01JMEI Daily 02JMEIについて 03MEDIX50 04Global 10 05アカデミー 06研究・発信 07評価方法 08お知らせ お問い合わせ

医療企業分析アカデミー

第45講 運転資本とは何か?――「利益は出ているのに現金がない会社」の謎を解く

JMEI 医療企業分析アカデミー 第45講 「利益は出ているのに現金がない会社」の謎を解く

第44講では、総資産回転率について学びました。企業が持つ資産から、どれだけ売上を生み出しているのか。さらに、在庫回転率、売掛金回転率、固定資産回転率まで分解すると、「資産が働いているのか、眠っているのか」が見えてきました。その中で、重要な問題が一つ出てきました。売上は増えている、利益も増えている、それなのに、現金が減っている。そんなことが本当にあるのでしょうか。あります。しかも、急成長している会社ほど起こることがあります。例えば、ある医療機器メーカーがあります。前年の売上高は100億円。今年は150億円。50%成長です。営業利益も、10億円から18億円へ増えました。非常に好調に見えます。ところが、会社の現金は減っています。なぜでしょうか。売上増加に備えて、原材料を大量に仕入れた。完成した医療機器の在庫も増えた。病院へ販売したが、代金はまだ回収していない。つまり、利益になる前後の過程で、大量のお金が事業の中に留まっているのです。ここで登場するのが、運転資本、Working Capitalです。運転資本を理解すると、「利益が出ている会社」と、「現金を生み出している会社」が必ずしも同じではないことが分かります。今回は、運転資本とは何か、売掛金、在庫、買掛金、なぜ売上が増えると現金が必要になるのか、黒字なのに資金繰りが苦しくなる理由、CCC、Cash Conversion Cycle、そして、医療企業ではどのように運転資本を見るべきなのか、利益からキャッシュへの流れを学んでいきます。

運転資本の基本と、基本式

運転資本とは、企業が日常の事業活動を続けるために必要となる資金と考えると分かりやすいでしょう。例えば医療機器メーカー、医療機器を販売する前に、原材料を買います。工場で製造します。完成品を在庫として持ちます。病院へ販売します。しかし、販売した日に現金を受け取れるとは限りません。売掛金になるからです。つまり、原材料購入、製造、在庫、販売、売掛金、現金回収。この間、企業のお金が必要になります。これが運転資本を理解する基本です。

運転資本には複数の定義があります。まず、会計上よく使われる考え方は、流動資産-流動負債です。一方、企業分析やキャッシュフロー分析では、事業に直接関係する、売掛金、在庫、買掛金などに注目します。今回の講義では初心者向けに、運転資本=売掛金+在庫-買掛金という簡略化した形を中心に考えます。なぜ買掛金を引くのでしょうか。買掛金とは、仕入れたものの、まだ支払っていないお金です。つまり、仕入先が一時的に資金を負担してくれていると考えることができます。

基本的な運転資本のケーススタディを見てみましょう。ある医療機器会社、売掛金30億円、在庫20億円、買掛金15億円。運転資本は、30+20-15=35億円。つまり、事業を回すために、35億円程度の資金が事業の中に拘束されていると考えることができます。翌年、売上が急増しました。売掛金45億円、在庫30億円、買掛金20億円。運転資本は、45+30-20=55億円。前年35億円、今年55億円、20億円増えました。何を意味するのでしょうか。事業の中に拘束される資金が、20億円増えたということです。これがキャッシュフローに影響します。運転資本増加は基本的には、キャッシュの流出要因。運転資本減少は、キャッシュの流入要因。ここは非常に重要です。

利益とキャッシュは違います。例えば、100万円の商品を販売しました。利益計算上、売上100万円が計上されます。しかし支払い条件が90日後だったら?今日、現金100万円が入ってくるわけではありません。売掛金100万円になります。つまり、利益は出ている、しかし、現金はまだない。これが利益とキャッシュの違いです。

