JMEI 医療企業分析アカデミー 第68講 医療企業の強み・弱み・機会・脅威を整理する
はじめに
こんにちは。日本医療企業研究所(JMEI)です。
前回の第67講では、PEST分析について学びました。
PEST分析は、企業を取り巻く外部環境を、政治・制度、経済、社会、技術という4つの視点から分析する方法です。
例えば、高齢化によって医療需要が変化すること、医療DX政策によって新しい事業機会が生まれること、AI技術の進歩によって既存の医療サービスが変化することなどを考えました。
しかし、ここで一つの疑問が生まれます。
同じ市場で事業を行っているのに、なぜ成長する企業と成長できない企業が存在するのでしょうか。
例えば、医療AI市場が拡大しているとします。
A社は高度なAI技術を持ち、医療機関との共同研究実績も豊富です。
一方、B社は技術力ではA社に劣るものの、全国の医療機関に強い販売網を持っています。
どちらの企業が成長するでしょうか。技術力の高いA社でしょうか。それとも、販売力の強いB社でしょうか。
実際には、それぞれの企業が持つ強みや弱み、外部環境の変化によって結果が異なります。
そこで今回学ぶのが、SWOT分析(SWOT Analysis)です。
SWOT分析は、企業の内部環境と外部環境を組み合わせて、経営上の課題や成長機会を整理する方法です。
今回は、SWOT分析の基本から、医療企業への応用、ケーススタディ、財務分析との関係まで学びます。
今回の目標は、企業の特徴を単に列挙することではありません。
「この企業は、何を武器に成長できるのか。そして、何が成長を妨げる可能性があるのか」
を自分で説明できるようになることです。
SWOT分析とは何か
SWOT分析とは、企業の経営環境を4つの要因に分類する分析方法です。
SWOTは、次の4つの英単語の頭文字です。
SWOTは、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の頭文字です。強みと弱みは内部環境、機会と脅威は外部環境を分析する対象です。
この4つを整理することで、企業の現在の状況を把握できます。
例えば、ある医療機器メーカーを考えましょう。
独自の製造技術を持っていることは、強みです。
海外販売網が十分に整備されていないことは、弱みです。
高齢化によって関連医療機器の需要が増加することは、機会になる可能性があります。
競合企業が新しい製品を開発していることは、脅威になる可能性があります。
このように、SWOT分析では、企業自身の特徴と外部環境の変化を分けて考えます。
ただし、SWOT分析は4つの項目を埋めれば完成するものではありません。
重要なのは、分析結果から経営上の意味を読み取ることです。
最も重要なのは内部環境と外部環境の区別
SWOT分析を初めて学ぶ人が間違えやすいのは、内部環境と外部環境の区別です。
ここを正しく理解しましょう。
内部環境とは、企業が保有する経営資源や能力、組織上の特徴などです。
例えば、研究開発能力、製造技術、販売網、ブランド、財務基盤、人材、経営管理能力などがあります。
これらは、企業の強みや弱みを考える対象になります。
一方、外部環境とは、企業自身では直接コントロールすることが難しい市場や社会の状況です。
例えば、高齢化、医療制度の変更、新しい技術の登場、競合企業の参入、市場の成長、為替の変動などがあります。
これらは、機会や脅威を考える対象になります。
具体例で確認しましょう。「高齢化が進んでいる」という事実は企業の強みではなく、社会全体の変化なので、外部環境です。一方、「高齢者向け医療機器の開発技術を持っている」ことは企業自身の能力なので、内部環境です。
この違いが重要です。
Strengths:強みとは何か
最初はStrengthsです。
強みとは、企業が競争上の優位性を獲得するために活用できる経営資源や能力です。
例えば、医療企業では独自の研究開発技術、高度な製造技術、優れた品質管理体制、医療機関との長期的な取引関係、幅広い販売網、高いブランド認知度、豊富な資金、優秀な研究者や技術者などの強みが考えられます。
ただし、ここで注意が必要です。
企業が何かを保有していることと、それが競争上の強みであることは同じではありません。
例えば、ある医療機器メーカーが研究開発部門を持っているとします。
しかし、競合企業も同じような研究開発部門を持っている場合、それだけで競争上の強みとはいえません。
重要なのは、競合企業と比較して優れているかどうかです。
例えば、競合企業より短期間で新製品を開発できる、同等の品質を維持しながら製造原価を低く抑えられる、医療機関への保守サービスを迅速に提供できるといった能力は、競争上の強みになる可能性があります。
JMEIでは、強みを分析するとき、「その強みは、競合企業と比較して本当に優れているのか」という問いを必ず確認します。さらに、「その強みは、売上高、利益率、顧客維持率などの経済的成果につながっているのか」という点まで考えます。
Weaknesses:弱みとは何か
次にWeaknessesです。
弱みとは、企業が競争するうえで不利になる可能性のある内部的な要因です。
例えば、研究開発能力の不足、特定製品への売上高の集中、販売網の不足、資金調達能力の弱さ、人材不足、高い製造原価、特定の経営者への過度な依存、顧客対応体制の不足などがあります。
例えば、ある医療AI企業が優れた技術を開発したとします。
しかし、営業担当者が少なく、医療機関への導入支援体制も十分ではありません。
この場合、技術力は強みですが、販売・導入支援体制の不足は弱みです。
ここで重要なのは、弱みがあるからといって、その企業が必ず劣っているわけではないということです。
すべての企業には、経営資源の制約があります。
特に新興企業では、研究開発へ資源を集中するため、販売体制や管理部門が十分に整備されていない場合があります。
重要なのは、その弱みが事業成長をどの程度制約しているのかを理解することです。
