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医療企業分析アカデミー

第49講 財務キャッシュフローとは何か?――企業は「誰のお金」で成長しているのか

JMEI 医療企業分析アカデミー 第49講 企業は「誰のお金」で成長しているのか

第48講では、投資キャッシュフローについて学びました。企業は、本業で現金を生み出し、その現金を、工場、研究施設、製造設備、M&A、新規事業などへ投資します。しかし、すべての投資を、本業で生み出した現金だけで賄えるとは限りません。例えば、営業キャッシュフロー300億円、新工場への投資500億円。200億円足りません。では、どうするのでしょうか。銀行から借りる、社債を発行する、株式を発行する。これらは、外部から現金を集める方法です。反対に、十分な現金を生み出せるようになった会社は、借金を返す、配当を支払う、自社株を買うといった形で、外部へ現金を返すこともあります。こうした、「企業がどこからお金を集め、どこへお金を返しているのか」を示すのが、財務キャッシュフローです。Cash Flow from Financing Activities、財務活動によるキャッシュフロー。今回の講義を理解すると、キャッシュフロー計算書の3つ、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローがつながります。そして、企業が、自分で稼いだお金で成長しているのか、銀行のお金で成長しているのか、株主のお金で成長しているのか、さらに、稼いだ現金を株主へ返せる段階に入っているのかが見えてきます。今回は、財務キャッシュフローとは何か、借入、借入返済、社債、増資、配当、自社株買い、そして、3つのキャッシュフローを組み合わせて企業の成長段階を読む方法まで学んでいきます。

財務CFの基本と、借入の考え方

財務キャッシュフローとは、企業の資金調達と資金返済に伴う、現金の流れです。代表的なものは、銀行からの借入、社債発行、株式発行、借入金返済、社債償還、配当、自社株買いです。つまり、企業と、銀行、債券投資家、株主との間のお金の動きが、財務CFに表れます。基本的な考え方として、外部からお金を集める、財務CFはプラス方向。外部へお金を返す、財務CFはマイナス方向。例えば、銀行から100億円借りる、財務CFプラス100億円。銀行へ100億円返済、財務CFマイナス100億円。株式を発行して、200億円調達、財務CFプラス200億円。株主へ50億円配当、財務CFマイナス50億円。ここまでは比較的簡単です。しかし、企業分析では、財務CFがプラスだから良い、マイナスだから悪い、とは判断しません。むしろ、財務CFは、企業の成長段階によって、意味が変わります。

財務CFプラス100億円のケーススタディを見てみましょう。A Medicalは、財務CFプラス100億円。理由、新工場建設のために、長期借入100億円。B Medicalは、財務CFプラス100億円。理由、本業の赤字を補うため、100億円借入。同じ、プラス100億円。しかし、意味はまったく違います。A社は、将来成長のための資金調達。B社は、本業の資金不足を補うための資金調達。財務CFを見るときは、「なぜ資金を調達したのか」を確認する必要があります。

では、借入は悪いことでしょうか。いいえ。借金=悪、ではありません。例えば、100億円借りる、金利2%、年間利息2億円。その100億円を使って、年間20億円の利益を生み出す事業を作る。この場合、借入を利用することで、企業価値を高められる可能性があります。一方、100億円借りる、年間利益1億円、利息負担2億円。これでは、投資収益より、資金コストの方が大きい。問題です。ここで、以前学んだ、ROICと、WACCの考え方につながります。借りたお金を、資本コスト以上の収益率で運用できるか。これが重要です。借金を使って成長するケーススタディを見てみましょう。Medical Device Aは、自己資金100億円、借入200億円、合計300億円で、新工場建設。新工場完成後、営業利益、年間60億円増加。営業CFも増加。借入返済も順調。この場合、借入は、成長を加速させる手段として機能しています。

