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医療企業分析アカデミー

第64講 新規参入の脅威とは何か?――医療市場の参入障壁は企業の競争優位をどこまで守るのか

JMEI 医療企業分析アカデミー 第64講 医療市場の参入障壁は企業の競争優位をどこまで守るのか

はじめに

こんにちは。日本医療企業研究所(JMEI)です。

前回の第63講では、「代替品の脅威」について学びました。

新しい医療技術が登場すると、既存企業の製品やサービスが別の技術に置き換えられる可能性があります。

その結果、現在は高い市場シェアを持っている企業でも、将来の売上高や利益が減少する場合があります。

今回は、もう一つの重要な競争要因を考えます。

それは、「この市場に、新しい競合企業が参入してきたらどうなるのか」という問題です。

例えば、ある医療機器市場に3社しか存在しなかったとします。

3社は長年にわたり、安定した売上高と高い営業利益率を維持してきました。

ところが、新しい企業が市場へ参入しました。

既存製品より20%安い価格で、同等の用途を持つ医療機器を販売し始めたのです。

病院が新しい企業の製品を採用すれば、既存企業の売上高は減少する可能性があります。

また、既存企業が価格を引き下げれば、営業利益率が低下するかもしれません。

しかし、医療産業では、新しい企業が簡単に参入できるとは限りません。

医療機器の開発には、専門技術が必要です。

製品によっては、必要な規制上の承認・認証などを取得しなければなりません。

製造販売後の安全管理や品質管理も重要です。

さらに、医療機関との信頼関係や販売網、保守体制を構築する必要があります。

こうした要因が、新しい企業の参入を難しくしています。

ここで重要になるのが、新規参入の脅威(Threat of New Entrants)という概念です。

今回は、医療企業の競争優位を守る参入障壁について学びます。

医療機器、製薬、医療DXを例に、新規参入が企業の売上高、利益率、研究開発戦略、企業価値へどのような影響を与えるのかを考えていきましょう。

新規参入の脅威とは何か

新規参入の脅威は、経営学者マイケル・ポーターが提唱した「ファイブフォース分析」の5つの競争要因の一つです。

新規参入の脅威とは、新しい企業が市場へ参入することによって、既存企業の収益性が低下する可能性を意味します。

例えば、ある医療機器市場に3社が存在しているとします。

市場規模は年間1,000億円です。

3社が安定した市場シェアを維持し、平均20%の営業利益率を確保していると仮定します。

この市場へ新しい企業が参入した場合、何が起こるでしょうか。

新規参入企業は、顧客を獲得するために価格を引き下げるかもしれません。

新しい技術やサービスを提供するかもしれません。販売促進活動を強化する可能性もあります。既存企業は、それに対抗する必要があります。

その結果、販売価格の低下や販売費用の増加によって、利益率が低下する場合があります。

重要なのは、新しい企業が実際に参入していなくても、参入する可能性があるだけで既存企業の行動に影響する場合があることです。

例えば、既存企業が価格を大幅に引き上げれば、新しい企業にとって市場参入の魅力が高まるかもしれません。

そのため、既存企業は潜在的な参入企業を意識して価格を設定する場合があります。

つまり、新規参入の脅威は、現在の競争だけでなく、将来の競争可能性を考える概念なのです。

参入障壁とは何か

新規参入の脅威を理解するために重要なのが、参入障壁(Barriers to Entry)です。

参入障壁とは、新しい企業が市場へ参入することを難しくする要因です。

例えば、ある医療機器を製造するために100億円の設備投資が必要だったとします。

さらに、製品開発や品質管理体制の整備にも多額の費用が必要です。

新しい企業は、製品を販売する前に大きな投資を行わなければなりません。

しかも、その投資が回収できるとは限りません。

このような市場では、新規参入が難しくなる可能性があります。

一方、少ない初期投資で製品やサービスを提供できる市場では、新しい企業が参入しやすい場合があります。

ただし、初期投資が少ないことだけで参入障壁が低いとは判断できません。

顧客獲得費用や規制対応、技術的な難しさなども考慮する必要があります。

企業分析では、参入障壁が存在するかどうかだけでなく、その障壁がどの程度強く、長期間維持されるのかを考えることが重要です。

参入障壁を形成する7つの要因

参入障壁には、さまざまな種類があります。

医療企業を分析するときには、次の7つの要因を確認すると理解しやすくなります。

1つ目は、「規模の経済」です。生産数量が増えることで、製品1個当たりの費用が低下する効果です。既存企業が大量生産によって低い製造原価を実現している場合、新規参入企業は価格競争で不利になる可能性があります。

2つ目は、「ブランドと信頼」です。医療機関が長年使用している製品には、一定の信頼が形成されている場合があります。新しい企業は、製品の品質や安全性を顧客に理解してもらう必要があります。

3つ目は、「初期投資」です。研究開発、製造設備、品質管理体制などに必要な資金です。必要な初期投資が大きいほど、新規参入が難しくなる可能性があります。

4つ目は、「スイッチングコスト」です。顧客が既存製品から新しい製品へ変更するときに必要な費用や負担です。例えば、医療従事者の研修やシステム移行などが該当します。

5つ目は、「販売網と顧客接点」です。既存企業が医療機関との販売網や保守サービス体制を構築している場合、新規参入企業は同様の体制を整える必要があります。

6つ目は、「規制や制度への対応」です。医療機器や医薬品では、製品に応じて必要な規制上の手続きや品質管理が求められます。これらに対応するためには、専門知識や費用、時間が必要です。

7つ目は、「独自技術や知的財産」です。特許、製造ノウハウ、独自技術などが、競合企業による模倣を難しくする場合があります。ただし、特許が存在することだけで、競争優位が長期間維持されるとは限りません。