また、弱みを改善するために、どれくらいの費用や時間が必要なのかも考える必要があります。
Opportunities:機会とは何か
Opportunitiesとは、企業にとって成長や収益改善につながる可能性のある外部環境の変化です。
医療企業では、高齢化による医療需要の変化、医療DXの普及、新しい医療技術の登場、海外市場の拡大、在宅医療の需要増加、医療従事者不足に対応するサービスへの需要、予防医療への関心の高まりなどの機会が考えられます。
例えば、医療従事者不足によって、医療機関が業務効率化を求めるようになったとします。
これは、医療DX企業にとって事業機会になる可能性があります。
しかし、すべての医療DX企業がその機会を活用できるわけではありません。
医療現場の業務を理解していない企業では、使いやすいシステムを開発できないかもしれません。
また、製品を開発できても、医療機関が導入費用を負担できなければ普及しない可能性があります。
したがって、機会を分析するときには、単に市場が成長しているかどうかを見るだけでは不十分です。
その企業が、その機会を実際に獲得できる能力を持っているかを確認する必要があります。
Threats:脅威とは何か
Threatsとは、企業の売上高や利益率、競争優位などに悪影響を与える可能性のある外部環境の変化です。
例えば、競合企業の新規参入、代替技術の登場、医療制度の変更、原材料価格の上昇、為替変動、市場成長率の低下、顧客の購買行動の変化などがあります。
例えば、ある医療機器メーカーが特定の検査装置を販売しているとします。
しかし、新しい診断技術が登場し、従来の検査方法の一部を代替できるようになったとします。
この場合、新技術の登場は既存企業にとって脅威になる可能性があります。
ただし、その企業自身が新技術を開発していれば、新しい成長機会になる場合もあります。
つまり、同じ外部環境の変化でも、企業によって機会にも脅威にもなり得ます。
ここがSWOT分析の重要な特徴です。
SWOT分析の基本表を作成する
ここまでの4つの要因を整理すると、次のようになります。
内部環境のプラス要因が強み、マイナス要因が弱みです。外部環境のプラス要因が機会、マイナス要因が脅威です。
例えば、架空の医療機器メーカーA社について考えましょう。
強みは、独自の製造技術、安定した品質、医療機関との長期的な取引関係です。弱みは、海外販売網の不足と特定製品への売上高の集中です。機会は、高齢化による関連医療機器の需要増加と海外市場の拡大です。脅威は、競合企業の新製品、原材料価格の上昇、代替技術の登場です。
この表を見ると、A社の経営環境が整理できます。しかし、これだけでは経営戦略は決まりません。例えば、海外市場が拡大していることは機会です。一方、A社は海外販売網が不足しています。
つまり、成長機会が存在していても、それを十分に活用できない可能性があります。
また、独自の製造技術という強みがあれば、競合企業の新製品に対抗できる可能性があります。
このように、4つの要因の関係を考えることが重要です。
ケーススタディ1 医療DX企業のSWOT分析
ここからは、具体的な企業分析を行います。
架空の医療DX企業「メディカルリンクA社」を考えましょう。
A社は、医療機関向けのクラウド型業務支援システムを提供しています。
主な機能は、患者情報の共有、業務記録の効率化、院内連絡の支援などです。
A社の現在の状況は次のとおりです。
事業内容は医療機関向けクラウド型業務支援システムで、契約医療機関数は120施設、1施設当たり年間利用料は100万円、年間売上高は1億2,000万円です。売上総利益率は70%、営業利益は400万円で、主な顧客は中小規模の病院・診療所です。主な課題は、営業体制の不足と開発人材の確保です。
なお、この企業や数値は、分析方法を理解するための架空の設定です。
それでは、SWOT分析を行ってみましょう。
メディカルリンクA社の強み
A社の強みとして、次の3つを考えます。
医療現場の業務を理解した製品設計
A社の開発チームには、医療機関での勤務経験を持つ人材が参加しています。
そのため、医療現場の業務に適したシステムを開発できる可能性があります。
ただし、勤務経験があることだけで競争優位が証明されるわけではありません。
実際には、顧客満足度や利用継続率、業務効率化の実績などによって評価する必要があります。
継続課金型の事業モデル
A社は、年間契約によって利用料を受け取っています。
顧客が継続利用する場合、一定の継続収入を見込めます。
ただし、継続課金型であること自体は、競合企業も採用できる事業モデルです。
そのため、顧客維持率や契約更新率などを比較して、A社の優位性を確認する必要があります。
既存顧客との関係
A社は120施設と契約しています。
この顧客基盤を活用して、新機能の開発や追加サービスの提供を検討できます。
ただし、顧客数だけで競争優位が決まるわけではありません。
競合企業との比較が必要です。
メディカルリンクA社の弱み
次に弱みを考えます。
営業担当者が少ない
A社は開発部門を重視してきたため、営業担当者が十分に確保されていません。
そのため、新規顧客の獲得が難しくなる可能性があります。
開発人材への依存
システムの主要部分を少数の技術者が担当しています。
特定の技術者が退職した場合、開発や保守に影響する可能性があります。
利益水準が低い
A社の年間売上高は1億2,000万円ですが、営業利益は400万円です。
営業利益率は、400万円÷1億2,000万円×100=約3.3%です。
この利益水準では、大規模な研究開発投資や営業体制の拡大を行う際に、資金面の制約が生じる可能性があります。
ただし、利益率が低いことだけで、経営が非効率だとは断定できません。
成長のための先行投資によって、一時的に利益率が低くなっている場合もあるからです。
メディカルリンクA社の機会
次に、外部環境を考えます。
医療従事者不足
医療従事者不足によって、医療機関が業務効率化を求める可能性があります。
これはA社にとって成長機会になり得ます。
