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企業分析

企業分析と未来企業発掘――希少疾患は”小さな市場”なのか

企業分析と未来企業発掘 希少疾患は”小さな市場”なのか

今回の共通テーマは「希少疾患は”小さな市場”なのか――患者数の少なさを、専門性・技術・世界展開によって競争優位へ変える企業」です。日本新薬はデュシェンヌ型筋ジストロフィー、肺動脈性肺高血圧症、難治性てんかんなど、患者数の限られたスペシャリティ領域を得意としています。一方、Alnylam PharmaceuticalsはRNA interference(RNAi)という一つの技術プラットフォームを基盤として、希少疾患から心血管疾患、神経疾患、肥満へと対象領域を広げています。今日の2社を比較すると、「希少疾患企業が、どうすれば世界企業へ成長できるのか」がよく見えてきます。

日本新薬 × Alnylam Pharmaceuticals――「疾患」を起点にする会社と「技術」を起点にする会社

今日の2社には面白い違いがあります。日本新薬は、DMD、筋ジストロフィー、PAH、難治性てんかんなど疾患そのものを深く掘り、その疾患に適した技術を自社研究または外部提携から持ってくるDisease-first Companyです。一方Alnylamは、RNAiという技術を持ち、それをATTR、高血圧、アルツハイマー、ハンチントン病、肥満などへ展開するTechnology-first Companyです。

どちらが正しいという話ではありません。Disease-first企業は、患者、専門医、診断、治療フロー、疾患コミュニティへの理解が深くなります。Technology-first企業は、一度技術が確立すると、一つの成功から複数の薬を連続的に生み出せる可能性があります。日本新薬の将来を考えると、Disease-firstの強みを維持しながら、独自の創薬プラットフォームをどこまで持てるかが一つの課題になります。

新しいJMEI評価軸――Disease Depth:一つの疾患をどこまで深く支配しているか

これまでJMEIでは、Installed Base、Recurring Revenue、Patient Data、Pipeline Resilience、Innovation Reinvestment、M&A能力などを見てきました。今日からもう一つ追加したい考え方が、Disease Depthです。

具体的には、病態理解、専門医ネットワーク、患者発掘力、診断体制、疾患啓発、治験ネットワーク、複数治療薬、患者支援、リアルワールドデータまで、その会社が一疾患をどれだけ深くカバーしているかを見ます。希少疾患では特に重要で、患者数が少ない市場では、巨大な営業部隊より疾患そのものを最も理解している会社が強くなる可能性があります。日本新薬は、Disease Depthという評価軸で非常に興味深い企業です。

本日の未来企業発掘|Priovant Therapeutics

「希少自己免疫疾患」を巨大市場へ変えられるか

本日のInnovation Watchでは、直近の大きな動きとしてPriovant Therapeuticsを取り上げます。2026年8月27日、米FDAは同社とRoivantが開発したLisrayaを、成人皮膚筋炎の治療薬として承認しました(Reuters)。

皮膚筋炎は、皮疹、筋力低下、炎症などを呈する希少自己免疫疾患で、米国患者は5,000人未満とされます(Reuters)。患者数だけを見ると非常に小さな市場に見えますが、重要なのはこれまで治療選択肢が極めて限定的だったことです。Lisrayaは経口薬として免疫経路を標的とし、第3相試験では52週時点の臨床評価でプラセボを上回る改善を示しました(Reuters)。そして8月28日には米国での上市が発表され、30日分の価格は3万5,000ドルとされています(Reuters)。

なぜJMEI Innovation Watchで重要なのか。ポイントは薬価ではなく、「患者数が少ない=小さな企業しか作れない」わけではないということです。希少疾患では、患者数、高いアンメットニーズ、明確な臨床効果、長期治療、グローバル展開が組み合わさることで、大きな市場が成立する可能性があります。実際、一部アナリストはLisrayaの米国ピークセールスを20億ドル超と予想しています(Reuters)。患者が数千人しかいない疾患でも、ブロックバスター候補になり得るということです。

JMEI Innovation Watch暫定評価――Priovant Therapeutics

アンメットニーズ★★★★★、薬事進展★★★★★、臨床エビデンス★★★★★、希少疾患専門性★★★★★、市場拡張可能性★★★★☆、競争環境★★★★☆、グローバル展開力★★★★☆。JMEI Innovation Watch評価はA+です。今後は実患者処方数、治療継続率、安全性、保険アクセス、欧州・日本展開、追加自己免疫疾患への適応を追跡します。

JMEI企業分析ゼミ

本日は15〜30分程度を想定し、次の5問を考えます。

第1問 日本新薬は2027年3月期第1四半期で売上24.1%増、営業利益22.1%増でした。しかし会社規模は大手製薬会社よりかなり小さい。企業評価では「会社全体の売上規模」と「対象疾患における世界シェア」のどちらを重視するべきでしょうか。

第2問 希少疾患では患者数が少ないため、一見すると市場が小さく見えます。しかし治療薬が登場すると、疾患啓発、遺伝子診断、専門医紹介、患者レジストリなどによって診断患者数が増えることがあります。この場合、医薬品市場規模を予測するとき、現在の診断患者数を使うべきでしょうか、それとも潜在患者数を見るべきでしょうか。

第3問 AlnylamではAMVUTTRAが106%成長しているにもかかわらず、すでに次世代のnucresiranをPhase 3まで進めています。これは自社製品の売上を奪う可能性があります。それでも企業は、自社の成功製品を自分で置き換える新薬を作るべきでしょうか。

第4問 日本新薬はDisease-first、AlnylamはTechnology-first型と考えられます。10年後の製薬業界では、疾患専門性と創薬プラットフォームのどちらがより大きな競争優位になるでしょうか。それとも両方が必要でしょうか。

第5問 PriovantのLisrayaは患者数が非常に少ない皮膚筋炎を対象としています。希少疾患企業を見る場合、患者数、薬価、治療継続期間、診断率、競合薬、海外展開のうち、市場価値を最も大きく左右する要素はどれでしょうか。

本日のJMEI企業分析から学ぶこと――「患者が少ない」は「市場が小さい」とは限らない

従来の企業分析では、患者数が多い病気=大市場、患者数が少ない病気=小市場と考えがちです。しかし希少疾患では必ずしもそうではありません。重要なのは患者数だけでなく、診断率、治療率、アンメットニーズ、治療期間、競争環境、世界展開です。

さらに非常に重要なのがDisease Depthです。一つの疾患を深く理解し、患者を見つけ、専門医につなぎ、診断し、治療し、長期間フォローする。これを世界規模でできる企業には、巨大製薬会社とは異なる強さがあります。日本新薬はその日本代表候補です。一方、AlnylamはRNAiという技術そのものを巨大プラットフォームへ育てました。

今日の核心

今日の2社から最も重要なのは、「希少疾患=小さなビジネス」という固定観念を捨てることです。日本新薬は疾患を深く掘り、Alnylamは技術を横へ広げる。この二つは、世界医療企業を作る異なる方法です。

そしてJMEIの未来企業発掘では今後、「患者数が何人いるか」だけでなく、その企業が疾患をどこまで深く理解し、診断されていない患者を見つけ、世界市場で治療へ結び付けられるかを見る必要があります。これは希少疾患企業だけでなく、がん、認知症、遺伝性疾患、自己免疫疾患などにも応用できる視点です。

今後の『日本医療企業白書』でも、Technology Platformと並んで、Disease Depthを企業競争力の一つとして記録していく価値があります。

※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。

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