では、借入金は何を確認するでしょうか。まず、借入金残高。次に、短期借入か、長期借入か。金利、返済期限、営業CF、FCF、そして、利息負担です。借入金1,000億円、大きい、危険、とは限りません。営業CFが、年間2,000億円ある企業、借入1,000億円、それほど大きな負担ではないかもしれません。一方、営業CF50億円、借入1,000億円、かなり重い可能性があります。つまり、借金は、絶対額ではなく、返済能力と比較する。ここが重要です。

社債・増資・希薄化

次に社債です。社債とは、企業が投資家から直接お金を借りる仕組みと考えると分かりやすいでしょう。例えば、医療企業が、5年社債500億円を発行。企業に、500億円の現金が入る。財務CFプラス500億円。5年後、社債を償還。500億円支払う。財務CFマイナス500億円。企業は、銀行借入、社債、株式などを組み合わせて資金を調達します。ここで重要なのが、資金調達コストです。銀行から借りれば、利息。社債なら、利息。株式なら、返済義務はありません。では、株式が一番得でしょうか。そうではありません。株主は、企業価値の成長や、配当を期待します。つまり、株主資本にも、コストがあります。これが、株主資本コストです。そして、借入コストと株主資本コストを組み合わせた考え方が、WACCでした。財務CFを見ると、企業が、どのような資本構成で成長しようとしているのかが見えてきます。

次に増資です。増資とは、新しい株式を発行して、投資家から資金を集めることです。例えばバイオベンチャー、まだ新薬は承認されていない、売上ほぼゼロ、営業CFマイナス100億円。しかし、臨床試験には、さらに300億円必要。銀行は、簡単には貸してくれないかもしれません。そこで、株式を発行、300億円調達、財務CFプラス300億円。この300億円で、臨床試験を継続、新薬承認を目指す。バイオ企業では、このような資金調達が重要です。増資のケーススタディを見てみましょう。Biotech Aは、現金100億円、年間営業CFマイナス80億円。このままなら、約1年程度で資金が厳しくなる可能性。そこで、200億円増資、資金余力を確保、Phase IIIを継続。増資した、悪い会社でしょうか。そうとは限りません。重要なのは、調達した資金が、将来価値へつながるかです。しかし、株主には別の問題があります。希薄化です。例えば、発行済株式100万株、純利益1億円、1株利益EPS100円。新たに100万株発行、発行済株式200万株。利益が変わらなければ、EPSは50円。つまり、1株あたりの利益が薄まります。これが、株式希薄化の基本的な考え方です。増資を見るときは、いくら調達したか、何に使うか、希薄化はどれくらいか、調達後、利益やFCFがどれだけ増えるのかを確認します。

配当・自社株買い

次に配当です。企業が利益や現金の一部を、株主へ返す。これが配当です。例えば、配当100億円、会社から現金が出る、財務CFマイナス100億円。財務CFがマイナスだから悪いでしょうか。違います。むしろ、成熟した優良企業では、安定した営業CFを生み出し、その一部を株主へ返していることがあります。配当できる会社のケーススタディを見てみましょう。Medical Aは、営業CF1,000億円、CAPEX300億円、FCF700億円、配当200億円、借入返済100億円、まだ400億円残る。比較的余裕があります。Medical Bは、営業CF200億円、CAPEX180億円、FCF20億円、配当100億円。どうやって80億円を補うでしょうか。現金取り崩し、借入、資産売却などが必要です。配当を見るときは、利益だけではなく、FCFで賄えているかを見ることが重要です。

次に自社株買いです。自社株買いとは、企業が市場などから、自社の株式を買い戻すことです。企業から現金が出る、財務CFは、マイナス方向。なぜ自社株を買うのでしょうか。理由はいくつかあります。株主還元、資本効率改善、株価が割安と経営陣が判断、余剰現金の活用などです。例えば、FCF500億円、成長投資、十分実施済み、借入も少ない、現金も十分、100億円の自社株買い、合理的な可能性があります。一方、営業CFが弱い、借入が多い、それでも、借金を増やして自社株買い。この場合は、慎重に評価する必要があります。つまり、自社株買いも、金額だけではなく、財務余力を見る。ここまで、財務CFの主要項目を見ました。借入、社債、増資、借入返済、配当、自社株買い。