医療DXの進展
医療情報のデジタル化やシステム連携が進むことで、関連サービスへの需要が増える可能性があります。
中小医療機関の業務改善需要
中小規模の医療機関では、大規模なシステムを導入するための資金や人員が限られている場合があります。
そのため、導入しやすいクラウド型サービスに需要が生まれる可能性があります。
ただし、実際の需要は、価格、機能、既存システムとの連携などによって異なります。
メディカルリンクA社の脅威
最後に脅威を考えます。
大手IT企業の参入
大手IT企業が医療機関向けのクラウドサービスを強化した場合、競争が激しくなる可能性があります。
価格競争
競合企業が低価格のサービスを提供すれば、A社も価格の見直しを迫られる可能性があります。
技術革新
新しいAI技術によって、現在の業務支援システムの一部が代替される可能性があります。
また、新技術への対応が遅れれば、競争力が低下する場合があります。
メディカルリンクA社のSWOT分析を完成させる
ここまでの内容を整理しましょう。
強みは、医療現場を理解した開発体制、継続課金型の収益構造、120施設の既存顧客基盤です。弱みは、営業担当者の不足、少数の技術者への依存、営業利益率が約3.3%と低いことです。
機会は、医療従事者不足による業務効率化需要、医療DXの進展、中小医療機関のデジタル化需要です。脅威は、大手IT企業の参入、価格競争、新技術による既存機能の代替です。
この表から、A社の特徴が見えてきます。
A社は、医療現場を理解した開発体制を持っています。
また、既存顧客基盤もあります。
一方、営業体制が十分ではなく、利益水準も低い状況です。
外部環境では、医療DXの進展という成長機会があります。
しかし、大手企業の参入や価格競争という脅威も存在しています。
ここから重要な問いが生まれます。「A社は、どの強みを活用して、どの機会を獲得すべきなのか」、そして「どの弱みを優先的に改善すべきなのか」という問題です。
これがSWOT分析の次の段階になります。
SWOT分析を財務分析へつなげる
JMEIでは、SWOT分析を経営環境の整理だけで終わらせません。
強みや弱みが、実際の売上高や利益率にどのような影響を与えるのかを考えます。
例えば、メディカルリンクA社が営業体制を強化したとします。
現在の契約医療機関数は120施設です。
年間利用料は1施設当たり100万円です。
年間売上高は、120施設×100万円=1億2,000万円です。
ここで、翌年度に24施設の新規契約を獲得すると仮定します。
ただし、既存顧客の5%が契約を終了するとします。
契約終了施設数は、120施設×5%=6施設です。
翌年度末の契約施設数は、120施設-6施設+24施設=138施設となります。
翌年度末の契約施設数を基準にした年間契約売上高は、138施設×100万円=1億3,800万円です。
当初の1億2,000万円と比較すると、1,800万円の増加です。
増加率は15%になります。
ただし、これは翌年度末の契約数を基準にした年間売上高の規模を示す計算です。
実際の翌年度の会計上の売上高は、新規契約や解約の発生時期によって異なります。
売上高が増加すれば利益も増加するのか
ここで、もう一つ考えましょう。
売上高が増加しても、利益が増加するとは限りません。
なぜなら、新規顧客を獲得するためには、営業費用や導入支援費用などが必要になるからです。
A社の現在の売上総利益率は70%です。
売上高1億2,000万円の場合、売上総利益は、1億2,000万円×70%=8,400万円です。
営業利益は400万円なので、販売費及び一般管理費は、8,400万円-400万円=8,000万円と計算できます。
ここで、契約施設数が138施設となり、年間契約売上高が1億3,800万円になった状態を考えます。
売上総利益率が70%のままであれば、1億3,800万円×70%=9,660万円です。
一方、営業体制の強化によって、販売費及び一般管理費が8,500万円になったと仮定します。
この場合、営業利益は、9,660万円-8,500万円=1,160万円となります。
比較してみましょう。
契約施設数は、現在の120施設から138施設になります。年間契約売上高は1億2,000万円から1億3,800万円になり、売上総利益率は70%のままなので、売上総利益は8,400万円から9,660万円になります。販売費及び一般管理費は8,000万円から8,500万円に増え、営業利益は400万円から1,160万円に、営業利益率は約3.3%から約8.4%になります。
この仮定では、営業利益率が約3.3%から約8.4%へ改善しました。
つまり、営業体制の不足という弱みを改善することで、成長機会を獲得し、利益率を改善できる可能性があります。
ただし、実際には新規契約の獲得費用、顧客サポート費用、システム開発費用などが変化する場合があります。
そのため、実際の企業分析では、追加費用を詳しく確認する必要があります。
強みを財務数値で確認する
ここで重要な考え方があります。
SWOT分析では、企業の強みを文章で説明することが多くあります。
例えば、「顧客との関係が強い」「ブランド力が高い」「技術力が優れている」といった表現です。
しかし、これらは主観的な評価になりやすいという問題があります。
JMEIでは、可能な限り、強みを客観的な指標で確認します。
例えば、次のような方法です。
顧客との関係が強いかどうかは、契約更新率や顧客維持率で確認します。製品の競争力は市場シェアと価格維持力、製造技術は製造原価率と不良率、ブランド力は価格プレミアムと顧客選好で確認できます。研究開発能力は開発実績と新製品売上高、販売網は顧客数、販売地域、営業効率、財務基盤は現預金、負債比率、キャッシュフローで確認します。
ただし、一つの指標だけで強みを証明できるわけではありません。
例えば、顧客維持率が高くても、市場全体で同程度の維持率が一般的であれば、競争上の優位性とは限りません。
また、研究開発費が多いことだけで、研究開発能力が高いとは判断できません。
