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医療企業分析アカデミー

第11講 市場シェアとは何か?

JMEI 医療企業分析アカデミー 第11講 「売上が伸びた」だけでは分からない本当の競争力

はじめに

第10講では製品別売上について学びました。会社全体の売上を見るだけではなく、会社からセグメント、製品と分解することで、「いったい何が会社を成長させているのか」を見つけることが重要でした。さらに、現在の主力製品、現在の成長製品、未来の主力候補を分けて考えることも学びました。今回は、そこからもう一歩進みます。

例えば、ある医療機器の売上が前年より20%増えたとします。一見すると非常に好調です。しかし、その製品が属する市場全体が30%成長していたらどうでしょうか。会社は20%成長しているにもかかわらず、実は市場の成長についていけず、シェアを失っている可能性があります。反対に、市場全体が3%しか伸びていない中で自社製品が15%成長していれば、競合企業から顧客を奪っている可能性があります。そこで今回学ぶのが市場シェアです。

市場シェアとは何か

市場シェアとは、ある市場全体の中で、その企業や製品がどのくらいの割合を占めているかを示す数字です。基本的な考え方は、市場シェア=自社売上÷市場全体の売上×100です。ある医療機器市場が年間1,000億円あり、その中でA社が250億円を販売しているとすると、250億円÷1,000億円×100=25%。A社の市場シェアは25%です。つまり、市場で使われている金額の約4分の1をA社が占めているというイメージです。

数字だけでは分かりにくいので、100人で考えてみましょう。ある医療機器を購入する病院が100施設あるとして、そのうちA社が40施設、B社が30施設、C社が20施設、その他が10施設で使用しているとすると、単純化すればA社は40%のシェアで、この市場のトップ企業になります。ここで重要なのは、シェアとは企業の「現在の位置」を示す数字だということです。

売上は伸びているのに、シェアは下がっている

架空のAメディカルを考えます。前年売上100億円、今年売上120億円で20%成長です。素晴らしい成長に見えます。しかし市場全体が前年500億円から今年650億円になっていたらどうでしょうか。市場成長率は30%です。A社は20%しか成長しておらず、市場より成長が遅いのです。

実際にシェアを計算してみると、前年のA社シェアは100億円÷500億円×100=20%、今年は120億円÷650億円×100=約18.5%。売上そのものは100億円から120億円へ増えましたが、市場シェアは20%から約18.5%へ低下しています。つまり、「売上は伸びているが、競争では負けている可能性がある」のです。

成長率は低くても、シェアは上がっている

反対のケースもあります。Bメディカルの前年売上は100億円、今年売上は110億円で成長率は10%。A社の20%より低いので一見物足りませんが、市場全体が前年500億円から今年515億円だったとすると、市場成長率は3%です。B社は市場を大きく上回る10%成長を達成しています。

前年シェアは100÷500×100=20%、今年は110÷515×100=約21.4%。つまり20%から約21.4%へ上昇しています。売上成長率10%という数字だけならそれほど派手ではありませんが、競合企業からシェアを奪っている可能性があります。企業分析では、こちらの方が重要な場合があります。

売上が増える2つの理由

企業の売上が増える理由を、大きく2つに分けて考えてみましょう。一つは市場そのものが大きくなる場合で、患者数が増える、新しい治療法が普及する、高齢化が進む、新興国の医療需要が増えるなどです。もう一つは自社の市場シェアが上がる場合で、競合より優れた製品を出す、価格競争力を高める、販売網を拡大する、医療現場から支持されるなどです。企業分析では、市場が伸びたから売上が増えたのか、自社が強くなったから増えたのかを分けて考えます。

Aメディカルは自社売上成長率+15%、市場成長率+20%。Bメディカルは自社売上成長率+8%、市場成長率+2%。成長率だけならA社が上ですが、A社は市場平均を下回っています。B社は市場平均を大きく上回っています。この場合、A社は成長市場の恩恵を受けて売上が増えたものの、シェアを落としている可能性があります。B社は成熟市場の中で、競合からシェアを獲得している可能性があります。数字の見え方が変わってきます。

高いシェアが競争力になる理由

医療では、一度高い市場シェアを獲得すると、それ自体が競争力につながる場合があります。多くの医師が使い慣れている、病院内で研修体制が整っている、消耗品の供給網ができている、保守体制が充実している、臨床データが豊富になる、といった効果が生まれます。すると新規参入企業が少し性能の良い製品を発売しただけでは、簡単に顧客を奪えない場合があります。