3つのキャッシュフローの組み合わせパターン

ここから3つのキャッシュフローを組み合わせます。キャッシュフロー計算書の本当の面白さは、ここからです。パターン①営業CFプラス、投資CFマイナス、財務CFマイナス。どういう会社でしょうか。本業で現金を稼ぐ、将来へ投資する、さらに、借入返済や配当を行う。これは、成熟した優良企業で見られることがあるパターンです。例えば営業CF+1,000億円、投資CF-400億円、財務CF-300億円。本業で稼いだ現金だけで、投資と株主還元を賄っています。自己資金で成長できる企業と言えます。パターン②営業CFプラス、投資CF大幅マイナス、財務CFプラス。本業でも現金を生み出している、しかし、大型投資のため、外部資金も調達。例えば、新工場、大型M&A、病院買収など。成長企業で見られる可能性があります。ここでは、借りたお金が、将来の営業CF増加につながるかを見る必要があります。

パターン③営業CFマイナス、投資CFマイナス、財務CFプラス。本業で現金が出ている、さらに投資している、その資金を、外部から調達。スタートアップ、バイオベンチャー、新規事業立ち上げ期では、あり得るパターンです。しかし、重要なのは、資金が尽きる前に、営業CFをプラスへ転換できるか。これを、キャッシュバーンと、ランウェイの考え方で見ます。キャッシュバーンとは、一定期間に、どれだけ現金を消費しているか。ランウェイとは、現在の現金で、あとどれくらい事業を続けられるか。例えば現金300億円、年間キャッシュバーン100億円、単純化すれば、約3年分。しかし、臨床試験結果が出るまで、5年。なら、追加資金調達が必要になる可能性があります。バイオ企業では、非常に重要な分析です。パターン④営業CFマイナス、投資CFプラス、財務CFプラス。これは注意。本業で現金が流出、資産を売却、さらに借入。つまり、本業だけでは資金が回っていない可能性があります。もちろん、大規模事業再編など、例外はあります。しかし、何年も続くなら、持続可能性を確認する必要があります。

4社のキャッシュフローのケーススタディを見てみましょう。A社は、営業CF+500億円、投資CF-200億円、財務CF-100億円。B社は、営業CF+500億円、投資CF-800億円、財務CF+400億円。C社は、営業CF-200億円、投資CF-100億円、財務CF+500億円。D社は、営業CF-200億円、投資CF+300億円、財務CF+200億円。A社、本業の現金で、投資と返済・還元。B社、本業は強いが、大型投資のため外部調達。C社、本業赤字だが、成長投資を継続、外部資金依存。D社、本業赤字、資産売却、さらに資金調達。一般的には、D社ほど慎重な分析が必要です。ただし、数字だけで結論を出さない。企業の成長段階と、資金調達目的を見る。これが基本です。

業種別の財務CF――製薬・バイオ・医療機器・医療DX・病院・介護

次に製薬企業です。成熟した大手製薬企業では、営業CFが大きい。その現金を、研究開発、M&A、配当、自社株買い、借入返済へ配分します。一方、開発段階のバイオ企業。営業CFはマイナス、投資家から資金調達、財務CFはプラス。臨床試験、承認、上市、売上発生、営業CFプラス化。という流れを目指します。つまり、同じ製薬・バイオでも、企業のライフステージによって、理想的なキャッシュフロー構造は違います。バイオ企業のケーススタディを見てみましょう。Biotech Xは、現金500億円、営業CF-150億円、投資CF-20億円、財務CF+300億円、Phase III、2本。この会社を見るとき、利益はほとんど参考にならないかもしれません。重要なのは、現金残高、年間キャッシュバーン、ランウェイ、臨床試験進捗、追加増資の可能性、希薄化です。

