なども影響します。

市場シェアの拡大は必ず良いことなのか

市場シェアが拡大している企業は、競争力が高まっているように見えます。しかし、必ずしもそうではありません。例えば、ある医療機器メーカーが大幅な値引きを行い、販売数量シェアを20%から30%へ拡大したとします。販売数量は増加しました。しかし、利益率が大きく低下していれば、企業の収益性は悪化している可能性があります。また、売上高を増やすために、採算性の低い製品や顧客を増やしている場合もあります。このような場合、市場シェアの拡大が必ずしも企業価値の向上につながるとは限りません。

重要なのは、「どのような方法で市場シェアを拡大したのか」ということです。価格競争による拡大なのか。製品性能の向上による拡大なのか。新しい顧客層の開拓による拡大なのか。競合企業の撤退による拡大なのか。それぞれ意味が異なります。

ケーススタディ③ 市場シェアを拡大したのに利益が減った企業

架空の医療機器メーカー、Medical Device B社を考えます。B社は、ある診断機器市場で事業を展開しています。前年の売上高は200億円、営業利益は40億円、営業利益率は20%でした。翌年、B社は市場シェア拡大を目指して、販売価格を引き下げました。その結果、売上高は250億円へ増加しました。しかし、営業利益は30億円へ減少しました。営業利益率は、30億円÷250億円×100=12%となりました。

比較してみましょう。売上高は前年200億円から当年250億円、営業利益は40億円から30億円、営業利益率は20%から12%です。売上高は25%増加しました。しかし、営業利益は25%減少しました。このケースでは、市場シェアの拡大を目的とした価格引き下げが、収益性の低下につながったと仮定しています。ただし、実際の企業では、研究開発費や製品構成の変化など、他の要因も確認する必要があります。企業分析では、市場シェアの変化と利益率の変化を組み合わせて考えることが重要です。

市場シェアが低くても強い企業は存在する

ここまで市場シェアの重要性を学びました。しかし、市場シェアが低くても、高い競争力を持つ企業は存在します。例えば、特殊な医療機器を製造する企業です。市場全体では小さなシェアしか持っていなくても、特定の用途では高い専門性を持っている場合があります。また、高価格帯の医療機器を提供する企業では、販売数量が少なくても高い利益率を維持できる場合があります。このような企業では、市場全体のシェアよりも、特定の顧客層や製品分野における競争上の地位が重要になることがあります。企業分析では、単純に市場シェアの大小だけで企業を評価しないことが大切です。

ニッチ市場での競争優位

ニッチ市場とは、比較的小さく、特定の顧客ニーズに対応する市場です。例えば、ある医療機器メーカーが、特殊な手術で使用する器具を開発しているとします。市場規模は大きくありません。しかし、製品の性能や品質に対する要求が高く、専門的な技術が必要です。その企業が長年にわたり製品を改良し、医療現場から高い評価を得ている場合、競争優位を持つ可能性があります。このような企業では、売上高の絶対額が小さくても、収益性が高い場合があります。ただし、ニッチ市場には市場規模の制約があります。市場が小さければ、成長余地も限定される可能性があります。したがって、ニッチ市場の企業を分析するときには、競争優位の強さと市場の成長余地を分けて考える必要があります。

市場シェアと製品ポートフォリオ

医療企業は、複数の製品を販売している場合があります。例えば、ある医療機器メーカーが、超音波診断装置、患者モニター、内視鏡関連機器、医療情報システムを販売しているとします。それぞれの市場で、企業の市場シェアは異なる可能性があります。超音波診断装置では30%、患者モニターでは10%、内視鏡関連機器では5%、医療情報システムでは2%だったとします。この場合、企業全体の売上高だけを見ても、どの事業に競争優位があるのか分かりません。事業ごとに市場シェアを確認する必要があります。さらに、各事業の利益率や成長率も重要です。市場シェアが高い事業が、必ずしも企業全体の利益を最も多く生み出しているとは限らないからです。

医療企業の市場シェアを分析する際の注意点

実際の企業分析では、市場シェアの数字を慎重に扱う必要があります。第一に、対象市場の定義です。企業によって市場の分類方法が異なる場合があります。第二に、地域です。世界市場のシェアと日本市場のシェアは異なります。第三に、期間です。市場シェアは年度や四半期によって変化します。第四に、数量と金額の違いです。販売数量シェアと売上高シェアを混同してはいけません。第五に、情報源です。企業が公表する市場シェアは、独自の市場定義や推計に基づいている場合があります。そのため、異なる企業の市場シェアを比較するときには、定義や算出方法が一致しているかを確認する必要があります。

