JMEI 医療企業分析アカデミー 第2講 「売れている会社」と「儲かっている会社」は違う
はじめに
第1講では、企業分析とは何かについて学びました。そこで最も大切にしたのは、「株価を見る前に、会社を見る」という考え方でした。
では、会社を見るときに最初に確認する数字は何でしょうか。その基本になるのが、売上・利益・利益率です。
企業の決算を見ると、「売上高1兆円」「営業利益1,000億円」「増収増益」といった言葉が並んでいます。
しかし、売上が大きい会社だから優れているとは限りません。売上が伸びていても、利益が減っている会社もあります。逆に、売上の伸びは小さくても、利益率が改善している会社もあります。
今回は、「どれだけ売ったのか」と「どれだけ儲けたのか」を分けて考えることから始めます。
1.売上とは何か?
売上とは、会社が商品やサービスを提供して得た収益の大きさを示す基本的な数字です。
例えば、ある医療機器メーカーが1年間に、カテーテル、検査装置、注射器などを合計1,000億円販売したとします。この場合、売上高は1,000億円です。
売上を見ることで、会社の事業規模をある程度知ることができます。
しかし、ここで注意が必要です。売上高1,000億円が、そのまま会社の儲けになるわけではありません。
2.売上からはさまざまな費用が引かれる
会社が商品を販売するためには、お金がかかります。例えば医療機器メーカーなら、
- 原材料費
- 工場の人件費
- 物流費
- 営業担当者の人件費
- 研究開発費
- 広告宣伝費
- 管理部門の費用
などがあります。
したがって、1,000億円売ったとしても、その1,000億円すべてが会社に残るわけではありません。
そこで次に見るのが、利益です。
3.利益とは何か?
利益とは簡単にいえば、売上から必要な費用を差し引いた後に残るお金です。
例えば、売上高1,000億円、費用900億円なら、利益は100億円です。
反対に、売上高1,000億円、費用990億円なら、利益は10億円です。
どちらも売上は1,000億円です。しかし、会社に残る利益は大きく違います。
つまり、売上の大きさだけでは、会社の収益力は分からないのです。
4.「売れている会社」と「儲かっている会社」は違う
A社とB社を比較してみましょう。
- A社:売上高 2,000億円/利益 40億円
- B社:売上高 1,000億円/利益 150億円
売上高だけを見ると、A社はB社の2倍あります。しかし利益は、A社40億円、B社150億円です。
つまりB社の方が、少ない売上から大きな利益を生み出しています。
ここで登場するのが、利益率です。
5.利益率とは何か?
利益率とは、売上に対して、どれくらい利益を残せたかを見る指標です。
例えば、売上高1,000億円、営業利益100億円なら、
100億円 ÷ 1,000億円 × 100 = 10%
です。
つまり、売上100円につき10円の営業利益を残したと考えられます。
この「何%残せたか」が、企業の収益性を見る重要な手掛かりになります。
6.A社とB社の利益率を計算してみる
先ほどの2社を見てみましょう。
A社 売上高2,000億円/利益40億円
利益率は、40 ÷ 2,000 × 100 = 2%です。
B社 売上高1,000億円/利益150億円
利益率は、150 ÷ 1,000 × 100 = 15%です。
売上規模ではA社の方が大きい。しかし収益性ではB社の方が高い。
このように、会社の大きさと、会社の稼ぐ効率は別です。
7.決算では利益がいくつも出てくる
企業の決算を見ると、営業利益、税引前利益、当期純利益など、複数の利益が出てきます。
最初からすべてを暗記する必要はありません。まずは、営業利益を意識してみましょう。
営業利益は、その企業が本業でどれだけ利益を生み出したかを見る代表的な数字です。
例えば医療機器メーカーなら、医療機器を開発し、製造し、販売するという本業からどれくらい利益を出したかを見るイメージです。
8.営業利益が重要な理由
例えば、ある会社が土地を売却して100億円の利益を出したとします。それによって最終利益が大きく増えたとしても、毎年土地を売り続けられるわけではありません。
一方、本業の売上が伸び、本業の営業利益が増えているのであれば、事業そのものが強くなっている可能性があります。