重要なのは、投入した資源がどのような成果につながっているかです。
弱みを改善するための費用を考える
SWOT分析では、弱みを発見した後に、改善のための費用を考えることも重要です。
例えば、ある医療機器メーカーの弱みが海外販売網の不足だったとします。
海外市場へ進出するためには、現地法人の設立や販売代理店との契約が必要になる場合があります。
また、現地で必要な規制対応、販売員の採用、保守サービス体制の構築なども必要です。
つまり、弱みを改善するためには投資が必要になります。
ここで重要なのは、「弱みを改善することで得られる利益は、そのために必要な投資に見合うのか」という問題です。
例えば、海外販売網を構築するために10億円の投資が必要だとします。
その結果、年間の税引後営業利益が1億円増加すると予想される場合、追加投資に対する税引後営業利益の比率は、1億円÷10億円×100=10%です。
この10%という数値だけで投資の良否は決まりません。
資本コストや投資のリスク、将来の成長可能性などを考える必要があります。
しかし、SWOT分析によって発見した弱みを、投資判断へつなげることができます。
ケーススタディ2 製薬企業のSWOT分析
次に、製薬企業を考えましょう。
架空の製薬企業、Pharma B社です。
B社は、特定の疾患領域に研究開発資源を集中しています。
主力医薬品は安定した売上高を生み出しています。
一方、売上高の大部分を少数の医薬品に依存しています。
この企業のSWOT分析を行います。
強みは、特定疾患領域の研究開発能力、専門医との関係、主力製品の販売実績です。弱みは、主力製品への売上高集中と開発パイプラインの偏りです。機会は、新しい治療技術の登場と対象疾患の診断・治療機会の拡大です。脅威は、競合医薬品の開発、特許期間の経過、薬価制度の変更です。
ここで注目したいのは、強みと弱みが同じ事業構造から生まれている点です。
B社は特定疾患領域へ研究開発資源を集中しています。
その結果、専門性を高められる可能性があります。
これは強みです。
しかし、特定疾患領域への依存度が高いため、競合医薬品の登場によって業績が大きく変化する可能性があります。
これは弱みです。
つまり、企業の強みが、同時に弱みを生み出す場合があるのです。
この点は、医療企業分析で非常に重要です。
ケーススタディ3 医療機器メーカーのSWOT分析
次に、架空の医療機器メーカーC社を考えます。
C社は、高度な精密加工技術を持っています。
製品の品質は安定していますが、製造原価が高いという課題があります。
また、海外市場への進出を検討しています。
SWOT分析は次のようになります。
強みは、精密加工技術、品質管理能力、国内顧客との関係です。弱みは、高い製造原価と海外販売網の不足です。機会は、海外市場の需要と関連医療技術の普及です。脅威は、低価格競合製品、原材料価格の上昇、代替技術です。
ここで重要なのは、品質の高さと収益性の関係です。
高品質の製品を製造できても、製造原価が高すぎれば、十分な利益を確保できない可能性があります。
一方、品質の高さが顧客に評価され、競合製品より高い価格で販売できれば、高い利益率を維持できる場合があります。
つまり、強みが存在することだけでなく、その強みをどのように経済的な成果へ変えるかが重要です。
SWOT分析とPEST分析の関係
ここで、前回のPEST分析との関係を整理しましょう。
PEST分析は、企業を取り巻く外部環境を分析する方法です。
一方、SWOT分析は、内部環境と外部環境を組み合わせて整理する方法です。
例えば、PEST分析によって、高齢化が進んでいることを確認したとします。
これはSocialの要因です。
その変化によって、在宅医療関連機器の需要が増加する可能性があると考えた場合、SWOT分析では機会に分類できます。
ただし、すべての企業にとって機会になるわけではありません。
在宅医療関連機器を開発する技術や販売体制を持っていない企業では、その需要を獲得できない可能性があります。
したがって、PEST分析で外部環境の変化を発見し、SWOT分析で個別企業への意味を整理するという流れが重要です。
SWOT分析とファイブフォース分析の関係
次に、ファイブフォース分析との関係を考えましょう。
ファイブフォース分析では、業界の競争構造を確認します。
例えば、新規参入の脅威が強い市場では、既存企業の利益率が低下する可能性があります。
この分析結果をSWOT分析へ反映させることができます。
新規参入企業の増加は、既存企業にとって脅威になる場合があります。
一方、既存企業が強いブランドや顧客基盤を持っていれば、その脅威に対応できる可能性があります。
つまり、ファイブフォース分析で競争構造を理解し、SWOT分析で個別企業の対応能力を考える、という関係です。
JMEIでは、PEST分析、ファイブフォース分析、SWOT分析を独立した分析として扱うのではなく、相互に関連する分析方法として利用します。
SWOT分析で最も多い3つの間違い
ここで、SWOT分析を行う際によくある間違いを整理しましょう。
強みを主観的に決めてしまう
例えば、「当社は技術力が高い」という説明です。
しかし、競合企業と比較した根拠がなければ、競争上の強みとは判断できません。
技術力を評価する場合には、製品性能、開発実績、研究開発効率などを確認する必要があります。
機会と強みを混同する
例えば、「医療DX市場が成長している」という事実を強みに分類してしまう場合です。
しかし、市場の成長は外部環境です。その企業自身の能力ではありません。したがって、通常は機会に分類します。
分析結果を経営判断へつなげない
SWOT分析で最も多い問題は、4つの項目を整理しただけで分析を終了してしまうことです。
例えば、強みは技術力、弱みは営業力、機会は市場成長、脅威は競合企業という表を作成しても、それだけでは経営上の意思決定に十分役立ちません。
重要なのは、どの要因が最も重要なのかを判断し、経営戦略へつなげることです。