黒字なのに現金がないケーススタディを見てみましょう。Medical Device A社、売上高100億円、営業利益10億円。一見、10億円稼いだ会社です。しかし今年、売掛金が10億円増加、在庫も8億円増加、買掛金は3億円増加。運転資本増加、10+8-3=15億円。営業利益10億円に対して、運転資本が15億円増えています。実際には、利益以上の資金が事業の中へ吸収されている可能性があります。もちろん実際の営業キャッシュフローには、減価償却、税金、引当金、その他の項目も影響します。しかし初心者の段階では、「利益が出ても、売掛金や在庫が増えると現金は増えない」と覚えてください。

成長企業と、売掛金・在庫の見方

ではなぜ急成長企業ほど危ないのでしょうか。売上が増える、たくさん作る必要がある、原材料を増やす、在庫が増える、たくさん販売する、売掛金が増える。しかし、現金回収は後。つまり、成長するほど先にお金が必要になる場合があります。成長が資金を食べるケーススタディを見てみましょう。医療材料企業、前年売上100億円、今年売上200億円、売上2倍。純利益も、5億円から12億円。非常に好調です。しかし在庫、20億円から50億円。売掛金、20億円から60億円。買掛金、15億円から30億円。運転資本、前年20+20-15=25億円。今年50+60-30=80億円。運転資本増加55億円。利益は12億円。しかし運転資本は55億円増えた。急成長しているのに、資金繰りが苦しくなる可能性があります。これが成長企業分析で重要なポイントです。「売上成長=現金増加」ではありません。むしろ、ビジネスモデルによっては、売上成長、運転資本増加、キャッシュ減少ということがあります。だから売上成長率だけを見てはいけません。

次に売掛金です。売掛金とは、販売済みだが、まだ回収していない代金です。売掛金が増える理由、売上が増えた、これは自然です。しかし、売上10%増、売掛金50%増なら注意が必要です。なぜでしょうか。回収期間が長くなっている可能性があります。売掛金を見るケーススタディを見てみましょう。前年、売上1,000億円、売掛金100億円。今年、売上1,100億円、売掛金180億円。売上10%増、売掛金80%増。何が起きているのでしょうか。海外販売増加、支払条件変更、大口顧客増加、回収遅延などを確認します。ここで第44講の、売掛金回転日数が役立ちます。売掛金回収期間が、30日から60日となっていれば、現金化までの時間が長くなっています。

次に在庫です。在庫も、現金が姿を変えたものと考えることができます。100万円で原材料を購入。現金100万円は減ります。代わりに、在庫100万円。資産総額は大きく変わらなくても、自由に使える現金は減ります。だから在庫が増えるとキャッシュが拘束されます。医薬品在庫のケーススタディを見てみましょう。前年、在庫100億円。今年、在庫180億円。売上は、1,000億円から1,050億円。売上5%増、在庫80%増。理由を調べます。新薬発売準備、原材料不足への備え、感染症流行への備蓄、あるいは、販売不振。同じ在庫増加でも意味は違います。医療企業では、在庫を減らせばよいとは限りません。第44講で学んだように、医療では供給責任があります。医薬品不足、医療材料不足、診断試薬不足は患者へ直接影響します。だから運転資本効率と、医療供給レジリエンスを同時に見る必要があります。

買掛金、CCC、そして製薬・医療機器・診断ごとの視点

次に買掛金です。買掛金とは仕入れたが、まだ支払っていない代金。例えば原材料100万円を仕入れた。支払いは60日後。その60日間、会社は100万円をまだ支払っていません。つまり、仕入先から実質的に資金提供を受けているような状態です。買掛金が増えると短期的にはキャッシュフロー改善要因になります。しかし、買掛金は多ければ多いほど良いのでしょうか。違います。支払いを不自然に遅らせている、仕入先との関係悪化、資金繰り悪化の可能性もあります。医療業界では、サプライヤーとの安定した関係も重要です。過度な支払延期は、医療供給網を弱くする可能性があります。