重要なのは、これらの要因を組み合わせて評価することです。

規模の経済はなぜ参入障壁になるのか

最初に、規模の経済を考えましょう。

例えば、ある医療機器メーカーが年間10万個の製品を製造しているとします。

年間固定費は20億円です。

製品1個当たりの変動費は2万円です。

この場合、固定費を製造数量で割ると、20億円÷10万個=2万円となります。

製品1個当たりの総製造原価は、固定費配賦額2万円+変動費2万円=4万円です。

一方、新規参入企業が年間1万個しか製造できない場合を考えます。

年間固定費が5億円、変動費が同じ2万円だったとします。

固定費配賦額は、5億円÷1万個=5万円です。

製品1個当たりの総製造原価は、5万円+2万円=7万円となります。

比較してみましょう。

既存企業は、年間製造数量が10万個、年間固定費が20億円、1個当たり固定費が2万円、1個当たり変動費が2万円で、1個当たり総製造原価は4万円です。新規参入企業は、年間製造数量が1万個、年間固定費が5億円、1個当たり固定費が5万円、1個当たり変動費が2万円で、1個当たり総製造原価は7万円です。

このケースでは、新規参入企業の製造原価は既存企業より高くなっています。

同じ価格で販売すれば、新規参入企業の利益率は低くなる可能性があります。

このように、大量生産による費用面の優位性は、参入障壁になる場合があります。

ただし、新規参入企業が新しい製造技術を利用したり、外部企業へ製造を委託したりすることで、この差を縮小できる可能性もあります。

したがって、規模の経済による参入障壁が将来も維持されるかどうかを考える必要があります。

医療機器産業における参入障壁

医療機器産業では、製品の種類によって参入障壁が大きく異なります。

例えば、比較的単純な構造の医療材料と、高度な画像診断装置では、必要な技術や設備が異なります。

高度な医療機器では、次のような要素が重要になる場合があります。

精密な製造技術、電子制御技術、画像処理技術、品質管理、必要な規制上の手続き、医療機関への販売体制、修理・保守サービスなどです。

これらを新規参入企業が短期間で整備することは、簡単ではない場合があります。

特に、製品販売後の保守体制は重要です。

例えば、病院が高額な診断装置を購入したとします。

購入価格だけでなく、故障時の修理対応や定期点検、交換部品の供給なども重要になります。

新規参入企業が低価格の装置を販売していても、保守体制が不十分であれば、病院が導入をためらう可能性があります。

つまり、医療機器産業では、製品そのものの性能だけでなく、販売後のサービス体制も参入障壁になる場合があります。

ケーススタディ1 新規参入企業は価格を下げれば勝てるのか

架空の医療機器市場を考えます。

既存企業A社は、年間1,000台の医療機器を販売しています。

販売価格は1台500万円です。1台当たりの変動費は300万円。年間固定費は10億円です。

売上高は、1,000台×500万円=50億円。

変動費は、1,000台×300万円=30億円。

営業利益は、50億円-30億円-10億円=10億円です。

営業利益率は20%です。

ここで、新規参入企業B社が、同等の用途を持つ製品を1台400万円で販売し始めました。

A社より20%安い価格です。

B社の製品が必要な品質・性能条件を満たし、病院が導入できるものと仮定します。

A社は対抗策として、販売価格を450万円へ引き下げました。

販売数量が1,000台のままで、変動費と固定費が変わらない場合、売上高は、1,000台×450万円=45億円となります。

営業利益は、45億円-30億円-10億円=5億円です。

営業利益率は、5億円÷45億円×100=約11.1%となります。

比較してみましょう。

値下げ前は、販売価格が500万円、販売数量が1,000台、売上高が50億円、営業利益が10億円で、営業利益率は20.0%です。値下げ後は、販売価格が450万円、販売数量は1,000台のまま、売上高が45億円、営業利益が5億円で、営業利益率は約11.1%になります。