市場シェアの情報はどこで確認するのか

市場シェアを調べる際には、主に次のような情報源を利用します。一つ目は企業の統合報告書で、企業の事業構造や競争上の地位について説明されている場合があります。二つ目は決算説明資料で、主要製品の販売動向や市場環境について記載されている場合があります。三つ目は有価証券報告書で、事業内容、競争環境、主要なリスクなどを確認できます。四つ目は業界団体の統計で、医療機器や医薬品の生産・販売に関する統計が公表されている場合があります。五つ目は市場調査会社のレポートで、特定市場の規模や企業別シェアを推計している場合があります。ただし、公開情報だけでは正確な市場シェアを算出できないこともあります。その場合は、推計値であることを明示し、分析の前提条件を確認する必要があります。

市場シェアと企業価値の関係

ここで、企業価値との関係を考えましょう。市場シェアが高い企業は、将来も高い利益を生み出せるのでしょうか。必ずしもそうではありません。企業価値を考えるうえでは、将来の利益やキャッシュフローが重要です。市場シェアが高くても、利益率が低下していれば、将来の収益性が悪化する可能性があります。一方、市場シェアがそれほど高くなくても、高い利益率と成長性を維持している企業では、将来のキャッシュフローが増加する可能性があります。また、市場シェアを拡大するために多額の設備投資が必要であれば、資本効率が低下する場合があります。したがって、JMEIでは、市場シェアを企業価値そのものとは考えません。市場シェアは、企業の競争上の地位を理解するための重要な情報です。その地位が、どのように利益やキャッシュフローにつながっているかを分析する必要があります。

市場シェアとROICを組み合わせる

第59講では、ROICについて学びました。ROICは、投下資本に対して、どれくらいの利益を生み出しているかを示す指標です。市場シェアとROICを組み合わせることで、企業の競争上の地位と資本効率を同時に考えられます。例えば、次の2社を比較してみましょう。A社は市場シェア40%、ROIC8%です。B社は市場シェア15%、ROIC20%です。A社は市場シェアが高い企業です。一方、B社は市場シェアが低いものの、投下資本に対して高い利益を生み出しています。この場合、どちらが優れているのでしょうか。市場シェアだけでは判断できません。ROICだけでも十分ではありません。資本コスト、成長性、競争優位の持続性などを確認する必要があります。重要なのは、市場での強さが、資本効率の高さにつながっているかということです。

総合ケーススタディ――3つの医療企業を比較する

ここでは、3つの架空企業を比較します。Medical Device A社は、市場シェア45%、年間売上高900億円、営業利益率8%、ROIC7%です。A社は市場シェアが高い企業ですが、価格競争が激しく、営業利益率は低い水準にとどまっています。

Medical Technology B社は、市場シェア25%、年間売上高500億円、営業利益率22%、ROIC18%です。B社は高性能な製品を提供しています。販売数量はA社より少ないものの、高い利益率を維持しています。

Medical Innovation C社は、市場シェア10%、年間売上高200億円、営業利益率5%、ROIC4%です。C社は新しい技術を持つ成長企業です。研究開発費が大きく、現在の利益率は低い水準です。ただし、今後の市場拡大によって収益性が改善する可能性があります。

この3社を比較すると、どうでしょうか。A社は市場シェアが最も高い企業です。しかし、収益性や資本効率は必ずしも高くありません。B社は市場シェアがA社より低いものの、営業利益率とROICでは優れています。C社は現在の収益性が低いものの、将来の成長余地があるかもしれません。ただし、その成長が実現するかどうかは不確実です。この情報だけで最も優れた企業を断定することはできません。しかし、重要なことが分かります。市場シェア、利益率、資本効率、成長性は、それぞれ異なる側面を示しているのです。

JMEI式「市場シェア分析の15の質問」

医療企業を分析するときには、次の15項目を確認してみましょう。1つ目は、その企業の主要市場は何か。2つ目は、市場はどのように定義されているか。3つ目は、市場全体の規模はどれくらいか。4つ目は、市場は成長しているか、縮小しているか。5つ目は、その企業の市場シェアは何%か。

