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医療企業分析アカデミー

第28講 売上成長率を分解する――「数量・価格・製品ミックス」から本当の増収理由を読む

JMEI 医療企業分析アカデミー 第28講 「数量・価格・製品ミックス」から本当の増収理由を読む

第27講では、セグメント分析について学びました。企業全体の売上高や営業利益を見るだけでは、どの事業が成長しているのか、どの事業が利益を生み出しているのか、どの事業が将来の主力になりそうなのかまでは分かりません。そこで企業を、医薬品、医療機器、診断、医療AI、地域などのセグメントへ分解することが重要でした。例えば、全社売上+10%という数字でも、医薬品-5%、医療機器+20%、診断+8%、医療AI+40%というように、中身は大きく異なる場合があります。

今回は、さらに一段深く進みます。例えば医療機器事業の売上高が、前年比+20%だったとします。素晴らしい成長です。しかし、なぜ20%増えたのでしょうか。販売数量が増えた。値上げした。高価格製品が多く売れた。海外売上が増えた。円安によって円換算売上が増えた。企業を買収したため、その会社の売上が加わった。どれも、売上+20%という結果を作る可能性があります。しかし、その意味はまったく違います。例えば、販売数量+20%なら、製品そのものの普及が進んでいる可能性があります。一方、販売数量0%で為替効果+20%なら、本業の販売量はほとんど伸びていないかもしれません。企業分析で重要なのは、「売上が伸びた」という結果を見るだけではなく、「なぜ売上が伸びたのか」を分解することです。第28講では、売上高=数量×価格という基本から始め、数量効果、価格効果、製品ミックス、地域ミックス、為替、M&A、新製品、既存製品まで増収要因を分解します。そして、「売上が伸びている会社」と「本業そのものが強くなっている会社」は何が違うのか、増収の「質」を読む方法を学んでいきます。

数量と価格の基本

売上高を非常に単純化すると、売上高=販売数量×販売価格です。例えば医療機器を1台100万円で1,000台販売したとします。売上高は、100万円×1,000台=10億円です。まずこの基本を覚えましょう。この式を見ると、売上を増やす基本的な方法は、数量を増やすまたは価格を上げることです。もちろん実際の企業には多くの製品があり、海外事業やM&Aなどもあります。しかし最初は、数量×価格から考えると売上成長が理解しやすくなります。

医療機器Aの、販売価格100万円、前年販売数1,000台、前年売上高10億円。今年、価格は100万円のまま、販売数が1,200台へ増加。今年売上高は12億円。売上成長率は20%です。これは、数量増加による増収です。今度は販売数量が1,000台のまま、販売価格を100万円から120万円へ上げたとします。売上高は10億円から12億円。同じく20%増です。しかし今回は、数量ではなく価格上昇による増収です。

A社は販売数量+20%で価格変化なし、B社は販売数量変化なしで価格+20%。どちらも売上+20%です。しかし企業分析上の意味は違います。A社は、製品を使う顧客が増えた、市場シェアが上がった、市場そのものが拡大した可能性があります。B社は、価格決定力、インフレ対応、製品価値向上などが背景にあるかもしれません。必ずしも数量増加が価格上昇より優れているわけではありません。強い競争優位性を持つ会社なら、数量を減らさず値上げできることがあります。これは非常に強い価格決定力を意味する場合があります。一方、価格を下げなければ数量を増やせない企業もあります。重要なのは、価格と数量をセットで見ることです。

Aメディカルは売上+15%、販売数量+15%、平均販売価格は横ばい。Bメディカルは売上+15%、販売数量-5%、平均販売価格+21%程度。数字上は同じ+15%成長です。しかし中身はまったく違います。A社は、価格を維持しながら販売数量を15%増やしています。新規顧客、市場シェア拡大、新地域進出、医療需要増加などの可能性があります。比較的分かりやすい本業成長です。B社は、数量が減っています。しかし平均販売価格上昇によって売上を伸ばしています。この場合、高付加価値製品へ移行、低価格製品から撤退、大幅値上げなどが考えられます。数量減少=必ず悪いではありません。例えば企業が低利益率製品を縮小し、高利益率製品へ集中したとします。販売数量は減る。しかし、平均販売単価上昇、粗利率上昇、営業利益増加ということがあります。この場合、数量減少は戦略的なものかもしれません。