販売価格は10%下がっただけです。しかし、営業利益は50%減少しました。ここから重要なことが分かります。

新規参入企業の登場は、既存企業の販売数量だけでなく、販売価格や利益率にも大きな影響を与える可能性があります。

ただし、実際には値下げによって販売数量が増減する可能性があります。

また、保守サービスや製品性能の違いによって、顧客が価格だけで判断するとは限りません。

企業分析では、価格競争が起きた場合の利益感応度を確認することが重要です。

医療機器の規制は参入障壁になるのか

医療機器では、製品のリスクや種類に応じて、必要な規制上の手続きが異なります。

日本では、医療機器のクラス分類や製品の特性などによって、届出、認証、承認などの手続きが関係します。

また、製造販売業者には、適用される品質管理や安全管理などの要求事項への対応が求められます。

こうした規制への対応には、専門知識、費用、時間が必要です。

そのため、新規参入企業にとって一定の参入障壁になる場合があります。

しかし、ここで注意すべきことがあります。

規制が厳しい市場だからといって、既存企業の競争優位が必ず守られるわけではありません。

十分な資金力や技術力を持つ企業であれば、必要な規制対応を進めて参入できる可能性があります。

また、規制への対応能力を持つ外部企業と協力する方法もあります。

さらに、既存企業も規制への継続的な対応が必要です。

したがって、規制は参入障壁の一つですが、それだけで永続的な競争優位を保証するものではありません。

製薬企業における参入障壁

製薬産業では、研究開発と規制対応が重要な参入障壁になる場合があります。

新しい医薬品を開発するためには、基礎研究、非臨床試験、臨床試験など、製品に応じた開発過程が必要になります。

さらに、必要な承認を取得し、適切な品質管理や安全性監視を行う必要があります。

こうした開発には、多額の費用と長い期間が必要になる場合があります。

また、研究開発が成功するとは限りません。

新しい医薬品の候補物質が見つかっても、期待した有効性や安全性が示されない可能性があります。

そのため、製薬産業への参入には大きな不確実性があります。

しかし、製薬企業のすべての事業が同じ参入障壁を持つわけではありません。

たとえば、新薬開発、後発医薬品、バイオ医薬品、医薬品の受託製造などがあります。

これらでは、必要な技術、設備、規制対応、資金などが異なります。

企業分析では、製薬産業全体を一つの市場として考えるのではなく、どの事業領域へ参入するのかを明確にする必要があります。

特許はどこまで企業を守るのか

製薬企業では、特許が重要な競争要因になる場合があります。

例えば、ある企業が新しい医薬品を開発し、関連する特許を保有しているとします。

有効な特許によって、一定の範囲で他社の実施を制限できる場合があります。

これにより、競争上の優位性が生まれる可能性があります。

しかし、特許による保護には限界があります。

特許には存続期間があります。

また、他社が異なる技術や作用機序を利用して、同じ疾患に対する治療薬を開発する可能性もあります。

さらに、特許の有効性や権利範囲をめぐる問題が生じる場合があります。

したがって、特許を持っていることだけで、長期的な競争優位が保証されるわけではありません。

企業分析では、特許がどの技術を保護しているのか、権利の存続期間はどれくらいか、競合企業が別の技術で参入できるか、特許以外の競争優位が存在するか、を確認する必要があります。

医療DX市場では参入障壁が低いのか

次に、医療DX市場を考えましょう。

医療DX企業は、電子カルテ、医療情報システム、診療支援ソフトウェア、医療AIなどを提供しています。

ソフトウェア事業では、製造工場を必要としない場合があります。

また、クラウドサービスを利用することで、自社で大規模な計算設備を保有せずにサービスを提供できる場合があります。

そのため、製造設備への初期投資という点では、医療機器メーカーより参入しやすい事業も存在します。

しかし、医療DX市場には別の参入障壁があります。たとえば、医療情報の安全管理、既存システムとの連携、医療機関の業務への適合、導入時のデータ移行、医療従事者への教育、導入後のサポートといった要素です。

また、ソフトウェアであっても、用途や機能によっては医療機器プログラムとして規制対象になる場合があります。

つまり、医療DX市場では、製造設備への投資が少なくても、顧客との信頼関係やシステム運用能力が参入障壁になる場合があります。

スイッチングコストはなぜ重要なのか

ここで、スイッチングコストを詳しく考えましょう。

スイッチングコストとは、顧客が現在利用している製品やサービスから、別の製品やサービスへ変更する際に発生する費用や負担です。

例えば、病院が電子カルテシステムを変更する場合です。

新しいシステムの購入費用だけでなく、さまざまな対応が必要になる可能性があります。

たとえば、既存データの移行、他の医療情報システムとの連携、職員への操作研修、業務手順の変更、移行期間中の運用管理などが必要です。

こうした費用や負担が大きければ、病院は新しいシステムへ変更することに慎重になる可能性があります。

そのため、既存の電子カルテ企業は、一定の顧客維持力を持つ場合があります。

ただし、スイッチングコストが高いことは、必ずしも顧客満足度が高いことを意味しません。

顧客が変更したくても変更しにくい場合もあるからです。

長期的な競争優位を評価するときには、スイッチングコストだけでなく、製品の品質や顧客満足度も確認する必要があります。

ケーススタディ2 電子カルテ市場への新規参入

架空の医療DX企業、Medical Cloud A社を考えます。

A社は、病院向けの電子カルテシステムを提供しています。

年間契約収入は100億円です。営業利益率は20%です。営業利益は20億円となります。ここで、新規参入企業B社が登場しました。

B社は、A社より30%安い利用料金で新しいシステムを提供しています。

ただし、既存の病院がB社へ変更するには、データ移行や職員研修などの費用が必要です。

そのため、すべての病院がすぐにB社へ変更するとは限りません。

仮に、A社の顧客の10%がB社へ移行したとします。

顧客ごとの契約収入が同じで、その他の条件が変わらないと仮定すると、A社の年間契約収入は、100億円×90%=90億円となります。

ここで、失われた売上高に対応する変動費が2億円減少し、その他の費用は変わらないとします。

もともとの費用総額は80億円です。

移行後の費用総額は78億円です。

したがって、営業利益は、90億円-78億円=12億円となります。

営業利益率は、12億円÷90億円×100=約13.3%です。

参入前は、年間契約収入が100億円、費用総額が80億円、営業利益が20億円で、営業利益率は20.0%です。参入後は、年間契約収入が90億円、費用総額が78億円、営業利益が12億円で、営業利益率は約13.3%になります。

