JMEI 日本医療企業分析 No.012 「検査を請け負う会社」から、認知症診断の世界企業になれるか
H.U.グループは、SRLによる受託臨床検査、富士レビオによる体外診断(IVD)、滅菌などのヘルスケア関連サービスを展開する、日本を代表する検査・診断グループです。国内臨床検査市場で約23.5%のシェアを持ち、中核拠点「H.U. Bioness Complex」をはじめとする大規模な検査インフラを運営しています。
直近の2026年度第1四半期決算では、売上高626億円(前年同期比1.9%増)、EBITDA 72億円(同13.6%増)、営業利益21億円(同141%増)となりました。通期計画は売上高2,560億円、営業利益90億円を見込んでいます。売上高が横ばい圏にとどまる中で営業利益が急拡大している背景には、事業ポートフォリオの高付加価値化とコスト構造改革があります。
1.今、一番面白いのは「NEURO」
従来のH.U.グループといえば、国内検査受託のSRLを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし現在、同グループの成長を力強く牽引しているのは、富士レビオが手掛ける神経疾患診断(NEURO)領域です。
第1四半期のIVD事業売上高は164億円(前年同期比16.2%増)となり、そのうち海外NEURO関連売上は前年同期の16億円から30億円へと85.1%増の急伸を記録しました。また、受託開発製造を行うCDMO事業も61億円から73億円(同19.9%増)へと順調に拡大しています。
特に注目すべきは、アルツハイマー病診断のバイオマーカーである「pTau217」血液検査です。
pTau217血漿測定試薬は2026年5月に欧州CEマークを取得。会社側は今後のグローバルな需要急拡大を見据え、試薬の生産能力を現在の10倍以上へと大幅に引き上げる計画を進めています。
この変化は、アルツハイマー病診療のパラダイムシフトを意味します。
これまでの診断フローは、
認知機能検査 → 侵襲性の高い髄液検査や高額なアミロイドPET検査
に限られていました。
これが、
血液検査(一次スクリーニング) → 精密検査 → 早期治療介入
へと移行すれば、診断を受けられる潜在患者層そのものが爆発的に拡大します。
2.LEQEMBI・Kisunla時代には「薬」と「診断」がセットになる
アルツハイマー病の疾患修飾薬(抗アミロイドβ抗体薬など)が普及するほど、
「どの患者に投与すべきか」を特定する診断
の重要性が飛躍的に高まります。
実際、富士レビオの全自動化学発光酵素免疫測定システム「ルミパルス」を用いたアルツハイマー病血液検査試薬は、脳内アミロイド病理を検出する血液検査として米国FDAからいち早く承認を取得しています。
ここに、産業分析における決定的な視点があります。
新薬市場の立ち上がり → 診断薬市場の同時拡大
という相乗効果です。
創薬企業だけに注目していると、この周辺に広がる巨大な診断エコシステムを見落としてしまいます。
3.もう一つの武器が「検査CDMO」
H.U.グループの強みは、自社ブランドの診断薬販売にとどまりません。グローバル診断薬メーカーやバイオテック企業向けの受託開発製造(CDMO)にも注力しています。
第1四半期のCDMO売上は前年同期比約20%増(既存領域+15%、新規領域+158%)と高成長を維持しています。
これは医薬品のCDMOと同様のビジネスモデルです。
有望なバイオマーカーを発見したすべての企業が、自前で大規模な量産設備やグローバルな薬事承認・流通網を持つ必要はありません。診断薬の製品化・量産化を担うプラットフォーマーとしてのポジションを確立しつつあります。
4.弱点も明確
一方で、グループ全体の収益性には依然として課題が残ります。第1四半期の営業利益率は3.4%にとどまり、高収益なグローバルMedTechや創薬バイオ企業と比較すると低い水準です。
同社の中長期的な企業価値を左右するのは、
成熟した国内検査受託事業の徹底的な自動化・効率化と、高収益なIVD・NEURO・ゲノム・CDMO事業の構成比率引き上げ
を両立できるかどうかにあります。
H.U. Bioness Complexにおける24時間完全自動化ラインやAI・DXの導入は、この収益性改善に向けた重要な試金石となります。
※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。