JMEI 日本医療企業分析 No.020 日本発「Global Specialty Pharma」は次のCrysvitaを作れるか
協和キリンは、キリングループの医薬品企業です。しかし、一般的な国内製薬会社というより、現在は明確にGlobal Specialty Pharmaceutical Companyを目指しています。重点領域は、骨・ミネラル、血液・血液がん、希少疾患などです。主力製品には、Crysvita、Poteligeo、Libmeldy/Lenmeldy、KOMZIFTIなどがあります。特にCrysvitaは協和キリンの世界展開を象徴する製品です。
上期は増収増益。ただし中身を分解する
2026年12月期上期、協和キリンの売上収益は2,636億円、前年同期比14.3%増、コア営業利益は661億円、79.6%増となりました。海外売上比率は前年同期の73%から78%へ上昇しています。コア営業利益率も16%から25%へ大きく改善しました。一見すると非常に強い決算です。
しかし、この増益をそのまま「本業が80%近く強くなった」と解釈してはいけません。研究開発費が前年同期の525億円から463億円へ12%減少しています。その大きな理由の一つが、前年まで多額の開発費を投じていたロカチンリマブ開発の終了です。さらに、Amgenとの提携契約終了に伴い、契約負債残高を全額収益認識したことによる技術収入の増加や、為替の影響もあります。
したがって今回の利益改善は、既存製品の成長、技術収入、円安、研究開発費減少が重なった結果と見る必要があります。JMEI企業分析では、ここを分解します。「利益が増えた」という数字と、「将来の企業競争力が高まった」という評価は同じではありません。
Crysvitaと、希少疾患ビジネスの「患者発掘」
協和キリンの主力製品Crysvitaは、X染色体連鎖性低リン血症などを対象とする抗FGF23抗体です。2026年上期のCrysvita売上は、グローバルで前年同期比11%増、EMEAリージョンは5%の増収でした。会社は北米、欧州、日本それぞれで患者発掘や疾患啓発を進めています。
ここは希少疾患ビジネスの特徴です。高血圧や糖尿病のように患者が既に大量に医療機関へ来ている市場とは異なり、希少疾患では、患者を見つけ、正しく診断し、専門医へつなぎ、治療するという「患者発掘」そのものが市場形成になります。つまり希少疾患企業では、Sales ForceだけではなくDisease Awareness能力が競争力になるということです。
2026年5月には米FDAが、成人XLH患者についてCrysvitaの投与量・頻度を個別化できる追加用法を承認しました。Crysvitaはまだ成長余地を持っています。
日本で創薬し、世界で自社販売する
もう一つのグローバル製品がPoteligeoで、2026年上期は期ずれの影響もあり前年同期比ほぼ横ばいで推移しました。
協和キリンには、日本企業として重要な特徴があります。それは、日本で創薬した医薬品を世界市場で自社販売できる体制を作りつつあることです。日本の製薬会社では、優れた新薬を開発しても海外販売を欧米大手へライセンスするケースがあります。協和キリンはCrysvitaやPoteligeoを通じ、Research in Japan→Global Development→Global Commercializationというモデルを構築しようとしています。これが成功すれば、日本の製薬企業として非常に価値があります。
Orchard Therapeutics買収――創薬プラットフォームを買う
協和キリンは2023年にOrchard Therapeuticsの買収を決定し、その後傘下に収めました。これによって、造血幹細胞を利用した遺伝子治療プラットフォームを獲得しました。代表製品が、異染性白質ジストロフィー(MLD)に対するLibmeldy/米国名Lenmeldyです。2025年12月には、米国推奨統一スクリーニングパネル(RUSP)にMLDが追加され、順調に売上収益を伸ばしています。
