JMEI 日本医療企業分析 No.008
第一三共について、過去のイメージを一度捨てた方が企業を理解しやすいと思います。
現在の第一三共の核心は、
「ADCを中核技術とするグローバル・オンコロジー企業への転換」
です。
2026年度第1四半期の売上収益は5,747億円、前年同期比21.1%増でした。一方、営業利益は851億円で12.0%減少しましたが、会社はEU Specialty Businessの再編費用を主因として説明しています。さらに会社は2026年度通期の売上予想を従来の2兆2,800億円から2兆3,400億円へ、営業利益予想を3,150億円から3,200億円へ上方修正しました。
ここでJMEIとして最重要の数字があります。
ENHERTUが2,398億円
第1四半期だけで、ENHERTUの売上・マイルストーン等を含む収益は2,398億円、48.9%増。
DATROWAYは239億円、176.4%増です。
単純に考えても、第1四半期売上5,747億円に対してENHERTU関連収益だけで非常に大きな割合を占めています。
つまり現在の第一三共は、
「薬をたくさん持つ製薬会社」
というより、
「ADCという技術プラットフォームを企業価値へ変換している会社」
として見る方が本質に近いでしょう。
1.ADCとは何がすごいのか
ADC=Antibody Drug Conjugate、抗体薬物複合体です。
簡単にいえば、
- 抗体=がん細胞を見つける役割
- 薬物=がん細胞を攻撃する役割
を組み合わせます。
「狙った場所へ強力な薬物を届ける」という考え方です。
もちろん実際には、抗体、リンカー、薬物、薬物抗体比、安定性など高度な設計技術が必要です。
第一三共の企業価値を考えるときには、
ENHERTUという一つの薬ではなく、DXd ADC技術そのものを見る必要があります。
2.ENHERTUの本当の強さは「適応拡大」
2026年5月、ENHERTUは米国でHER2陽性早期乳がんについて術前・術後という二つの新しい適応を取得しました。さらにDATROWAYも同じ月に、免疫療法の対象とならない転移性トリプルネガティブ乳がんの一次治療で米国承認されています。
これは極めて重要です。
製薬企業の成長は、新薬を一本作るだけではありません。
一つの優れた薬を、
乳がん → 肺がん → 胃がん → 固形がん → 早期がん
というように広げることでも市場は拡大します。
第一三共は2030年までに5つの医薬品で20以上の新規適応を目指しています。
3.「ENHERTUの次」がすでに存在する
ここが第一三共を評価するうえで重要です。
もしENHERTUだけなら、
「一つの大ヒット薬を作った会社」
と評価することになります。
しかし現在は、
- ENHERTU
- DATROWAY
- ifinatamab deruxtecan(I-DXd)
など、ADCポートフォリオが広がっています。
I-DXdについては、治療歴のある進展型小細胞肺がんを対象として米FDAが優先審査しており、PDUFA日は2026年10月10日です。
ここをJMEIでは追跡します。
10月10日は第一三共のADCプラットフォームがENHERTU・DATROWAYに続いて第三の柱を作れるかを見る重要日です。
4.第一三共は何を捨てているのか
企業分析では「何を始めたか」だけでなく、
「何をやめるか」
を見ることも重要です。
第一三共は2026年4月、国内OTC事業の第一三共ヘルスケア株式を段階的にサントリーホールディングスへ譲渡すると発表しました。完了予定は2029年6月です。
これは非常に象徴的です。
ロキソニンなど一般消費者に知られたブランドを持つ事業よりも、グローバル・オンコロジーと革新的創薬へ経営資源を集中する。
第一三共が何になろうとしているのかが明確になります。
5.2030年「がん売上2.3兆円超」
第一三共は新しい5カ年計画で、2030年度にオンコロジー売上2.3兆円超を目指し、2035年には世界トップ5のオンコロジー企業を目標としています。
これは現在の第一三共を研究する際の中心テーマにできます。
つまり毎四半期、
「本当に世界Top5へ近づいているか?」
を確認すればよい。
JMEIとして非常に追跡しやすい企業です。
JMEI総合評価
ただし最大のリスクも明確です。
ADCへの期待が極めて大きいこと。
ENHERTU以降の複数ADCを実際の大型製品へ育てられるかによって、第一三共が「一時代の成功企業」になるか、「世界的創薬企業」になるかが決まると考えます。これは同社の売上構成と2030年戦略からのJMEIとしての評価です。
※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。