企業分析と未来企業発掘 慢性疾患では「患者との関係の長さ」が企業価値になる
本日は、これまでの連番を引き継ぎ、日本企業No.019「PHCホールディングス」、海外企業No.020「ResMed」を取り上げます。今回の共通テーマは、「慢性疾患を、機器を売るビジネスから継続管理するビジネスへ変えられるか」です。PHCホールディングスは糖尿病・臨床検査・病理・医療ITなどを幅広く展開し、ResMedは睡眠時無呼吸症候群を中心に、医療機器からデジタル患者管理へ事業領域を広げています。
今日の比較|PHCホールディングス × ResMed
PHCには糖尿病があります。ResMedには睡眠時無呼吸症候群があります。どちらも診断して終わる病気ではなく、長期間の管理が必要です。ここから慢性疾患企業に共通する一つのビジネスモデルが見えてきます。デバイスから消耗品、データ、ソフトウェア、そして長期的な患者管理へという構造です。
現時点ではResMedの方が、このモデルを明確に構築しています。PHCが今後企業価値を高めるには、糖尿病管理、検査、電子カルテ、健康データなどを、本当に一つの患者管理モデルへ統合できるかが重要になります。
そして、ここからJMEI企業評価の新しい視点も生まれます。「その企業は患者とどのくらい長期間、継続的な接点を持てるのか」という評価軸です。これは糖尿病、睡眠時無呼吸、高血圧、心不全、COPD、認知症など、慢性疾患関連企業を評価するときに非常に重要になると考えます。
本日の未来企業発掘|Ognomy Sleep
「睡眠専門医療そのもの」をオンライン化する
本日のInnovation Watch候補は、米国のOgnomy Sleepです。この会社が興味深いのは、睡眠測定デバイスを作る会社ではないことです。患者がオンラインで、睡眠専門医への受診、在宅睡眠検査、診断、治療調整、長期フォローまで受けられる仕組みを構築しています。つまり、医療サービスそのものをデジタルプラットフォームへ変えようとしている企業です。
これはResMedとは異なる方向から睡眠医療へ入っています。ResMedは、デバイスからデータ、プラットフォームへという流れです。Ognomyは、医療サービスからデジタルプラットフォームへという流れです。もし将来的にこの二つのモデルが接続されれば、在宅睡眠検査からオンライン診察、CPAP導入、治療データ取得、AIによる治療継続支援、オンラインフォローという、Virtual Sleep Clinicが成立する可能性があります。
| JMEI Innovation Watch暫定評価 | |
|---|---|
| 市場ニーズ | ★★★★★ |
| 事業モデル | ★★★★★ |
| 実臨床実績 | ★★★★☆ |
| 資金調達力 | ★★★★☆ |
| 競争優位確立度 | ★★★☆☆ |
| JMEI Innovation Watch | A候補 |
今後は、診療件数、患者獲得コスト、治療継続率、保険契約、ResMedなどのデバイス企業との連携を追跡していきます。
JMEI企業分析ゼミ
本日は次の5問を考えてみましょう。
- PHCの営業利益が大幅に増加しましたが、企業分析では単純に「利益が増えたから良い会社」と考えるべきではありません。事業成長、構造改革、一時要因のうち、どれが利益改善に最も寄与しているのかを、どのように見分ければよいでしょうか。
- PHCは糖尿病、臨床検査、電子カルテ、病理、ライフサイエンスなど多数の事業を持っています。これは競争優位でしょうか、それとも経営資源が分散する弱点でしょうか。
- ResMed最大の資産は何でしょうか。CPAPという製品でしょうか、世界的ブランドでしょうか、3,700万人を超えるAirView患者基盤でしょうか、それともそこから蓄積される治療データでしょうか。
- GLP-1/GIP薬がさらに普及した場合、ResMedは肥満治療薬を「競合」と考えるべきでしょうか、それとも肥満治療と睡眠医療を統合する新しい市場へ進むべきでしょうか。
- OgnomyのようなVirtual Clinicと、ResMedのような医療機器・データ企業では、将来的にどちらが患者との関係の主導権を握るでしょうか。
本日のJMEI企業分析から学ぶこと
今日の最大のテーマは、「誰が患者との継続的な接点を握るか」です。従来の医療企業分析では、売上高、営業利益、市場シェア、新製品、研究開発費などを中心に見てきました。もちろん、これらは重要です。しかし医療が、病院中心から、病院+在宅+デジタルへ広がるにつれて、企業の競争優位も変化します。一度製品を販売して患者との関係が終わる会社より、毎日データを取得し、アプリを利用してもらい、消耗品を継続購入してもらい、医療者と接続し、治療を長期間支援する企業の方が、患者との関係を長く維持できます。
したがってJMEIでは今後、MedTech・デジタルヘルス・慢性疾患関連企業について、Installed Base、Recurring Revenue、Patient Data、Digital Connectivity、Patient Relationshipの5項目を重点的に見る価値があります。この視点を企業ごとに蓄積していけば、JMEI企業分析データベース、Global Healthcare Leaders、Innovation Watch、HP企業分析、note記事、そして最終的な『日本医療企業白書』まで、一つの分析体系としてつなげることができます。JMEIは「医療企業の現在の業績を説明する」だけではなく、「その企業が5年後、10年後の医療の中で、どの位置を占める可能性があるのか」まで考える研究所を目指します。
※本記事は企業・産業研究を目的としたものであり、特定の株式の購入・売却を推奨するものではありません。