6つ目は、販売数量シェアと売上高シェアに違いはあるか。7つ目は、市場シェアは過去5年間でどのように変化したか。8つ目は、主要な競合企業はどこか。9つ目は、上位企業への市場集中度は高いか。10個目は、市場シェアの拡大は利益率の改善につながっているか。

11個目は、価格競争によってシェアを獲得していないか。12個目は、高い市場シェアが規模の経済につながっているか。13個目は、顧客基盤や販売網が競争優位になっているか。14個目は、市場シェアの高さがROICの改善につながっているか。15個目は、5年後、10年後も現在の競争上の地位を維持できる可能性はあるか。これらの質問を通じて、市場シェアの数字だけでは分からない企業の競争力を考えることができます。

練習問題

問題1

市場シェアとは何でしょうか。

【答え】ある市場全体の販売数量や売上高に対して、特定企業が占める割合です。

問題2

ある医療機器市場の年間売上高は2,000億円です。A社の対象市場売上高は400億円です。A社の市場シェアはいくらでしょうか。

【答え】20%です。400億円÷2,000億円×100=20%。

問題3

ある医療機器市場では、年間1万台が販売されています。A社は2,500台を販売しています。販売数量シェアはいくらでしょうか。

【答え】25%です。2,500台÷1万台×100=25%。

問題4

販売数量シェアと売上高シェアが異なる理由を説明してください。

【答え】企業によって製品の販売価格や製品構成が異なるためです。高価格帯の製品を多く販売する企業では、販売数量シェアより売上高シェアが高くなる場合があります。

問題5

ある市場の企業別シェアは、A社40%、B社30%、C社20%、D社10%です。CR3はいくらでしょうか。

【答え】90%です。40%+30%+20%=90%。

問題6

問題5の市場のHHIを計算してください。

【答え】HHIは3,000です。40²+30²+20²+10²=1,600+900+400+100=3,000。

問題7

4社がそれぞれ25%の市場シェアを持つ場合、HHIはいくらでしょうか。

【答え】2,500です。25²×4=2,500。

問題8

HHIが高い市場では、必ず企業の利益率が高くなるでしょうか。

【答え】いいえ。市場集中度が高くても、企業間の価格競争や顧客の価格交渉力などによって、利益率が低くなる場合があります。

問題9

ある医療機器市場の年間売上高は1,000億円です。翌年、1,200億円になりました。市場成長率はいくらでしょうか。

【答え】20%です。(1,200億円-1,000億円)÷1,000億円×100=20%。

問題10

ある企業の市場シェアが30%から35%へ上昇しました。何ポイント上昇したでしょうか。

【答え】5ポイントです。35%-30%=5ポイント。なお、30%から35%への変化は、相対的には約16.7%の増加です。パーセントとパーセントポイントを区別することが重要です。

問題11

市場シェアが高い企業でも、ROICが低い場合があります。なぜでしょうか。

【答え】市場シェアを維持・拡大するために、多額の設備投資や営業費用が必要になる場合があるためです。また、価格競争によって利益率が低下している可能性もあります。

問題12

医療企業の市場シェアを分析するとき、最も重要なことは何でしょうか。

【答え】対象市場を適切に定義し、市場シェアの変化が利益率、資本効率、将来の競争優位にどのようにつながっているかを確認することです。

JMEIの視点

JMEIでは、市場シェアを医療企業の競争上の地位を理解するための重要な指標として位置づけています。しかし、市場シェアが高い企業を、無条件に優れた企業とは評価しません。なぜなら、医療産業では、市場シェアの高さと収益性が必ずしも一致しないからです。例えば、ある医療機器メーカーが市場シェア50%を持っているとします。一見すると、非常に強い企業に見えます。しかし、価格競争が激しく、営業利益率が低い場合はどうでしょうか。市場シェアを維持するために、多額の設備投資が必要な場合はどうでしょうか。また、新しい技術の登場によって、市場そのものが縮小する可能性もあります。このような場合、市場シェアの高さだけでは長期的な競争優位を説明できません。一方、ある企業が市場シェア10%しか持っていなくても、高度な技術を必要とする製品を提供し、高い利益率を維持している場合があります。この企業は、特定の市場において強い競争優位を持っている可能性があります。