このケースでは、売上高が10%減少した結果、営業利益は40%減少しました。

ただし、実際の影響は契約形態や費用構造によって異なります。

また、顧客維持のために追加の開発費や営業費用が発生する可能性もあります。

重要なのは、既存顧客が簡単に変更できない市場でも、新規参入の脅威が完全になくなるわけではないということです。

既存企業の顧客基盤は参入障壁になるのか

既存企業が多くの顧客を持っている場合、その顧客基盤が競争優位につながることがあります。

例えば、医療機器メーカーが全国の病院へ製品を販売している場合です。

すでに販売担当者や保守サービスの拠点を持っていれば、新製品を販売するときにも既存の販売網を活用できる可能性があります。

また、医療機関との長期的な取引関係によって、製品の改良に必要な意見を得やすい場合もあります。

しかし、顧客数が多いことだけで参入障壁が高いとは判断できません。

新しい企業が、異なる販売方法や低価格のサービスによって顧客を獲得する可能性もあります。

したがって、企業分析では、顧客基盤の大きさだけでなく、その顧客基盤がどのような経済的価値を持つのかを考える必要があります。

ネットワーク効果とは何か

医療DX企業では、ネットワーク効果が重要になる場合があります。

ネットワーク効果とは、製品やサービスの利用者が増えることで、その製品やサービスの価値が高まる現象です。

例えば、医療機関同士が情報を共有するためのプラットフォームを考えます。

利用する医療機関が増えることで、情報連携の相手が増え、サービスの利便性が高まる場合があります。

その結果、新しい医療機関も参加しやすくなる可能性があります。

ただし、利用者が増えるだけで必ずネットワーク効果が生まれるわけではありません。

情報の相互運用性や参加者間の実際の連携が重要です。

また、医療情報には個人情報保護や安全管理などの制約があります。

したがって、医療DX企業を分析するときには、単純な利用者数だけでなく、利用者が増えることによってサービスの価値がどの程度高まるのかを確認する必要があります。

新規参入企業は既存企業より不利なのか

ここまで、既存企業を守る参入障壁について学んできました。

しかし、新規参入企業が必ず不利とは限りません。

新しい企業には、既存企業とは異なる強みがある場合があります。

例えば、既存企業が長年使用してきた製造設備やシステムを持っているとします。

その設備やシステムは、現在の事業には適しているかもしれません。

しかし、新しい技術へ変更する場合、大きな費用が必要になる可能性があります。

一方、新規参入企業は、最初から新しい技術を前提に事業を設計できる場合があります。

また、既存企業が対応していない顧客層へ製品を提供することもできます。

つまり、新規参入企業は、既存企業と同じ方法で競争する必要はありません。

たとえば、異なる技術、異なる費用構造、異なる販売方法、異なる顧客層などです。

こうした要素によって、参入障壁の一部を回避できる可能性があります。

参入障壁は時間とともに変化する

ここで重要なことがあります。

それは、参入障壁は固定されたものではないということです。

例えば、ある医療機器の製造に高度な技術が必要だったとします。

そのため、長年にわたり少数の企業しか製造できませんでした。

しかし、製造技術が進歩し、必要な部品を外部から調達できるようになれば、新しい企業が参入しやすくなる可能性があります。

また、ソフトウェア開発でも、開発基盤の進歩によって、新しい企業がサービスを提供しやすくなる場合があります。

一方、品質管理や規制対応などの要求が高度化すれば、参入障壁が高まる可能性もあります。

したがって、企業分析では、現在の参入障壁だけでなく、将来の参入障壁がどのように変化するのかを考える必要があります。

ケーススタディ3 参入障壁が低下したらどうなるか

架空の医療機器市場を考えます。

市場規模は年間500億円です。

既存企業A社は、この市場で60%のシェアを持っています。

A社の売上高は、500億円×60%=300億円です。

この市場では、以前は特殊な製造設備が必要だったため、新規参入が難しい状況でした。

しかし、製造技術が進歩し、外部の専門メーカーへ製造を委託できるようになりました。

その結果、新しい企業が参入しやすくなったとします。

5年後、A社の市場シェアが40%へ低下したと仮定します。

市場規模が500億円のままであれば、A社の売上高は、500億円×40%=200億円です。

売上高は300億円から200億円へ減少します。減少額は100億円です。しかし、市場全体が成長する場合も考えられます。

仮に市場規模が700億円へ拡大した場合、A社の売上高は、700億円×40%=280億円となります。

市場シェアは60%から40%へ低下しています。しかし、売上高の減少は20億円にとどまります。このケースから重要なことが分かります。

新規参入による影響は、市場シェアの変化だけでは判断できません。

市場全体の成長率も考慮する必要があります。

新規参入の脅威とTAM

ここで、これまで学んだTAMとの関係を考えましょう。

TAMとは、Total Addressable Marketの略で、一定の前提条件のもとで、製品やサービスが対象とする市場全体の規模を示す考え方です。

新規参入企業が増える市場では、TAMが拡大している場合があります。

例えば、従来は大規模病院向けだった医療システムが、小規模医療機関でも利用できるようになった場合です。

新しい企業が低価格のサービスを提供することで、これまで導入できなかった医療機関が利用を始める可能性があります。

その結果、市場全体が拡大する場合があります。

一方、市場規模がほとんど成長していない場合、新規参入企業は既存企業から顧客を奪う必要があります。

この場合、価格競争が激しくなる可能性があります。

したがって、新規参入の脅威を分析するときには、市場規模、市場成長率、新規参入企業数、既存企業の市場シェアを組み合わせて考える必要があります。

新規参入の脅威と利益率

参入障壁が低い市場では、新しい企業が参入しやすくなります。

その結果、価格競争が激しくなり、既存企業の利益率が低下する可能性があります。

一方、参入障壁が高い市場では、新しい企業が参入しにくいため、既存企業が比較的高い利益率を維持できる場合があります。

ただし、参入障壁が高ければ必ず利益率が高いわけではありません。