SWOT分析では優先順位をつける
実際の企業分析では、強みや弱みが多数存在する場合があります。
しかし、すべてを同時に改善することは困難です。
そのため、優先順位をつける必要があります。
JMEIでは、学習用の方法として、次の3つの視点を利用します。
第一に、経営への影響度です。その要因が売上高や利益率、キャッシュフローへどの程度影響するのかを考えます。
第二に、変化の可能性です。その要因が今後どの程度変化する可能性があるのかを考えます。
第三に、対応可能性です。企業がその要因に対して、どの程度対応できるのかを考えます。
例えば、メディカルリンクA社について、次のような評価を行います。
評価は、経営への影響度、変化の可能性、対応可能性の順に示します。営業体制の不足は高・中・高、大手企業の参入は高・中・中、医療DX需要の増加は高・中・高、技術者への依存は高・中・中、為替変動は低・中・低です。
これは架空の評価です。
実際には、各項目の根拠を確認する必要があります。
この表から、A社では営業体制の強化が重要な経営課題になる可能性があります。
なぜなら、経営への影響が大きく、企業自身が対応できる余地も比較的大きいからです。
ただし、優先順位は影響度だけで決めるものではありません。
改善費用、実行までの期間、失敗した場合のリスクなども考える必要があります。
SWOT分析とEconomic Moat
ここで、これまで学んだEconomic Moatとの関係を考えましょう。
Economic Moatとは、企業が競争優位を長期的に維持するための構造的な強みを表す考え方です。
例えば、ブランド、スイッチングコスト、ネットワーク効果、費用優位性、無形資産などの要素があります。
SWOT分析のStrengthsとEconomic Moatは似ています。
しかし、同じではありません。
SWOT分析の強みには、比較的短期的なものも含まれます。
例えば、優秀な営業担当者がいることは、企業の強みになる可能性があります。
しかし、その営業担当者が退職すれば、強みが失われる場合があります。
一方、顧客が容易に他社へ変更できない仕組みや、長年蓄積された独自技術などは、比較的長期的な競争優位を支える可能性があります。
したがって、JMEIでは、SWOT分析で強みを発見した後に、その強みがどれくらい持続するのかを考えます。
強みがあることと、その強みが長期的に維持されることは別の問題です。
SWOT分析とROIC
SWOT分析を財務分析へつなげるとき、重要になる指標の一つがROICです。
ROICは、投下資本に対してどれくらいの税引後営業利益を生み出しているかを示します。
計算式は、ROIC=税引後営業利益(NOPAT)÷投下資本×100です。
例えば、ある医療機器メーカーが独自技術を持っているとします。
その技術によって、高い価格で製品を販売できる場合があります。
また、製造原価を低く抑えられる場合もあります。
その結果、営業利益率が高くなる可能性があります。
一方、その技術を維持するために、多額の設備投資や研究開発投資が必要になる場合があります。
この場合、利益率が高くても、ROICが十分に高くならない可能性があります。
したがって、SWOT分析で発見した強みが、どのようにROICへ影響しているのかを考える必要があります。
JMEIでは、企業の強みから競争優位、利益率・資本回転率、ROICへとつながる流れを重視します。
ただし、強みが必ず高いROICにつながるわけではありません。
必要な投資額や競争環境によって結果は異なります。
JMEI式SWOT分析シート
ここまでの内容を、実際の企業分析に利用できる形へ整理しましょう。
シートは、基本情報、Strengths、Weaknesses、Opportunities、Threats、財務分析、総合評価の七つの部分で構成します。基本情報では、企業名、対象事業、対象製品・サービス、対象市場、対象地域、主要競合企業、分析時点、分析対象期間を記入します。
Strengths(強み)では、強みごとに、競合企業と比較した優位性、強みを裏づける指標、売上高・利益率への影響、強みの持続可能性を記入します。Weaknesses(弱み)では、弱みごとに、経営への影響、改善に必要な投資、改善までの期間を記入します。Opportunities(機会)では、機会ごとに、市場への影響、企業が獲得できる可能性、必要な経営資源を記入します。Threats(脅威)では、脅威ごとに、発生する可能性、経営への影響、対応策を記入します。
財務分析では、売上高、売上高成長率、売上総利益率、営業利益率、ROIC、設備投資、研究開発費、フリーキャッシュフローを記入します。総合評価では、最も重要な強み、最も重要な弱み、最大の成長機会、最大の脅威、優先して取り組むべき経営課題、必要な投資、期待される財務効果を記入します。
この分析シートを利用することで、SWOT分析を企業の競争優位や財務分析へつなげることができます。
練習問題
問題1
SWOT分析の4つの要因を挙げてください。
【答え】Strengths:強み。Weaknesses:弱み。Opportunities:機会。Threats:脅威。
問題2
「企業が独自の製造技術を持っている」という要因は、SWOT分析のどこに分類されるでしょうか。
【答え】Strengths、強みの候補です。企業自身が保有する技術だからです。ただし、競争上の強みと判断するには、競合企業との比較が必要です。
問題3
「高齢化によって医療需要が増加する」という要因は、どこに分類されるでしょうか。
【答え】Opportunities、機会になる可能性があります。高齢化は企業の外部環境の変化だからです。ただし、個別企業にとって実際に機会になるかどうかは、事業内容によって異なります。
問題4
「競合企業が新しい医療機器を発売した」という要因は、どこに分類されるでしょうか。
【答え】Threats、脅威になる可能性があります。競合企業の行動は外部環境の要因だからです。
