JMEI Global Healthcare Leaders No.024 「RNAiという発見」を巨大製薬ビジネスへ変えた会社
Alnylam Pharmaceuticalsは、RNA interference、いわゆるRNAi医薬を世界で事業化した代表企業です。RNAiとは簡単に言えば、疾患の原因となるタンパク質が作られる前に、その設計情報を抑える技術です。従来型医薬品がすでに作られたタンパク質へ薬を当てるのに対し、RNAiはmRNAからタンパク質へという途中段階を抑えます。この違いが非常に重要です。
最新決算――売上67%増
2026年第2四半期のAlnylamの総売上高は12億9,100万ドルで、前年同期比67%増でした。製品売上高は11億7,200万ドルで74%増。さらにGAAP営業利益は2億3,100万ドルとなり、前年同期の営業赤字から黒字へ転換しました(アルニラム投資家向け情報)。
これは非常に大きな変化です。バイオテクノロジー企業では、長期間「研究開発費 > 製品売上」となり赤字が続くことがあり、Alnylamも長い間その状態でした。しかし現在は「研究開発型バイオ企業」から「利益を生む製薬企業」へ移行しつつあります。
主役はAMVUTTRA
2026年第2四半期のAMVUTTRA売上は10億1,200万ドルでした。前年同期は約4億9,200万ドルで、106%増です(アルニラム投資家向け情報)。四半期だけで10億ドルを超え、年間換算すると40億ドル規模になります。Alnylamはもはや「将来有望なRNA企業」ではなく、すでに世界的ブロックバスターを持つ企業になっています。
なぜAMVUTTRAが急成長しているのか
AMVUTTRAはATTRアミロイドーシスを対象とするRNAi治療薬です。特に重要なのが、ATTR-CM(ATTR心筋症)への適応拡大です。
ATTR-CMは従来「まれな病気」と考えられていました。しかし高齢者の心不全患者を詳しく調べると、実際には診断されていない患者が相当数存在すると考えられています。つまり「希少疾患(Rare Disease)」だと思われていた市場が、実は「過小診断の疾患(Underdiagnosed Disease)」だった可能性があるのです。
これは非常に重要な視点です。希少疾患市場を評価するとき、現在の診断患者数だけを見ると市場規模を間違える可能性があります。診断技術、疾患啓発、AI、遺伝子検査、画像診断が進むと、「存在していたが見つかっていなかった患者」が表面化します。Alnylamは現在、AIや医療データを使ったATTR-CM患者の早期発見にも取り組んでいます(アルニラム投資家向け情報)。
AMVUTTRAの成長だけではない
Alnylamには、GIVLAARI、OXLUMO、ONPATTROなど複数のRNAi医薬品があります。第2四半期では、GIVLAARIが8,976万ドルで11%増、OXLUMOが5,212万ドルで11%増となりました(アルニラム投資家向け情報)。一方、ONPATTROは65%減少しています。
これは必ずしも悪いことではありません。同じTTR領域で、旧世代のONPATTROから次世代のAMVUTTRAへ患者が移行している面があります。これは先日のBMSにおけるOpdivoからQvantigへの移行とも似ています。優れた企業は、競合企業に自社製品を置き換えられる前に、自分自身で自社製品を次世代化する。この「自己共食い(Self-Cannibalization)」は重要な競争戦略です。
Alnylam最大の強みはAMVUTTRAではない
ここが今日一番重要なポイントです。AMVUTTRAが年間数十億ドルを売る薬になったとしても、Alnylam最大の競争優位を「AMVUTTRA」と考えるべきではありません。本当の競争優位は、RNAi Platformです。
RNAiという技術基盤から、TTR、急性肝性ポルフィリン症、原発性高シュウ酸尿症、高血圧、神経疾患、出血性疾患、肥満など、異なる疾患の薬を作ろうとしています(アルニラム投資家向け情報)。つまりAlnylamはProduct Companyではなく、Drug Creation Platform Companyなのです。
次の巨大市場――高血圧
その代表例がzilebesiranです。Alnylamは高血圧治療を対象に、第3相ZENITH試験などを進めています。第2四半期には、この試験を含む臨床開発費増加によってR&D費用が前年同期比28%増の4億1,300万ドルまで増加しています(アルニラム投資家向け情報)。
これは非常に面白い動きです。これまでRNAiは「希少疾患向けの高度な核酸医薬」という印象が強かったのですが、高血圧は世界中に患者が存在する巨大疾患です。もし半年に一回など低頻度投与で血圧管理できるRNAi治療が成立すれば、RNAiがRare DiseaseからCommon Diseaseへ進出することになり、Alnylamの企業規模をさらに一段変える可能性があります。
次世代TTR薬――nucresiran
さらにAlnylamは、AMVUTTRAが急成長している今の段階で、すでに次のTTR治療薬nucresiranを開発しています。ATTR-CMを対象とするTRITON-CM、遺伝性ATTR-PNを対象とするTRITON-PNという第3相試験が進行しています(アルニラム投資家向け情報)。
普通なら「AMVUTTRAがまだまだ売れるから、最大限売る」と考えるところですが、Alnylamはその裏でAMVUTTRAを将来置き換える薬を開発しています。これは優れた技術企業の特徴です。
さらに神経疾患へ
AlnylamではRNAiを中枢神経疾患へ広げようとしています。mivelsiranでは脳アミロイドアンギオパチーとアルツハイマー病を対象とした研究が進んでおり、さらにALN-HTT02ではハンチントン病を対象とするPhase 1試験が進行しています(アルニラム投資家向け情報)。もしRNAiが肝臓だけでなく脳へ本格展開できるようになれば、技術プラットフォームの価値はさらに大きくなります。
JMEI総合評価
Alnylamは、JMEIのGlobal Healthcare Leadersで追跡すべき企業の中でも、「一つの科学的発見を、一つの薬ではなく産業プラットフォームへ変えた会社」として特に重要です。
参考資料:日本新薬 2027年3月期第1四半期業績、Alnylam 2026年第2四半期決算
※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。