ここで、3つをまとめます。売掛金が増える、現金がまだ入っていない、キャッシュにマイナス。在庫が増える、現金が在庫へ変わる、キャッシュにマイナス。買掛金が増える、支払いをまだしていない、キャッシュにプラス。これが運転資本分析の基本です。そしてここから、非常に重要な指標へ進みます。CCC、Cash Conversion Cycleです。日本語では、キャッシュ・コンバージョン・サイクル。簡単に言えば、「仕入れにお金を使ってから、販売代金を現金として回収するまで何日かかるか」を見る考え方です。代表的な式は、CCC=売掛金回収日数+在庫回転日数-買掛金支払日数。例えば、売掛金回収日数40日、在庫回転日数60日、買掛金支払日数30日。CCCは、40+60-30=70日。つまり仕入れから現金回収まで、おおむね70日分の資金負担があるというイメージです。別の会社、売掛金回収日数30日、在庫回転日数30日、買掛金支払日数45日。CCCは、30+30-45=15日。資金回収が速い。一般的にはCCCが短いほど、少ない運転資本で事業を回しやすくなります。しかし医療企業では、単純に短ければ良いとは言えません。例えば在庫日数を極端に短縮、薬が足りない、災害時に供給できない。これは医療企業として問題です。JMEIではCCCの短さと、供給安定性を両方見ます。

2つの医療機器会社のケーススタディを見てみましょう。A Deviceは、売掛金回収日数60日、在庫回転日数90日、買掛金支払日数45日。CCC、60+90-45=105日。B Deviceは、売掛金回収日数40日、在庫回転日数50日、買掛金支払日数40日。CCC50日。B社は、A社より55日短い。同じ売上規模なら、B社の方が、少ない運転資本で事業を回せる可能性があります。その資金を、研究開発、設備投資、M&A、株主還元などへ使える可能性があります。CCC改善は企業の資本効率改善にもつながります。ROICともつながるからです。運転資本が減る、投下資本が減る、利益が同じならROIC改善。つまり第34講のROICと、今回の運転資本はつながっています。CCC改善でROICが上がるケーススタディを見てみましょう。営業利益は変わらない、しかし、在庫管理改善、売掛金回収改善、運転資本、200億円から120億円。80億円の資金が解放されました。事業に必要な投下資本が減る。同じ利益を、より少ない資本で生み出せる。ROIC改善。ここが、運転資本管理が単なる経理業務ではない理由です。企業価値に関係する重要な経営課題なのです。

次に製薬企業です。製薬企業では、原材料、原薬、仕掛品、完成品などの在庫があります。さらに、品質管理、製造リードタイム、各国承認などによって、在庫期間が長くなる場合があります。また、生命関連製品なので、供給途絶を避けるための安全在庫も必要です。したがって製薬企業のCCCを、一般的な小売企業と単純比較してはいけません。見るべきなのは、同業他社、過去推移、製品構成、供給体制です。

次に医療機器企業です。高額機器では、製造期間が長い、部品点数が多い、完成在庫を持つ、病院へ販売後、回収まで時間がかかる。運転資本が大きくなる場合があります。一方、カテーテル、注射器、検査消耗品など、大量生産・大量販売型では、在庫回転速度が重要です。同じ医療機器業界でも、ビジネスモデルでCCCは違います。

次に診断企業です。診断装置を病院へ設置。その後、試薬を継続販売。試薬は消耗品。Installed Baseが増えると、需要予測がしやすくなる可能性があります。装置1,000台、各装置が年間平均1,000検査、必要試薬量を予測。需要予測精度が上がれば、在庫を適正化できる可能性があります。つまりInstalled Base、需要予測、在庫最適化、CCC改善、FCF改善という流れが生まれることがあります。