そのため企業分析では、本業の稼ぐ力を見るために営業利益を重視することがあります。
9.売上が増えても安心できない
例えば、ある医療機器メーカーの業績が次のようになりました。
- 前年:売上高 1,000億円/営業利益 100億円
- 今年:売上高 1,200億円/営業利益 80億円
売上は20%増えています。しかし営業利益は20%減っています。これは、増収減益です。
ここで、「売上が増えているから順調だ」と考えるのは早すぎます。
次に、「なぜ利益が減ったのか?」を確認します。
10.利益が減った理由を見る
利益が減る理由には、さまざまなものがあります。例えば、
- 原材料価格が上がった
- 人件費が増えた
- 物流費が上昇した
- 研究開発費を増やした
- 海外進出のため先行投資した
- 新工場を稼働させた
などです。
ここで重要なのは、すべての費用増加が悪いわけではないということです。
例えば研究開発費が増えた結果、今期の利益が減っていても、将来の成長製品を作るための投資かもしれません。
したがって、「減益」という数字を見たら、減益の理由まで確認する必要があります。
11.利益率が改善した会社
今度は別のケースです。
- 前年:売上高 1,000億円/営業利益 100億円/営業利益率 10%
- 今年:売上高 1,100億円/営業利益 143億円/営業利益率 13%
売上は10%増ですが、営業利益は43%増えています。さらに利益率も、10% → 13%へ改善しました。
この場合、高付加価値製品が増えた、コスト削減が進んだ、価格改定ができた、生産効率が改善した、などの可能性があります。
ここでも、「なぜ利益率が上がったのか?」と考えます。
12.医療機器企業では「消耗品」が利益率を変えることがある
医療機器企業のビジネスモデルを考えてみましょう。
A社は検査装置を販売しています。装置を1台売れば、大きな売上が発生します。しかし、その後に専用試薬を継続して販売できるとしたらどうでしょうか。
装置の設置台数が増える → 検査件数が増える → 試薬が継続的に売れる
という流れができます。
このようなビジネスでは、単に装置売上だけでなく、継続的な消耗品売上が会社の収益性にどう影響するかを見ることが重要になります。
13.製薬企業では研究開発費を見る
製薬会社の場合には、研究開発費が大きな費用になることがあります。
例えば、売上高5,000億円、営業利益500億円だった会社が、翌年に研究開発費を大幅に増やし、営業利益400億円になったとします。
数字だけを見ると減益です。しかし、有望な新薬候補を複数開発しているのであれば、短期的な利益減少と長期的な成長投資を分けて考える必要があります。
医療企業では、費用の「中身」を見ることが非常に重要です。
14.ケーススタディ――AメディカルとBメディカル
2社を比較してみましょう。
- Aメディカル:売上高 3,000億円/営業利益 150億円/売上成長率 8%
- Bメディカル:売上高 1,500億円/営業利益 225億円/売上成長率 6%
まず営業利益率を計算してみます。
A社:150 ÷ 3,000 × 100 = 5%
B社:225 ÷ 1,500 × 100 = 15% です。
15.どちらが良い会社?
数字だけならB社の収益性が高いことが分かります。
しかし、「B社の方が必ず優良企業」とまでは言えません。
A社が今、大規模な研究開発投資を行っているかもしれません。B社の高い利益率が一時的なものかもしれません。A社の市場が急成長しているかもしれません。
つまり、売上、利益、利益率は重要ですが、それだけで結論を出さないということです。これが企業分析の基本姿勢です。
16.売上と利益は「成長率」も見る
企業分析では、現在の金額だけではなく、前年からどれくらい増減したかも確認します。
例えば、売上高 1,000億円 → 1,100億円なら、10%増。営業利益 100億円 → 130億円なら、30%増です。
この場合、利益の方が売上より速く成長しています。事業の収益性が改善している可能性があります。
逆に、売上+20%、営業利益-10%なら、「何かコストが増えていないか?」と考えます。
17.JMEI式「売上と利益を見る6つの質問」
企業の決算を見たら、まず次の6つを考えてみましょう。
- 売上高はいくらか?