したがって、JMEIでは市場シェアを次の4つの視点から分析します。第一の視点は市場の定義で、その企業が、どの市場で競争しているのか、市場全体の中で、どの製品分野に強みがあるのかを見ます。第二の視点は市場での地位で、市場シェアは何%か、競合企業と比較して、どのような位置にいるのかを見ます。第三の視点は収益性で、市場シェアの高さが、利益率やキャッシュフローの改善につながっているかを見ます。第四の視点は持続性で、現在の市場シェアを、将来も維持できる可能性があるか、技術革新や競争環境の変化によって、その地位が弱まる可能性はないかを見ます。この4つを組み合わせることで、市場シェアの数字だけでは分からない企業の競争力を理解できます。

さらに、医療産業では、もう一つ重要な視点があります。それは、医療上の価値です。医療機器の市場シェアが高いことは、多くの医療機関で使用されていることを意味する場合があります。しかし、使用されていることだけで、その製品の臨床的有用性が高いと断定することはできません。製品の性能、安全性、医療従事者の使いやすさ、患者への影響、導入費用と維持費用。こうした要因を考慮する必要があります。JMEIでは、市場シェアを単なる競争上の数字としてではなく、企業が医療現場へどのような価値を提供しているのかを考えるための手がかりとして活用します。

市場シェアの大きさよりも、そのシェアがどれだけの利益を生み、どれだけ長く維持できるかが重要である

企業分析では、市場シェアが高い企業は強いと考えられることがあります。業界トップ、国内シェア第1位、世界市場で高いシェア。こうした言葉は、企業の競争力を示す重要な情報です。しかし、JMEIでは、市場シェアの高さだけで企業の競争優位を判断することは適切ではないと考えます。なぜなら、市場シェアは企業の競争上の地位を示す指標であって、その地位がどれくらいの経済的価値を生み出しているかを直接示すものではないからです。

例えば、ある医療機器メーカーが市場シェア50%を持っているとします。しかし、その企業は価格競争によって利益率が低下しています。一方、市場シェア20%の競合企業は、高性能な製品を提供することで、高い利益率を維持しています。この場合、どちらの企業が優れているのでしょうか。市場シェアだけでは判断できません。重要なのは、その市場シェアがどのような競争優位によって支えられているかです。製品性能が優れているのか。製造費用が低いのか。顧客との信頼関係が強いのか。スイッチングコストが高いのか。規制対応や品質管理に強みがあるのか。こうした要因を確認する必要があります。

さらに、市場シェアを維持するために、どれくらいの投資が必要なのかも重要です。例えば、ある企業が市場シェアを拡大するために、新しい工場を建設したとします。売上高は増加しました。営業利益も増加しました。しかし、設備投資額が非常に大きかった場合、ROICが低下する可能性があります。つまり、企業が市場シェアを拡大しても、投下資本に対する収益性が改善するとは限らないのです。ここで重要になるのが、市場シェアと資本効率の関係です。市場シェアが高い。規模の経済が働く。平均費用が低下する。利益率が改善する。投下資本に対する利益が増える。このような循環が成立すれば、市場シェアの高さは企業の経済的価値につながる可能性があります。しかし、反対の循環もあります。市場シェアを拡大する。価格を引き下げる。営業費用が増える。設備投資が増える。利益率や資本効率が低下する。この場合、市場シェアの拡大が必ずしも企業価値の向上につながるとは限りません。

したがって、JMEIでは市場シェアを分析するとき、次の3つの問いを重視します。第一に、その企業はなぜ現在の市場シェアを獲得できているのか。第二に、その市場シェアはどれくらいの利益とキャッシュフローを生み出しているのか。第三に、その市場シェアを将来も維持できる理由は何か。この3つの問いによって、単純な市場シェアの比較から、競争優位の分析へ進むことができます。

さらに、医療産業では、市場そのものが変化することがあります。例えば、新しい診断技術が登場した場合です。従来の診断機器市場で高いシェアを持っていた企業でも、新しい技術が普及することで、市場の構造が変化する可能性があります。また、新しい治療法が登場すれば、従来の医薬品市場が縮小する場合もあります。つまり、現在の市場シェアが高くても、その市場が将来も存在し続けるとは限りません。ここに、医療企業分析の難しさがあります。市場シェアを維持することが重要な場合もあれば、新しい市場へ進出することが重要な場合もあります。そのため、企業の競争優位を分析するときには、現在の市場シェアだけでなく、市場の将来性も考える必要があります。