例えば手術支援機器を考えてみましょう。A社製品が病院へ導入され、医師も操作に習熟し、看護師も準備方法を理解しており、院内にはA社専用の消耗品があり、保守契約もあります。そこでB社が「5%性能が高く、価格も5%安い機器」を発売しても、病院はすぐにB社へ乗り換えるでしょうか。必ずしもそうではありません。変更には、医師の再研修、スタッフ教育、機器交換、院内手順変更などの負担が伴うからです。高いシェアが結果として、他社への切り替えを難しくする力につながる場合があります。

市場シェアと市場成長率をセットで見る

ここでも単純に考えてはいけません。市場シェア1位でも、市場そのものが縮小している可能性があります。A社が市場シェア60%でも市場全体が毎年10%縮小していて、B社が市場シェア10%でも市場全体が毎年30%成長している場合、A社は現在圧倒的なトップでも、その市場自体が将来小さくなるかもしれません。

したがって企業分析では、市場シェアだけではなく市場成長率も必ずセットで見ます。市場Aが市場成長率+20%でA社シェア30%、市場Bが市場成長率-5%でB社シェア60%だとすると、どちらの企業が魅力的かはシェアだけでは決まりません。市場Aで30%のシェアを維持できれば、市場そのものの拡大によって大きく成長する可能性があります。

大切なのは順位より方向

企業分析でさらに重要なのは、現在のシェアより、シェアが上がっているか下がっているかです。2023年15%、2024年18%、2025年22%、2026年27%なら、継続的に競争力を高めている可能性があります。逆に40%から35%、30%、25%と下がっているなら、まだ市場上位であっても注意が必要です。大切なのは順位より方向です。

シェアが上昇したら、次に理由を探します。新製品、性能向上、価格、競合企業の供給不足、海外進出、販売網拡大、保険適用、臨床データなどが考えられます。ここでも、シェア上昇という結果から「なぜ?」へ進むことが企業分析の基本です。

ただし、一時的なシェア上昇には注意が必要です。競合メーカーの工場で問題が発生し、一時的に製品供給が止まってA社へ注文が集中し、シェアが20%から35%へ上昇したとします。しかし競合の供給が回復すれば、シェアが元に戻る可能性があります。つまり、シェア上昇が構造的なのか一時的なのかを見る必要があります。

製薬企業の市場シェア

製薬企業でも市場シェアは重要です。ある疾患で3種類の薬が使用されているとして、A薬50%、B薬30%、C薬20%だったとします。A薬がトップですが、新薬Dが登場し、A薬40%、B薬25%、C薬15%、D薬20%になったらどうでしょうか。A薬はまだトップですが、10ポイントもシェアを失っています。売上額だけでなく、この変化を見ることが重要です。

製薬企業では単純な市場シェアだけでなく、どの患者に使われているかも重要になる場合があります。第一選択治療、第二選択治療、難治例などです。患者数全体ではシェア20%でも、重要な第一選択治療でシェア60%を持っている薬なら、その意味は大きく異なります。したがって医療では、シェアの数字だけでなく、どこで使われているのかも確認します。

台数シェアと、売上シェア・利益シェア

医療機器では売上金額だけでなく、設置台数で市場シェアを見ることがあります。検査装置市場で、A社が国内設置台数5,000台、B社が3,000台、C社が2,000台なら、単純化するとA社の台数シェアは50%です。そして第10講で学んだように、装置を設置した後に専用試薬が売れるモデルなら、設置シェアが将来の消耗品売上につながる可能性があります。

売上シェアと利益シェアは違う、という点も重要です。市場全体の売上が1,000億円、A社売上300億円で市場シェア30%だとしても、A社が高利益率製品を販売しており、業界全体の利益の50%を稼いでいるとしたらどうでしょうか。単なる売上シェア以上に強い企業かもしれません。企業分析では、量を取っているのか、利益を取っているのかという違いも考えます。

シェア拡大と利益率

市場シェアだけ追えば、価格を大きく下げて販売量を増やす方法もあります。シェア20%から30%へ上昇すれば一見競争力が上がったように見えますが、営業利益率が15%から5%になっていたらどうでしょうか。シェアは増えたものの、利益を犠牲にしています。したがって、シェア拡大+利益率をセットで見ます。

