EARNINGS REVIEW エンハーツが牽引する成長は継続 ― JMEIが読み解く決算の本質
2026年7月31日、第一三共株式会社は2027年3月期第1四半期決算を発表しました。
今回の決算では、売上収益が前年同期比21.1%増の5,747億円となり、引き続き非常に高い成長を示しました。主力製品である抗体薬物複合体(ADC)「エンハーツ」と「ダトロウェイ」の販売拡大が成長を牽引し、世界市場での存在感をさらに高めています。
一方で、営業利益や最終利益は前年同期を下回りました。この数字だけを見るとネガティブな印象を受けるかもしれませんが、決算内容を詳しく分析すると、今回の利益減少は事業の悪化ではなく、将来の成長に向けた積極的な投資による影響が大きいことが分かります。
売上は力強い成長を継続
売上増加の最大の要因は、エンハーツとダトロウェイの世界的な販売拡大です。特にエンハーツは乳がんを中心に適応拡大が続いており、米国や欧州で新たな承認を取得したことが今後の売上拡大にもつながると考えられます。
さらに、円安による為替効果も売上を押し上げました。しかし、それだけで20%を超える成長を説明できるわけではなく、本質的には製品競争力の高さが今回の好調な売上を支えていると考えられます。
利益減少の背景
コア営業利益は前年同期比6.2%増加したものの、営業利益および最終利益は減少しました。
その主な理由として、
- グローバル販売拡大に伴う販売費の増加
- アストラゼネカとの利益配分(プロフィットシェア)の増加
- 次世代ADCへの研究開発投資
- 欧州事業再編に伴う一時費用
などが挙げられます。
つまり、利益が減少したのは製品が売れなくなったからではなく、「売れる製品をさらに世界へ広げるため」の投資が増えていることが大きな要因です。
通期業績は売上を上方修正
会社は2027年3月期の通期売上予想を2兆2,800億円から2兆3,400億円へ上方修正しました。
その理由として、エンハーツの米国販売が当初想定を上回って推移していることを挙げています。
一方で、コア営業利益予想は据え置かれました。
これは、売上が増加しても、その利益を積極的に研究開発や販売体制へ再投資するという経営方針を示しているものと考えられます。
短期的な利益よりも、中長期の企業価値向上を優先している姿勢が読み取れます。
研究開発力は依然として世界トップクラス
第一三共の最大の強みは、やはり研究開発力です。
現在、エンハーツだけではなく、ダトロウェイ、HER3 ADC、B7-H3 ADCなど複数のADCパイプラインが世界同時開発されています。
さらにADC以外の新しい創薬技術についても研究開発を進めており、「エンハーツの次」を見据えた戦略が着実に進行しています。
製薬企業は一つの大型製品だけでは持続的な成長は難しく、次世代製品群を継続して生み出せるかどうかが企業価値を左右します。その点で、第一三共は世界でもトップクラスの研究開発企業と言えるでしょう。
JMEIの所感
今回の決算を一言で表現するなら、「期待値との戦いに敗れた決算」であり、「企業価値としては非常に良い決算」であったと言えます。
市場は第一三共に対して非常に高い期待を寄せています。そのため、単に好業績というだけでは株価は評価されず、「市場予想をどれだけ上回ったか」が重要になります。
今回は売上こそ大きく上方修正されましたが、利益面で市場の期待を超えるサプライズがなかったことから、株価は短期的に調整する展開となりました。
しかし、JMEIでは今回の決算を悲観的に見る必要はないと考えています。
エンハーツの成長は依然として力強く、ダトロウェイも順調に市場へ浸透しています。また、将来の収益源となる複数のADCや新規モダリティへの投資も着実に進んでいます。
短期的には利益率が低下しても、その背景にあるのは「未来への投資」です。
世界の製薬業界ではADC技術が次世代がん治療の中心となりつつあります。その中で第一三共は、日本企業という枠を超え、世界のADCリーディングカンパニーとしての地位を確立しつつあります。
今後もエンハーツの適応拡大、新規ADCの上市、そして次世代創薬技術の進展が順調に進めば、第一三共は世界の製薬企業の中でも最も高い成長性を持つ企業の一つであり続けるでしょう。
JMEI総合評価
★★★★☆(4.5/5.0)
短期評価:市場期待にはやや届かなかったものの、内容は堅調。
中長期評価:成長ストーリーに変化はなく、世界トップクラスのADC企業としての競争優位は今後も続くと考えられます。
出典
- 第一三共株式会社「2027年3月期 第1四半期決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年7月31日)