次に医療機器企業です。医療機器メーカーは、工場投資が必要です。しかし、安定した営業CFを生み出せる企業なら、内部資金で設備投資できるようになります。例えば営業CF800億円、投資CF-300億円、財務CF-300億円。設備投資を行いながら、借入返済と株主還元。これは、財務的に強い企業の一つの形です。反対に、毎年、営業CF100億円、投資CF-300億円、財務CF+250億円、借入残高も増加。成長投資が成功すればよい。しかし、売上が伸びなければ、将来の返済負担が大きくなります。設備投資と財務CFは、必ずセットで見ます。

次に医療DXです。医療DX企業は、創業初期には、営業CFがマイナスになりやすい。エンジニア採用、システム開発、営業人員、顧客獲得。先に費用が出ます。そこで、増資による資金調達、財務CFプラス。その後、顧客数が増える、ARRが増える、営業CFがプラス化、外部資金への依存が低下。この変化は、非常に重要です。外部資金で生きる企業から、自分で現金を生み出す企業への転換です。

次に病院です。病院は、建物や医療機器への大型投資が必要です。例えば、新病棟建設50億円。すべて自己資金で払うのは難しい。長期借入、財務CFプラス。その後、毎年返済、財務CFマイナス。ここで重要なのは、建物を作った後、患者数が増えるか。病床稼働率、医療収益、営業CFが増えるかです。借金で病院を建てること自体が問題ではありません。借金で作った資産が、返済に必要なキャッシュを生み出せるか。ここを見ます。

次に介護・福祉企業です。新施設開設、改修、車両購入、ICT導入。こうした投資に、借入を使うことがあります。例えば、3,000万円借入、新規グループホーム開設、開設後、満床、毎年安定した営業CF、借入返済。これは、借入が成長へつながった例です。しかし、3,000万円借入、施設開設、利用者が集まらない、人件費は発生、営業CFマイナス、返済開始、さらに運転資金借入。危険な循環に入る可能性があります。福祉事業でも、借入額ではなく、借入後に営業CFを作れるかを見ることが重要です。

ライフサイクルとJMEI式3大キャッシュフロー分析

次に、財務CFと企業のライフサイクルを考えます。創業期、営業CFマイナス、財務CFプラス、外部資金で成長。成長期、営業CFプラス化、投資CF大幅マイナス、財務CFプラスまたは小幅マイナス。成熟期、営業CF大幅プラス、投資CFマイナス、財務CFマイナス、配当、自社株買い、借入返済。衰退期では、営業CFが低下、資産売却、借入増加となることもあります。つまり、3つのキャッシュフローを見ると、企業が人生のどの段階にいるのかが見えてくることがあります。これは、キャッシュフロー分析の非常に面白いところです。

JMEI式3大キャッシュフロー分析は、まず、営業CFを見る、本業で現金を作れているか。次に、投資CFを見る、何へ投資しているか。次に、財務CFを見る、そのお金をどこから調達しているか。そして、3つをつなげる。営業CFで投資を賄えているか、不足分を借入で賄っているか、増資で賄っているか、借入は減っているか、配当はFCFで賄えているか、自社株買いは余剰資金で行っているか。最後に、5年間を見る。営業CF、投資CF、財務CF、現金残高、有利子負債。この5つを並べるだけでも、企業の資金構造がかなり見えるようになります。

JMEI式「財務CFを見る15の質問」として、①財務CFはプラスかマイナスか?②その主な理由は何か?③借入は増えているか?④借入は何に使われているか?⑤短期借入と長期借入の構成はどうか?⑥社債を発行しているか?⑦増資を行っているか?⑧増資資金は何に使われているか?⑨株式希薄化はどの程度か?⑩借入返済は営業CF・FCFで賄えているか?⑪配当はFCFで賄えているか?⑫自社株買いは財務余力の範囲内か?⑬外部資金への依存は高まっているか、低下しているか?⑭5年前より財務体質は強くなっているか?⑮調達した資金は将来の医療価値とキャッシュ創出につながっているか?最後に、「この会社は、誰のお金で成長しているのか?」と考えます。

