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国内医療企業

武田薬品工業――「日本最大級の製薬会社」から本当のGlobal Biopharmaへ

JMEI 日本医療企業分析 No.021 「日本最大級の製薬会社」から本当のGlobal Biopharmaへ

武田薬品工業は、日本企業でありながら売上の大部分を海外市場で稼ぐ、日本を代表するグローバル製薬会社です。現在の重点領域は、消化器疾患・炎症性疾患、希少疾患、血漿分画製剤、オンコロジー、ニューロサイエンス、ワクチンなどです。主力製品には、ENTYVIO、TAKHZYRO、GAMMAGARD/Kiovigなどの血漿分画製剤、Qdenga、FRUZAQLAなどがあります。一方、VYVANSEなどの大型製品では独占販売期間終了の影響が進んでいます。つまり今の武田を見る場合、「現在どれだけ売っているか」より、「特許切れによる減収を新製品で埋められるか」が重要です。

円ベースとCERベースを分けて見る

2027年3月期第1四半期の売上収益は、1兆2,199億円、前年同期比10.2%増でした。Core営業利益は3,589億円、11.5%増です。数字だけを見ると非常に強い決算です。しかし為替影響を除いたCERベースでは、売上収益は0.5%の減収でした。会社の説明によれば、円安の影響がなければ実質的には横ばいに近い水準ということです。これはグローバル企業分析で非常に重要です。円安になれば、海外売上の多い日本企業は円換算売上が大きく増えます。したがってJMEIでは今後、海外売上比率の高い企業について、「円ベース」だけでなく、Constant Exchange Rateを見ることを基本とします。なお、法人所得税費用が87.7%増と大きく膨らんだ影響で、親会社帰属の四半期利益は8.9%減の1,132億円と減益になっている点も見逃せません。

2026年度は特許切れを乗り越える「移行年」

現在の武田にとって最大の構造的課題の一つが、VYVANSEをはじめとする大型製品の独占販売期間終了です。2026年度について会社自身も、CERベースで、Core売上収益は一桁台前半%減、Core営業利益は5~8%減、Core EPSは10%台半ば減を見込んでいます。つまり2026年度は、「成長企業として最高益を更新する年」ではありません。むしろ、「大型製品の特許切れを乗り越える移行年」として見るべきです。製薬企業ではこの転換期が非常に重要です。一世代前のブロックバスターが落ち、その減収を新薬が埋め、さらに新薬が成長して会社全体が再び成長に戻る。このPatent Cliff→Launch Cycle→New Growthを成立させられるかが問われます。

MIMRYLO(rusfertide)の米FDA承認

その意味で非常に重要なニュースが、2026年8月28日にありました。武田は、真性多血症の成人患者を対象とするMIMRYLO(rusfertide)について、米FDAの承認を取得しました。MIMRYLOは、真性多血症患者の赤血球増加を治療するFirst-in-Class薬で、ヘプシジンを模倣する世界初のペプチド治療薬です。第3相VERIFY試験では、20~32週における臨床反応を76.9%の患者が達成し、プラセボ群の32.9%を大きく上回りました。真性多血症では、ヘマトクリットをコントロールするために瀉血が行われるケースがありますが、MIMRYLOは「増えすぎた血液を抜く」という従来の管理方法から、「鉄代謝を調節して赤血球産生そのものをコントロールする」方向への転換を狙います。この薬はもともとProtagonist Therapeuticsが発見し、第3相まで開発を主導した後、2026年4月にProtagonistがオプトアウトを選択し、武田が2024年の提携契約に基づいてNDA提出と商業化を引き継いだものです。武田にとって重要なのは、単なる新薬一品の追加ではありません。MIMRYLOは、今後数年間の武田の「Growth & Launch Products」の一角を担う可能性があります。

ORZEYFULとzasocitinib

さらに2026年8月24日、日本ではナルコレプシータイプ1治療薬、オーゼイフル(ORZEYFUL、一般名オベポレクストン)が製造販売承認を取得しました。ここはJMEIとして非常に注目したいところです。ナルコレプシータイプ1では、オレキシン神経系の欠損が疾患の本質に関係しています。従来治療の多くは、眠気を抑える、覚醒を促進する、症状を管理するという方向でしたが、ORZEYFULは、オレキシン受容体そのものへ作用する新しい治療概念です。つまり、症状を抑える薬から、疾患の病態そのものに近づく薬への転換です。これは武田の研究開発力を評価するうえで非常に大きな意味があります。

もう一つ、武田が近い将来の上市候補として挙げているのがzasocitinibです。これは経口TYK2阻害薬で、乾癬をはじめとする免疫疾患領域で開発されています。武田は2026年第1四半期時点で、ORZEYFUL、rusfertide、zasocitinibを主要後期パイプラインとして挙げていました。つまり今の武田は、旧世代大型薬から新規3本柱への世代交代を進めており、8月時点でORZEYFUL承認、MIMRYLO承認まで実際に到達しました。これは非常に重要です。

次の武田を支えるENTYVIOと既存製品

一方、武田の現在の強さを支える代表製品がENTYVIOです。潰瘍性大腸炎・クローン病など炎症性腸疾患領域で使われる生物学的製剤で、武田のグローバル製品ポートフォリオを代表する存在となりました。重要なのは、「次世代新薬が育つまで既存製品が十分なキャッシュを生めるか」です。製薬会社では研究開発に巨額の資金が必要です。したがって、強力な既存製品が生み出すキャッシュフローが次世代新薬の研究開発を支えます。この意味でENTYVIO、血漿分画製剤、TAKHZYROなどは、単に現在の売上を支える製品ではありません。次の武田を作るための研究開発資金源でもあります。

グローバル基盤と競合

武田の競争優位は単なる創薬研究だけではありません。Shire買収などを通じて、米国、欧州、日本、新興国での販売・薬事・開発基盤を構築しました。したがって現在の武田では、日本で薬を作って海外大手へライセンスするという従来型の日本企業モデルではなく、Global Development→Global Approval→Global Commercializationまで自社で行えるようになっています。ここは協和キリンとも共通しますが、規模では武田が一段大きい。日本発企業として重要な資産です。

武田の事業が多岐にわたるため、単独の競合企業を決めることは難しいですが、消化器ではJohnson & Johnson、AbbVie、希少疾患ではSanofi、Amgen、免疫ではBristol Myers Squibb、Lilly、血漿分画製剤ではCSL、Grifolsなどが競合になります。つまり武田は、世界の巨大製薬企業との全面競争に入っています。ここが中堅日本製薬会社との最大の違いです。

JMEI総合評価

今後の武田は「承認数」より、Launch Execution=承認された薬をどれだけ世界市場で育てられるかを見るべき企業です。

※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。

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