ASPと製品ミックス

企業資料では、ASPという言葉が出ることがあります。Average Selling Priceの略で、平均販売価格と考えることができます。複数の商品を販売している場合、1個当たり平均でいくらで売れているかを見る指標です。ASPが上がる理由には、値上げ、高価格製品の売上増加、低価格製品の縮小、地域構成変化などがあります。つまりASP上昇=単純な値上げとは限りません。

第24講でも、製品ミックスという言葉が出てきました。企業には、高価格製品、低価格製品、高利益率製品、低利益率製品があります。どの製品がどれくらい売れるかによって、平均販売価格、粗利率、売上が変化します。簡単にいえば、「どの商品が、どれくらい売れているかの組み合わせ」です。例えば、標準医療機器100万円と高性能医療機器200万円という2製品があります。前年は標準機器が多く売れた。今年は高性能機器が多く売れた。すると、値上げをしなくても、平均販売価格が上昇します。

前年は、標準モデル800台×100万円、高性能モデル200台×200万円。売上高は、8億円+4億円=12億円。販売台数は1,000台。平均販売価格は120万円です。今年は、標準モデル500台×100万円、高性能モデル500台×200万円。販売台数は前年と同じ1,000台。売上高は、5億円+10億円=15億円。売上は12億円から15億円、25%増です。販売台数は1,000台のまま。各製品の販売価格も変わっていません。それでも売上が25%増えました。なぜでしょうか。高価格の高性能モデルの比率が増えたからです。これが、製品ミックス効果です。

医療企業では製品ミックスが非常に重要です。例えば医療機器企業が、旧型製品からAI搭載高性能モデルへ移行している。製薬企業が、成熟薬から新しい高付加価値薬へ売上構成を変えている。診断企業が、装置本体から高粗利試薬・消耗品の比率を高めている。こうした変化によって売上・利益が改善することがあります。高価格製品が多く売れるだけでなく、高粗利製品の構成比が上昇すれば、売上増加+粗利率改善が同時に起こる場合があります。これは非常に重要な増収です。

JMEI Deviceの、売上高+10%、販売台数+2%、価格改定+1%、残りは高性能製品へのミックス改善。さらに、高性能製品の粗利率70%、旧製品の粗利率35%だったとします。売上増加率は10%ですが、営業利益は30%増ということが起こり得ます。第26講の営業レバレッジともつながります。

数量が示す「普及」

数量増加には重要な意味があります。例えば、手術支援ロボット販売台数、検査件数、契約病院数、処方患者数、装置設置台数などです。数量が増えることは、医療現場で製品やサービスが実際に広がっていることを示す場合があります。医薬品では、処方量、患者数、投与数、市場シェアなどを見ることがあります。例えば新薬売上+30%、その理由が患者数+30%なら、薬の普及が進んでいる可能性があります。

Aファーマの売上+15%、患者数+1%、実質的な価格・構成要因+14%だったとします。売上は伸びています。しかし患者への普及という意味では、ほぼ横ばいです。増収の質を考える必要があります。医療では価格制度にも注意が必要です。医薬品や医療機器では、薬価、償還価格、保険制度、政府価格などの影響を受けます。したがって一般消費財のように、企業が自由に値上げできるとは限りません。逆に薬価改定などで、数量増加しているのに、価格低下によって売上が伸びない場合もあります。

Aファーマの処方量+15%、平均価格-9%程度、売上+5%。この場合、売上成長率だけ見ると+5%でそれほど高くありません。しかし医療現場での使用量は15%増えています。製品自体の普及は非常に強い可能性があります。ただし、価格-20%、数量+25%、売上ほぼ横ばいなら、値下げによって数量を増やしている可能性もあります。数量成長だけでも評価できません。常に、数量×価格をセットで見ます。