練習問題

問題1 財務キャッシュフローとは何でしょうか。

【答え】借入、社債、増資、借入返済、配当、自社株買いなど、企業の資金調達や資金返済に伴う現金の流れです。

問題2 銀行から100億円借りると、財務CFはどうなりますか。

【答え】プラス100億円方向です。

問題3 借入金100億円を返済すると、財務CFはどうなりますか。

【答え】マイナス100億円方向です。

問題4 財務CFがプラスなら良い会社でしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。成長投資のための資金調達なら合理的ですが、本業の赤字を補うために借入を増やしている場合もあります。

問題5 財務CFがマイナスなら悪い会社でしょうか。

【答え】必ずしもそうではありません。借入返済、配当、自社株買いなどによりマイナスになることがあり、財務的に強い企業でも見られます。

問題6 バイオベンチャーで財務CFが大幅プラスになる理由として何が考えられますか。

【答え】新薬開発や臨床試験を継続するため、増資などによって外部から資金調達している可能性があります。

問題7 増資の重要な注意点は何でしょうか。

【答え】既存株主の1株あたり持分やEPSが薄まる、希薄化です。

問題8 配当100億円に対してFCFが20億円しかない場合、何を確認しますか。

【答え】不足分を現金取り崩し、借入、資産売却などで補っていないかを確認します。

問題9 営業CFプラス、投資CFマイナス、財務CFマイナスは、どのような企業で見られる可能性がありますか。

【答え】本業で十分な現金を生み出し、その現金で投資を行いながら、借入返済や株主還元も行う成熟した企業などで見られる可能性があります。

問題10 財務CF分析で最後に考えるべき問いは何でしょうか。

【答え】「この会社は誰のお金で成長し、その資金を将来より大きなキャッシュへ変えられているか」です。

総合ケーススタディ――3社は「誰のお金」で成長しているか

A Medical Deviceは、営業CF+800億円、投資CF-300億円、財務CF-250億円。内訳、借入返済100億円、配当100億円、自社株買い50億円。A社は、本業で生み出した現金で、投資と株主還元を行っています。B Biotechは、営業CF-200億円、投資CF-30億円、財務CF+400億円。内訳、増資400億円。Phase III試験進行中。B社は、株主から集めた資金で、将来の新薬を開発しています。C Hospital Groupは、営業CF-100億円、投資CF+150億円、財務CF+200億円。内訳、不動産売却200億円、借入増加200億円。C社は、本業で現金を失い、資産売却と借入で現金を確保しています。3社のうち、最も財務的に注意が必要なのは?一般的には、C社です。しかし、C社が大規模な再編中で、翌年から営業CFが改善するなら、評価は変わります。だから、1年だけで判断しない。翌年、3年後、5年後を見る。キャッシュフロー分析とは、企業の「お金の物語」を読むことです。営業CFは、どう稼いだか。投資CFは、どこへ使ったか。財務CFは、誰から集め、誰へ返したか。この3つをつなげると、損益計算書だけでは見えなかった企業の姿が見えてきます。

JMEIでは、財務キャッシュフローを、単なる「借金や配当の数字」とは考えません。財務CFには、経営者の資本政策が表れます。借入を増やす、増資する、借金を返す、配当を増やす、自社株を買う。どの選択にも、経営者の判断があります。特に重要なのは、「外部から集めたお金を、何へ変えたのか」です。銀行から500億円借りた。それだけでは、良いとも悪いとも言えません。500億円が、新工場になった。その工場から、毎年200億円の営業CFが生まれた。なら、資金調達は成長へつながっています。500億円借りた、赤字補填に使った、翌年も借りた、さらに翌年も借りた、営業CFは改善しない。なら、持続可能性に問題があります。JMEIでは、財務CF、資金調達、投資、売上、利益、営業CF、FCF、返済・還元という循環を見ます。資金調達は、ゴールではありません。未来のキャッシュを作るためのスタートです。