問題5
「海外販売網が不足している」という要因は、どこに分類されるでしょうか。
【答え】Weaknesses、弱みです。企業自身の販売体制に関する問題だからです。
問題6
ある医療DX企業の契約施設数は120施設です。1施設当たり年間利用料は100万円です。年間契約売上高はいくらでしょうか。
【答え】1億2,000万円です。120施設×100万円=1億2,000万円。
問題7
問題6の企業で、既存顧客の5%が契約を終了し、新たに24施設が契約したとします。
契約施設数はいくつになるでしょうか。
【答え】138施設です。120施設×5%=6施設。120施設-6施設+24施設=138施設。
問題8
契約施設数が138施設、1施設当たり年間利用料が100万円の場合、年間契約売上高はいくらでしょうか。
【答え】1億3,800万円です。138施設×100万円=1億3,800万円。
問題9
売上高が1億3,800万円、売上総利益率が70%の場合、売上総利益はいくらでしょうか。
【答え】9,660万円です。1億3,800万円×70%=9,660万円。
問題10
問題9の企業で、販売費及び一般管理費が8,500万円の場合、営業利益はいくらでしょうか。
【答え】1,160万円です。9,660万円-8,500万円=1,160万円。
問題11
SWOT分析とPEST分析の違いを説明してください。
【答え】PEST分析は、政治・制度、経済、社会、技術という外部環境を分析する方法です。SWOT分析は、企業の内部環境と外部環境を、強み、弱み、機会、脅威の4つに分類して整理する方法です。
問題12
SWOT分析で発見した強みが、必ず高いROICにつながるのでしょうか。
【答え】必ずしもそうではありません。強みを維持するために多額の投資が必要になる場合や、競争環境によって十分な利益を確保できない場合があるためです。
問題13
ある製薬企業が、特定の疾患領域に研究開発資源を集中しています。
この特徴は強みでしょうか。それとも弱みでしょうか。
【答え】強みにも弱みにもなる可能性があります。特定疾患領域の専門性を高められることは強みです。一方、事業が特定疾患領域に集中することで、競合医薬品の登場などによる影響を受けやすくなる場合があります。これは弱みです。
問題14
SWOT分析を実際の経営判断へつなげるために、重要なことは何でしょうか。
【答え】4つの要因を整理するだけでなく、それぞれの重要度を評価し、経営上の優先順位を決めることです。また、必要な投資額や財務への影響を考えることも重要です。
JMEIの視点
JMEIでは、SWOT分析を企業の競争優位と経営課題を理解するための重要な方法として位置づけています。
しかし、SWOT分析だけで企業の優劣を判断することはありません。
なぜなら、SWOT分析は、企業の状況を整理するための方法であり、企業価値を直接計算する方法ではないからです。
例えば、ある医療機器メーカーが高度な技術を持っているとします。
これは強みになる可能性があります。
しかし、その技術が医療現場で十分に評価されなければ、売上高の増加につながらないかもしれません。
また、製品の品質が高くても、製造原価が高すぎれば、十分な利益を確保できない可能性があります。
したがって、JMEIでは、SWOT分析で発見した強みを、必ず財務分析へつなげます。
特に重要なのは、次の4つの視点です。
第一の視点は、「強みの実在性」です。企業が主張している強みは、本当に競合企業より優れているのでしょうか。例えば、技術力が高いという説明だけでは不十分です。製品性能、開発実績、顧客評価などを確認する必要があります。
第二の視点は、「強みの持続可能性」です。その強みは、将来も維持されるのでしょうか。競合企業が同じ技術を開発すれば、優位性が失われる可能性があります。また、特定の人材に依存している場合、その人材が退職することで強みが失われる可能性もあります。
第三の視点は、「強みの経済的価値」です。その強みは、売上高や利益率、ROICへどのような影響を与えているのでしょうか。優れた技術を持っていても、十分な利益を確保できなければ、企業価値の増加につながらない可能性があります。
第四の視点は、「変化への対応能力」です。外部環境が変化したとき、企業はその変化へ対応できるのでしょうか。例えば、AI技術の進歩によって市場構造が変化した場合、既存企業が新しい技術へ対応できるかどうかが重要になります。
この4つを組み合わせることで、SWOT分析を長期的な企業分析へつなげることができます。
さらに、JMEIでは、医療企業のSWOT分析において、医療上の価値と経済的な価値を区別します。
医療上の価値が高い技術でも、企業が十分な収益を確保できなければ、事業を継続することが難しくなる可能性があります。
一方、現在高い利益率を維持していても、医療現場の課題を解決できなければ、将来の競争優位が弱くなる場合があります。
したがって、医療企業のSWOT分析では、単なる経営資源の整理だけでなく、医療上の価値と持続可能な事業構造を同時に考える必要があります。
JMEI Medical Insight
企業の強みは、持っているものではなく、利益を生み出す仕組みで評価する
企業分析では、「この企業の強みは何か」という問いがよく使われます。
例えば、ある医療機器メーカーについて、「技術力が高い」「ブランド力がある」「医療機関との関係が強い」と説明されることがあります。
これらは、企業の競争力を理解するうえで重要な情報です。
しかし、ここで一つの疑問が生まれます。「その強みは、本当に企業の利益につながっているのか」という問題です。
例えば、ある医療機器メーカーが、非常に高度な技術を持っているとします。
その技術によって、競合製品より高い性能を実現できるかもしれません。
しかし、医療機関がその性能に十分な価値を認めなければ、高い価格で販売できない可能性があります。
また、製造原価が高ければ、販売価格を引き上げても利益率が改善しない場合があります。