マイナスCCC、黒字倒産、そして良い成長・悪い成長

次に医療DXです。医療DX企業では、物理的在庫が少ない場合があります。SaaS型なら、在庫はほぼない。するとCCCは短くなりやすい場合があります。さらに年間利用料を前払いしてもらえるビジネスなら?顧客から先に現金を受け取る、サービス提供は後、非常に強いキャッシュフロー構造になる可能性があります。ここで重要なのは前受金、契約負債。顧客が企業へ、先に資金を提供しているような構造です。場合によってはCCCがマイナスになるビジネスもあります。マイナスCCCとは?商品やサービス提供に必要な支払いよりも先に、顧客から現金を受け取れる状態です。非常に強いビジネスモデルになることがあります。医療SaaSのケーススタディを見てみましょう。年間利用料120万円、契約時に1年分前払い、顧客100施設。契約開始時に、1億2,000万円の現金が入る。サービスは、その後12か月かけて提供。つまり、事業拡大のための資金を、顧客から先に受け取る構造。成長すればするほど、キャッシュフローが改善する場合があります。これは、先ほどの医療材料会社とは逆です。医療材料会社は、成長、在庫増加、売掛金増加、資金需要増加。医療SaaSは、成長、前払い契約増加、現金増加。同じ売上成長でも、キャッシュフローへの影響は正反対です。これが、ビジネスモデルを見るということです。

次に病院です。病院では、診療を行ったその日に、診療報酬の全額が現金で入るわけではありません。請求から入金まで時間があります。一方、給与、医薬品、医療材料、家賃、光熱費などの支払いがあります。つまり、病院経営でも、利益と資金繰りは別問題です。黒字病院でも、現金残高が少なければ、資金繰りリスクがあります。次に介護・福祉です。介護報酬、障害福祉サービス報酬も、サービス提供から入金まで時間があります。しかし職員給与は、毎月支払う。新規施設を立ち上げた、利用者が増えた、売上は将来増える、しかし、人件費は先に発生。資金繰りが苦しくなることがあります。特に新規開設時は、運転資金を十分に持つことが重要です。会計上黒字になる時期と、現金が必要な時期は一致しないからです。

ここで「黒字倒産」という言葉があります。利益は出ている、しかし、支払日に現金がない、会社は支払いができない、事業継続が困難になる。つまり、企業は利益だけでは生きられません。現金が必要です。これは企業分析で非常に重要な原則です。利益は会計上の成果。キャッシュは企業の生命線。両方を見る必要があります。

利益成長企業の危険信号のケーススタディを見てみましょう。売上高、100億円から150億円、220億円。営業利益、10億円から18億円、30億円。素晴らしい成長。しかし営業キャッシュフロー、8億円から2億円、マイナス15億円。なぜでしょうか。売掛金、20億円から45億円、90億円。在庫、15億円から35億円、70億円。利益以上に、運転資本が増えています。これは重要な警告信号です。もちろん急成長のための一時的現象かもしれません。しかし、毎年続くなら?成長するたびに、外部資金が必要になります。借入、増資、社債などが必要になる可能性があります。「成長できる会社」と、「自分で成長資金を生み出せる会社」は違います。ここがJMEIで非常に重視するポイントです。

次に良い成長を考えます。売上高、100億円から150億円、220億円。営業利益、10億円から18億円、30億円。営業キャッシュフロー、8億円から20億円、38億円。こちらは、利益成長以上にキャッシュも増えています。なぜでしょうか。売掛金回収改善、在庫最適化、前受金増加、買掛条件改善などが考えられます。同じ売上成長でも、成長の質が違います。

JMEI式運転資本分析

JMEI式運転資本分析は、売上成長率を見る、営業利益を見る、営業キャッシュフローを見る、売掛金を見る、売掛金回収日数を見る、在庫を見る、在庫回転日数を見る、買掛金を見る、買掛金支払日数を見る、運転資本を見る、CCCを見る、過去5年と比較する、同業他社と比較する、ROICを見る、FCFを見るという流れです。

医療企業の運転資本を見るときには、次の15項目を確認しましょう。売上高は伸びているか。利益は伸びているか。営業キャッシュフローも伸びているか。売掛金は売上以上に増えていないか。売掛金回収日数は長期化していないか。在庫は売上以上に増えていないか。在庫回転日数は長期化していないか。在庫増加には合理的な理由があるか。買掛金はどう変化しているか。買掛金支払日数は不自然に長期化していないか。運転資本はいくら増減したか。CCCは改善しているか。同業他社よりCCCは長いか短いか。成長するほど資金が必要になる事業か。成長するほどキャッシュを生む事業か。最後に、「この会社は、利益を現金へ変えるのに何日かかるのか?」と考えます。