地域ミックスと為替

同じ製品でも、国や地域によって販売価格が違う場合があります。日本100万円、米国150万円、新興国70万円で販売しているとします。米国売上の構成比が上昇すると、全体の平均販売価格も上昇する可能性があります。商品価格そのものを変更していなくても、高価格地域の売上比率が増えることでASP上昇が起こります。これも値上げとは違います。

JMEI Medicalの国内売上は横ばい、米国売上+30%、欧州売上+10%、新興国売上+20%、全社売上+15%。米国は、平均販売価格、利益率ともに他地域より高いとします。すると、全社売上+15%だけでなく、全社利益率も改善する可能性があります。逆の地域ミックスもあります。高利益率地域の売上が減少、低利益率の新興国売上が急増なら、全社売上は伸びる、しかし利益率は下がるということがあります。増収の「場所」も重要なのです。

海外売上の多い企業では、為替が売上高に大きく影響する場合があります。例えば米国で10億ドルの売上があったとします。1ドル100円なら円換算売上は1,000億円、1ドル150円なら1,500億円。販売数量もドル建て売上も同じなのに、日本円の売上は500億円増えます。これを本業成長と同じに考えてよいでしょうか。いいえ。販売数量は変わっていません。現地通貨での価格も変わっていません。為替換算によって日本円表示の売上が増えただけです。企業の本業そのものが30%、50%成長したわけではありません。

企業によっては、為替影響を除いた成長率を開示します。報告売上成長率+18%、為替影響+8ポイント、為替影響除き+10%なら、本業に近い成長は約10%と考えることができます。企業資料では、Reported、Constant Currency、Organic Growthなどの表現が使われる場合があります。初心者の段階では、公表された売上成長率と、為替やM&Aなどを除いた事業そのものの成長率を分けて考える習慣をつけることが重要です。企業分析では、オーガニック成長という言葉が使われます。一般には、M&Aなどの影響を除き、既存事業そのものがどれくらい成長したかを見る考え方です。ただし企業によって定義が異なることがあります。決算資料に定義があれば確認しましょう。

M&Aによる成長

Aメディカルの前年売上は5,000億円。今年、売上1,000億円のB社を買収。既存事業の売上は前年と同じ5,000億円。連結売上は6,000億円。売上成長率は20%です。本業は成長したのでしょうか。既存事業は0%成長です。20%増収のすべてが、買収した企業の売上によるものです。これを、本業が20%成長したと考えてはいけません。企業買収によって成長すること自体は悪くありません。優良企業を合理的な価格で買収、シナジー創出、利益・FCF増加なら、企業価値を高める可能性があります。重要なのは、オーガニック成長と、M&Aによる成長を区別することです。

JMEI Healthcareの今年売上+25%。内訳は、既存事業数量効果+6%、価格効果+3%、製品ミックス+2%、為替+4%、M&A+10%。合計+25%。数字だけを見ると高成長企業です。しかし数量+6%、価格+3%、ミックス+2%を単純に合計すると、本業に近い部分は約11%。残りは、為替+4%、M&A+10%です。25%成長のすべてが自社事業の自然成長ではありません。ここが重要です。25%ではなく11%だから悪い、とは限りません。既存事業が11%成長しているなら、大型医療企業としては十分強い可能性があります。大切なのは、数字を正しく理解することです。

売上成長を、既存製品と新製品へ分けることも重要です。例えば製薬企業で、既存薬売上-5%、新薬売上+1,000億円、結果として全社医薬品売上+10%ということがあります。新製品が非常に強く成長する一方、既存製品の多くが減少している。この状態が悪いとは限りません。製品世代交代が進んでいる可能性があります。重要なのは、新製品が旧製品の減少以上に育つかです。

Aファーマの旧主力薬-800億円、その他既存薬-200億円、新薬A+700億円、新薬B+600億円。差し引き、+300億円。全社売上は増収です。数字だけなら小幅増収。しかし会社の中では大きな製品転換が起きています。将来を見るなら新製品比率が重要です。例えば、新製品売上比率が2024年10%、2025年20%、2026年35%と上昇。旧製品への依存度低下なら、企業の製品ポートフォリオが若返っている可能性があります。第16講のパテントクリフとつなげると、大型薬が特許切れ、売上減少、しかし次世代新薬が急成長なら、パテントクリフを乗り越えられる可能性があります。売上成長率だけではなく、旧薬減少対新薬増加を見ます。