JMEIでは、医療企業の長期的な競争力を、市場での地位、利益率、資本効率、技術革新への対応力、医療現場への価値提供という複数の視点から評価します。市場シェアが高いことは、競争優位を考える重要な出発点です。しかし、それだけでは十分ではありません。本当に強い医療企業とは、市場シェアを獲得するだけでなく、そのシェアを持続的な利益と医療価値へ変えることができる企業です。そして、その競争優位を維持するために、研究開発や製品改善へ適切に再投資できる企業です。市場シェアを分析する目的は、単に業界トップ企業を見つけることではありません。その市場で、どの企業が、なぜ選ばれ、どのように利益を生み出し、その強さを将来も維持できるのかを理解することです。これが、JMEIの市場シェア分析の基本的な考え方です。

今回のポイント

第60講で最も覚えてほしいのは、「市場シェアが高いことと、企業の競争優位が強いことは、必ずしも同じではない」ということです。市場シェアとは、ある市場全体の販売数量や売上高に対して、特定企業が占める割合です。市場シェアを分析するときには、まず市場の定義を確認する必要があります。医療機器市場全体なのか。特定の診断機器市場なのか。特定の疾患領域なのか。市場の定義によって、市場シェアは大きく変わります。また、販売数量シェアと売上高シェアは異なる場合があります。高価格帯の製品を販売している企業では、販売数量シェアより売上高シェアが高くなることがあります。

市場集中度を分析するときには、CR3、CR4、HHIなどの指標が役立ちます。HHIは、各企業の市場シェアを2乗して合計することで、市場の集中度を測定する指標です。ただし、HHIが高いことだけで、企業の利益率が高いと判断することはできません。医療産業では、保険償還制度、価格交渉、規制制度、技術革新などが競争環境に影響します。さらに、市場シェアの変化を分析するときには、市場全体の成長と、企業自身のシェア拡大を区別する必要があります。市場が成長すれば、市場シェアが変わらなくても売上高が増加する場合があります。一方、市場シェアが拡大しても、価格競争によって利益率が低下する場合があります。したがって、企業分析では、市場シェア、利益率、ROIC、成長性を組み合わせて評価することが重要です。

最後に、次の3つの問いを覚えておきましょう。「この企業は、どの市場で、どれくらいのシェアを持っているのか」。「その市場シェアは、どのような競争優位によって支えられているのか」。「そのシェアは、将来も利益と医療価値を生み出し続けることができるのか」。この3つの問いによって、市場シェアという数字の背後にある、企業の本当の競争力が見えてきます。

次回予告

第61講 買い手の交渉力とは何か?――病院・保険者・政府は医療企業の利益をどう左右するのか

今回は、市場シェアと競争構造について学びました。市場シェアが高い企業は、規模の経済や顧客基盤などによって競争優位を持つ可能性があります。しかし、市場シェアが高くても、利益率が低い企業が存在します。なぜでしょうか。その理由の一つが、顧客の価格交渉力です。

例えば、ある医療機器メーカーが、特定の医療機器市場で高いシェアを持っているとします。しかし、その製品を購入する医療機関が、大規模な病院グループに集中していたらどうでしょうか。病院グループが大量購入を行い、価格引き下げを要求する可能性があります。また、医薬品では、公的医療保険制度や薬価制度が企業の収益に影響します。つまり、企業が高い市場シェアを持っていても、顧客や制度によって価格が制約される場合があります。このような顧客側の力を、買い手の交渉力(Bargaining Power of Buyers)と呼びます。

次回は、医療企業の収益性を考えるうえで重要な、買い手の交渉力について学びます。特に、病院の購買力、医療機関の共同購入、医療機器の入札制度、顧客集中度、公的医療保険制度と価格、製薬企業と医療機器企業の違い、顧客の交渉力と営業利益率の関係について考えます。さらに、医療企業の決算資料から、顧客の交渉力をどのように読み取ればよいのか、ケーススタディを通して学びます。第61講では、「この医療企業は、製品を購入する顧客に対して、どれくらいの価格交渉力を持っているのか」という問いから、医療企業の収益構造を読み解いていきます。

JMEI|日本医療企業研究所 医療を変える企業と技術を読み解く。

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