JMEI Global Healthcare Leaders No.020 CPAPメーカーから「睡眠医療プラットフォーム」へ
ResMedは、睡眠時無呼吸症候群(OSA)に使用されるCPAP機器・マスクなどで世界を代表する企業です。しかし現在のResMedを単なる「CPAPメーカー」と考えると、企業価値を過小評価する可能性があります。ResMedが作ろうとしているのは「睡眠医療プラットフォーム」だからです。
二桁近い成長率と30%を超える営業利益率
2026年度(2026年6月期)通期売上高は約56.5億ドルで、前年比10%増となりました。さらにGAAP営業利益率は33.4%に達し、前年から70ベーシスポイント改善しています。巨大MedTech企業でありながら、二桁近い成長率と30%を超える営業利益率を両立していることは高く評価できます。
ResMedの強さは、CPAP本体を一度販売して終わりではないことです。機器を販売し、マスクや消耗品が必要になり、患者が継続的に治療し、データが蓄積され、医師や在宅医療事業者が患者を管理する。この循環が続きます。つまり、一人の患者との関係が長期間続きます。
AirView――「製品」から「ネットワーク」へ
ResMedにはAirViewというクラウドベースの患者管理システムがあります。2026年6月末時点で、AirViewには3,700万人を超える患者が登録されており、クラウド接続可能な機器は世界で3,500万台を超え、蓄積された治療データは280億夜分を超えています。
ここにResMed最大の競争優位があります。CPAPの性能だけなら、将来競合企業が追いつく可能性があります。しかし、世界中に存在する機器、そこから継続的に取得される治療データ、医療機関との接続、患者とのアプリ接点。これらをすべて構築するには時間がかかります。したがってResMedの競争優位は、「CPAPという製品」から「患者・機器・医療者をつないだネットワーク」へ移っていると考えるべきです。
何を売り、何を買ったか
2026年、ResMedは介護・長期ケア向けソフトウェア事業MatrixCareの売却を決めました。これは興味深い経営判断です。企業は成長すると事業を増やしたくなりますが、優良企業では「何をするか」だけではなく「何をしないか」も重要です。ResMedは経営資源を、Sleep Health、Breathing Health、Connected Home Careへ集中しようとしています。
同時に、レストレスレッグス症候群向けウェアラブル治療機器を手がけるNoctrix Healthの買収も完了しました。企業分析では、M&Aだけではなく事業売却も見る必要があります。何を売り、何を買ったかを見ると、その企業が将来どこへ進もうとしているのかが分かります。
診断プロセスにも入り始めている
ResMedはCPAPだけではなく、睡眠時無呼吸症候群の診断プロセスにも入り始めています。従来は、医療機関を受診し、睡眠専門医へ紹介され、検査を受け、診断され、CPAPを導入するという複数の段階がありました。これを、在宅スクリーニング、在宅睡眠検査、オンライン診断支援、CPAP、クラウド管理、患者アプリという形で接続できれば、睡眠医療の大部分を家庭へ移すことができます。つまりResMedは、CPAP Manufacturerから、Sleep Care Platformへ進んでいると考えることができます。
GLP-1/GIP薬は「競合」か
今後のResMedを考えるうえで非常に重要なのがGLP-1/GIP薬です。肥満は睡眠時無呼吸症候群の重要なリスク因子であり、肥満治療薬によって大幅な減量が実現すれば、一部患者では睡眠時無呼吸症候群が改善する可能性があります。すると、「GLP-1が普及するとCPAP患者が減るのではないか」という疑問が生じます。
しかし私は、これを単純な「GLP-1対CPAP」と考えるべきではないと思います。会社側も、米国における睡眠時無呼吸症候群の有病率増加のうち、GLP-1の影響は限定的で、主な要因は高齢化や平均BMIの上昇、女性における相対的な有病率の上昇だと説明しています。将来的には、肥満治療、睡眠診断、CPAP、生活習慣管理、遠隔モニタリングを組み合わせる方向へ進む可能性があります。むしろResMedが肥満・代謝領域との接続に成功すれば、市場を拡大できる可能性もあります。
JMEI総合評価
ResMedは今後、「CPAPを年間何台売ったか」だけで評価するべき企業ではありません。「世界中の睡眠患者を何人、自社プラットフォーム上で継続管理できるか」を見るべき企業です。
※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。