医療機器では新モデルへの切り替えを見ます。旧モデルの売上減、新モデルの売上増、全体では横ばいという場合があります。これは、売上が成長していないというより、新モデルへの移行期かもしれません。新モデルの、価格、粗利率、市場反応を見る必要があります。医療SaaSでは、既存顧客と新規顧客へ分けることもできます。既存病院が追加機能を購入、新しい病院が契約、解約する病院もある。この組み合わせで売上が変化します。既存顧客へ、追加AI機能、追加ID、データ分析などを販売、1病院当たり売上が増加。これは、アップセルの一例です。新規顧客を取らなくても売上を増やせます。

その企業特有の「数量」を見つける

医療SaaSなら、売上=契約顧客数×顧客単価と考えられます。これは、数量×価格の応用です。契約病院数+20%、病院当たり売上+10%なら、売上はさらに大きく増える可能性があります。検査企業なら、検査件数×1件当たり売上と考えることができます。検査件数が増えたのか、高価格検査が増えたのか、価格改定があったのかを分けて考えます。介護・福祉事業なら、利用者数×利用者1人当たり売上という考え方ができます。さらに、施設数、稼働率、報酬単価、サービスミックスへ分解できます。売上の分解は、多くの業種に応用できます。

医療機器なら、販売台数、平均販売価格、高性能モデル比率、消耗品売上、設置台数、地域別売上などです。製薬なら、患者数、処方量、薬価、新薬、既存薬、地域、為替、M&Aなどを見ます。診断企業なら、装置設置台数、検査件数、試薬使用量、試薬単価、装置売上、消耗品売上、地域ミックスなどです。売上分解で重要なのは、その会社の数量に当たるものは何かを考えることです。製品個数とは限りません。患者数、契約病院数、手術件数、処方量、検査件数、設置台数、利用者数などがあります。こうした事業の状態を表す重要な数字を、KPI、Key Performance Indicatorと呼ぶことがあります。売上高だけではなく、売上を作る手前のKPIを見ることで、将来の売上を予測しやすくなります。

例えば診断装置企業で、今年の装置設置台数が+30%、消耗品売上はまだ+10%。しかし設置台数が増えれば、翌年以降の試薬売上増加につながる可能性があります。つまり設置台数は、将来売上の先行指標になる場合があります。手術ロボットでも同じです。手術ロボット設置台数増加、手術件数増加、専用器具・消耗品売上増加という流れです。現在売上だけでなく、次の売上を作る数字を見ることが重要です。

JMEI Diagnosticsの今年売上は横ばい。しかし、新規装置設置台数+40%、既存装置売上減少、試薬売上+8%、新型装置発売直後。この会社を、売上成長0%だから弱いと判断してよいでしょうか。新規装置設置台数+40%、新型装置普及中なら、将来の試薬・消耗品売上を作る基盤が拡大している可能性があります。現在の売上高より、インストールベースを見るべき局面かもしれません。売上高は結果です。売上になる前に、患者数、契約数、受注、設置台数、臨床採用などの変化があります。企業分析では、結果の数字だけでなく、結果を作る手前の数字を見ます。

売上+20%でも、為替効果+15%、実質数量+2%、価格+3%なら、見た目ほど本業成長は強くない可能性があります。翌年に為替が逆方向へ動けば、成長率が急低下することもあります。売上+15%でも、数量-10%、価格+28%程度なら、価格上昇で数量減少を補っている可能性があります。この状態が長期間続くかは慎重に見ます。数量+30%でも、大幅値下げ、粗利率急低下なら、市場シェアをお金で買っている可能性があります。数量増加が利益増加へつながるかを見る必要があります。

最も強い増収パターンの一つは、数量+10%、価格+3%、高付加価値製品比率上昇、市場シェア上昇、粗利率上昇という会社です。数量も伸びる、価格も維持・上昇、製品ミックスも改善、利益率も上がる。これは比較的質の高い成長と考えられる可能性があります。