練習問題

問題1 運転資本とは何でしょうか。

【答え】企業が日常の事業活動を続けるために必要となる資金です。企業分析では、売掛金+在庫-買掛金などで簡略化して考えることがあります。

問題2 売掛金30億円、在庫20億円、買掛金10億円。運転資本はいくらでしょうか。

【答え】30+20-10=40億円です。

問題3 運転資本が増えると、一般的にキャッシュフローにはどう影響しますか。

【答え】キャッシュの流出要因になります。

問題4 売掛金が増えると、なぜ現金が減るのでしょうか。

【答え】売上は計上されていても、販売代金をまだ現金として回収していないためです。

問題5 在庫が増えると、なぜキャッシュフローが悪化することがあるのでしょうか。

【答え】現金を使って原材料や商品を購入し、その現金が在庫という形で事業の中に拘束されるためです。

問題6 買掛金が増えると、短期的にキャッシュフローが改善することがあるのはなぜでしょうか。

【答え】仕入代金の支払いをまだ行っていないため、現金が会社に残るからです。

問題7 CCCとは何でしょうか。

【答え】Cash Conversion Cycle。仕入れなどに資金を使ってから、販売代金を現金として回収するまでの期間を見る指標です。

問題8 売掛金回収日数40日、在庫回転日数60日、買掛金支払日数30日。CCCはいくらでしょうか。

【答え】40+60-30=70日です。

問題9 CCCが短い会社には、どのような特徴がありますか。

【答え】一般的には、少ない運転資本で事業を回しやすく、現金化の速度が速い会社と考えられます。ただし医療企業では、安全在庫や供給責任も考慮する必要があります。

問題10 売上と利益が増えているのに営業キャッシュフローが悪化している場合、何を見るべきでしょうか。

【答え】売掛金、在庫、買掛金などの運転資本の増減を確認します。

総合ケーススタディ――どちらの成長企業が強い?

A Medical Deviceは、前年売上100億円、今年売上150億円。営業利益10億円から18億円。売掛金20億円から50億円。在庫20億円から45億円。買掛金15億円から25億円。前年運転資本、20+20-15=25億円。今年運転資本、50+45-25=70億円。運転資本増加45億円。B Medical Cloudは、前年売上100億円、今年売上150億円。営業利益10億円から18億円。売掛金10億円から12億円。在庫ほぼゼロ。さらに、年間契約前払いによる契約負債が増加。営業キャッシュフロー、12億円から30億円。両社とも、売上50%増。営業利益80%増。表面上は同じ成長。しかし、キャッシュ構造はまったく違います。A社は成長するほど、運転資本が必要。B社は成長するほど、顧客から先に現金が入る。どちらが優秀でしょうか。それだけでは決められません。A社には、製造技術、参入障壁、高い医療価値があるかもしれません。しかし、必要成長資金は大きい。B社は、少ない資本で成長できる。しかし、競争激化、解約率、技術陳腐化というリスクがあるかもしれません。企業分析では、利益だけではなく、「その利益を作るために、どれだけ現金が必要なのか」まで見る必要があります。

JMEIでは、売上成長率や営業利益率だけで、「良い成長」とは判断しません。特に医療企業では、成長の裏側で、在庫、売掛金、設備、研究開発が増加することがあります。重要なのは、その成長が、最終的にキャッシュを生むかどうかです。そこでJMEIでは、売上、利益、運転資本、営業キャッシュフロー、設備投資、FCFという流れで見ます。売上が増える、利益も増える、しかし、運転資本がそれ以上に増える、営業キャッシュフローが増えない。この場合、成長の質を慎重に確認します。一方、売上が増える、利益が増える、運転資本効率も改善する、営業キャッシュフローが増える、FCFも増える、なら、非常に強い成長モデルの可能性があります。企業にとって、利益は重要です。しかし、従業員給与、研究開発、設備投資、借入返済、M&A、株主還元、これらに使えるのは、会計上の利益ではなく、現金です。だからJMEIでは、「いくら儲けたか」だけではなく、「その利益を、どれだけ現金へ変えられたか」を重視します。