つまり、技術力が高いことと、収益性が高いことは同じではありません。
ここで重要になるのが、強みを経済的な成果へ変える仕組みです。
例えば、ある企業が独自技術によって製造原価を低く抑えられるとします。
競合企業が同じ製品を1万円で製造しているのに対し、その企業は8,000円で製造できると仮定します。
販売価格が同じであれば、1製品当たり2,000円の原価面での優位性があります。
年間10万個販売する場合、単純計算では、2,000円×10万個=2億円の原価差が生まれます。
もちろん、実際には品質管理費用や研究開発費なども考慮する必要があります。
しかし、このように技術的な強みが製造原価の低下につながれば、利益率を改善できる可能性があります。
一方、別の企業では、独自技術によって高い販売価格を維持できる場合があります。
例えば、競合製品が10万円で販売されている市場で、ある企業が12万円で販売できるとします。
その価格差が、医療機関にとって明確な価値によって支えられていれば、価格競争を避けられる可能性があります。
ただし、高価格で販売できることだけで、企業の競争優位が証明されるわけではありません。
販売数量や顧客維持率、追加費用なども確認する必要があります。
ここで、JMEIが重視する重要な考え方があります。
それは、「強みは、経済的な成果へ変換されて初めて、企業分析上の意味を持つ」ということです。
例えば、ある医療AI企業が高度な診断支援技術を持っているとします。
その技術が医療現場の業務負担を軽減できる場合、医療上の価値が生まれる可能性があります。
しかし、医療機関がその技術に十分な料金を支払わなければ、企業は継続的な利益を確保できないかもしれません。
また、同じような技術を持つ競合企業が参入すれば、価格競争が激しくなる可能性があります。
つまり、優れた技術を持っているだけでは、持続的な利益を生み出せるとは限りません。
ここで、SWOT分析とファイブフォース分析がつながります。
SWOT分析では、企業の強みを確認します。
ファイブフォース分析では、その強みがどのような競争環境の中で利用されるのかを考えます。
例えば、買い手の交渉力が強い市場では、企業が優れた技術を持っていても、販売価格を引き上げることが難しい場合があります。
また、代替技術が登場すれば、現在の技術的な強みが失われる可能性があります。
したがって、強みを評価するときには、企業内部の能力だけでなく、外部の競争構造も理解する必要があります。
さらに、PEST分析を組み合わせることで、将来の外部環境の変化も考えることができます。
例えば、ある医療機器メーカーが現在高い市場シェアを持っているとします。
しかし、新しい技術が普及すれば、現在の製品が代替される可能性があります。
一方、その企業が新技術へ対応する研究開発能力を持っていれば、新しい市場へ進出できるかもしれません。
つまり、SWOT分析で発見した強みは、現在だけでなく、将来の環境変化の中で評価する必要があります。
ここで、もう一つ重要な問題があります。
それは、強みを維持するために必要な投資です。
例えば、ある製薬企業が特定疾患領域で高い研究開発能力を持っているとします。
その強みを維持するためには、継続的な研究開発投資が必要になる場合があります。
また、医療機器メーカーでは、製造技術を維持するために設備投資が必要になる場合があります。
つまり、強みは一度獲得すれば永久に維持できるものではありません。
強みを維持するためには、経営資源を継続的に投入する必要がある場合があります。
ここで、ROICが重要になります。
ROICは、投下資本に対してどれくらいの税引後営業利益を生み出しているかを示す指標です。
企業が強みを維持するために多額の投資を行っても、その投資に見合う利益を生み出せなければ、資本効率が低下する可能性があります。
一方、比較的少ない追加投資で強みを維持できる企業では、高いROICを継続できる可能性があります。
したがって、JMEIでは、SWOT分析で発見した強みを、必ず資本効率と結びつけて考えます。
ここで、強みを評価するための4つの問いを整理しましょう。
第一に、その強みは競合企業と比較して優れているか。単に技術や人材を保有しているだけでは不十分です。競合企業との比較が必要です。
第二に、その強みは顧客にとって価値があるか。企業が優れていると考えていても、顧客が価値を認めなければ、売上高や利益率の改善につながらない可能性があります。
第三に、その強みは経済的な成果へつながっているか。売上高、利益率、顧客維持率、ROICなどを確認する必要があります。
第四に、その強みは将来も維持できるか。技術革新、競合企業の参入、制度変更などによって、強みが失われる可能性があります。
この4つの問いによって、企業が主張する強みと、実際の競争優位を区別できます。
さらに、JMEIでは、弱みの分析も重要だと考えています。
なぜなら、企業の成長を妨げている要因が、必ずしも技術力の不足とは限らないからです。
例えば、優れた医療機器を開発していても、販売網が不足していれば、十分な売上高を確保できない可能性があります。
また、医療AI企業が優れた技術を持っていても、導入支援体制が不足していれば、顧客が増えない場合があります。
このような場合、企業が成長するために必要なのは、新しい技術の開発ではなく、販売体制や顧客支援体制の強化かもしれません。
つまり、SWOT分析は、企業の強みを発見するだけでなく、成長を妨げている制約を発見するためにも役立ちます。
ここで、経営者の資本配分能力が重要になります。限られた資金を、研究開発へ投資するのか。営業体制へ投資するのか。製造設備へ投資するのか。海外市場へ投資するのか。企業は、さまざまな選択を迫られます。
SWOT分析によって、どの経営資源が不足しているのかを理解できれば、投資の優先順位を考えることができます。
ただし、弱みをすべて改善することが最適とは限りません。
例えば、ある医療機器メーカーが海外販売網を持っていないとします。