- 売上高は前年より伸びているか?
- 営業利益はいくらか?
- 営業利益は前年より伸びているか?
- 営業利益率は何%か?
- 利益率が変化した理由は何か?
この6点を見るだけでも、「売上が増えたから良い会社」という見方から一歩進むことができます。
18.練習問題
問題1 売上高1,000億円、営業利益100億円の会社があります。営業利益率は何%でしょうか。(A.1% B.10% C.100%)
【答え】B.10%です。100億円 ÷ 1,000億円 × 100 = 10%です。
問題2 A社は売上高2,000億円、営業利益100億円。B社は売上高1,000億円、営業利益150億円。どちらの営業利益率が高いでしょうか。
【答え】B社です。A社は5%。B社は15%です。
問題3 売上が20%増えましたが、営業利益は10%減りました。何を確認すべきでしょうか。
【答え】利益が減った原因を確認します。原材料費、人件費、研究開発費、先行投資など、費用増加の中身を見る必要があります。
問題4 研究開発費が増えたため営業利益が減りました。すぐに悪い決算と判断してよいでしょうか。
【答え】判断できません。研究開発の内容や将来の成長につながる投資かどうかを確認する必要があります。
問題5 売上は10%増、営業利益は40%増、営業利益率も上昇しました。どのようなことが考えられるでしょうか。
【答え】高付加価値製品の増加、価格改善、生産効率向上、コスト削減などによって、収益性が改善した可能性があります。
19.JMEIの視点
JMEIでは、売上高だけを見ません。
売上 → 営業利益 → 利益率 → 前年との比較 → 変化した理由
という順番で見ていきます。
さらに医療企業の場合には、研究開発、新製品、薬価、海外展開、医療制度、医療現場での需要まで確認します。
数字を見たとき、「高い」「低い」だけで終わらず、「なぜ?」と考える。この習慣が企業分析力を育てます。
JMEI Medical Insight
医療企業では、利益率だけを見て優劣を決めることはできません。
例えば、非常に高い利益率を維持している企業があっても、研究開発を十分に行っていなければ、将来の商品が育っていない可能性があります。
反対に、現在の利益率はやや低くても、新薬、新しい医療機器、海外工場、AIなどへ積極的に投資している企業は、将来の成長に向けた準備をしているのかもしれません。
だからJMEIでは、「今どれだけ儲けているか」と同時に、「その利益を未来の医療へどう使っているか」も見ていきます。
企業の利益とは、単なる最終結果ではありません。次の研究開発や設備投資を生み出す、未来への原資でもあります。
今回のポイント
今回、最も覚えてほしいのは、「売れていること」と「儲かっていること」は違うということです。
売上高は会社の規模を見る数字。営業利益は本業でどれだけ利益を生み出したかを見る数字。営業利益率は、売上に対してどれくらい効率よく利益を残したかを見る数字です。
企業を見たら、売上はいくらか。利益はいくらか。利益率は何%か。前年よりどう変化したか。そして、なぜ変化したのか。
ここまで考えることで、企業分析が始まります。
次回予告
第3講 ROE・ROAとは何か?――会社の「稼ぐ力」を資本と資産から読む
売上や利益が分かったら、次は、「その利益を生み出すために、どれだけのお金を使ったのか」を考えます。
100億円の利益を生み出すのに1,000億円必要な会社。500億円で同じ100億円を生み出せる会社。同じ利益でも効率は違います。
第3講では、ROE・ROAについて学び、「会社が持つお金や資産を、どれだけ効率よく利益に変えているのか」を読む方法へ進みます。
本講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。
講座に関するご注意
本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。記事中で企業名に言及する場合も、分析手法を説明するための例示であり、投資を勧めるものではありません。
受講による学習成果、および受講者の投資成果を保証するものではありません。投資その他の意思決定は、ご自身の判断と責任において行ってください。