顧客の交渉力が強い場合もあります。原材料価格が高い場合もあります。既存企業同士の競争が激しい場合もあります。

したがって、参入障壁は利益率を決める要因の一つにすぎません。

企業分析では、ファイブフォースの他の競争要因と組み合わせて評価する必要があります。

参入障壁とROIC

新規参入の脅威は、企業のROICにも関係します。

ROICは、投下資本に対してどれくらいの税引後営業利益を生み出しているかを示す指標です。

基本的には、ROIC=税引後営業利益(NOPAT)÷投下資本×100で計算します。

参入障壁が高い市場では、既存企業が競争優位を維持し、安定した利益を生み出せる可能性があります。

その結果、高いROICを維持できる場合があります。

しかし、新規参入企業が増えれば、販売価格の低下や販売費用の増加によって利益が減少する可能性があります。

さらに、競争力を維持するために追加の研究開発投資や設備投資が必要になる場合があります。

この場合、利益が減少する一方で投下資本が増加し、ROICが低下する可能性があります。

つまり、新規参入の脅威は、利益率だけでなく、資本効率にも影響するのです。

ケーススタディ4 新規参入によってROICはどう変わるか

架空の医療機器メーカー、Medical Technology C社を考えます。

C社の年間税引後営業利益は80億円です。

投下資本は400億円です。

ROICは、80億円÷400億円×100=20%です。

ここで、新規参入企業が増え、価格競争が激しくなったとします。

その結果、C社の税引後営業利益は60億円へ減少しました。

さらに、競争力を維持するために設備投資などを行い、投下資本が500億円へ増加したと仮定します。

この場合、ROICは、60億円÷500億円×100=12%となります。

新規参入前は、税引後営業利益が80億円、投下資本が400億円で、ROICは20%です。新規参入後は、税引後営業利益が60億円、投下資本が500億円で、ROICは12%です。

ROICは20%から12%へ低下しました。

ここで重要なのは、売上高が減少しなくても、価格競争や追加投資によってROICが低下する可能性があることです。

企業分析では、売上高だけでなく、利益率と投下資本の変化を確認する必要があります。

参入障壁と経済的な堀

ここで、企業分析でよく使われる概念を紹介します。

それは、Economic Moat(経済的な堀)です。

経済的な堀とは、企業が競合企業から競争優位を守り、長期的に高い収益性を維持するための構造的な強みを表す考え方です。

例えば、独自技術、強いブランド、スイッチングコスト、ネットワーク効果、規模の経済による費用優位性などは、企業の経済的な堀になる場合があります。

ただし、参入障壁と経済的な堀は完全に同じ概念ではありません。

参入障壁は、主に新しい企業が市場へ参入することの難しさを示します。

一方、経済的な堀は、新規参入だけでなく、既存企業との競争も含めて、企業が競争優位を維持できる理由を考える概念です。

したがって、参入障壁が高い市場でも、既存企業同士の競争が激しければ、個々の企業が高い収益性を維持できるとは限りません。

参入障壁が高い企業は必ず優良企業なのか

ここで重要な問いを考えましょう。

参入障壁が高い市場に存在する企業は、必ず優良企業なのでしょうか。

答えは、必ずしもそうではありません。

例えば、ある医療機器市場では、新規参入が非常に難しいとします。

しかし、市場全体が縮小している場合はどうでしょうか。

新しい企業が参入しなくても、既存企業の売上高は減少する可能性があります。

また、医療機関の購買力が強ければ、販売価格を引き上げにくい場合があります。

さらに、既存企業が過大な設備投資を行っていれば、資本効率が低下する可能性があります。

つまり、参入障壁が高いことは競争優位の一つの条件ですが、それだけで企業価値が高いとは判断できません。

JMEIでは、参入障壁を評価するとき、次の3つを組み合わせて考えます。

参入障壁の強さ、市場の成長性、企業の資本効率の3つです。

この3つを組み合わせることで、長期的な競争力をより正確に評価できます。

既存企業は新規参入へどう対応するのか

新規参入企業が登場した場合、既存企業にはいくつかの対応方法があります。

第一に、製品の性能や品質を改善する方法です。

第二に、価格やサービス内容を見直す方法です。

第三に、販売網や保守サービスを強化する方法です。

第四に、新しい技術へ研究開発投資を行う方法です。

第五に、新しい企業と提携したり、M&Aによって技術や事業を獲得したりする方法です。

ただし、どの対応が適切かは市場環境によって異なります。

例えば、価格競争に対抗するために大幅な値下げを行えば、利益率が低下する可能性があります。

一方、製品性能やサービス品質を改善するためには、追加費用が必要になる場合があります。

また、M&Aには買収価格や統合費用などの問題があります。

したがって、新規参入への対応では、短期的な市場シェアだけでなく、長期的な利益と資本効率を考える必要があります。

新規参入企業を買収すべきか

医療企業では、新しい技術を持つ企業を買収する場合があります。

例えば、ある医療機器メーカーが、革新的な診断技術を持つスタートアップ企業を買収するとします。

買収によって、新しい技術や研究開発人材を獲得できる可能性があります。

また、既存企業の販売網を利用することで、新しい製品の普及を促進できる場合があります。

しかし、買収にはリスクがあります。買収価格が高すぎる可能性があります。技術開発が期待どおりに進まない可能性があります。

企業文化の違いによって統合が難しくなる場合もあります。

さらに、買収によって競争が制限される場合には、競争法上の問題が生じる可能性もあります。

したがって、M&Aを評価するときには、買収によって獲得できる技術や市場だけでなく、買収価格と将来のキャッシュフローを比較する必要があります。

医療企業の参入障壁を決算資料からどう読み取るか

実際の企業分析では、決算資料や有価証券報告書などを確認します。

ただし、参入障壁の強さを直接示す単一の財務指標はありません。

そのため、複数の情報を組み合わせる必要があります。

1つ目は、「営業利益率」です。高い営業利益率が長期間維持されている場合、何らかの競争優位が存在する可能性があります。ただし、利益率だけで参入障壁の強さを判断することはできません。