JMEI Medical Insight

医療企業の運転資本には、一般企業とは少し違う視点が必要です。通常、在庫を減らす、売掛金を早く回収する、買掛金の支払いを遅くする、そうすればCCCは短くなり、資金効率は改善します。しかし医療では、効率だけを追求すると問題が起きることがあります。例えば、医薬品在庫。効率化のために、安全在庫を極端に削減する。その結果、災害、感染症、原材料不足、物流停止が起きたとき、患者へ薬を届けられない。財務上は効率的でも、医療企業としては脆弱です。反対に、必要以上の在庫を持ち続ければ、期限切れ、廃棄、資金拘束が発生します。重要なのは、最小在庫ではありません。最適在庫です。これは病院でも同じです。介護施設でも同じです。医療機器メーカーでも同じです。JMEIでは、Capital Efficiency、資本効率だけでなく、Healthcare Resilience、医療供給の強靱性も同時に見ます。最も優れた医療企業とは、CCCが最も短い企業ではありません。患者への供給責任を守りながら、必要以上の資金を事業の中に眠らせず、その資金を、研究開発、新製品、設備、人材へ再投資できる企業です。運転資本を見ることは、単に企業のお金の流れを見ることではありません。その会社が、限られた資本をどれだけ有効に使いながら、医療を持続的に提供できるかを見ることなのです。

今回のポイント

第45講で最も覚えてほしいのは、「利益と現金は同じではない」ということです。企業分析では、運転資本を、売掛金+在庫-買掛金と簡略化して考えることができます。売掛金が増える、現金回収が遅れる。在庫が増える、現金が在庫へ変わる。買掛金が増える、支払いが後になるため、現金が残る。そして、売掛金回収日数+在庫回転日数-買掛金支払日数で考えるのが、CCC、Cash Conversion Cycleです。企業分析では、売上、利益、運転資本、営業キャッシュフロー、FCFまでつなげて見ます。特に成長企業では、「売上が何%伸びたか」だけではなく、「その成長のために、何円の追加資金が必要だったか」を見ることが重要です。そして最後に、「この会社は、利益をどれだけ速く現金へ変えられるのか?」と考えます。利益を作れる会社。現金を作れる会社。この2つを区別できるようになると、企業分析は大きく深まります。

次回予告

第46講 営業キャッシュフローとは何か?――「本業で本当に現金を稼いでいる会社」を見抜く

第45講では、運転資本、売掛金、在庫、買掛金、CCCについて学びました。そして、利益が増えていても、運転資本が増えれば、現金が減ることがあると分かりました。では、会社が本業から実際にどれだけ現金を生み出しているのか。それをどこで確認すればよいのでしょうか。答えが、営業キャッシュフローです。純利益100億円、営業キャッシュフロー200億円という会社。純利益100億円、営業キャッシュフローマイナス50億円という会社。同じ利益でも、企業の姿はまったく違います。次回は、営業キャッシュフローとは何か、純利益との違い、減価償却、運転資本、なぜ利益より営業キャッシュフローが大きくなるのか、なぜ黒字でも営業キャッシュフローがマイナスになるのか、製薬企業、医療機器企業、医療DX、病院、介護・福祉企業では営業キャッシュフローをどう見るのか、そして、「利益の質」をどう見抜くのかを、企業の生命線である、本業からの現金創出力を学んでいきます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。

受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。

一覧へ戻る

免責事項

当サイトに掲載する分析・レポート・指標・講座等の内容は、医療企業および医療産業に対する理解を深めることを目的とした調査・研究および教育目的の情報提供です。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業その他の登録業務には該当せず、特定の有価証券の取得・売却を勧誘・推奨するものではありません。投資その他の意思決定は、利用者ご自身の判断と責任において行ってください。

掲載内容は作成時点で入手可能な公開情報等に基づいて作成していますが、その正確性・完全性・最新性を保証するものではありません。また、掲載内容は予告なく変更・削除される場合があります。当サイトの情報の利用により生じたいかなる損害についても、当研究所は責任を負いかねます。

当サイトで言及する企業名・製品名・サービス名は、各社の商標または登録商標です。当研究所は、分析対象企業からの依頼に基づく評価の作成・掲載は行いません。