3社を比較してみましょう。Aメディカルは売上+20%、数量+20%、価格横ばい、粗利率横ばい。Bメディカルは売上+20%、数量0%、値上げ+20%、粗利率上昇。Cメディカルは売上+20%、既存事業0%、M&A+20%。3社とも数字は+20%。しかし成長構造はまったく違います。A社は、数量が増えている、市場拡大、シェア上昇、新規顧客増加などを確認します。本業の販売拡大と考えやすい成長です。B社は、数量横ばい、値上げによる成長。価格決定力があるなら強みです。一方、翌年に数量減少が始まらないかを見る必要があります。C社は、既存事業は横ばい、買収によって売上を増やしています。M&Aの価格、利益率、ROIC、シナジーを確認します。売上成長率だけなら3社は同じですが、分析方法は全く異なります。

成長の中身を利益・キャッシュ・ROICへつなげる

企業が、売上+25%と発表したら、そのまま受け取らず、一枚剥がします。数量は?価格は?製品ミックスは?地域は?為替は?M&Aは?という問いを重ねます。これが企業分析です。売上成長要因が分かったら、次は、その成長は利益を増やすかを考えます。数量増加、工場稼働率上昇、営業レバレッジ、利益率改善。値上げ、粗利率改善。高粗利製品ミックス改善、利益率改善。低利益地域拡大、売上増、利益率低下。というようにつなげます。

さらにキャッシュへつなげます。売上増加、利益増加、その次はキャッシュです。大量の数量増加によって、在庫、売掛金も急増なら、営業CFが弱くなる場合があります。第22講の運転資本とつながります。さらにROICへつなげます。売上成長のために、巨大工場を建設、大量在庫、大型M&Aが必要なら、投下資本も増えます。利益が増えても資本がさらに大きく増えれば、ROICが低下することがあります。成長率だけではなく、成長に必要な資本も見ます。

JMEI式「売上成長を分解する12の質問」

医療企業の増収を分析するときには、次の12項目を確認しましょう。売上成長率は何%か。販売数量・患者数・契約数などは何%増えたか。平均販売価格は上昇したか。値上げなのか、製品ミックス改善なのか。高利益率製品の比率は上がっているか。どの地域が成長しているか。地域ミックスは利益率へどう影響しているか。為替は何ポイント売上へ影響したか。M&Aによる増収はいくらか。既存事業のオーガニック成長率はどれくらいか。新製品と旧製品の売上はどう変化しているか。売上成長が利益・FCF・ROICへつながっているか。そして最後に、「この会社の売上成長は、本業そのものが強くなった結果なのか?」と考えます。

練習問題

問題1 売上高を単純化した基本式として最も適切なのはどれでしょうか。(A.数量×価格 B.利益×資産 C.負債×金利 D.現金×ROE)

【答え】A.数量×価格。売上高を理解する基本は、どれだけ売ったかという数量と、いくらで売ったかという価格です。

問題2 販売価格100万円、販売数量1,200台です。売上高はいくらでしょうか。

【答え】12億円です。100万円×1,200台=12億円です。

問題3 前年販売台数1,000台、今年1,200台。販売価格は変わりません。増収の主な理由は何でしょうか。

【答え】数量増加です。販売数量が20%増加したことで売上が増えています。

問題4 販売数量も各製品の価格も変わっていないのに、平均販売価格が上昇しました。何が考えられますか。

【答え】高価格製品の販売構成比が上昇するなど、製品ミックスが改善した可能性があります。

問題5 円ベース売上+20%、為替効果+15ポイントです。売上+20%のすべてを本業成長と考えてよいでしょうか。

【答え】いいえ。大きな部分が為替換算による増加である可能性があります。為替影響を除いた成長率を確認します。

問題6 企業買収によって売上が20%増加しましたが、既存事業売上は横ばいです。既存事業は20%成長したと言えるでしょうか。

【答え】いいえ。増収はM&Aによるもので、既存事業自体は横ばいです。

問題7 処方患者数+15%、薬価低下によって売上+5%でした。製品の普及は弱いと判断してよいでしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。患者数は15%増えているため、医療現場での普及自体は強い可能性があります。