しかし、海外市場へ進出するために多額の投資が必要であり、十分な利益を期待できない場合、海外販売網を構築しないという判断も合理的です。
つまり、弱みを改善すること自体が目的ではありません。
企業価値の向上につながる経営資源の配分を行うことが重要なのです。
ここで、医療産業特有の問題も考えておきましょう。
医療企業では、社会的な必要性が高いことと、企業の収益性が高いことは必ずしも一致しません。
例えば、高齢化によって在宅医療の必要性が高まっているとします。
これは、関連する医療企業にとって機会になる可能性があります。
しかし、在宅医療関連機器の販売価格や保守費用、医療制度上の条件などによって、企業の収益性は異なります。
また、医療DXによって業務効率化が期待されても、医療機関が導入費用を負担できなければ、事業として普及しない可能性があります。
したがって、SWOT分析では、社会的な必要性を機会として整理するだけでなく、企業がその機会を経済的な成果へ変えられるかどうかを考える必要があります。
ここで、JMEIの企業分析の流れを整理しましょう。PEST分析によって外部環境の変化を理解し、ファイブフォース分析によって業界の競争構造を理解します。SWOT分析によって個別企業の強み・弱み・機会・脅威を整理し、ROIC分析によって競争優位が資本効率につながっているかを確認します。そして、キャッシュフロー分析によって将来の経済的価値を考えます。
このように分析を組み合わせることで、企業の現在の状況だけでなく、長期的な競争力を理解できます。
最後に、今回の講義の結論を整理しましょう。
企業の強みは、保有している技術や人材、ブランドの数では評価できません。その強みが、顧客にとっての価値を生み出し、競争の中で持続的な利益とキャッシュフローにつながっているかによって評価する必要があります。
JMEIでは、SWOT分析を、企業の特徴を整理するための方法としてだけではなく、競争優位の持続可能性と経営資源の配分を考えるための実践的な分析方法として活用します。
これが、JMEIのSWOT分析の基本的な考え方です。
今回のポイント
第68講で最も覚えてほしいのは、「SWOT分析は、企業の強み・弱み・機会・脅威を整理し、競争優位と経営課題を理解するための方法である」ということです。
SWOT分析では、Strengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)の4つの要因を確認します。強みと弱みは内部環境、機会と脅威は外部環境です。この区別が重要です。
また、強みが存在することと、競争優位が存在することは同じではありません。
競合企業との比較が必要です。
さらに、強みが存在していても、十分な利益を生み出せるとは限りません。
強みを維持するために多額の投資が必要になる場合もあります。
したがって、JMEIでは、SWOT分析を営業利益率やROIC、キャッシュフローへつなげます。
また、弱みを発見した場合には、その改善に必要な投資額と期待される経済的な成果を考えます。
すべての弱みを改善することが、必ずしも最適な経営判断ではありません。
重要なのは、企業価値の向上につながる経営資源の配分を行うことです。
最後に、次の5つの問いを覚えておきましょう。「この医療企業の本当の強みは何か」「その強みは、競合企業と比較して優れているのか」「その強みは、利益率やROICへつながっているのか」「企業の成長を妨げている最大の弱みは何か」「外部環境の変化によって、その強みや弱みはどのような影響を受けるのか」の5つです。
この5つの問いによって、企業の特徴を整理するだけでなく、長期的な競争力を分析できるようになります。
次回予告
第69講|クロスSWOT分析とは何か?――強み・弱み・機会・脅威を組み合わせて経営戦略を作る
今回は、SWOT分析について学びました。
企業の内部環境と外部環境を、強み、弱み、機会、脅威の4つに分類する方法を理解しました。
また、医療DX企業、製薬企業、医療機器メーカーを例に、SWOT分析を実際の企業分析へ活用する方法を学びました。
しかし、ここで一つの問題が残っています。
SWOT分析によって、企業の強みや弱み、機会や脅威を整理した後、経営者は何をすればよいのでしょうか。
例えば、ある医療DX企業が高度な技術を持っているとします。
一方、営業体制が不足しています。
外部環境では、医療DX市場が成長しています。
しかし、大手IT企業の参入という脅威も存在しています。
この企業は、どのような経営戦略を選択すべきでしょうか。
技術開発をさらに強化するのでしょうか。営業担当者を増やすのでしょうか。大手企業と提携するのでしょうか。
それとも、特定の医療分野へ事業を集中するのでしょうか。
このような問題を考えるために利用できるのが、クロスSWOT分析です。
クロスSWOT分析では、4つの要因を組み合わせて経営戦略を考えます。
具体的には、次の4つの組み合わせです。SO戦略は強みを活用して機会を獲得するもの、WO戦略は弱みを改善して機会を獲得するもの、ST戦略は強みを活用して脅威へ対応するもの、WT戦略は弱みと脅威によるリスクを抑えるものです。
次回は、この4つの戦略について、医療企業の具体例を用いて学びます。
さらに、複数の戦略候補を比較する方法、必要な投資額を評価する方法、期待されるROICやキャッシュフローを考える方法についても解説します。
また、架空の医療企業を用いたケーススタディを通して、実際に経営戦略を作成します。
そして、JMEIの企業分析で利用できる「クロスSWOT戦略分析シート」を作成します。
第69講では、「この医療企業は、自社の強みをどのように活用し、弱みをどのように補い、将来の成長機会を獲得すべきなのか」という問いから、企業分析を経営戦略へつなげる方法を学んでいきます。
JMEI|日本医療企業研究所 医療を変える企業と技術を読み解く。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。