JMEI Medical Insight

医療企業では、資金調達の意味を、一般企業以上に長い時間軸で考える必要があります。新薬開発には、長い年月がかかります。医療機器開発にも、研究、治験、承認、生産、販売という時間が必要です。病院建設も、大型医療設備も、投資した翌日に回収できるものではありません。つまり、医療企業では、「今の資金調達」と、「将来の医療価値」の間に、長い時間差があります。だからこそ、JMEIでは、財務CFを見るとき、金額だけではなく、資金の目的と、時間軸を見ることが重要だと考えます。さらに、医療には、失敗の可能性があります。新薬候補が、臨床試験で失敗する。新しい医療機器が、市場に受け入れられない。新病院を作っても、患者数が想定ほど増えない。つまり、資金調達には、必ずリスクがあります。重要なのは、リスクを取らないことではありません。医療を進歩させるには、リスクを取る必要があります。重要なのは、そのリスクを、企業が耐えられる財務構造になっているかです。JMEIでは、医療企業の財務CFを見るとき、「どれだけ借りたか」だけではなく、「失敗しても次の挑戦を続けられるか」という視点を持ちます。財務の強さとは、借金がゼロであることではありません。必要なリスクを取りながら、企業を存続させ、次の医療価値を作り続けられること。それが、医療企業における本当の財務力なのです。

今回のポイント

第49講で最も覚えてほしいのは、「財務キャッシュフローを見ると、企業が誰のお金で成長しているのかが分かる」ということです。借入、社債、増資。企業へ現金が入る。財務CFはプラス方向。借入返済、社債償還、配当、自社株買い。企業から現金が出る。財務CFはマイナス方向。しかし、プラスだから良い、マイナスだから悪い、ではありません。重要なのは、なぜ資金を集めたのか、何へ使ったのか、その資金から、将来どれだけ営業CFを生み出せるのか、そして、返済や株主還元を、自分で生み出したFCFから行えるのかです。さらに、営業CF、投資CF、財務CFの3つを組み合わせることで、企業の成長段階が見えてきます。営業CFは、「どう稼いだか」。投資CFは、「どこへ使ったか」。財務CFは、「誰から集め、誰へ返したか」。この3つを一緒に見る。これが、キャッシュフロー計算書を読む基本です。そして最後に、「この会社は、外部から集めたお金を、将来自分で生み出すお金へ変えられているか?」と考えます。それが、企業の本当の資金調達力なのです。

次回予告

第50講 キャッシュフロー計算書を一枚で読む――営業CF・投資CF・財務CFから企業の「成長段階」を見抜く

第46講では、営業キャッシュフロー。第47講では、フリーキャッシュフロー。第48講では、投資キャッシュフロー。そして今回、第49講では、財務キャッシュフローを学びました。これで、キャッシュフロー計算書を読むための部品がそろいました。しかし、企業分析では、それぞれの数字を別々に覚えるだけでは不十分です。営業CF+500億円、投資CF-300億円、財務CF-100億円。この3つを見た瞬間に、「この会社は、本業で稼ぎ、そのお金で成長投資をしながら、外部へも資金を返している可能性がある」と読めるようになる。営業CF-100億円、投資CF-200億円、財務CF+500億円なら、「外部資金を使って成長投資を続けている。資金が尽きる前に営業CFをプラス化できるかが重要だ」と考えられるようになる。次回は、これまで学んだキャッシュフローの知識を統合します。営業CF、投資CF、財務CF、FCF、現金残高、有利子負債、キャッシュバーン、企業のライフサイクル。これらを一枚のキャッシュフロー計算書から読み取り、創業期、成長期、成熟期、転換期、衰退期をどう見抜くのか。さらに、製薬、バイオ、医療機器、診断、医療DX、病院、介護・福祉、それぞれで、「良いキャッシュフローの形」がなぜ違うのか。第50講では、これまでの知識を、実際の企業分析で使える形へまとめていきます。

本講座に関するご注意

本講座は、企業分析の考え方を学ぶための教育コンテンツです。金融商品取引法に基づく投資助言・代理業には該当せず、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。講座内で企業を題材として扱う場合も、あくまで分析手法を説明するための例示です。

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