問題8 販売数量+30%ですが粗利率が大幅低下しました。何を確認すべきでしょうか。

【答え】値下げによって数量を増やしていないか、低利益率製品が増えていないかなどを確認します。

問題9 売上成長を分析した後に確認すべき財務指標として重要なのは何でしょうか。

【答え】営業利益、粗利率、営業CF、FCF、ROICなどを確認し、売上成長が利益・現金・企業価値へつながっているかを見ます。

総合ケーススタディ――JMEI Medical Technologiesの+24%増収を分解する

架空のJMEI Medical Technologiesを分析します。同社は、手術支援機器、カテーテル、診断機器、医療AIを世界展開しています。前年売上高1兆円、今年売上高1兆2,400億円。売上成長率は+24%。非常に強い成長に見えます。会社資料によると、増収要因は次の通りでした。販売数量効果+7%、価格効果+2%、製品ミックス効果+3%、為替効果+4%、M&A効果+8%。合計+24%。この会社の成長をどう評価すればよいでしょうか。

まず24%をそのまま使わない。最初に、24%成長企業で分析を終えないことが重要です。24%を、数量、価格、ミックス、為替、M&Aへ分解します。数量効果+7%を見ると、販売数量が増えています。これは、患者数増加、市場シェア上昇、新規病院採用、海外普及などを示す可能性があります。比較的、本業の需要拡大を表しやすい部分です。価格効果+2%を見ると、2%の価格効果があります。製品価値向上、値上げ、価格制度変更などを確認します。数量も+7%なので、値上げによって数量が大幅減少している状態ではなさそうです。

ミックス+3%を見ると、高価格・高付加価値製品の比率が上昇した可能性があります。さらに粗利率も改善しているなら、高利益率製品へのシフトが進んでいる可能性があります。為替+4%を見ると、24%成長のうち4ポイントは為替です。これは企業自身の販売努力だけで生まれた成長とは言いにくい部分です。為替が翌年逆転すれば、成長率の押し下げ要因になる可能性もあります。M&A+8%を見ると、24%のうち8ポイントは買収効果。約3分の1です。既存事業そのものの成長ではありません。買収企業について、利益率、ROIC、シナジー、買収価格を見る必要があります。

オーガニック部分を考えると、単純化して、数量+7%、価格+2%、ミックス+3%なら、既存事業の事業成長に近い部分は約12%と考えることができます。24%より小さいですが、12%でも十分強い可能性があります。次に利益を見ます。今年、売上+24%、営業利益+38%。粗利率、58%から61%。営業利益率、14%から15.6%だったとします。売上成長以上に利益が伸びています。なぜでしょうか。高付加価値製品へのミックス改善、数量増加による工場稼働率上昇、価格効果、既存販管費の活用などが考えられます。第24講、第25講、第26講の内容がつながります。

さらにキャッシュを見ます。営業CFも+30%、FCFも+25%なら、売上成長、利益成長、キャッシュ成長へつながっています。比較的質の高い成長の可能性があります。ただしM&Aの資本負担を見ます。買収によって売上が8%増えています。そこで、有利子負債、のれん、ROICを確認します。もし大型借入で買収し、ROICが低下しているなら、売上拡大の代償が大きい可能性があります。今年の24%増収だけで結論を出しません。翌年、買収事業が成長するか、既存事業の数量成長が続くか、価格を維持できるか、高付加価値製品比率がさらに上がるか、為替が逆風になっても成長できるかを追跡します。

もう一つのケースとして、B Medicalの売上+24%、内訳は数量-2%、価格+3%、ミックス+1%、為替+7%、M&A+15%。こちらも+24%です。しかし既存事業はほぼ成長していません。JMEI Medical Technologiesとは、同じ24%増収でも質が大きく違うことが分かります。