2つ目は、「ROIC」です。高いROICを長期間維持している場合、投下資本に対して高い利益を生み出していることが分かります。ただし、ROICの計算方法や事業構造を確認する必要があります。

3つ目は、「研究開発費」です。技術的な競争優位を維持するために、どの程度の研究開発投資を行っているかを確認します。

4つ目は、「設備投資」です。製造設備や研究開発設備などへの投資状況を確認します。

5つ目は、「顧客基盤」です。主要顧客との関係や継続的な取引状況を確認します。

6つ目は、「事業等のリスク」です。新規参入企業や技術革新について、企業がどのようなリスクを認識しているかを確認します。

7つ目は、「経営戦略」です。企業がどのように競争優位を維持しようとしているかを確認します。

これらの情報を組み合わせることで、参入障壁の強さと持続性を分析することができます。

JMEI式「新規参入の脅威分析の15の質問」

医療企業を分析するときには、次の15項目を確認してみましょう。

1つ目は、「この企業が事業を行っている市場には、何社の競合企業が存在するか」という問いです。

2つ目は、「新しい企業が参入するために、どのような技術が必要か」という問いです。

3つ目は、「参入に必要な初期投資はどの程度か」という問いです。

4つ目は、「規模の経済による費用優位性は存在するか」という問いです。

5つ目は、「必要な規制上の手続きや品質管理体制は何か」という問いです。

6つ目は、「既存企業は独自技術や特許を持っているか」という問いです。

7つ目は、「医療機関との長期的な信頼関係は競争優位になっているか」という問いです。

8つ目は、「顧客が他社製品へ変更する際のスイッチングコストは高いか」という問いです。

9つ目は、「既存企業は強い販売網や保守サービス体制を持っているか」という問いです。

10個目は、「新規参入企業は、異なる技術や事業モデルで参入障壁を回避できるか」という問いです。

11個目は、「市場の成長率はどの程度か」という問いです。

12個目は、「新規参入によって価格競争が激しくなる可能性はあるか」という問いです。

13個目は、「既存企業は新規参入に対抗するために、どの程度の追加投資が必要か」という問いです。

14個目は、「新規参入によって営業利益率やROICがどの程度変化する可能性があるか」という問いです。

15個目は、「現在の参入障壁は、5年後、10年後も維持される可能性があるか」という問いです。

この15項目を確認することで、現在の市場構造だけでなく、将来の競争環境を考えることができます。

練習問題

問題1

新規参入の脅威とは何でしょうか。

【答え】新しい企業が市場へ参入することによって、既存企業の売上高や利益率などが影響を受ける可能性です。

問題2

参入障壁とは何でしょうか。

【答え】新しい企業が市場へ参入することを難しくする要因です。例えば、初期投資、独自技術、規制対応、販売網などがあります。

問題3

規模の経済とは何でしょうか。

【答え】生産数量が増えることで、製品1個当たりの費用が低下する効果です。

問題4

ある医療機器メーカーの年間固定費は12億円です。年間製造数量は6万個です。製品1個当たりの固定費配賦額はいくらでしょうか。

【答え】2万円です。12億円÷6万個=2万円。

問題5

ある医療機器メーカーの年間売上高は200億円、営業利益は40億円です。

営業利益率はいくらでしょうか。

【答え】20%です。40億円÷200億円×100=20%。

問題6

問題5の企業が価格競争によって売上高を180億円へ減少させました。

費用総額が160億円のままだった場合、営業利益はいくらでしょうか。

【答え】20億円です。180億円-160億円=20億円。

問題7

スイッチングコストとは何でしょうか。

【答え】顧客が現在利用している製品やサービスから、別の製品やサービスへ変更する際に必要となる費用や負担です。

問題8

医療DX企業で参入障壁となる可能性がある要因を3つ挙げてください。

【答え】例えば、次の3つです。医療情報の安全管理。既存システムとの連携。医療機関での導入・運用支援体制。

問題9

ある医療企業の税引後営業利益は60億円、投下資本は300億円です。

ROICはいくらでしょうか。

【答え】20%です。60億円÷300億円×100=20%。

問題10

参入障壁が高い市場では、必ず企業の利益率が高くなるでしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。既存企業同士の競争、顧客の交渉力、原材料価格、市場成長率なども利益率に影響するためです。

問題11

経済的な堀とは何でしょうか。

【答え】企業が競合企業から競争優位を守り、長期的に高い収益性を維持するための構造的な強みを表す考え方です。

問題12

新規参入の脅威を分析するとき、最も重要なことは何でしょうか。

【答え】新しい企業が市場へ参入できる可能性と、その参入によって既存企業の売上高、利益率、資本効率がどのように変化するかを考えることです。さらに、現在の参入障壁が将来も維持されるかどうかを評価することが重要です。

JMEIの視点

JMEIでは、新規参入の脅威を医療企業の長期的な競争優位を理解するための重要な要素として位置づけています。

しかし、医療産業の参入障壁を分析するときには、単純に規制が厳しいかどうかだけで判断してはいけません。

医療企業の競争優位は、複数の要素によって形成されているからです。

例えば、ある医療機器メーカーが高い市場シェアを持っているとします。

その理由は何でしょうか。高度な製造技術でしょうか。医療機関との信頼関係でしょうか。強い販売網でしょうか。保守サービスでしょうか。独自技術でしょうか。これらの要素を分けて考える必要があります。

