JMEI 医療企業分析 No.001
日本には、世界の医療現場を支えている企業が数多く存在します。
しかし、私たちが日常的に名前を目にする企業であっても、
- 実際には何で利益を上げているのか
- どんな医療技術に強いのか
- 世界でどのような位置にいるのか
まで知る機会は意外に多くありません。
JMEI(日本医療企業研究所)では、上場企業から未来の上場候補となる医療スタートアップまで、医療を支える企業を継続的に分析していきます。
最初に取り上げるのは、テルモ株式会社です。
体温計から始まった100年企業
テルモは1921年に設立された日本を代表する医療機器メーカーです。
原点となったのは国産体温計でした。
しかし、現在のテルモを「体温計の会社」と考えると、その実像を大きく見誤ります。
現在は、カテーテル治療、心臓外科、薬剤投与、糖尿病管理、腹膜透析、輸血、細胞治療など、極めて幅広い医療領域に事業を展開しています。
2026年3月期の連結売上収益は1兆1,319億円。
世界160以上の国と地域で事業を展開し、グループ従業員数も3万人を超えるグローバル医療企業へ成長しています。
テルモの事業は大きく3つ
現在のテルモには、大きく3つのカンパニーがあります。
第一が「心臓血管カンパニー」。
カテーテル、ガイドワイヤー、人工肺、人工血管、ステントグラフトなどを扱っています。
ここで重要なキーワードが「低侵襲」です。
大きく身体を切開する治療から、カテーテルなどを利用して患者さんへの身体的負担を減らす治療へ。
これは世界的な医療の大きな流れでもあります。
第二が「メディカルケアソリューションズカンパニー」。
輸液・薬剤投与、糖尿病管理、腹膜透析など、病院から在宅まで幅広い医療を支えます。
第三が「血液・細胞テクノロジーカンパニー」。
輸血医療に加え、血液・細胞の採取・分離技術を活用し、細胞治療など将来の医療にも関わっています。
JMEIが注目する「50,000点」
テルモを調べていて注目した数字があります。
同社は世界の医療現場などに、50,000点を超える製品・サービスを提供しています。
これはテルモの強さを考えるうえで重要です。
一つの大型製品だけに依存する企業ではなく、さまざまな医療現場との接点を持っているからです。
医療機器企業にとって「医療現場との接点」は大きな資産です。
医師、看護師、臨床工学技士などが日々何に困っているのか。
そこから次の製品改良や新しい医療機器につながる可能性があります。
世界企業としてのテルモ
もう一つ注目したいのが、テルモの研究開発体制です。
テルモは国内だけではなく海外にも研究開発拠点を持っています。
米国カリフォルニア州には「Terumo Bay Area Innovation Lab」があり、心臓血管領域を中心として研究開発やパイロット生産などを行っています。
つまりテルモは、日本から製品を輸出するだけの企業ではありません。
世界の医療ニーズの近くで技術開発を行う企業へと変化しています。
JMEIが考えるテルモの強み
今回の公開情報による初期分析から、JMEIではテルモの強みを三つ挙げたいと思います。
第一は、低侵襲治療という世界的な医療トレンドとの親和性。
第二は、心臓血管から薬剤投与、血液・細胞治療まで持つ事業領域の広さ。
第三は、日本企業でありながら世界160以上の国・地域に展開しているグローバル基盤です。
一方で、事業領域が広いからこそ、それぞれの市場で世界の専門企業と競争する必要があります。
「規模が大きい」というだけでは、将来の競争力を判断することはできません。
JMEIが次に調べたいこと
ここからが企業分析の本当のスタートです。
今回分かったのは、基本的には公開されている情報です。
JMEIでは今後、テルモについて、
- 実際の医療現場ではテルモ製品がどう評価されているのか
- 海外企業と比較したとき、本当の技術的優位性はどこにあるのか
- 次の10年を支える製品・技術は何なのか