JMEIでは、企業の決算で、「売上高、前年同期比24%増」と書かれていても、それだけを記事の結論にはしません。必ず、なぜ?と考えます。売上を見る、数量を見る、価格を見る、製品ミックスを見る、地域ミックスを見る、為替を見る、M&Aを見る、新製品を見る、既存製品を見る、利益を見る、キャッシュを見る、ROICを見るという順番で考えます。売上高は、企業活動の結果です。しかし企業の本当の強さを見るためには、その結果を生み出した原因を理解しなければなりません。例えば、数量増加+価格維持+高付加価値製品比率上昇なら、非常に強い事業構造かもしれません。一方、数量減少+為替追い風+M&Aだけで売上が増えているなら、見た目ほど本業は強くない可能性があります。JMEIでは、増収率より、増収の中身を重視します。

JMEI Medical Insight

医療企業の売上成長を考えるとき、JMEIが特に重視するのは、「医療価値の拡大が数量成長につながっているか」という視点です。例えば新しい医療機器が、手術時間を短縮する、合併症を減らす、医師の負担を減らす、患者の回復を早める。その結果、導入病院数が増える、使用件数が増える、市場シェアが上がるという成長なら、医療価値、数量増加、売上成長という比較的健全な流れがあります。医薬品なら、治療効果、安全性、新しい治療選択肢によって患者数が増える。医療AIなら、業務効率化、診断精度向上、人手不足への対応によって契約病院数が増える。このように、医療価値が実際の利用拡大へ変わっているかを見ることが重要です。

一方、為替だけで売上が増えた、企業買収だけで売上が増えた、値上げだけで売上が増えたという成長は、それ自体が悪いわけではありません。しかし、医療現場で利用が広がった結果の成長とは意味が違います。JMEIでは、売上成長×数量×価格×医療価値×利益率×キャッシュ創出力という流れで考えます。そして理想的な成長の一つは、高い医療価値、患者・医療機関で採用増加、数量増加、市場シェア上昇、規模拡大、利益率改善、FCF増加、次の医療イノベーションへ再投資という循環です。つまり売上高の分解は、単なる数字遊びではありません。企業の製品が、実際に医療現場へどれくらい広がっているのかを見る方法でもあるのです。

今回のポイント

第28講で最も覚えてほしいのは、「同じ売上成長率でも、その中身によって意味はまったく違う」ということです。まず基本は、売上高=数量×価格です。そこから、数量、価格、製品ミックス、地域ミックス、為替、M&A、新製品、既存製品へ分解します。企業分析では、売上成長率を見る、数量増加を確認する、平均販売価格を見る、値上げとミックス効果を分ける、地域別成長を見る、為替影響を除く、M&A効果を除く、オーガニック成長を見る、利益への効果を見る、キャッシュへの効果を見るという順番で考えます。そして最後に、「この会社は、本業そのものが強くなって売上を伸ばしているのか?」と問いかけます。売上+20%という数字は答えではありません。分析の入口です。数量が伸びたのか、価格が伸びたのか、製品の質が変わったのか、買収しただけなのか、為替なのか。そこまで分解することで、見かけの成長と、本当の成長を区別できるようになります。

次回予告

第29講 市場シェアとは何か?――「売上が増えた会社」と「競合から勝ち取った会社」の違いを読む

第28講では、売上成長を、数量、価格、製品ミックス、地域、為替、M&Aへ分解しました。そこで次に考えたいのが、数量が増えた理由です。例えばA社の医療機器販売数量が+10%だったとします。非常に良い数字です。しかし市場全体が+20%成長していたらどうでしょうか。A社は数量を増やしていますが、市場より遅い。つまり、市場シェアを失っている可能性があります。反対に、市場全体+3%、A社売上+15%なら、競合からシェアを奪っている可能性があります。企業の売上成長を見るときには、自社が何%伸びたかだけでなく、市場が何%伸びたかとの比較が必要です。そこで第29講では、市場シェアとは何か、市場成長率とは何か、売上成長率と市場成長率をどう比較するのか、数量シェアと金額シェアは何が違うのか、新薬の処方シェアをどう見るのか、医療機器の設置台数シェアをどう考えるのか、シェア拡大のための値下げは良い戦略なのか、そして「市場に乗って成長している会社」と「市場の中で競争力を高めている会社」は何が違うのかを、企業の相対的な競争力を数字から読む方法へ進みます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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