JMEIでは、新規参入の脅威を次の4つの視点から分析します。

第一の視点:技術的な参入障壁

新しい企業が、既存企業と同等の製品やサービスを開発できるかを確認します。

技術的な難しさや研究開発費、特許などが重要になります。

第二の視点:制度的な参入障壁

必要な規制上の手続きや品質管理体制、医療制度への対応などを確認します。

ただし、制度への対応が難しいことと、競争優位が持続することは同じではありません。

第三の視点:顧客関係による参入障壁

医療機関との信頼関係、販売網、保守サービス、スイッチングコストなどを確認します。

これらは、既存企業の顧客維持力に関係する場合があります。

第四の視点:経済的な参入障壁

規模の経済、費用構造、初期投資、利益率、ROICなどを確認します。

新規参入企業が、既存企業と同じ価格で製品を提供しながら十分な利益を確保できるかを考えます。

この4つを組み合わせることで、参入障壁の強さをより深く理解できます。

さらに、JMEIでは、参入障壁の持続性を重視します。

現在は高度な技術が必要な市場でも、将来は技術の進歩によって参入しやすくなる可能性があります。

一方、顧客との長期的な関係や高品質な保守サービスなどは、短期間で模倣することが難しい場合があります。

つまり、参入障壁には、時間とともに弱くなるものと、比較的長期間維持されるものがあります。

企業分析では、この違いを理解することが重要です。

また、参入障壁が高い市場に存在する企業であっても、経営資源の配分を誤れば、競争優位を維持できない可能性があります。

たとえば、研究開発投資、設備投資、M&A、販売網の強化などです。

こうした経営判断によって、将来の企業価値が変化するからです。

JMEIでは、新規参入の脅威を、単に新しい企業が参入できるかどうかという問題としてではなく、既存企業がどのように競争優位を維持し、資本効率を高めているかという視点から分析します。