ここが重要です。協和キリンは、抗体医薬品だけでなく、Cell & Gene Therapyへモダリティを広げています。医薬品企業の競争力を考える場合、「何個薬を持っているか」だけでなく、「どの創薬技術を持っているか」を見る必要があります。低分子、抗体、ADC、RNA、細胞治療、遺伝子治療。それぞれ異なる技術基盤です。Orchard Therapeutics買収は、協和キリンが新しい創薬プラットフォームそのものをM&Aで取得した例として研究価値があります。
KOMZIFTI(ziftomenib)という次の柱
もう一つ注目したいのが、Kura Oncologyとの提携で獲得したziftomenib、商品名KOMZIFTIです。2025年11月、米FDAはNPM1変異を有する再発・難治性AMLに対してKOMZIFTIを承認しました。協和キリンとKura Oncologyは2024年に大型提携を締結しており、契約時にKuraへ3.3億ドルのアップフロント・ペイメント、さらに各種マイルストーンなどを組み合わせた契約となっています。
2026年4月には、日本でも登録申請を見据えた第2相試験が開始されました。さらに新規診断AMLで、ziftomenibと7+3化学療法を組み合わせた試験では、NPM1変異群でCRc 96%、KMT2A再構成群で90%という初期データが示され、第3相試験を支持する結果とされています。
ここは今後の協和キリンで非常に重要です。現在のCrysvita依存から、Crysvita+Poteligeo+KOMZIFTI+遺伝子治療という複数の成長エンジンへ移行できるか。これが企業価値を左右します。
ロカチンリマブ――Phase 3まで進んだ開発品が止まるということ
2026年の協和キリンを分析するうえで、避けて通れないのがロカチンリマブです。ロカチンリマブはOX40を標的とする抗体で、中等症から重症のアトピー性皮膚炎などを対象に開発されていました。当初、協和キリンとAmgenが共同開発していました。2026年1月、Amgenがポートフォリオ優先順位の変更を理由に協業を終了し、協和キリンが世界開発・商業化権を再取得すると発表しました。
ところが、そのわずか約1か月後の2026年3月3日、協和キリンはロカチンリマブのすべての臨床試験を中止しました。安全性レビューで、ウイルス・免疫機序との関連が疑われる悪性腫瘍、カポジ肉腫などが確認され、潜在的リスクがベネフィットを上回る可能性があると判断されたためです。2026年上期には、臨床試験クロージング費用と関連減損損失が計上されており、年内にはさらにクロージングコストが発生する見通しです。
これは新薬開発の現実を示す非常に重要なケースです。Phase 3まで進んでも、大手製薬会社と組んでも、有効性が期待されても、安全性の問題一つでプロジェクト全体が止まることがある。したがって製薬会社を見る場合、「有望なパイプラインがある」だけでは十分ではありません。その企業が、一つの開発品が失敗しても成長できるパイプライン構造を持っているかを見る必要があります。
協和キリンの三つの強み
協和キリンの強みは、大きく三つあると考えます。第一は、抗体医薬を中心とする長年のバイオ医薬品技術。第二は、CrysvitaやPoteligeoで構築した希少疾患・スペシャリティ領域のグローバル販売基盤。第三は、自社創薬だけに依存せず、Orchard Therapeutics買収やKura Oncologyとの提携を通じて外部技術を取り込めることです。つまり現在の協和キリンは、Internal Innovation+External Innovation型へ進んでいます。これは日本の製薬会社が世界で成長するための一つのモデルになり得ます。
比較すべき相手と、狙うべき領域
企業として比較すべき相手は、国内では中外製薬、小野薬品、アステラス製薬など。世界ではAmgen、Sanofi、Takeda、AstraZeneca傘下Alexionなど、希少疾患・バイオ医薬品を得意とする企業です。ただし協和キリンは、売上規模では世界の巨大製薬企業には及びません。したがって全面戦争ではなく、希少疾患・骨ミネラル・血液がんなど限定領域で世界トップを狙う戦略の方が合理的です。これは「Global Specialty Pharma」という言葉の意味でもあります。
※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。