Cメディカルはシェア20%から30%、営業利益率15%から6%。Dメディカルはシェア20%から25%、営業利益率15%から17%。シェア上昇幅はC社が大きいですが、価格競争によって利益率が大きく低下している可能性があります。D社はシェアを伸ばしながら利益率も改善しています。この場合、D社の方が質の高いシェア拡大をしている可能性があります。

誰からシェアを奪っているのか

市場シェアを分析するときには、誰からシェアを奪っているのかも重要です。A社が30%から35%、B社が30%から20%、C社が20%から25%、その他20%だったとします。A社だけではなくC社も伸びており、B社が大きく落ちています。ここから、B社に何が起きたのか、A社・C社の何が評価されたのかを調べます。企業を一社だけ見ていては、競争の姿は分かりません。

医療企業を分析するときには、簡単な競合比較を作ると理解しやすくなります。例えばA社は市場シェア35%、シェア変化+5ポイント、売上成長率+15%、主な強みは高性能。B社は市場シェア25%、シェア変化-5ポイント、売上成長率-3%、主な強みはブランド。C社は市場シェア20%、シェア変化+3ポイント、売上成長率+20%、主な強みは価格競争力。このように整理すると、業界の中で誰が勝ち、誰が負けているのかが見えやすくなります。

市場シェアの情報源と「No.1」の読み方

市場シェアは、決算短信に必ず書かれているわけではありません。情報源には、企業の決算説明資料、統合報告書、中期経営計画、業界団体、調査会社、官公庁統計、競合企業のIR資料などがあります。重要なのは、一つの企業だけの発表で決めつけないことです。可能なら複数の情報源を照合します。

企業資料には「世界シェアNo.1」「国内シェアトップ」と書かれていることがあります。魅力的な表現ですが、どの市場でNo.1なのか、対象地域はどこか、売上金額なのか台数なのか、どの期間なのか、市場の定義は何かを確認します。細かく市場を区切れば「世界トップ」と表現できる場合もあります。したがって、No.1という言葉より、市場の定義を見ることが重要です。

ケーススタディ──Eメディカルの世界シェア40%

架空のEメディカルがあります。新型内視鏡で世界シェア40%、非常に強い企業に見えます。さらに調べると、市場規模5,000億円、市場成長率年間8%、E社売上成長率年間15%、営業利益率18%から20%でした。市場より速く成長し、シェアが高く、利益率も改善しています。

かなり強い状態に見えますが、ここで終わりでしょうか。JMEI式ではさらに考えます。なぜ40%もシェアを取れるのか。特許か、ブランドか、医師が使いやすいのか、販売網か、消耗品モデルか、競合は追いつけないのか、その40%を5年後も維持できるのか。ここから次回学ぶ、競争優位性につながっていきます。

市場シェアを見るときに確認する8つのこと

医療企業のシェアを分析するときには、市場全体の規模はいくらか、市場は何%成長しているか、自社シェアは何%か、シェアは上昇しているか低下しているか、自社成長率は市場成長率を上回っているか、シェア変化の理由は何か、シェア拡大と利益率を両立しているか、そのシェアを将来も維持できる理由があるか、という8つを確認します。そして最後に、「この会社は市場の成長に乗っているだけなのか。それとも競合から顧客を奪っているのか?」を考えます。

今日のチェックテスト

Q1 市場規模1,000億円、自社売上250億円です。市場シェアは何%でしょうか。(A.10% B.20% C.25% D.40%)

【答え】C.25%。250億円÷1,000億円×100=25%です。

Q2 自社売上が20%増えましたが、市場全体は30%成長しました。必ず競争力が高まったと考えてよいでしょうか。

【答え】いいえ。市場より成長率が低いため、市場シェアが低下している可能性があります。

Q3 市場全体の成長率は3%、自社売上成長率は15%でした。どのような可能性がありますか。

【答え】市場全体を大きく上回る成長なので、競合企業からシェアを獲得している可能性があります。

Q4 シェアが20%から30%へ上昇しましたが、営業利益率は15%から5%へ低下しました。何に注意すべきでしょうか。

【答え】値下げなどによって、収益性を犠牲にして市場シェアを獲得していないか確認する必要があります。

Q5 企業が「世界シェアNo.1」と発表しています。何を確認するとよいでしょうか。

【答え】対象市場の定義、地域、期間、売上金額か台数かなど、No.1の前提条件を確認します。

Q6 市場シェアが50%ある企業なら、将来も必ず強いでしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。市場縮小、新技術、競合製品、特許切れなどによって、シェアや市場そのものが変化する可能性があります。

本講座に関するご注意

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