を追跡していきたいと考えています。
将来的には企業担当者への取材だけではなく、実際に製品を使用する医療従事者の声も集めたいと思います。
企業が発信する情報と、医療現場から見える企業の姿。
その両方を見ることによって初めて、本当の「医療企業分析」になるとJMEIは考えています。
JMEI評価(9項目)
JMEIでは、すべての分析対象企業に同じ9項目の枠組みを適用しています。各項目の定義はJMEI評価方法をご覧ください。
| 評価項目 | 評価 | 所見 |
|---|---|---|
| 財務分析 | ★★★★☆ | 2026年3月期の連結売上収益は1兆1,319億円。消耗品とデバイスが中心で、収益基盤は景気変動を受けにくい。 |
| ビジネスモデル | ★★★★★ | 50,000点を超える製品・サービスを世界160以上の国と地域へ供給しており、単一の大型製品に依存しない。 |
| 成長性 | ★★★★☆ | 低侵襲治療という世界的な医療トレンドと事業領域が重なる。高齢化も需要を押し上げる。 |
| 技術力 | ★★★★☆ | カテーテル、ガイドワイヤー、人工肺、人工血管など心臓血管領域に強み。海外にも研究開発拠点を持ち、世界の医療ニーズの近くで開発している。 |
| 医療現場での有用性 | ★★★★★ | 体温計から100年、医療現場で使われ続けている。医療従事者との接点の多さが次の製品改良につながる資産になっている。 |
| 医療制度との関係 | ★★★☆☆ | 診療報酬と各国の保険償還制度の影響を受ける。低侵襲治療の普及は制度の後押しにも左右される。 |
| 社会的インパクト | ★★★★★ | 患者の身体的負担を減らす低侵襲治療の普及に直接寄与している。輸血・細胞治療まで含め、医療の基盤を支える領域が広い。 |
| 経営戦略 | ★★★★☆ | 3カンパニー体制と、日本から輸出する企業から世界の医療ニーズの近くで開発する企業への転換が一貫している。 |
| リスク分析 | ★★★☆☆ | 事業領域が広い分、それぞれの市場で世界の専門企業と競争する必要がある。海外比率が高く為替の影響も受ける。 |
| JMEI総合評価 | ★★★★☆ | 4.1/5.0 |
JMEI総合評価
テルモを見ていると、一つの医療技術が企業を100年間支えているわけではないことが分かります。
体温計から始まり、使い切り医療機器、カテーテル、人工肺、薬剤投与、血液・細胞技術へ。
医療の変化に合わせて、自らの技術領域も変えてきました。
医療企業を見るとき、現在の売上だけを見るのではなく、
「この会社は次の医療の変化に適応できるのか」
を見る。
これをJMEI医療企業分析の重要な視点の一つにしていきたいと思います。
出典
本記事の数値・事実関係は、テルモ株式会社の公開情報で確認しています(2026年8月時点)。
- 設立・売上収益・従業員数・展開国数:設立1921年9月、連結売上収益 1兆1,319億円(2026年3月期)、世界160以上の国と地域で事業展開、テルモグループ31,185名(2026年3月末現在)。
テルモ株式会社「会社概要」 - 3カンパニー体制と50,000点:心臓血管/メディカルケアソリューションズ/血液・細胞テクノロジーの3カンパニー。160以上の国や地域で50,000点を超える製品やサービスを提供していると同社が公表している。
テルモ株式会社「事業紹介」 - Terumo Bay Area Innovation Lab:米国カリフォルニア州シリコンバレーに2018年開設。心臓血管領域の製品開発を中心に、研究開発とパイロット生産・ブリッジ生産を行っている。
Terumo Corporation「Terumo Bay Area Innovation Lab」
※本稿は企業公表資料などの公開情報をもとにJMEIが独自に整理・分析したものです。特定企業の株式の購入・売却を推奨するものではありません。