JMEI Medical Insight

参入障壁が高いことと、競争優位が永続することは同じではない――医療企業の本当の強さは「守られている理由」にある

医療企業の分析では、参入障壁が高い市場は魅力的だと考えられることがあります。

新しい企業が簡単に参入できなければ、既存企業は競争圧力を受けにくくなる可能性があります。

その結果、安定した利益率を維持できる場合があります。

しかし、ここで重要な問いがあります。

「その企業は、何によって競争から守られているのか」という問いです。

例えば、ある医療機器メーカーが高い営業利益率を維持しているとします。

その理由が、必要な規制上の手続きに対応できる企業が少ないことだったとします。

この場合、規制対応能力は参入障壁の一つです。

しかし、十分な資金力と専門人材を持つ企業が参入すれば、その障壁を乗り越える可能性があります。

一方、別の医療機器メーカーが、長年の研究開発によって独自技術を蓄積し、医療機関との強い信頼関係を構築しているとします。

さらに、全国的な保守サービス体制を持ち、顧客から継続的に選ばれている場合です。

この企業の競争優位は、複数の要素によって形成されています。

新規参入企業が製品を開発できたとしても、同じ販売網や保守体制を短期間で構築することは難しいかもしれません。

つまり、参入障壁の強さを評価するときには、障壁の数だけでなく、その性質を考える必要があります。

ここでJMEIが重視するのは、参入障壁の高さではなく、参入障壁が長期的な利益と資本効率へどのようにつながっているかということです。

例えば、参入障壁が高い市場で、ある企業が20%のROICを維持しているとします。

その企業が、今後も大きな追加投資を必要とせずに利益を維持できるのであれば、魅力的な事業構造を持っている可能性があります。

一方、同じ20%のROICを持つ企業でも、競争優位を維持するために毎年多額の設備投資が必要であれば、将来のフリーキャッシュフローは異なる可能性があります。

したがって、ROICの高さだけでなく、そのROICを維持するために必要な投資を考える必要があります。

さらに、医療産業では、参入障壁が高いことに社会的な意味もあります。

例えば、医薬品や医療機器では、品質や安全性を確保するために一定の規制が必要です。

その結果、新規参入が難しくなる場合があります。

しかし、規制の目的は、既存企業の利益を守ることではありません。

医療製品の品質、有効性、安全性などを確保することです。

ここを混同してはいけません。

医療企業が規制によって守られているように見える場合でも、その規制は患者や医療現場のために存在しています。

したがって、規制対応能力を持つことは重要ですが、それだけで企業の長期的な競争力が保証されるわけではありません。

また、新しい企業が参入することによって、医療の質や効率が改善する場合もあります。

例えば、新しい医療DX企業が、従来より使いやすいシステムを提供した場合です。

医療機関の業務負担が軽減される可能性があります。

また、低価格の製品が登場することで、これまで導入できなかった医療機関が新しい技術を利用できるようになる場合もあります。

つまり、新規参入は既存企業にとって脅威ですが、医療現場にとっては新しい価値を生み出す可能性があります。

この点は、医療企業分析において重要です。

JMEIでは、企業の収益性だけでなく、医療上の価値も考慮します。

しかし、医療上の価値が高いことと、企業が持続的な利益を生み出せることは別の問題です。

新しい企業が優れた医療技術を開発しても、十分な収益を確保できなければ、事業を継続することが難しくなる可能性があります。

一方、既存企業が高い利益率を維持していても、製品の改善や研究開発を怠れば、将来の競争力が低下する可能性があります。

したがって、企業分析では、医療上の価値、競争優位、収益性、資本効率という4つの要素を組み合わせて考える必要があります。

ここで、もう一つ重要な視点があります。

それは、参入障壁が技術革新によって変化するということです。

例えば、以前は高度な製造設備が必要だった製品でも、製造技術の進歩によって外部委託が可能になる場合があります。

また、ソフトウェア開発では、新しい開発基盤によって、以前より少ない資金でサービスを提供できる場合があります。

その結果、これまで参入が難しかった市場へ、新しい企業が参入できるようになる可能性があります。

つまり、現在の参入障壁が高いことだけで、将来の競争環境を判断してはいけません。

参入障壁は、技術、制度、顧客行動、市場構造の変化によって、強くなることも弱くなることもあるのです。

JMEIでは、新規参入の脅威を分析するとき、次の3つの問いを重視します。

第一に、この企業は、何によって新規参入企業から守られているのか。

第二に、その参入障壁は、将来も維持される可能性があるのか。

第三に、その参入障壁は、持続的な利益と高い資本効率につながっているのか。

この3つの問いによって、単純な市場シェアや利益率の分析から、企業の長期的な競争優位の分析へ進むことができます。

さらに、JMEIでは、参入障壁の強さを単独で評価しません。

市場の成長性、既存企業同士の競争、買い手の交渉力、供給者の交渉力、代替品の脅威といった要因と組み合わせて考えます。

なぜなら、参入障壁が高くても、市場が縮小していたり、既存企業同士の競争が激しかったりすれば、高い利益率を維持できない可能性があるからです。

反対に、参入障壁がそれほど高くなくても、市場が大きく成長し、企業が独自の価値を提供できれば、収益を拡大できる可能性があります。

つまり、企業の競争優位は、一つの要因だけでは決まりません。

複数の競争要因と、企業自身の経営能力によって形成されます。

ここで、医療企業の長期的な競争力について、重要な結論が得られます。

本当に強い医療企業とは、単に新しい企業が参入できない市場に存在する企業ではありません。新しい企業が参入しても、顧客から選ばれ続け、持続的な利益と高い資本効率を維持できる企業です。

そのためには、独自技術や品質だけでなく、顧客との信頼関係、サービス体制、研究開発能力、経営資源の配分などが重要になります。

さらに、技術革新や市場環境の変化に対応しながら、自社の競争優位を改善し続ける必要があります。

JMEIでは、参入障壁を、既存企業を守る壁としてだけではなく、企業がどのような価値を生み出し、その価値を長期的な競争力へ変えているかを理解するための重要な分析対象として考えます。

そして、最終的には、その競争優位が将来のキャッシュフローと企業価値へどのようにつながるのかを評価します。

これが、JMEIの新規参入分析の基本的な視点です。

今回のポイント

第64講で最も覚えてほしいのは、「参入障壁が高いことと、競争優位が長期間維持されることは同じではない」ということです。

新規参入の脅威とは、新しい企業が市場へ参入することによって、既存企業の売上高や利益率などが影響を受ける可能性です。

参入障壁とは、新しい企業が市場へ参入することを難しくする要因です。

主な参入障壁には、規模の経済、ブランドと信頼、初期投資、スイッチングコスト、販売網と顧客接点、規制や制度への対応、独自技術や知的財産などがあります。

医療機器産業では、製造技術や品質管理、販売網、保守サービスなどが重要になる場合があります。

製薬産業では、研究開発、規制対応、特許などが重要です。

医療DX産業では、医療情報の安全管理、既存システムとの連携、顧客との関係などが参入障壁になる場合があります。

ただし、参入障壁は固定されたものではありません。

技術革新や市場構造の変化によって、新しい企業が参入しやすくなる場合があります。

また、新規参入企業の登場は、既存企業の売上高だけでなく、販売価格や利益率、ROICにも影響する可能性があります。

したがって、企業分析では、参入障壁の強さだけでなく、その持続性と経済的な価値を確認する必要があります。

最後に、次の3つの問いを覚えておきましょう。

「この医療企業は、何によって新規参入企業から守られているのか」

「その参入障壁は、5年後、10年後も維持されるのか」

「その参入障壁は、持続的な利益と高いROICにつながっているのか」

この3つの問いによって、現在の市場構造だけでなく、医療企業の長期的な競争力を考えることができます。

次回予告

第65講 既存企業間の競争とは何か?――医療市場の価格競争・差別化・市場集中度を読み解く

今回は、新規参入の脅威について学びました。

新しい企業が市場へ参入すると、既存企業の売上高や利益率が影響を受ける可能性があります。

しかし、企業の競争環境を左右するのは、新規参入企業だけではありません。

すでに市場に存在している企業同士の競争も重要です。

例えば、ある医療機器市場に5社が存在しているとします。

各社が似たような製品を販売している場合、価格競争が激しくなる可能性があります。

一方、各社が独自技術やサービスによって差別化していれば、価格以外の要素で競争する場合があります。

また、市場の成長率が高い場合には、複数の企業が同時に売上高を拡大できる可能性があります。

しかし、市場が成熟している場合には、他社から顧客を獲得しなければ成長できないこともあります。

このような競争要因を、既存企業間の競争(Rivalry Among Existing Competitors)と呼びます。

次回は、ファイブフォース分析の最後の競争要因である、既存企業間の競争について学びます。

特に、市場集中度と競争の関係、競合企業数と利益率、市場成長率と価格競争、製品差別化の重要性、固定費と価格競争の関係、医療機器市場における競争、製薬企業の競争構造、医療DX市場における競争、市場集中度を示すHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)、競争環境とROICの関係を取り上げます。

さらに、架空の医療企業を用いたケーススタディを通して、市場シェアや市場成長率、費用構造の違いが利益率にどのような影響を与えるのかを分析します。

そして、これまで学んだ5つの競争要因を統合し、医療企業の競争環境を総合的に評価する方法へつなげていきます。

第65講では、「この医療企業は、なぜ競合企業との競争の中で利益を生み出し続けることができるのか。そして、その競争優位は将来も維持されるのか」という問いから、医療企業の競争構造と長期的な収益性を読み解いていきます。

JMEI|日本医療企業研究所 医療を変える企業と技術を読み解く。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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