JMEI Global Healthcare Leaders No.029 診断、CGM、心臓、がんを束ねる「患者データ企業」へ
Abbottは世界有数の総合ヘルスケア企業です。事業は大きく、Medical Devices、Diagnostics、Nutrition、Established Pharmaceuticalsから構成されます。主力製品・技術には、FreeStyle Libre、Alinity、Architect、i-STAT、MitraClip、TriClip、Aveir、Volt、Amuletなどがあります。そして2026年にはExact Sciencesを買収し、がん診断を新しい柱として加えました。
2026年第2四半期の売上高は、126億ドルでした。GAAPベースでは前年同期比13.0%増。調整後希薄化EPSは1.31ドルとなり、会社予想を上回りました。Abbottは2026年通期のComparable Sales Growth見通し6.5~7.5%を維持し、調整後EPS見通しを5.45~5.60ドルへ引き上げています。巨大ヘルスケア企業でありながら、中高一桁成長を維持しています。これはAbbottの最大の強みの一つです。
Abbottを企業分析すると、少し困ることがあります。CGM会社なのか、診断会社なのか、心臓デバイス会社なのか、栄養会社なのか、新興国向け医薬品会社なのか。答えは、全部です。一見すると事業が分散しているように見えます。しかし共通点があります。Abbottは、病気になる前、診断時、治療時、治療後、慢性疾患管理まで患者との接点を持ちます。つまり商品カテゴリーではなく、Patient Journeyで見ると、一つの会社として理解しやすくなります。
Abbottの競争優位を考えるうえで最も重要な製品の一つが、FreeStyle Libreです。従来、糖尿病患者は指先を穿刺して血糖値を測定していました。CGMでは小型センサーを身体へ装着し、血糖変化を継続的に測定します。ここで起きた変化は非常に大きい。Single MeasurementからContinuous Dataへの転換です。つまり患者一人から得られるデータ量が桁違いに増えます。これは単なる検査技術革新ではありません。診断データの時間軸が変わったということです。
2026年5月、AbbottはLibre Duoについて欧州CE Markを取得しました。これは一つのセンサーで、血糖+ケトン体を連続測定する世界初の技術です。Abbottは2026年後半から一部欧州市場で展開する予定です。ここに将来の医療センサー市場が見えます。今は、Glucose Sensor。次は、Glucose+Ketone。その先では、Lactate、Hormone、Inflammation Markerなどへ広がる可能性があります。つまりCGMが、Continuous Biomarker Monitoringへ進化する可能性があります。
2026年3月23日、AbbottはExact Sciencesの買収を完了しました。これはAbbottの将来を考えるうえで非常に大きな出来事です。Exact Sciencesは、Cologuard、Cologuard Plus、Cancerguardなどを持つがん診断企業です。Abbottは従来から巨大なDiagnostics企業でしたが、その強みは病院ラボ、感染症、免疫、臨床化学、Point-of-Careなどが中心でした。Exact Sciences取得によって、Cancer Screening+Precision Oncologyという高成長領域を一気に獲得しました。
Exact Sciences買収のEnterprise Valueは約230億ドルという巨大案件です。Abbottは買収によって、年間売上成長率を約0.5ポイント、Diagnostics部門では約3ポイント押し上げると説明していました。また2028年までに年間1億ドル以上の税前シナジーを見込んでいます。なぜ検査会社にこれだけの金額を払うのでしょうか。答えの一つは、がんは「治療前に必ず診断が必要」な巨大市場だからです。さらに、Screening、Diagnosis、Therapy Selection、Monitoring、Recurrence Detectionという複数の検査機会があります。つまり患者一人との関係が、一度の検査で終わりません。
2026年第2四半期のCancer Diagnostics事業はComparableベースで13.3%成長しました。Cologuardの新規・リピート利用者の増加に加え、Precision Oncologyや海外事業も貢献しています。ここは重要です。Exact Sciences取得は、「将来成長するかもしれない技術」を買ったわけではありません。既に売上成長を持つプラットフォームを買っています。これをAbbottの世界販売網へ乗せる。ここがM&Aの意味です。
Abbottは診断だけの企業ではありません。2026年第2四半期にはElectrophysiologyがComparableベースで13.4%成長しました。Pulsed Field Ablationを利用するVoltシステムの米国上市などが成長を牽引しています。さらに今後12か月では、Libre Duo、Amulet 360、冠動脈IVL、TactiFlex Duo PFAなどの上市を計画しています。つまり一つの製品ではなく、複数事業で新製品が連続して出てくる。これがAbbottのPipeline Resilienceです。
Abbottは、敗血症リスク低減を目的としたWearable Continuous Lactate Monitoring Sensorの臨床試験も計画しています。これは非常に注目すべき技術です。血糖値を24時間測れるなら、次は乳酸、さらに別のバイオマーカーという発想になります。将来的には人間が、「病院へ行って血液検査する」だけでなく、身体にセンサーを装着し、複数バイオマーカーを24時間測定する時代が来る可能性があります。そうなれば、診断産業の意味そのものが変わります。
JMEI総合評価
Abbottは単なる総合医療メーカーではありません。今後は、Continuous Health Data Platformになれるかという視点で追う価値があります。
参考資料:シスメックス「2027年3月期第1四半期」2026年8月7日、シスメックス「新中期経営計画」2026年3月5日、Abbott「2026年第2四半期決算」、Abbott「Libre Duo CE Mark」2026年5月27日、Vitestro「Series B 7,000万ドル調達」2026年3月10日。
※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。